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17歳の異世界ハローワーク(仮題)  作者: 小倉ゼンマイ
2/5

家庭内お下がりハーレム(1/2)


――望月モチヅキ 海斗カイト


 それが俺の親父の名だ。


 親父が初めて異世界という存在を知ったのは、今の俺と同じ、17歳の事らしい。


 きっかけ交通事故だったか、通り魔だったか……


 至って平凡な高校生だった親父は、ある日命を落とし、そして異世界に転生を果たした。


 その際、神のような存在に“チート”と呼ばれる能力を与えられたらしいが、幼い頃に親父に聞いた話で詳しい事は知らない。


 ともかく、特別な力を持って転生した親父は異世界の危機を救い、英雄となった。

 そして、再びこの実世界へと戻ってきた。


 まさにファンタジー冒険譚のハッピーエンド。

 けれど、俺の親父は物語のヒーローというには、余りに俗過ぎた。


 そう。親父はこの世界に還ってきた時、年頃の女性を何人も連れてきたのだ。


 その誰もが絶世の美女と言って遜色の無いほどの美貌。モデル並みのプロポーション。

 そして、異世界の人間だけが有する、宝石のような髪や瞳の輝かしい彩り。

 

 そんな誰もが羨むような美女ハーレム。


 彼女らは異世界で親父と共に冒険した仲間たちであり、同時に愛を誓い合った仲だった。


 そして……その全員がご懐妊のおまけつき。

 元の世界に還って早々、流れるような一夫多妻の完成である。


 その後、無事出産。異世界の英雄は晴れて子沢山パパとなった。


――俺も、その生まれた子供の一人。


 俺はその中で、一番最後に産声を上げた。


 つまるところ、末っ子である。


――――――――――


「……!……………!」


「……んんっ……」


 ……誰かに身体を揺さぶられている。よく聞こえないけど、女の人の声もする。


 恐らくは、このまどろみの向こう側。未だ自分の意識が揺ら揺らとたゆたっている感覚がする。


 そういえば、さっきまで親父の夢を見ていた気がするような……いやどうだったかな。

 

 既に夢の記憶が朧げになっている。

 けれど、それに反比例するように、徐々に身体が感覚がクリアになってきた。


「……エイジ、そろそろ起きろよー」


 今度はしっかりと聞こえた。よく通る、張りのある声だ。

 

 そうか…もう朝なのか。

 

 ……思えば兄貴や姉さんたちがまだこの家にいた頃も、こうしていつも誰かに起こされていたっけ。


「いい加減起きろよぉ、エイジ」


 今度は頬をぺちぺちと優しく叩かれた。

 痛みもないので、一周回って寝かしつけられているみたいだ。とてもじゃないが、瞼を開く気にならない。後5分ほど、寝かせて貰おう。


「はぁ……ったく、しょーがねぇな……」


(……ん?)


 布と布が擦り合う音がしたかと思うと、俺の体の上に何かが載ってきた。

 布団越しに、心地よい温もりが伝わってくる。


「……んしょっと。ほら、こっち向けって」


(両頬を、触られてる……何だろ?)


 また頬を叩かれるのかと想像していると、ふわり。

 柔らかい、甘い香りがした。


瞬間――


「……………ちゅっ」


「……ん、んむっ!?」


――あまりに官能的な柔らかいものが、自分の唇に触れた。


 あ、これ朝チューだ。


 その時、俺は完全に覚醒した。

 そしてフルに回復した五感でもって、もう一つ把握した。


 この人、俺の義母だ。


「……ぷはっ!あ、朝から何やってるんですかあ!ナハダさん!」


 朝から刺激された肉体的本能を倫理的な理性で抑えつけ、すぐさま唇を離すと、俺はそこにいる筈の女性に対して抗議した。


「おっ、やっぱ効果バツグンだなー。おはようさん、エイジ」


「いや、おはようじゃなくて…」


 戸惑いながらも何とか上半身を起こして、俺は目の前のタンクトップ姿の女性を軽く押しのけた。


「うわ、おとと……」


「あ、ごめん。つい……」


「ああ、気にすんな。ちょっとバランス崩して肩紐ずれただけだから」


 そう言って、部屋着にしても露出度の高いタンクトップの肩紐をいそいそと直し始めた。

 

 惜しげも無く人目に晒されたその褐色の肌は、きめ細やかな瑞々しさを主張している。


 ……これで社会人の子持ちだというのだから、本当に異世界の人というのは末恐ろしい。


「……で、説明して欲しいんすけど。高校生男子に朝から何してくれてるんですか」


「ん?そりゃ私がチューしたかったからに決まってんじゃん」


「あ。間違っても俺を起こすためとかじゃないんすね」


 初犯ではないにしても、せめて言い訳くらいして欲しかった男の子の気持ち。


「いやまー、それもあっけどさ。そんな理由だけで私もチュッチュしないし。やっぱ私がしたい時にするもんだからさ」


「はっきりしてるなぁ」


 年頃の男子なりに大事にしたい純情やら何やらも、どうやらこの男前さんには適わないらしい。


――彼女の名前は、望月ナハダ。旧姓はナハダ・ブロワーズ。

――種族は“猫人族”。


 そう。彼女は普通の人間ではない。

 異世界で生まれ育ち、そして親父がこの世界に連れ帰った美女ハーレムの一人、正真正銘のケモ耳種族である。


「というか……親父がいながら、俺にこんな事するのダメじゃないですか」


 その健康的な褐色の肌に、季節を問わず身につけているタンクトップとホットパンツがやけに似合っている。


 そして……


「ま、やっぱ腐っても猫科だからなぁ。基本的は気持ちの赴くままななトコあるし」


「そんな気まぐれな感じで、義母に朝チューされる身にもなって下さい」


 彼女が“猫人族”である証拠ともいえる小さなネコミミが、その緑色のショートヘアに埋もれるように生えている。ふとした拍子に、ピコピコと動いていて愛嬌があったりする。


「んじゃ、エイジの目も覚めた所で……よっと」


「って!な、何でまた顔を近づけてきてるんですか…!あんた子持ちの自覚はないんすか!?」


「まま。細かい事はいーじゃねぇか」


「倫理観!大事にして倫理観!」


 俺の抗議も虚しく、ナハダさんは顔に息がかかってしまいそうな距離まで近づいてきた。


 おまけに身体まで密着させて。


「……っ!?」


 思わず目を向けると、胸元まで露出したタンクトップが柔らかくムニュムニュと形を変えていた。寝巻越しにナハダさんの豊満な胸の感触が鮮明に伝わってくる。


「うわっエイジお前。今、すっごい目つきしてるぞ。やーいムッツリ」


「ち、違いますから!望月エイジは義母をそんな目で見ませんから!」


 例え、見た目がグラビアアイドル並みのクオリティだろうと、近親は流石に色々とマズイ。

 

 ……それに、彼女は別に俺が好きでこんなちょっかいをかけている訳ではない。


 ナハダさんが俺に見ているのは、俺の血に流れる“望月海斗”の影なのだから。

 あくまで俺は、親父が不在の間の代用品だ。


 そう。親父は今、絶賛行方不明中なのだから。


「こ~ら。ダメでしょ、ナーちゃん」


「あでっ!!……ったぁー」


「あ……」


 ナハダさんとの距離がそろそろ本当に再びゼロになるかという所で、優しい母性的な声がそれを止めてくれた。


 突如、奇声をあげて頭を抱えて床に転がったナハダさんの様子を見るに、案外肉体言語だったのかもしれないけど……。


 ともかく、俺は目先の事態に収拾をつけてくれた恩人の方に顔を向けた。


 そこには長いブロンドの髪を軽く結った、優しいほほ笑みを浮かべた女性がいた。


「……シェアさん」


「うふふ。おはよう、エイジくん」


「あ、うん。おはよう」


 淡い黄色のセーターに白いロングスカート、服装で言えばある種ナハダさんとは対極な、ゆったりとした綺麗目な恰好をしている。


 うちの家族の中で割と背は低い方にも関わらず、誰よりも出るトコの出た身体のシルエットが服装と相まってより一層女性らしさを醸し出している。


「ナーちゃんが起こしに行ってから全然戻ってこないから、様子見に来ちゃった」


「いや、ホント助かったよ。ありがとう」


 話し方もゆったりとしていて、軽いやり取りだけで穏やかな気持ちにさせられる。恐らく、この家の中で一番の癒しポジションである事は間違いない。


――彼女は、望月 シェア。旧姓、シェア・モーラ。

――種族は“半妖”。


 所謂、妖怪としての狐の特徴を持つ種族。

 一応、狐耳や尻尾もあるそうだが…妖術で普段は隠しているらしい。


 そして、ナハダさんと同じく異世界で親父と出会い、愛を交わした一人だ。


「なんだよぉシェア。ちゃんとエイジを起こしてやったんだから、もう少しくらい待っててくれてもいーじゃんかよぉ」


 ようやく痛みが引いたのか、床から起き上がったナハダさんは胡坐をかいてシェアさんに文句を言っている。


「だってそれは~……というか、ナーちゃんまたそんな露出の多い恰好して……」


「えー?別に普通だって。むしろ私はシェアのその乳袋ニットの方が教育的に良くないと思うなー」


「え、ええっ!?そんな乳袋なんて……別に普通のニットだよ!?」


「いや、確かにその服って結構身体のシルエットが出るから…普通の人ならともかくシェアさんだと……」


 正直、シェアさんのふくよか過ぎるバストは何を着ても綺麗なお椀型をその胸元に生み出してしまうので、下手な水着を着るよりもフェチ感が出てしまっている。


「なー?ほら、エイジだってシェアさんの方が卑猥だって」


「う、嘘ぉ~……」


「べ、別に卑猥だなんて言ってないけどさ…」


「でも園児もこんなの見せられたら、思わず目覚めちゃうって」


「そんなぁ~……この服でダメなら何着て行けって言うのよぉ…」


 ちなみにシェアさんは現在近所の保育園で働いており、温かな包容力のある性格と暴力的なボリュームのある胸部が、園児・父兄共に大人気らしい。


 ……そういう需要を考えれば、ニットの方が喜ばれそうだけど、責任は取りたくないので黙っておくことにした。


「というか……平日なのに、時間大丈夫なの?」


「うふふ、今日は遅番だから大丈夫なのよ~。だから早く朝ごはん食べましょう」


「ああ、そうだった。すぐ着替えて降りるよ」


「は~い」


 朝からナハダさんのせいで色々とバタバタさせられたけれど、流石にお腹が空いてきた。急いで準備をしよう。


 と、さっそく寝巻のボタンに手をかけようとしたところで。後ろから注がれている二人の視線に気づいてしまう。


「ドキドキ……」


「ドキドキ……」


「……あの、お約束かもしれませんが。服着替えるので出てって下さいね」


「ぶー、ケチー」


「は~い」


 釘を刺さなければ、本当にこのまま居たのだろうか。と、少し不安になりながらも、俺は二人が部屋から出ていくのを見送ろうとした。


 と、ナハダさんに続いて、シェアさんが部屋を出ようとした、その時。


「あ、待ってエイジくん。その前に……」


「……?どしたの、シェアさ……っ!」


「……ん、ちゅっ」


 振り返ったシェアさんがすぐ目の前に来たかと思った瞬間、本日2回目。少し水気を帯びた音がした。


 ナハダさんのきゅっと張りのある感触とはまた違う、溶けそうなくらいに柔らかく潤いのある唇。

 リップクリームか何かだろうか、少し甘い、桃のような香りと味をうっすらと触れ合いの中で感じた。


「って、シェアさんまで何してるんですかぁ!!」


「え?……あーーー!!シェア、それはズルいって!!」


 驚きのまま俺が唇を離して声を出すと、先に下へ降りようとしていたナハダさんが自分の後ろで行われていた事に気付いて、急いで部屋まで戻ってきた。


「……えへへ」


「いや、笑ってる場合じゃなくて経産婦」


「おーいー、シェアー」


「だって、いつもは忙しくて朝一緒になれないし……折角だから私もエイジくんを充電したいなーって」


「いやどんな電化製品にだって正しい充電のやり方ってのがあるんです!少なくとも義母はこんな事しちゃダメですから!」


「うーん、エイジくんは義理だって言うけど、私は実の息子のようにエイジくんの事を想ってるよ?」


「いや実母のつもりでキスしてたのかよ!!よっぽどダメ!」


「ぎゅ~~~……!」


「う、うわわ……!」


 聞く耳を持たない、ということを示すようにシェアさんは俺を力いっぱい抱きしめた。


「ふふ、当ててるのよ?」


 いや、むしろ沈んでいきます。何だこれ。やわらかっ。


「なんだ、やっぱりシェアもノリノリだったんじゃん」


「うふふ、あれはただエイジくんを独占してるナーちゃんに嫉妬しただけ」


「だからって、今度はシェアが独り占めすんのかよ。私も混ぜろよーっ!」


「も、もがが……!」


 調子に乗ったナハダさんが背後から密着し、またその胸を俺に擦り当ててくる。

 もはや完全に年上二人に前後から押さえられた形になってしまった。かなり息が苦しい。


 圧倒的なボリュームに押しつぶされ、徐々に酸欠になりながら、改めてこの今の現状を俺は見つめ直す。


――そう。これが望月家。


 一夫多妻。異母兄弟。異世界ハーレム。


 その彼女らに、親父が家に居ない間の寂しさをこうして息子の俺で解消される毎日……。


 不幸なことに、兄貴も姉さんもみんな社会人や大学生になって一人暮らししてる今、この過剰すぎるスキンシップを受け止める相手が末っ子の俺一人……。


 そして、肝心の親父は現在行方不明3年目。


 断言しよう。このままでは俺の身が持たない。


 いかに俺が常識と理性を持っていようとも、この非現実的でインモラルな家庭環境の前ではそうした努力も何時まで保つのか。


 何しろ、俺は高校2年生。17歳。お年頃なのだ。


「おーい、ムッツリ。嬉しいか?」


「うふふ、どう?エイジくん」


 正面と背後から胸を押し付けられて、んがっ……としか言えなかった俺は心の中で改めて決意を新たにした。


――こんな家、さっさと出てってやる。


 本命じゃない相手の方が、明け透けにセクハラ出来るって事ありませんか?

 

 ハーレムってこれでいいのかドキドキしてます。


 次回予告……ダークエルフさんとハイエルフさん

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