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第1話 よく分からないまま異世界転生しました

 絹糸のようなさらりとした黒髪が僕の頬を撫でる。

 夕焼けに染まる屋上の入り口で、一体、どうしてこうなっているのか。

 僕は、理解が追いつかないでいた。

 僕を地面に組み伏せ、襟首を掴んでいる彼女は言った。


「なぁ、俺言ったよな? 女扱いするんじゃねぇって。お前、話聞いてなかったのか?」


 イライラとした様子で彼女は僕を睨む。

 何故僕はそんなにイライラとしているのか分からず、つい余計な口を出してしまう。


「そんな、でもどう見たって女の子だしそれに――」

 言葉を続けようとした僕は、彼女に地面へ押し付けられて発言を封じられてしまう。


「ぐぇ――っ!」

「それに? なんだ? 見た目が女だからって女だと思っているのか? 一丁前に頬を紅潮させやがって」


 パッと無造作に襟元から手を離されて、僕は頭を打ち付けた。

 痛い。

 僕が呻いているのにも関わらず、彼女――ササラ=B=マークスは、その場でゆっくりと立ち上がって僕を見下しながらこう言った。


「お前の目の前に居る奴は、間違いなく野郎だよ。ま、見た目はこんなに可愛くなっちまっているけど」


 何でこうなったんだろうなと言いたげな素振りを見せた彼女に対し、理解が追いつかない僕は目を丸くする。


「え――?」


 そうして僕が目を丸くしていると、ササラはニヤリと笑う。


「俺も、お前と同じだよ」


 一体どういうことなのか、僕が聞こうとする前に彼女は言った。


「俺もお前と同じ、異世界転生者なんだよ――」




 ――時は遡り、数日前。


「お前さんはな、トラックに轢かれて死んだんじゃ」

「はい?」


 真っ白で無機質な、水平線の彼方が見通せないほど広い空間の中央で、僕――夏野恭介は、自称神様を名乗る白髪ロングヘアーのおじいさんと、向かい合いながら話をしていた。


「だからの、トラックに轢かれて死んだんじゃ。多分あれじゃろ、大方子供でも助けたんじゃろ」

「多分って……そんな適当な説明じゃ納得できないですよ! 本当に子供を助けて轢かれたんですか!?」


 記憶にも無い、余りにも適当な自称神様の言動に対し、つい大きな声を上げて詰め寄ってしまう。

 だが、そんな僕の態度に反して、目の前の自称神様は面倒くさそうな表情で淡々と言葉を紡いだ。


「あー、あー。そう大きな声で叫ばなくても聞こえとるわい。ええじゃろ子供を助けて轢かれたってことで。それとも自分から飛び込んだって言ったほうが良かったかの? 異世界転生ワーイって」

「それは嫌ですけどっ!」


 何で自分がここにいるのかも自分が直前まで何を行っていたのかも分からない僕にとっては、とても重要なことなんだけど!! 神様適当過ぎませんか!?


「最近、お前さんの国ではトラックに轢かれる奴が多くてなぁ……。わしも、もう疲れて疲れて、いちいち詳細を調べるのも説明するのも面倒なんじゃ。解っておくれ」

「えぇー……」


 とても解りたくない。


「で、トラックに轢かれて死んだお前さんは、多分子供を助けた経験から異世界に転生する権利を与えよう。ついでに特典も」

「そんなにフワっとした感覚で、異世界に転生する権利と特典を与えていいんですか自称神様」

「わしが良いと言っているのだから良いのじゃ」

「あっ、はい」


 自称神様は微笑みながらも、一切笑っていない目で僕を見てきたため、僕は何も言い返せなくなった。


「……で、分かりました。納得も飲み込みも全然したくはないのですが、とりあえずしましょう。どんな異世界に転生して、どんな特典? が、貰えるんですか?」


 僕は、色々聞き出すのを諦めたと言わんばかりにその場に座り込み、自称神様に尋ねる。

 自称神様は満足げな表情をした後、僕と同じように対面に座った。そして、少しだけ思案した素振りを見せると、にこりと微笑み……。


「何かこう、ファンタジーな異世界じゃよ」

「ざっくりですね!!」


 滅茶苦茶適当に説明された!

 今までも適当だったけど! 度を越して適当では!?


「そして、現在の姿と記憶で転生できる特典もやろう」

「それは特典ですか!?」


 特典の基準が分からない。


「不満か? なら頑丈な身体も付けてやろう。大体怪我をしないぞい」

「大体って……」

「大体は大体じゃ」

「えぇー」


 適当加減が増していっている気がする。このまま話していたら、そのうち適当加減がピークを迎えて、一文字しか発さなくなりそうだ。

 自称神様と問答することを諦めた僕は、腹をくくり神様の手を取る。


「突然なんじゃ気持ち悪い」


 単純な罵倒が辛い。


「……ええ、ええ。もう流石に、もう、この扱いにも慣れました……。いいですよ、行きましょう異世界。せっかくもう一度、生きる命が与えられるみたいですし。それにこれ以上話していたらどんどん悪い方向に話が転がる気がするし」

「何か言ったか?」

「いえ何も! ……では、異世界転生、お願いします……!」


 自称神様の手を離し、いつでもどうぞと言わんばかりに目を瞑って身体を強張らせる。

 ――異世界って、どんな風なんだろう? 日本で見ていたアニメや小説だと、中世ヨーロッパとか、近世風の建物が多く存在するルネサンスな街並みが広がっていたりするんだろうか?

 剣と魔法が沢山存在していて、魔物が居て、ギルドがあって……みたいな。少し、楽しそうかも。


「ゲームやテレビは存在しないがの」


 心を読むな自称神様。


「それじゃあ転生させるぞい」


 自称神様がそう言うと、閉じた瞼越しに眩い光がはしる。光はどんどん強くなり、僕の視界が真っ白に染まっていく。


「ああ、言い忘れておったが、お前さんの行く異世界では……」


 自称神様が何か言おうとしていたが、僕の耳にはもう届かない。

 何か重要なことだと思うんですけど。段取り悪くないですかね?

 そんなことを考えてつかの間、僕の意識は光に飲み込まれ、消えた――――。



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