スライム召喚無双 〜スライムを4つ繋げて消すと放てる大魔法は、連鎖消しの天才が使っていい代物では無かった〜
「しばくぞぉゴルァ!」
思わずそう叫び、俺は机を思い切り殴った。
まただ。まーたこうなった。
俺がレースゲームをプレイしていると、お約束のように酷い目に遭うのだ。
気持ちよく1位を独走していたつもりが、甲羅にバナナ、爆弾と立て続けに妨害攻撃を受け、気づいたら最下位にまで転落してしまっている。
あまりにも執拗に狙われるもんだから、つい机とかにイライラをぶつけてしまうのだ。
まあぶっちゃけ、上位に入れないのは俺の実力不足が原因でもあるんだがな。
そもそも俺の本領は今プレイしているレースゲームではなく、4つ繋がると消えるスライムを高く積み上げて、大量連鎖消しをして対戦プレーヤーを倒すパズルゲームだ。
プロゲーマーのライセンスを取って以来一勝もできず、「客寄せチンパンジー」などという不本意な二つ名をつけられて以来パズルゲームの実力アップにのみ専念していたので、レースゲームの実力向上にまでは手が回っていなかったのだ。
このメンタルでレースゲームを続けてもどうせ上位は無理そうなので、今日はここまでにするか。
そう思い、机を殴った右手をコントローラーに戻そうとした時だった。
俺は、右手に違和感を抱いた。
なぜか、右手が机から離れないのだ。
「……は? どうなってん……!」
不思議に思って手元に視線を落とした俺は、言葉を失った。
今殴ったことにより机に入ったヒビが、RPGで見る魔法陣かのように光り輝いているのだ。
「……は、は、はぁ!?」
俺がパニックに陥っている間に、魔法陣は更に変化した。
魔法陣は机から浮き上がり、俺の全身を包んだのだ。
それに気づいた直後のこと。
俺の視界は、暗転した。
◇
「……ここは?」
再び目を覚ました時。俺がいたのは、潮の香りがする美しい浜辺だった。
……あのヒビ製魔法陣で、俺はこんなところに連れてこられたのか?
見渡す限りの青い海に、凹凸一つない水平線。
後ろを振り返ると、南国を思わせるようなヤシの木が数本立っていて、そして手元あたりには半透明のステータスウィンドウが──ちょっと待て。なんで、こんなナチュラルにステータスウィンドウが存在するんだ。
ヒビ魔法陣の野郎、俺をどんな世界線に連れていきやがった。
まあそこは考えてもどうにもならなさそうなので、とりあえずステータスの内容でも見てみるか。
書いてあるのは、こんな内容だった。
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名前:ハバ ユカタ
Lv.1
スキル:なし
ユニークスキル:スライム召喚
(同色のスライムを4つ繋げて消すことで、大魔法を放てる。連鎖消しすると、魔法も火力も爆発的に増加する)
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俺の名前は八葉 浴衣なので、これは俺のステータスなんだろうな。
レベルが1でスキルなしというのは何だか心許ない気がするが、まあそこはあまり言うことは無い。
それより、だ。
このふざけたユニークスキルは、一体なんなんだ?
説明だけ読んでみた感じだと、やることは俺が極めたパズルゲームのルールとよく似ている気がする。
だが──これで一体、何ができるというんだ?
とりあえず、「スライム召喚」と念じてみる。
ユニークスキルの発動条件は不明なので、当てずっぽうでやってみただけだがな。
すると。空中から、2匹の色違いのスライムが姿を現した。
……とりあえず、発動の仕方はこれで合ってるみたいだな。
ならば、と俺は「スライム召喚」を繰り返し、さらにスライムを積み上げていく。
そして──3回目の「スライム召喚」で、俺は4匹の同じ色のスライムをつなげることができた。
4匹の同じ色のスライムが繋がると、そのスライムたちは姿を消し──スライムのいた場所からは、海に向かって高速で炎の球が射出された。
これが、ユニークスキルの言うところの「大魔法」か。
なんかショボかった気はするが、まあそれは俺がレベル1だからだろうな。
まあそれでも、何となく俺の持つ「ユニークスキル」とやらの特性は分かった気がする。
じゃあそんなところで、次はステータスの説明にあった「連鎖消しすると、魔法も火力も爆発的に増加する」ってのを試してみるか。
さっき3発撃った感じだと、スライムを召喚することによって体力が奪われたりすることは無いみたいだ。
ここは思い切って、大量連鎖でも組んでみよう。
再び「スライム召喚」を使い、俺は「GTR」と呼ばれる大量連鎖を生み出すスライムの積み方でスライムを積み上げていった。
「……そろそろ15連鎖くらいにはなるか」
ある程度組んだところで、俺は連鎖開始ポイントとなるスライムを4匹繋げ、連鎖消しを開始した。
スライムたちは連鎖を起こして次々と消えていき、俺の目論見通り、15連鎖が繋がった。
すると、今度は──先ほどの比ではない、太陽が至近距離にあるかのようなド迫力の炎の球が、海に向かって飛んでいった。
……あれ、海を蒸発させてしまったりしないだろうな?
そう心配になるほどの巨大火球は、着水しても全く勢いが収まらない。
水蒸気がモウモウと立ち上る中、周囲の気温までもがどんどん上昇して行くのだ。
……これ、まずくないか?
このままだと、火球の猛威がコチラにまで影響してきそうである。
俺の直感が、「何か対策を立てねば」と警報を鳴らしているかのように思えてきた。
「……このユニークスキル、防御もできんのかな」
自信は無いが、やってみるしかない。
時間もなさそうなので、とりあえず4連鎖でスライムを消してみる。
……「防御になれ」とひたすら念じながら。
すると、4連鎖が全て消えた段階で、俺の周囲に結界らしきものが張られた。
どうやら、目論見は成功のようだ。
その直後。
予想通り水蒸気の突風が巻き起こったのか、浜辺に比較的近かったヤシの木が根こそぎ吹き飛んでいってしまった。
……おいおい、ありゃねーだろ。
1連鎖だとしょぼい火力だったからと思っていつもの調子で連鎖を組んだ結果がこれか。
間一髪結界が間に合いはしたが、それがなければ俺も大気圏外まで吹き飛ばされてたかもな。
そんなことを考えつつ結界中から様子を見ていると、4分くらい経ったところで漸く火球は海の底へと沈んでいった。
尚、それが鎮火したのかは不明だ。
……あーあ。浜辺が完全に溶岩地帯になってしまったな。
なんかその即席溶岩地帯のど真ん中に巨大焼きイカみたいな奴もいるが、あいつよく原型を保っていられたなって思う。
とりあえず突風は収まったみたいなので、結界は消そう。
そう思って結界を解除したのとほぼ同時に、どこからか俺の脳内に声が鳴り響いた。
<ハバ ユカタはレベルアップしました>
再び、ステータスみ目をやる。
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名前:ハバ ユカタ
Lv.30
スキル:鑑定
ユニークスキル:スライム召喚
(同色のスライムを4つ繋げて消すことで、大魔法を放てる。連鎖消しすると、魔法も火力も爆発的に増加する)
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どうなってんだこの世界。
大魔法1発撃っただけで、こんなにもレベルが上がるのか?
まあ「レベルの上限といえば大体99」ってのは俺の固定観念で、実際はこの世界だと万とかいくのかもしれないが。
あと、なんか「鑑定」ってスキルが増えてるな。
ものは試しに、あの焼きイカでも鑑定してみるか。
「鑑定」と念じてみる。
【クラーケン(死体)】
海に潜む伝説の怪物。
その触腕は非常に協力で、過去には島を一撃で叩き潰した事もある ◼️
……なんかエゲツない事が書いてあるぞ。
島を一撃って、もうどう考えても天災の部類だろ。
そんな奴がこんな近くにいたのも驚きだが、確かにそれならあの炎を食らって原型を留めているのも納得か。
大量レベルアップの原因も、おおかたあのイカだろう。
そうだ。
どうせなら、この「鑑定」って魔法を鑑定することもできるんじゃないだろうか?
さっきの巨大火球の行方も気になるところだ。
もう見えなくなってしまっているが、海の彼方に向かって「鑑定」と念じてみよう。
そう思い、再び鑑定を発動する。
だが……そこに映ったのは、俺の予想を遥かに上回る代物だった。
【リヴァイアサン(現在残り体力88%)】
本気になれば大陸を沈められる、神話級の水竜。
高火力攻撃で眠りを妨げられ、激怒中 ◼️
待て待て待て、待て。
どうして俺は、魔法の試し打ちでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ?
そりゃ急にあんな規模の炎魔法を放った俺に非があるんだろうけどさ。
俺、ここに飛ばされてまだ10分も経ってないんだぞ?
理不尽すぎないか?
しかし、そんなことを言っている場合でもないな。
今の俺に残された手段は、とにかくスライムを連鎖消しするだけだ。
何で大陸を滅亡させられる奴と張り合おうなどとトチ狂った考えに至っているのかは、自分でも分からない。
それでも、何だかんだでさっきの一撃でリヴァイアサンの体力を12%削れているのは確かだ。
レベル30の今の俺なら、あるいは──という希望はあるな。
どうせ逃げたところで、鑑定の言う通り大陸ごと沈められたら、結局死ぬし。
覚悟を決めて、何とか冷静さを保ちなから、15連鎖を組み上げる。
そして、あとは連鎖開始するだけとなった時、奴は姿を現した。
その姿は、ただただ「巨大」の一言に尽きる。
水面から積乱雲を突き抜けるくらいはありそうな体調の水竜の全貌は、それだけで見る者に威圧感を与えるのだ。
勝てるビジョンが全然浮かばないが、俺が信じれるのは「さっきの攻撃で12%の駄ダメージを与えた」という実績のみ。
頼むぞ、15連鎖。そして、30に上がった俺のレベルよ。
そう祈りつつ、俺は15連鎖を発動した。
そして──今度は運が良いことに、それが「全消し」となったのだ。
今回現れたのは、時おり稲光りを走らせる闇の球。
それが、リヴァイアサンの頭部目掛けて飛んでいった。
リヴァイアサンはそれを迎撃すべく、水のブレスを闇の球に吐きかける。
だが。闇の球はそのブレスを物ともせず、ブレスを消滅させながらリヴァイアサンに近づいていく。
これは、希望が持てるのでは?
闇の球がリヴァイアサンにぶつかると、リヴァイアサンの前身に数えきれないほどの稲妻が走る。
「ガ……グアアアアァァァァァァ!」
数分間、断末魔の叫び声をあげたリヴァイアサンは、とうとう力尽きたのか消滅してしまった。
……勝ったのか。
ホッと胸を撫で下ろしたその時、俺の目の前に1本の剣が現れた。
すかさず、鑑定。
【神剣DHMO】
リヴァイアサンは討伐された場合、神剣DHMOへと姿を変え、討伐者の所有物となる。
世界最強の剣であることに間違いは無いが、一振りしただけで山が吹き飛ぶ規模の強さなので使い道は限られる。
※所有者となることでスキル「神剣飛行」が得られる唯一の神剣 ◼️
……なんかどえらい剣が手に入ってしまったな。
まあ、これがリヴァイアサンを倒したって証拠なので、やっと完全に安心できるってわけではあるが。
そんなことを考えていると、更に脳内に声が鳴り響く。
<ハバ ユカタはレベルアップしました>
―――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:ハバ ユカタ
Lv.224
スキル:鑑定 神剣飛行
適性:神剣所有
ユニークスキル:スライム召喚
(同色のスライムを4つ繋げて消すことで、大魔法を放てる。連鎖消しすると、魔法も火力も爆発的に増加する)
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……もうレベルには突っ込むまい。
スキルも、「神剣飛行」ってのが増えている。
鑑定に書いてあった通りだが……剣で空を飛べるってことか?
あと、なんか適性が付いてるな。
神剣所有、か。
おおかた、この神剣DHMOの所有者となってしまったばっかりに、辻褄合わせにそんな適性が付いてしまったんだろう。
まあ何にせよ、これで一件落着なんだ。
とりあえず、人のいる場所に行きたいもんだな。
せっかく「神剣飛行」なんてスキルを授かったわけだし……空から見下ろして街を探すか?
神剣DHMOを持ち、神剣飛行について考えると身体がフワッと浮き上がった。
そして、さっきリヴァイアサンの頭があったくらいの高度まで来ると……あった。
遠くの方に、街が見えたぞ。
俺はその街を、一直線に目指した。
◇
街に入って、俺はあることに気づいた。
俺、今一文無しだ。
これでは、街に着いたところで衣食住に必要なものを手に入れられない。
俺は途方に暮れ、街を見渡した。
すると……俺が今、入るべき建物が目についた。
それは、「冒険者ギルド」という看板が建てられてある建物。
それだけならなんのこっちゃ分からないところだが……その下に、「戦利品高価買取!」などという旗が立っていたのだ。
焼きイカの方は置いてきてしまったが、とりあえずこの神剣DHMOはある。
飛行に便利なので売るのは惜しい気もするが、背に腹はかえられないな。
◇
そして、ギルドのカウンターにて。
「すみません。これ売りたいんですが」
俺は受付嬢にそう言い、神剣DHMOを渡そうとした。が──
「な、な、な、な、何ですかこの恐ろしい代物は!」
受付嬢に、そう大声で叫ばれてしまった。
そのせいで、ギルド内の冒険者の注目が一気に集まる。
そのうち1人が、こんなことを言い出した。
「あれ……神剣……じゃないか?」
即席の静寂に、その男の声はよく響いた。
当然、受付嬢もそれを聞き逃してはいない。
「神剣なんて、そんな大それたものギルドで売れるわけないじゃないですかぁぁぁ!」
この日。
路銀が欲しかっただけの俺は、たちまちの間に「神剣すら平然と売りに出そうとする、規格外におかしい奴」として街全体に知れ渡ってしまうのだった。
連載版も書いております!
下にリンク貼ってあるので、ぜひそちらも見に来てください↓↓↓