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どちらかと言えば、まとも

田中のディナー

サイ〇行こう

 私は田中です。都内で会社員をしている、どこにでもいる様な背景モブです。だけど今日は憧れの田中マネージャーからディナーに誘われて、心が弾んでいます。田中マネージャーは将来を嘱望されている、うちの部署の先輩です。涼やかな目つきに、すっと細く高い鼻梁、薄い唇に引き締まった口元、少し尖った顎、線が細くて触れれば壊れてしまいそうな見た目です。だけど、発達した喉仏やごつごつした指が男らしくて素敵なんです。それで仕事もきっちりとしているし、指示も的確、決断も早いし、機転も効く完璧人間の様でいて、時々髭が剃り残されたりしていて、そういうギャップがまたすごく可愛らしく感じてしまいます。そんな憧れの人からディナーのお誘いを受けられて本当に幸せです。今すぐ死んでも悔いは無いくらいです。わが生涯に一片の悔いなしってこういう時に使うんだろうなと思います。


 今日はお勧めのイタリアンレストランに連れて行ってくれるみたいだけど、どんな場所なんだろうとワクワクします。きっとカンツォーネが流れる陽気で明るいレストランなんだろうな。


 期待に胸を膨らませながら、駅前の待ち合わせ場所で待っていると、田中マネージャーがやってきました。待ち合わせ時刻5分前です。流石、田中マネージャーきっちりしてますね。


「田中さん、待たせちゃったかな。それじゃ行こっか。」

 小走りしてきた田中マネージャーの口から白い吐息が漏れています。幻想的です。


「いえ、私もさっき来たところですよ。今日は楽しみです。どんなお店に連れて行ってくれるんですか。」


「それは着いてからのお楽しみってね。」

 いたずらっぽく笑う田中マネージャー、否が応でも期待が高まります。


 そして、会話しながらたどりついたのは、緑色が特徴のイタリアンレストランです。壁紙が世界の名画になっています。私も良く来るお店です。と言うか、昨日も会社の帰りに寄って帰りました。もしや田中マネージャーは私を試しているのでしょうか。このお店が私の行きつけだと知っているに違いありません。気の抜けない戦いになりそうです。


「とりあえず、飲み物はワインで良いかな。」

「はい。そうですね。」

 やはり田中マネージャー分かっている人ですね。この店はワインが安くて美味しいと言う事を知っているんですね。


「食べ物はどうしようかなぁ、とりあえずプロシュート頼んどくか。あとはチーズとトマトのサラダかな。メインは後で決めようか。」

「プロシュート美味しそう!私、生ハム大好きなんですよ。」

「そうなんだ。適当に選んだけど正解だったかな。」


 プロシュートですか。田中マネージャーは間違いなく分かっている人です。ここのプロシュートは値段からは想像できない、旨味と甘味を持っています。セットで着いてくるフォッカチオと一緒に食べると口の中でプロシュートの脂が程よく溶けて極上の味わいとなるのです。


 呼び鈴を鳴らすと、すぐに店員さんが来ました。


「グラスワイン2つと、プロシュートと、チーズとトマトのサラダをお願いします。」


 おや、グラスワインを頼みましたね。分かっている人ならばデカンタで頼むはず。若干、雲行きが怪しくなってきました。


 しばらくすると、ワインと料理が運ばれてきました。いつ食べても、ここのプロシュートは絶品です。それにチーズとトマトのサラダも、オリーブオイルがアクセントになっていて美味しいですね。ワインも値段以上の満足感です。


 二人だとお酒も会話も弾みますね。とても楽しい時間です。けれども、田中マネージャーが本当に分かっている人かどうかを確認するためには、メイン料理のチョイスを確認する必要があります。


「マネージャー、メイン料理はどうしますか?」


 さて、田中マネージャーはどうでるのでしょうか?


「そうだなぁメインを、ミラノ〇ドリアかカルボナーラかどっちにしようかな。」


 あー無いな。こいつ無いわ。ド素人だわ。ミラノ〇ドリアとか高校生かよ。それに、この店でカルボナーラは無い。完璧に分かってない。やってられない。パルマ〇スパゲッティとか、アーリ・オーリオに削りたてチーズトッピングとか、正解が沢山あるのに、よりによってその二つで迷うとか、無さすぎる。がっかりだわ。なんなのこいつ。どうやってマネージャーになったの。うちの上層部、見る目なさすぎ。ホント早く帰りたい。


 その日、その時点で私の興はそがれてしまいました。後は適当に当たり障りのない話をして解散しました。それ以来、私の田中マネージャーを見る目が変わってしまったのは言うまでもありません。

今回は、最後までふざけることなく書ききることができました。

これはあくまでフィクションです。ミラノ〇ドリアもカルボナーラも美味しいです。


ちなみに、田中マネージャーはサイドスローからのバックステップが得意で、スリーポイントをダブルボギーすることに定評があるタイプの前陣速攻型オールマイティなAIを搭載したマネージャーと言う裏設定があります。披露する場はありませんでしたが、書きたかったので書いておきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさに、『ザ・日常!』といった感じの作品で、クスリと笑えました。 それまでの印象から反転した、主人公のテンションの落差もまた見事。 これからも、執筆活動を頑張ってください。
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