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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第3部・完結編  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第2章 新世代激突! 秋の新人大会!
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13/86

3-13、注目の、一年生大会女子個人形

「赤、海月女学院高校! 備後選手!」

「はいっ!」

「青、県立柏沼高校! 大南選手!」

「はいーっ!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「「「 きらさ、ファイトォーっ! がんばれ、きらさーっ! 」」」

「(ふーん。相手の子、聖沙って書いて、きらさって名前だったのか。読めないねぇー)」


 大南は相手と一礼し、一度コートから出て下がった。相手の白帯の子は、小笹の後輩。いったいこのベスト4戦では、何を演武するのだろうか。まだ空手歴が浅いから ベテラン選手のように形をいくつも覚えているというわけでもなさそうだが・・・・・・。


「聖沙ちゃん、落ち着いてね! がんばって!」


 小笹の母である末永博子も、インターハイ以来の監督席に座り、一年生の選手に優しい声をかける。


「変わった名前の子だな。まだ数ヶ月の初心者だろうけど、形、いくつできるんだろう?」


 井上も監督席で、相手の子をよく観察しながら見つめている。

 白帯にしては、堂々とした感じ。試合慣れをしているとは言えないが、きっと何度もリハーサル練習をしてこの場に臨んでいるのだろう。


「くすっ。福田コーチ、備後の試合が始まったよ! あははっ! 井上センパイも、紗代チャンも、きっと驚くと思うよぉーッ?」


 相手の子は、このベスト4まで勝ち上がってくるまでは、剛道流のセーパイを演武していた。

 そして、コートの中央からやや下がった位置で止まり、元気よく声を発した。


「にーーーーぱいぽぉーーーーーーっ!」

「「 え! ニーパイポ? 」」


 青側で待つ大南と井上の表情が変わる。相手の白帯の子は、なんと糸恩流の第二指定形である二十八歩ニーパイポを演武するという。一年生大会は、決勝までずっと同じ形を使用していいのだが、ここであえて形を変えてくるというインパクトは、ものすごい。


「「「「「 (にぃぱいぽ、って、何?) 」」」」」

「「「「「 (初心者が、ニーパイポなんか、できるの?) 」」」」」


   ザワザワザワザワザワザワザワザワ  ザワザワザワザワザワザワザワザワ


 同じコートにいる選手たちも、どよめく。ざわつく。

 そして、いよいよ、形に入る。


   すっ  すうう  すっ  すすーっ  すうう  しゅぱあんっ! ぱぁん!

   ぱぱぁん ぱんっ  ばっ ばばっ ばしゅ  ぐうーっ

   ぱぁん  ばっ  ばばっ  ぐぐーっ  ばっ  しゅば  ばしゅっ  たぁん


「(ほ、本当にこの海月の子、ニーパイポやってる。すごい、よく覚えたなぁー)」


 大南も、待ちながらよく相手の形を見つめている。ただ踊るような感じでは無く、きちんと演武線や技のメリハリがしっかりしている。とても、空手歴数ヶ月の子とは思えない動きだ。


「な、なんだぁ、この子! マジでニーパイポやってるよ! 紗代、気にするな。紗代は、紗代が練習してきたとおりの形で、いけっ!」

「(・・・・・・こくり)」


 井上が、後ろから大南へアドバイス。大南は静かに笑って頷き、口元をきりっと上げてまたコートへ目を向けた。


   ・・・・・・しゅば しゅばば ばっ しゅば  しゅばば  つあーーーーいっ!

   ばっ ぱぱぁん  しゅっ ぱぱぁん  ばっ  ばしゅ  ぱんっ  ばっ ばしゅ

   ぱぁん  ばっ  ぼひゅ  ばっ  ぼひゅ  たぁん  つぁーーーいっ!

   ぐぐーーっ!  すううー  さぁっ   ぺこり


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 海月女学院のメンバーが拍手を贈る。小笹もBコートからちゃんと後輩の試合を見ており、Dコートに向かって小さく拍手していた。白帯の二十八歩、やはりインパクトはなかなかだ。


「・・・・・・井上先輩。大丈夫です。わたしも、なんとかの一つ覚えじゃ無いので!」


 そう言って、井上の方へ振り返り、力強く言い放った大南。その、言葉の真意とは何なのか。


「(な、なんだぁ、紗代? 今の言葉、どういうことだ?)」


 入場する大南の背中を、井上は監督席でぽかんと見つめていた。

 相手と入れ替わり、堂々とコートへ入った大南。一年生大会は、形は全て自由形ではあるが、相手の二十八歩に対抗するインパクトある形は打ち出せるのだろうか。

 ゆっくりと一礼し、すうっと息を吸う。大南の髪が、すこしだけふわりと揺らいだ。


「アーーーナンッ!」

「「「「「 ええっ!!! 」」」」」


   ざわざわざわざわざわざわ  がやがやがやがやがやがやがやがや


 聞き間違いではないか。そう思えるくらいに、驚きの形名が発せられた。

 大南は、かつて小笹がインターハイ予選で演武して全員の度肝を抜いた、あのアーナンを演武する。いったい、いつ、どうやって覚えたというのだろうか。


「何て言った、紗代チャン! アーナン? アーナンって言った、いま? うっそぉーッ!」

「ま、まじか紗代! もう、引っ込めらんないぞ! アーナンなんて、無理だろーっ!」


 小笹も井上も、目を丸くして驚きの表情。もちろん、声が大きい大南の発声は、前原や田村にもしっかりと届いていた。


「(た、田村君! 大南さんに、アーナンなんて誰が教えたの?)」

「(し、知んねぇ! 誰もアーナンなんてできないはずだぞ? 末永しか・・・・・・)」

「(で、でも、末永さんの様子だと、ものすごく驚いてるし、末永さんがどこかで教えたわけじゃ無いと思うけど・・・・・・)」

「(いったい、どういうことだぁ? と、とりあえず見てみるしかないねぇー)」

「さ、さよ! わたしも、アーナンなんて、できること知らなかったよっ! だ、だいじょうぶなのかなぁー?」


 次に試合を控える内山も心配そうに見つめている。そして、大南のアーナンに驚きを隠せないようだ。


   ざわざわざわざわざわざわ  ざわざわざわざわざわざわ


 どよめきが起こったDコート。大南は、いよいよ形の演武に入る。果たして、大丈夫なのだろうか。


   ススッ ググーッ・・・・・・  スラッ シュルシュルッ・・・・・・

   バシッ! シュッ バシッ! シュッ バシッ! シュパ! シュパ! 

   シュッ パンッ! バシッ! シュッ バシッ! シュッ バシッ!

   スー バッ! スー バッ!  ヒュッ パンッ! シュッ スッ ススッ パン! 

   きぃえぇぇぇーーーいやぁっ!

   クル シュッ スッ ススッ パン! きぃえあぇぇーーーいやぁっ!


「(間違いねぇ! 小笹ちゃんのとはさすがにキレは比べらんねーけど、これは、間違いなくアーナンだ! 紗代のやつ、どこで? リズムは、小笹ちゃんの形のだが・・・・・・)」


   シュ シュッ ダン バッ! パン! グーッ  シュ シュッ ダン バッ!

   パン! ググーッ  シュルッ  ギュ バッ! クル シュッ ザッ パン!

   フワッ シュ! タン! ダン! グイッ クルッ バン! スッ バシッ! パン 

   ザッ ザッ ギュッ パン! パン! シュッ トンッ! きぃえぇーぃっ!

   スッ  スラァッ シュルシュルッ・・・・・・  ぺこり


   がやがやがやがやがやがやがやがや  がやがやがやがやがやがやがやがや


「(や、やった! きちんと最後まで出来ました! 見てました? 井上先輩!)」


 大南は、一礼をして判定を待つ。井上へ、目で何かを訴えかけるように微笑んだ。


「(まったく、予想を大きく上回ったことするじゃんか! びっくりしたぜぇ、紗代!)」

「さよが、アーナン・・・・・・。はっ! そうか! 早川先生がダビングしてくれた、インターハイ予選やインターハイのDVD・・・・・・。きっと、あれで・・・・・・なのかな?」


 内山が、何かに気づいたかのような目で、コート内で相手と判定を待つ大南を見つめていた。その目は、どこか、輝いてもいるが遠くを見ているようでもあった。


「(しかし、形競技ってのは、難しい形や珍しい形をやったから勝てるってもんじゃない。紗代のアーナンと相手の子のニーパイポ。果たして、審判はどういう判定をするか。こりゃ、けっこう際どい勝負かもしんねーなぁ・・・・・・)」


 井上は、汗をつつっと垂らしながら、拳を握って判定を待っている。


「・・・・・・判定ーっ!」


   ピィーッ・・・・・・ ピッ!

   ババッ  バッ  ババッ  バッ  ババッ


「赤、2! 青、3! 青の、勝ち!」


   パチパチパチパチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチパチパチパチ!


 判定が出た瞬間、井上と大南は同時に天を仰いだ。ほっとしたような表情の二人。意外すぎる隠し球のアーナンで、見事に大南は決勝進出。内山は何度も拍手を贈っている。


「おぉい、紗代ぉ! びびったぞ! アーナンなんて、どうやって覚えたんだよぉ!」

「えへ。早川先生がずっと前にくれた、インターハイ予選のDVDとかで。わたし、小笹さんのアーナンが格好良くて、家で何度も何度も繰り返しリピートして見てたんです。おかげで、毎日三時間くらい夜中まで見てたんで、寝不足気味になっちゃいましたけどね。沖縄に行く前日も見てて、それで寝坊しちゃったんです、実は・・・・・・」

「な、なんてぇこった。三時間もよく飽きずに見てられるな。でもさ、それで形のイメージや流れが、なんとなくでも目から頭に入って身体を動かしたってワケか・・・・・・」

「よかったです。まだ、見よう見まねですけど・・・・・・。でも、この形、もっと稽古して自分の持ち味が出せたらなぁ、って思ってるんです! さて、次はうちやまですね! 相手はまた海月女学院ですよ。井上先輩、うちやまのほうへ、お願いします!」

「お、おう! よし、行ってくるぜ。・・・・・・決勝おめでとうな、紗代!」


 井上は大南の頭をポンと叩き、内山の方に移動。その内山は、ゆっくりと足を進めてコート端へ歩み出た。


「赤、県立柏沼高校! 内山選手!」

「はいっ!」

「青、海月女学院高校! 笹野選手!」

「はあいっ!」

「(さよが決勝で待ってる。絶対わたしも、ここで勝たなきゃいけないんだ! 勝つんだ!)」


 はっきりとした声で、大きく返事をした内山。

 少し肩に力が入っているが、力強く胸を張ってコートへ入っていった。焦茶の帯が、白いマットの上で、ゆらりゆらりと左右に動く。


「バッサイダイーッ!」


 内山は先程よりもさらに気合いを入れて、抜塞大の形名を発した。右拳を包むようにして左掌を添え、構える。ただ、井上が見た感じだと、やはり少し力が入りすぎであるようだ。大丈夫だろうか。


   スッ  たん  しゅっ ばひゅ  しゅっ ばひゅ  ふわぁー

   しゅっ ばひゅ  すぅ  ばっ ばし  ばっ ばし  ばひゅ・・・・・・


「(いけるっ! いっぱい、力強くできてる! わたしも、さよに続くんだ!)」

「(ま、真衣・・・・・・。これはぁー・・・・・・)」


 自信たっぷりの顔で、どんどん形を進めてゆく内山。ただ、監督席にいる井上はそれとは裏腹の表情。今にも曇り出しそうな顔だった。


「(うちやま・・・・・・。がんばれ! がんばれ!)」


 大南も、内山の演武をしっかり見つめ、必死に祈っている。


   ・・・・・・ばひゅ  ばひゅ  すっ  ふわん  たん  ふわん・・・・・・


 一礼し、内山は汗を流しながら、演武を終えた。


「(や、やった! めいっぱい力強くできたとおもう! これで、わたしも勝てば、さよと決勝戦だね! 相手の人、何をやるんだろうか・・・・・・)」

「(うちやまー・・・・・・)」

「(こりゃ、相手がどんな形で挑んでくるかにもよるが、真衣と相手の勝負は・・・・・・)」


 内山、大南、井上。三者三様の表情と心境が、その場で同時に入り乱れていた。


   すっ  すっ  すっ  すっ  ぺこり


「せーさぁーんっ!」

「(せ、せーさん? この人も、第二指定形をぶつけてきた!)」


 演武を終えた内山は、目を丸くして驚いていた。

 先程、大南と戦った選手は糸恩流の第二指定形である二十八歩を演武した。そして今、内山の相手は、剛道流の第二指定形である十三歩セーサンを演武。


「そうか! セーサンは、小笹ちゃんが指導してるのか! ニーパイポは福田先輩の指導なんだ、きっと!」

「そ、そんなぁ。井上せんぱい、わたし、バッサイ大だけでもう、精一杯ですー・・・・・・」


   すうっ  こおおっ  ばっ  ぎゅっ  すっ  ばしっ!  ぎゅっ・・・・・・


 そして、その十三歩を、Bコートからじっと見つめる瞳が二つ。


「くすっ。美紅のセーサン、ワタシが直々に教えたんですよぉー。ちゃんと、白帯でありながら、きちんと稽古したとおりに緩急できてるねぇッ! あははっ。真衣チャンには悪いけど、ここは、海月女学院の新人パワーを見せつけちゃってほしいね! がんばれ、美紅!」


 相手選手の演武も終わり、審判団が旗をくるりと解き、判定に入る。内山の茶帯と相手の白帯が、横にふわっと揺れて並んだ。


「・・・・・・判定ーっ!」


   ピィーッ・・・・・・ ピッ!

   ババッ  ババッ  ババッ  バッ  ババッ


「赤、1! 青、4! 青の、勝ち!」


   ワアアアアアアアアアアアアアアア  ワアアアアアアアアアアアアアアア


「(え! ええぇ? ・・・・・・うそ? わたし、ま、まけちゃった・・・・・・)」

「(え? えーっ! ・・・・・・やったぁ! 茶帯に勝ちました、末永先輩っ!)」


 主審が勝者を宣告すると同時に、判定を受けた選手の明暗が分かれた。

 内山は、ショックで固まった表情。相手選手は、嬉しすぎて今にも跳びはねそうな表情だった。


「う、うちやまが負けてしまったー・・・・・・。よし、わたしが決勝で、うちやまの仇を討とうじゃないか! えー、でも、ほんと悔しいなぁ・・・・・・」

「さ、さよー・・・・・・。ごめん。まけちゃった・・・・・・。くすん。ふええー・・・・・・」

「しょうがない。勝負の世界は厳しいんだ。でも、紗代も真衣も、ほんと驚く進歩だなぁ! 俺はびっくりしたぜ? 真衣は、今のバッサイは、ちょーっと力みすぎかなぁ。たぶん自分では、ものすごく力強くキレがあるような感じって、演武してて思わなかったか?」

「くすん・・・・・・。思いました。・・・・・・最高の形だと思ったんですけど・・・・・・」

「それが、厄介なんだなぁ、形試合は。自分では最高だと思っても、力みすぎてたりパワーバランスが狂ったりすると、逆にキレを失って鈍重な形になっちゃうんだ。真衣はきっと、勝ちを意識しすぎたんじゃないか? 俺たち有段者のレベルでも、力まずに自然体で力の入れ加減をコントロールしての演武は、難しいんだよなぁー・・・・・・」


 井上は、大南と内山に優しく投げかけるように、形競技の難しさを教えていた。

 それを真剣な目をして頷いて聞いている大南と、敗れた結果とその悔しさで泣いたままの内山。それでも、内山だって三位は確定なのだが、決勝で同門対決が出来なかったのが一番悔しかったようだ。


「うちやま! わたしが決勝はうちやまの分まで頑張るからさ! みてて!」


 大南が内山の肩に腕をかけ、ぎゅっと拳を握って元気に声をかけた。

 そして、一年生大会の女子個人形決勝戦へ試合は移る。


「赤、県立柏沼高校! 大南選手!」

「はいーっ!」

「青、海月女学院高校! 笹野選手!」

「はあいっ!」


 監督席にはそれぞれ、赤に井上、青には末永が座る。


 「アーーーーナンッ!」


 大南は、準決勝よりも凜とした表情で、同じく安南を演武。先程よりも少しだけ動きが慣れたのか、しっかりと技に力強さと速さの乗った演武で、やり遂げた。

 相手選手は、十三歩を再び演武。しかし、大南の安南の前には歯が立たず。結果、見事に7対0の完勝で、大南が一年生大会の女子個人形を制した。

 両手を突き上げ、全身から喜びを溢れ出させている大南。内山は、一緒に拍手をして喜んでいた。さらにそれを、Bコートからは阿部と田村が微笑んで眺めていた。

 柏沼高校空手道部は、次世代が確実に日々、進化している。

 前原が窓の外をふと見ると、風の色が少し、変わったような気がした。

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