3-10、新世代結集! 秋の新人戦開幕!!
がやがやがやがやがやがや がやがやがやがやがやがやがやがや
~~~各校にご案内申し上げます。お弁当の手配はー・・・・・・~~~
~~~審判長、審判長。小会議室まで連絡願います・・・・・・~~~
セイィ! セイィ! セイィ! セイィ! エェーイ!
イィーチ! ニーィ! サーン! アァーイッ!
~~~館内は禁煙となります。喫煙場所につきましては・・・・・・~~~
「うーん、やっぱりこの賑やかさは、いいねぇ。新人戦なだけあって、なんか、みんな若いよねぇー。・・・・・・俺たちも、去年はあの年齢だったんだけどねぇー」
「新人大会ならではだけど、白帯や茶帯の子がたくさん目立つよね。井上君は去年、白帯には絶対負けられないとか言ってたよね?」
「うっせぇ! 当時の俺は、尚久や悠樹みてーな余裕はなかったんだよ! でも、不思議なもんというか、こうして三年になってこの場に来るとよ、余裕なんだよなー」
「そりゃきっと、今年、とんでもないレベルの中で戦って井上も一気にレベルが上がったからじゃないんかねぇー? きっと、そうだ。一年や二年に震えてたら、井上、やべえぞぉ?」
「まぁ、そーなんだろうなぁ。ま、今日は俺ら、後輩のサポート役だから気楽だ。尚久も悠樹も、めいっぱい後方支援しようぜ!」
秋も深まるこの時期。今日は田村、前原、井上ら三年生がサポート役となって、後輩五人の新人大会に来ている。
春季大会やインターハイ予選の時には、OBの新井や松島にサポートしてもらった田村たちだったが、今大会はその役目に自分たちが入っているという、何とも不思議な感覚の立場だ。
「今日は、黒帯取ってから初の大会! 先輩方、よろしくお願いします! わたし、頑張って上位目指して暴れてきますからねっ!」
「頑張ってね、阿部さん! みんな! 僕も、田村君や井上君と精一杯サポートするから!」
川田や森畑は、今日は独自に希望している大学へ見学をしに出かけている。
中村と神長は、理系独自の課外授業に申し込んでいて、今日は朝から夕方まで学校にいるらしい。
「みつる、パンフレットもらいに行こうぜ!」
「そうだな。一年生、部旗よろしくたのむよ!」
「はい。うちやまと、吊しておきますね! うちやま、場所決めに行こう!」
「行こう! さよ、わたし防具類持っていくから、先に行ってて!」
「あ。真衣、紗代! 部旗吊したら、練習場所も確保しといて! わたしもすぐ行くから」
「「 はい! わかりましたぁ! 」」
「じゃ、先輩。先生。わたしも、ちょっと連絡する人がいるんで、行きますね。今日はよろしくお願いします!」
元気な声を響かせて、後輩たち五人は、廊下の奥へと駆けていった。
三年生七人が抜けた後でも、少ない人数でたくましく後輩達が成長を遂げているのが田村たちは嬉しいようだ。井上は久々に見た阿部たちを見て、以前のような弱々しさや頼りなさが無くてびっくりしたと驚いている。
「ほぇー! 恭子も敬太も充も、有段者かぁ。早いなー。そんで、やっぱり部内最上級になると、変わるもんだなーっ! 尚久のあとが恭子でどうなるかと思ったけど、だいじだな!」
「そうだねぇ。もう、俺たちは干渉しすぎなくても、しっかりやっていくだろうねぇ」
「受験生なのに、今日はすまないな。田村、井上、前原。じゃ、いつも通り、先生は打ち合わせに行ってくるからね。みんなのほうが大会の勝手はわかってるだろうから、よろしくな」
「わかりました。僕たちも、先生が打ち合わせから戻ってくるまで、みんなの様子を見ていますので。先生、今日もよろしくお願いします」
「早川先生、だいじっすから! 今日は俺ら三人がついてますんで! なぁ、尚久?」
「そうだねぇ。だいじっす! おまかせくだされ!」
「ほんと、頼りになるよ。じゃ、行ってくるから。みんなのこと、頼むね」
早川先生はジャージ姿で、書類とペンケースを持って小会議室の方へ走っていった。
会場は、春季大会やインターハイ予選とはまた違った会場。コートはAからDまでの四面しかない。これまでよりは少し狭い会場だ。
「しかしほんと、白帯や茶帯が多いねぇ。内山や大南も茶帯になったからか、この中じゃ初々しさがあまりなくなったねぇー。ちゃんと、選手の顔になってきてるねぇー」
「一年生大会、どうなるかなぁ。けっこう二人とも、いいとこまで行くかもしれないよ?」
「俺はよく知らないけど、こないだの審査会から今日までの約一ヶ月、悠樹や真波、菜美らが毎日交替しながら指導に入ってたんだろ? みっちり積んだ一ヶ月の稽古が、みんなどう活かされるか、楽しみだぜ!」
「そうだねぇ。ま、俺たちは今日はお客さん的感じだから、よーく広い目で大会を眺めていくとしようかねぇー」
三年男子三人は今日、しっかりと道着を持ってきている。試合では、田村が阿部のサポート、前原は黒川と長谷川の男子二人をサポート、井上が一年生女子二人をサポートという感じでの役割分担にした。噂では、日新学院の畝松監督が今回は大会実行委員長になっているため、監督役にはつけないとのこと。なんと、日新のサポート役には、あの二斗が入るらしい。
ついこの間まで現役生で戦っていたのに、今日はお互いにサポート役。田村たちは何とも不思議な感じだろう。
ふと前原が携帯を見ると、川田から「お昼と夕方、アタシに速報いれてね?」とメールが入っていた。しかも同じような内容で、中村からも。神長からも。森畑からも。
いつの間にかエントランスホールは、どんどん集まってくる他校の選手たちでいっぱいになっていた。
ひた ひた ひた ひた ひた
ぺち ぺち ぺち ぺち ぺち ぺち ぺち ぺち
「ヤッホーッ! びーっくりしたぁッ! えぇー? なんで今日は、いるのぉーッ?」
そして、前原たちの後ろから、アニメキャラのようなあの元気な声が響いた。
「末永さん! 久しぶり。今日はね、僕と田村君と井上君は、サポート役で来てるんだー」
「おっす、末永。相変わらず、元気そうだねぇ。・・・・・・ん? あれ? その後ろにいるのは、いったい・・・・・・?」
「あははっ! そぉねぇッ、初めましてだぁ! ワタシの海月女学院空手道同好会の後輩たちだよーッ! インターハイがね、なんか、決勝戦はTV中継されてたらしくてさ、ワタシと美鈴の試合を見たんだって! そしたらさぁ、一年生が数人、やりたいって! くすっ!」
「「「「「 は、はじめまして! 海月女学院空手道同好会です・・・・・・ 」」」」」
「ほらぁッ! もじもじしないーっ! 白帯はまず、元気よくだよぉッ! あいさつはねー、明るく元気にって言ったでしょぉーッ! お腹から、声出すの! 目はきりっと開く!」
「「「「「 は、はい! 海月女学院空手道同好会ですっ! よろしくお願いします! 」」」」」
「うん。よろしいー。立礼はちゃんと、背筋を伸ばして、首は曲げないのぉ! ほらぁッ!」
海月女学院の道着がすっかり馴染んだ、インターハイ銀メダリストの末永小笹も、初々しい白帯の一年生五人を従え、以前よりもすっかりお姉さんのような雰囲気の先輩になっていた。なにげに、けっこう礼法には厳しいという意外な一面があったようだ。
「なんだ、小笹ちゃんー。しっかりと『主将』やってるじゃんかぁ! 五人も後輩が出来て嬉しいんじゃないの? すごいなぁ、みんな一年生? よろしく。俺、井上な!」
「は、はい! テレビで、末永先輩の試合、見まして・・・・・・。空手、かっこいいなと、思いました! 今は毎日、わたくしたち、福田大地コーチと末永先輩に、たくさん教わってます」
お嬢様進学校の海月女学院に、新たに出来た空手道同好会。
福田と小笹が教えていると言うからには、一年生の初心者でも、経験日数以上の実力なのかもしれない。
「『末永先輩』なんて、俺らには新鮮な響きだねぇー。末永が一期生の初代主将だねぇー?」
「くすっ。田村センパイ。ワタシも初めて、主将の大変さってのが少ぉしだけ、わかった気がしますよぉ? 今日は、ワタシたち海月女学院のデビューでもあるんです。結果よりも、この子たちが、空手の試合がどういう雰囲気なのか勉強になればいーでぇす! くすっ!」
小笹の言動も、どこか以前よりも少しだけ大人っぽい。
やはり、後輩の見本という感覚が、無意識のうちにあるのだろうか。
ざっ ざっ ざっ ざっ ざっ ざっ・・・・・・
ざっ ざっ ざざざっ ざざざっ ざざざっ
「・・・・・・すみませんが、そこ、通してもらってよろしいですかね?」
そして、田村たちと小笹たちが話しているところへ、今大会も、あの学校が現れたのだ。
「「「「「 (す、末永先輩? この方々は? つ、強そうだなぁー・・・・・・) 」」」」」
「くすっ。邪魔しちゃってごめんねぇーッ! 改めて、就任おめでとう、大澤主将ッ!」
「末永小笹。・・・・・・海月女学院も、新たにチームが出来たというのは本当だったのか」
「やめてよぉー。まだ、あなたたちが本気になるほどのレベルになってないんだからさぁ」
「やれやれ、相変わらず、とらえどころの無い人だね。まぁいい。今回こそは、先輩方に吉報を届けられるよう、私たちが上位独占させてもらうからね! 打倒、末永小笹さ!」
小笹と相対するのは、等星女子高の新主将となった大澤美月。
以前よりも髪が短くなり、かつての主将である崎岡を思わせる雰囲気に近い。黒帯揃いの後輩を従えた大澤と、固まって震える白帯の後輩を従えた小笹。見た目は、両極端なチームだ。
「くすっ。・・・・・・言ってくれるじゃないッ! あははっ! 楽しみにしてるよぉッ?」
「私もな! 朝香先輩、崎岡先輩、諸岡先輩の三人の意志を継いだ私は、以前とは違うよ?」
「へぇーッ! じゃぁ、どこがどう違うのか、試合でワタシに教えてくださいなぁ?」
同級生の主将同士の火花が散り、既に空気は強烈な戦闘モード。等星メンバーにも火が点く。
たたたたたたたっ たたたっ・・・・・・
「先輩たち三人とも遅いなぁと思ったら・・・・・・大澤さんに、末永ちゃん! 何してんの?」
そこへ阿部が戻ってきて、女子主将三人が揃う三つ巴のような図に。
「阿部さん、その帯・・・・・・。そうか、おめでとう。段位取得したんだな?」
「おかげさまでね。主将がいつまでも茶帯じゃ、それこそね。大澤さんも、主将だもんね?」
「阿部チャン! 今日はよろしくねッ! あははっ! ワタシと良い試合になるといいねぇ」
「末永ちゃん・・・・・・。わたしだって、今日は、一つのチームの主将なの。大澤さん、末永ちゃん、わたしは柏沼高校空手道部の主将として、もし試合で当たったら、遠慮無く全力で行くからね!」
「言われるまでもないよ。等星はいつだって、向かってくる者は蹴散らすのみ。等星の空手に逃げの文字は無い。楽しみにしてるよ。少しは楽しませてもらえるんでしょうね?」
「あっははははぁ! 阿部チャン、強くなったねぇッ! ワタシも真っ向から全力でいくからねぇッ! この子たちのためにも、ワタシは勝負の厳しさを見せなきゃならないからさ!」
ゆっくりと、気温に反した熱気と闘気が揺らめき出す。女子三人の気が、ゆらり。ゆらり。
しかし三人は、ふっと表情を緩め、力強い目でにこっと笑みを浮かべ合った。等星女子と海月女学院それぞれの主将は、阿部に軽く会釈し、観客席のそれぞれの方向へ向かっていった。
「いやー、世代交代って、こっち側の立場から見てると、こういう感じなのかぁーっ。恭子、おまえ、けっこう度胸あんなーっ! 等星に真っ向から啖呵切るなんて、真波みたいだ!」
「阿部さん、すっかり主将の風格だね! あの大澤さんや末永さんと真っ向から向かい合って気負けしないなんてね! 頼もしい姿、黒川君たちや一年生たちにも見せたかったよー」
「やめてくださいよ、井上先輩も前原先輩も。さぁ、行きましょう! もうみんな、観客席も確保してくれましたよ! さ、行きますよー」
阿部はそう言って、前原たちより先に颯爽と駆けていった。
「新世代、だねぇー・・・・・・。俺たちの時とは、また違った風が吹いてるねぇー。面白いや」
田村は、駆けて行く阿部の背中を見つめて、ふっと笑ってぽつりと呟いた。




