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〜序〜
皇帝と解毒師
鯨井 書架
『 序章 』
人々の与り知らぬ昔、世界の大地は一対の大陸のみとなった。
西のユラジア。
東にはエイジア。
大海に隔たれた両大陸は創世協定により互いに接触を断ち、
それぞれが独立した「世界」を構築していった。
東大陸エイジアには「術士」と呼ばれる個別の特殊な能力を有した血族が存在する。
その力が与える影響力は術士一人で兵百万人に匹敵すると言われた。
かつて大陸中に散在していたという術士も次第に数を減らし、今日では二十一名のみとなってしまった稀有な存在である。
――創世歴5612年。
東大陸エイジアの極西に「眠れる赫龍」と呼ばれる軍事大国があった。
「術士三人保つ国、諸国を圧す」この世界において、彼の国は六人もの術士を擁していた。
その国の名はビルリンク・ルム皇国。
約五千年もの間、初代皇帝ハウタラの血を継ぐ皇帝が統べる国である。
現皇帝、第百二十四代皇帝ヨンカ・レン・ビルリンク・ルム皇が即位して間もない今、
再び赫き龍が大地を這いまわろうとしていた。