パラダイムシフト

変化

拓也は優しい夫で良い父親だ

つまらないことで、口喧嘩はするが大きな不満はなかった

夜の生活も、子どもができてから減ってはいたが、全くないわけじゃなかった

平穏な毎日だった

家事や子育てでストレスはあったが、ささやかな幸せもあり、笑って楽しく過ごしていた

全てが、変わってしまった

過去も、未来も、隣に座って笑っている拓也も、今までとはまったく違うものになってしまった

それは、自分も同じだった

陽子は、今までの陽子ではなくなった

気に入っていた、庭の小さな花壇の水やりを忘れるようになった

夕食後、必ずキッチンをきれいにしてから寝ていたのに、次の日の朝まで食器が流しに置きっぱなしでも気にならなくなった

夫の浮気、しかも内容が内容なだけに誰にも言えなかった

浮気や不倫なんて、テレビの中や芸能人だけの話だと思っていた

えげつない浮気を自分がされていたなんて…

今は離婚できなくても、将来的にはするかもしれないと思い、やたらとその手の広告や記事が目につくようになった

拓也が口にする未来予想図には、耳をかさなくなった

子どもが大きくなったら、二人でゆっくり旅行したいだの、定年後の話など右から左に抜けていった