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第一章 1「森緑のリト」(1)

第一章  森緑のリト


 東キニ地方より皇都ククラムへ訪れるには、モルコ街道を通るか、現在では殆ど使われず寂れてしまった旧街道を通るしかない。


 その旧街道を猛然と駆ける一台の馬車があった。

 馬車には御者台で馬を走らせる中年の男と、荷台に積まれた鉄檻には、野生の獣……ではなく、小柄な若い男が入れられていた。

 その年若い方の男、リト=ファの両手には御者台にいる男によってかけられた手錠があり、馬車が揺れるたびに音を立てている。

 リト=ファという青年の面差しは成長しきれていないようなあどけなさを残し、小柄さも相俟ってまるで少年のようであった。 蕨色の古びた布服と外套にくるまっていて、そこから覗く手足は男とは違う赤銅の肌だった。つんと尖った鼻は利発そうな顔立ちに見せ、静かに伏せられた瞳は、驚いたことに常緑樹の葉のごとく鮮やかな緑色をしている。


御者台の男は皇帝の意向や国法に反した者を捕らえる、検義士(けんぎし)という役名の官吏だった。

 検義士の仕事は捕えた罪人をもれなく皇都にある審議所へ連れていく事になっている。今回の任務は極秘かつ迅速に遂行してくるよう命が下されていた為、人通りの少ない旧街道を選んで駆けていたのである。

 モルコ街道は先々代の皇帝が、皇都から遥か南の国境まで延ばした馬車鉄道に沿って出来た街道だ。旧街道はモルコ街道開通後に寂れてしまい、廃屋は破落戸達の溜まり場となり平民は余計に旧街道に寄り付かなくなってしまった。破落戸といえども皇帝の勅命で動く官吏を襲うような命知らずはいないので、男の馬車にその心配は無い。


 鉄檻の中の青年、リトは悄然と手錠を見つめていた。いつもなら森で昼飯用の山菜を採りながら逍遥しているはずの時間だった。

「喉が…」

 とても乾いたが、リトは言うのを止めた。それを訴えたところで水を貰える可能性はない。検義士、サコルから受けるリトの待遇は酷いものだった。まるで人間を運んでいる気はないと態度で示しているかのように。

 それ程耐えがたい道中だったが、リトは皇都へ行ったことがないので、後どれ位で到着するのか見当もつかないでいた。いつこの檻から出られるのか。そればかりを考えている。

「じっちゃん……」

 鼻先をくすぐる緑風に、もう二度と会えない祖父との穏やかだった暮らしを懐かしんで呟いた。


 それは安堵をもたらさず、痛みとなってリトの胸に沁みたのだった。






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