おまけ 取り残された二人(委員長視点)
放課後、校門の前にいた怪しいコスプレ美女に同級生が突然声をかけられて。
『エイジ様、あなたを探しておりました。申し訳ありませんが、もう時間がありませんので……失礼します』
『えっ…』
その手を繋がれたかと思った瞬間、二人の周りから虹色の光が飛び出し、私は思わず目を瞑った。
そして、すぐさま目を開いた時には……もうそこに二人の姿は無かった。
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「ねぇ、猫川」
私――委員長こと大葉良子――はたった今、目の前で起こった出来事にただ目を丸くしていた。
今この瞬間も何かしなければならないと頭の隅では思うものの、まるで全身が麻痺したように固まってしまい、結局私は隣にいた猫川の名前を呼ぶことしか出来なかった。
「……なんだよ」
「あんた、今見てたよね」
「……ああ、まぁな」
「私だけ、じゃないわ…よね」
「……おう」
数回、他人と会話を繰り返した事で次第に私の頭にも血が巡ってきた。
そして、ようやく現状を理解し、私にも正常な感情が蘇ってきた。
「……いま!!消えたよね!!ヒトが!!光って、パーって、ひゅんって!!」
「エイジ、すっげぇぇぇぇぇ!!」
端的にいって、私はパニックになった。
猫川の反応に関しては、私の理解を超えたものだったけれど。今はそれどころではない…!
「え?え?どうしよ、同級生が消えたんだけど!通報?110?」
「バッカ!委員長、そんな普通な対応してんじゃねーよ!生イリュージョンだぜ!すげーーー!!」
「いやいやいやいやいや!!こんな非現実的な状況で普通の対応とか分かんないから!!というか、これ誘拐じゃないの!?」
「なーに言ってんだよ、相手は年上の黒髪美人だぞ。逆ナンだろ?」
「逆ナンってそんなヒトが光り輝いてびゅんびゅん消えるものだっけ!?」
「じゃあ異次元だ!異次元ナンパだ!」
「あーそっかぁ異次元かぁ……ってなるか!!」
「おお、委員長が慣れてないノリツッコミまでし出した。これはそうとうパニくってんな」
「そうよ!私はパニくってるのよ!!」
普段の自分なら「何を偉そうにパニック自慢してんのよ…」と自分にツッコミを入れそうなものだが、今現在自分にそんな余裕はなかった。
「まー落ち着けよ。委員長。とりあえずアイツの家族に連絡しとこうぜ」
「え?え?あ……そ、そうね」
そう言って、私の隣で淡々とスマホでメールを打つ猫川の姿をついじっと見つめてしまう。
「……なんか猫川、えらく冷静ね」
「ん?そりゃ漫画家志望だぜ?こんくらいの事で一々驚いてられるかよ」
「これで驚かなくて、一体あんたいつ驚くって言うのよ…」
猫川の底知れなさに、馬鹿も極まるとここまでかと今日一で感心してしまう。
「それに多分…あいつの家の人達に任せたら、大丈夫だと思うぜ?」
「え……?」
「流石に小学校からエイジとは幼馴染やってるからさー。なんとなくアイツの家が親父さんの美人ハーレム一家ってだけじゃない秘密があるんだろーなーって分かんだよ」
「ひ、秘密って…?」
「それはホントに分からん。ま、流石に今日のはバッチリ見ちまったからなー。とりあえずアイツん家に今から行って話聞きに行くんだけどさ…委員長も来る?」
「え……」
唐突に猫川から答えを求められ、私は一瞬だけ足がすくむような感覚に襲われた。
たった数分前まで、進路や大学といった地に足の着いた現実の中にいたはずなのに……。
そんな言い訳に似た不安が胸の奥に生まれたのを感じた。
けれど…。
「…勿論、行く。このまま家に帰ってたら余計にパニックになりそうだし」
どうやら私は、自分で思っている以上に面倒見が良かったらしい。
「流石、委員長。話わかんじゃん。ほら、行こうぜ」
「ちょ、待ってよ…!望月くんの鞄持ってかないと…!」
そう軽口を言いながら、早速歩き出した猫川の背中を追うように、私も何とか勇気を振り絞って一歩を踏み出した。
心の中で、望月くんの無事を祈りながら…。
異世界編に突入する前に、おまけエピソードを一つまみ。
この続きも、ちょくちょく更新するかもしれません。
今後、異世界でのストーリーにあたる『異世界編』と、実世界でのストーリーにあたる『進路編』と章分けして進行していこうかと考えています。
ではでは。