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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

童話集

ガラパゴスより愛を込めて

作者: NiO

この小説をいまだガラパゴス携帯を使っている九JACK様へ捧ぐ。

 これは、とある、終わってしまった、星の話。


 西暦3018年。


 既に人類は……巨大で豊かな土地と多くの資源を有する新しい地球(・・・・・)へと、その移住の殆どを終わらせていた。


 かつて地球と(・・・・・・)呼ばれた星(・・・・・)には、その星を終の棲家と決めた老人と、偏屈な人間(・・・・・)だけが、残っていた。



 そんな、老人と、偏屈な人間(・・・・・)からは、自嘲(・・)とともに。


 新しい地球(・・・・・)へ移り住んだ者からは、侮蔑(・・)とともに。


 かつて地球と(・・・・・・)呼ばれた星(・・・・・)は、『進化から取り残された星』という意味で、こう(・・)、呼ばれていた。





 ……ガラパゴス(・・・・・)……()


 ###


 西暦3018年某月某日 旧地球(ガラパゴス)



 反重力発生道路の上を走る、一台の屋根のないバギーがあった。


 車には、4人の若者。


かつて地球と(・・・・・・)呼ばれた星(・・・・・)』にしては珍しい若年であり……つまりは、偏屈な人間(・・・・・)と分類される者たちであった。


「あのさぁ、九JACK。

 もういい加減、旧地球(ガラパゴス)から移住しようよ」


 助手席に座っている若者が、車を運転する若者に話しかける。


 九JACK……変わった名前のように感じるが、四人が全くそれを気にしないのは、別にこの時代では特に珍しい名前ではないのか、単に四人が慣れてしまっているのか……はたまた、その両方か、であろう。


「だから、簡単な問題じゃないんだって。

 ペンネには何回も言ってるじゃん」


 九JACK、と呼ばれた若者は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら助手席の若者……ペンネに対して、そう答える。


「あ、あの~……け、けんか、はんたい……」


 後部座席で、小さくなっている若者が、ボソリと呟く。


「え?ダメだよ茶菓、止めちゃあ。


 喧嘩賛成!


 最近の僕の趣味、二人の喧嘩を鑑賞することなんだ」


 同じく後部座席……茶菓の横で、とても性格が良いとは言えない趣味をぶっちゃける若者は、自分の胸元で腕を組み、何故か満足そうに頷いている。


「い、良い趣味してますね、ルイ……」


「茶菓様、お誉めに預り恐悦至極」


「ルイ~、それ、誉められてないから」


「ちょっとペンネ、後部座席に乗り出さない!

 レバー握るののジャマ!」



 九JACK、ペンネ、茶菓、そしてルイ。

 何とも個性的な4人がバタバタ暴れまわる車内で。


 助手席から後部座席を覗きこんだペンネの足が車のフロントを蹴っ飛ばしたことで、何故かラジオのスイッチが入った。


『……それでは、ニュースです。


 まずは、エアドライブ社……空飛ぶ車とその燃料を作成する最後の会社が、とうとう本日、旧地球(ガラパゴス)から撤退することになりました。


 射出アートは本日23時、宙緯38.7にて行われる予定です……』


 何となくラジオを前に無言になる四人。


 しばらくして、運転席の九JACKが、ひとつ咳払いして言葉を紡いだ。


「……ペンネ、ちゃんと座らないと降ろすよ。


 私も車輪で走る車(・・・・・・)とか、初めて運転するんだから」


「う、ごめん九JACK、気を付ける。


 ……それにしても、エアドライブ社、ホントに撤退しちゃうんだねぇ」


「わ、私たちはたまたま、時空冷凍(ほかん)された『石油駆動式自動車(アンティーク)』を持ってたから良かったですけど……。


 ……他のみなさんは多分、移動手段が無くなるんじゃないですかね……」


「ますます移住が進むなあ……。


 まあ、今はそんなことより、二人とも喧嘩してよ」


 ルイの言葉に、九JACKが声をあげた。


「じゃあ、多数決、旧地球(ガラパゴス)を抜け出したい人!

 私は絶対反対!」


「んじゃ僕は、絶対賛成~」


 とペンネ。


「わ、私は、九JACKに一票……少しだけ反対……」


 と茶菓。


「僕は今のままが楽しいから、引き分け狙いで少しだけ賛成♪」


 とルイが言った。


 次の瞬間、突然立ち上がる茶菓。


 手元にあった空気発射銃は、わずか0.03秒で3発発射され。


 それらは1kmほど前の車道に現れた熊の眉間と鼻頭と喉元に寸分の狂いもなく吸い込まれていった。


 他の3人が熊に気付くのは、空気発射銃が射出されて、一分ほど経過したあとになる。


 ###


「……助手席に座る僕よりも先に……っていうか、1km先の熊とか、フツー裸眼で見つけられる?」


 道路の横にテントを設置しながら、ペンネが、呆れたように呟く。


「しかも自動照準無しで、私の運転するガタガタ揺れてる車上から撃って眉間と鼻頭と喉元にドンピシャリとか……」


 九JACKもテントの一部を車に接合しながら、そう声を上げる。


「いや、それよりも僕的には笑顔で獲物を解体する茶菓の絵面が毎回鮮烈すぎて、全然慣れないし笑えない」


 ルイは火と水を確保しながら、脂汗を垂らしている。


「料理~料理~♪」


 茶菓は、笑顔で熊を解体しながら、鼻唄を歌っている。


「あ、ココは私とルイで手は足りてますから、九JACKとペンネはアートの動画撮影場所探してきても、い~ですよ~♪」


「え、僕も解体の手伝いするの?」


「りょーかいー。


 行こっか、ペンネ」


「おっけー。


 あそこの、ちょっと小高い丘なんか、良い感じっぽい」


 ###


 ペンネは両手で四角を作りながら、熱心に空を眺めていた。


「宙緯38.7だと、角度はこのくらいかな……。


 あ、九JACK、そこのガレキの上の方、ちょっとどけて」


 一方九JACKは、ペンネの言う通りガレキを片付けていく。


「……ペンネ、相手はあのエアドライブ社だからさぁ、多分相当大きなアートになるよ?


 場所ごと変えた方がいいかも」


 ある程度ガレキを移動させた九JACKは、そんな言葉をペンネに投げ掛ける。


 実は、旧地球(ガラパゴス)から新しい星へ移動する際、ロケットの噴出炎を利用して美しいアートを作り出すことが、一つのお約束となっていた。


 最初は去り行く星に残る人々への謝罪から生まれたそれは、今や旧地球(ガラパゴス)に残る人々の最大の楽しみへと変わっていった。


 その娯楽への関心は新しい地球でも同じらしく、旧地球(ガラパゴス)から送られた各社の『アート』の動画は、かなりの値段で取引される。


 ペンネの撮った動画はその中でもトップレベルに人気があるのであった。


 4人の中での生きるたつき(・・・)である射出アート録画は、食事についで2番目に重要な仕事なのだ。


 しかし、それにしてもガレキが多すぎる。


 そして、大会社であればあるほど、アートは大きく、美しくなる。


 場所の変更を九JACKが申し出たのも、ごく自然のことと言えた。


「む~……確かに……。


 でも、場所はココがベストなんだけどなあ……」


 ペンネは、頭をガシガシかきながら、場所へのこだわりを見せている。


 そして、そういうこだわりがペンネの画像を美しくしているのであろう、と九JACKは知っていた。


「……仕方ないなあ、んじゃ、人海戦術でガレキ全部どかす?


 っつっても、私とペンネだけだけど……」


「ごめんだけど、そっちでお願いしてもいい?」


 ペンネの謝罪に、九JACKは親指を立てて答えた。


「おっけ、監督の仰せのままに」


 ###


 夕方、太陽が西の大地へ沈む直前、ガレキの撤去作業と熊肉料理は完成した。


「つ、疲れた……今までで一番大変だった……」


 と九JACK。


「うし、お陰で良い絵が取れそう!」


 とペンネ。


「モツ煮込みも良い具合ですよ~♪

 あ、レバ刺しは自己責任で~」


 と茶菓。


「ウプ……もう解体はコリゴリだ……」


 とルイが言った。


 程なくして、エアドライブ社ロケットが発射する音であろう爆音が、『発射場』の方面から遠く聞こえてくる。


 そして、4分の1周円を描くように、ロケットが旧地球(ガラパゴス)から飛び出した。


 尾を引く煙は鮮やかな7色……虹をイメージしているのだろう。


「時速30000kmくらいか……まだ第一宇宙速度だね」


 九JACKが、ボソリと呟く。


「凄い……あと数回の変化を残してるんだ……」


 ペンネが驚きの声をあげた。


「さ、さすがは大企業……そんな派手なアート、み、見たこと無いですよ……」


 茶菓も小さく口に出す。


「そんだけ後ろめたいってことでしょ、僕はこんなんで謝罪した気になってるエアドライブ社に虫酸が走るけど、ね」


 ルイが、エアドライブ社の本音を憶測しながらも、空を見上げたままであった。


 ロケットは虹の頂点に来たところで分離。


 分離したパーツはそのまま半円を描いて地上へ落下し、虹を完成させた。


 さらにロケットは第二宇宙速度へ到達、恐らく太陽をイメージした巨大な円形の炎を上げ上昇していく。


「うわ、綺麗だなぁ……」


 と九JACK。


「この『太陽』、単純に見えるけど、相当お金使ってるよ」


 とペンネ。


「え、円形を維持しながら、膨大な燃料を使ってますからね……」


 と茶菓。


「ラストのアートを皆に見て貰うためのパフォーマンスにしか見えないけどね」


 とルイが言った。


 夜に出来た太陽は、しばらく空を進んだ後、第三宇宙速度に達するためロケットから切り離された。


 そして。


 ロケットから排出された炎は、色とりどりの光を、夜空一杯に広げるのであった。


 先程出来た太陽はいつの間にか月のような仄かな輝きとなっており、先程出来た虹はいつの間にか黒い煙となっていた。


 即ち、月と、叢雲と、夜空いっぱいの流れ星。


「流石はエアドライブ社……今まででベストアートじゃない?」


 九JACKは放心状態から立ち直ると、声をあげる。


「凄いのが撮れたよ……これ、ヨンケタ万円かゴケタ万円行くかも」


 ペンネも、笑顔で顔をあげる。


「凄い……凄い……!」


 茶菓は小動物のようにピョンピョン跳ねて手を叩いている。


「あ、レバ刺し美味しい」


 ルイは既に飽きており、自己責任肉をもきゅもきゅと食べていた。


 四者四様、何だかんだ言っても、それぞれの時間を楽しんでいたのだ。


 その時は(・・・・)まだ(・・)


 4人から少し離れた所にある石油駆動式自動車は、明かりを得るために未だエンジンがかかっており……まあ、その状態でも10年以上はガソリンがもつ程度のテクノロジーで出来たアンティークではあったが……つけっぱなしのラジオからは、今後の4人の未来に暗雲を立ち込めらせるようなニュースが流れていたのだ。


 即ち。




『……次の、ニュースです。


 なろう社(・・・・)……書籍出版大手の会社が、旧地球(ガラパゴス)から撤退することに(・・・・・・・)なりました(・・・・・)


 射出アートは9月9日の21時、宙緯210.3にて行われる予定です……』


 ###


 西暦3018年9月某日 旧地球(ガラパゴス)



 反重力発生道路の上を走る、一台の屋根のないバギーがあった。


 車には、4人の若者。


「じゃあ、多数決!

 私は絶対反対!」


 九JACKが、大声で叫ぶ。

 例のニュース(・・・・・・)を聞いたのであろう、声色には自暴自棄の色も滲んでいた。


「おいおい、あのさぁ……僕は、絶対賛成だよ」


 とペンネ。


「わ、私も……ペンネに、賛成……」


 と茶菓。

 茶菓の心変わりを見て、九JACKは少しだけ驚いて……。


 ……そして、悲しそうな顔をした。


「僕は今のままが楽しいから、引き分け狙いで、反対♪」


 とルイが台無しにするように言った。



「……ねえ、九JACK……『なろう社』は九JACKの中でも、結構大きな存在じゃないの?


 あんなに文章、送ってたじゃん」


「わ、私も、そう、思いま、す……」


「べ、別に、文章を送るところは他にもあるし……」


 ペンネと茶菓の台詞に、少しだけたじろいだ後、九JACKは抵抗するようにそう呟いて、運転を続ける。


「おっと、茶菓も参戦とは珍しい。


 いいぞ~、殺し合え~!」


 ルイが面白がって手を叩いた次の瞬間、突然立ち上がる茶菓。


 手元にあった空気発射銃は、わずか0.03秒で3発発射され。


 それらは10kmほど前の車道に現れたイノシシの眉間と鼻頭と喉元に寸分の狂いもなく吸い込まれていった。


 他の3人がイノシシに気付くのは、空気発射銃が射出されて、10分ほど経過したあとになる。


 ###


「この前は1km先の熊で、今度は10km先のイノシシ。

 ウソだろ、まだまだ伸びしろがあるのかよ」


 道路の横にテントを設置しながら、ペンネが、呆れたように呟く。


「もうコレ、そういうチート持ちの主人公なんじゃないの?」


 九JACKもテントの一部を車に接合しながら、そう声を上げる。


「いや、それよりなんで毎回僕が過激な発言をした次の瞬間に発砲するの?

 ガチで寿命が縮んでるんだけど」


 ルイは火と水を確保しながら、脂汗を垂らしている。


「料理~料理~♪」


 茶菓は、笑顔でイノシシを解体しながら、鼻唄を歌っている。


「あ、ココは私とルイで手は足りてますから、九JACKとペンネはその辺歩いてきても、い~ですよ~♪」


「え、また僕が手伝うの?」


「……ありがと、茶菓。


 行こっか、ペンネ」


「……うい~……」


 九JACKとペンネが歩いていく様を、茶菓とルイが見送る。


「……二人の納得いく回答が出れば、私はそれに賛成するんですけどねえ……ねえ、ルイ?」


「まあ、3人が同じ答えなら3対1になるから、多数決の意味も出てくるよね」


「……ルイ」


「うっ……」


「……」


 ルイは沈黙しながら、ジト目でルイを見つめている。


「……わかった、わかったから。


 どうせなら、全会一致の方が、いいって言いたいんでしょ?


 3人が同じ答えなら、僕もそれに賛成」


「ん、良し」


 茶菓の笑顔に、ルイは胸を撫で下ろした。


「……ていうか、茶菓って、意外と頑固だよね」


「じゃあルイ、まずはイノシシの血抜きからですよ!

 心臓をお願いしますね~」


「ひええ」


 ###


 九JACKとペンネは、ゆるゆると草原を散歩していく。


 秋も少しずつ深まりを見せており、高台の空気はもう冷たくなっていた。


「新しい地球の、何がイヤなのさ」


 ボソリと呟くペンネ。


「新しい地球は、嫌いじゃないよ。


 そうじゃなくて、この星が、好きなんだ」


 九JACKは、言葉を続ける。


「この星の動物、この星の植物、この星の食べ物、この星の飲み物、この星の空気、この星の海、この星の空、この星の山、この星の川、この星の朝、この星の夜、この星の四季、この星の歴史、この星の色、この星の衛星、この星の人達、この星の……その他、もろもろ」


「……」


「古くなったから、『はいそーですか』で捨てるなんて、私には出来ない」


「出来るよ、人間ってのは、取捨選択と、忘却で生きているから」


 ペンネは、言葉を続ける。


「新しい星の動物、新しい星の植物、新しい星の食べ物、新しい星の飲み物、新しい星の空気、新しい星の海、新しい星の空、新しい星の山、この星の川、この星の朝、この星の夜、この星の四季、新しい星の歴史、新しい星の色、新しい星の衛星、新しい星の人達、新しい星の……その他、もろもろ」


「……」


「九JACKは、楽しみじゃないの?」


 二人はしばらく見つめあっていたが。


 どちらからともなく、視線を空へと移す。


「……ま、やっぱり、平行線だね」


「ぶうぶう。九JACKは頑固だなあ」


「どっちがだよ」


 結局結論は、出なかった。


 そして。


 ###


 西暦3018年9月9日 旧地球(ガラパゴス)



「宙緯210.3だと、角度はこのくらいかな……。


 よし、準備オッケー!」


 ペンネはいつものように、動画撮影の準備をしていた。


「茶菓、この鍋、あっちに持ってっとくからね」


 ルイは返事を待たずに、焚き火の方へ鍋を運んでいく。


「あ~、疲れた~!


 ほら、茶菓~、どっさりキノコ取ってきたよ。


 食べられるヤツ選んでちょーだいー」


 山盛りのキノコを茶菓に渡しながら、九JACKは少し自慢げに胸を張る。


「コレ、コレ、コレ……あ、ダメですね、全部毒キノコです」


 茶菓が選別を終えると、かごの中身は空っぽになっていた。


「ひええ~私の苦労が~」


「ちょ、九JACK!


 キノコ鍋のキノコ抜きとか斬新過ぎるよ!」


「山菜と干し肉があるので、適当に突っ込みましょう」


「ちょっとみんな、そろそろ始まるよ!」



 ペンネが3人に声をかけて程なくして、なろう社ロケットが発射する音であろう爆音が、『発射場』の方面から遠く聞こえてきた。


 4人は静かに、ロケットを見つめる。


 思い思いの考えを一笑に付すかの様に。


 ロケットはたった一度。


 夜空に菊の華を広げさせた後。


 第三宇宙速度に達して、夜空から消えていった。


「……」


 あまりの呆気なさに、声もないのは九JACKであった。


 なんだ、アレは……アレで、終わり?


 なんというか……アレは、さながら花火……数百年前、旧地球(ガラパゴス)でも行われていた火薬を用いた娯楽……に良く似ていた。


 9月9日の重陽の日に合わせた菊の華なのだろうけど、なろう社ほどの大会社が行うアートとしては、あまりにもあまりである。


「……ハハッ」


 九JACKは、笑った。


 どうやら自分は、なんだか一つの考えに居付いていた(・・・・・・)気がして、それが馬鹿馬鹿しく笑えてきたのだ。


 もちろん、この星が大事なことに変わりはないけど。


 それ以上に、この4人の方が、大事だ。


 九JACKは、少しだけ言いにくそうに。



「……行く?


 ……新しい地球」


 と、呟いた。


「……私は、みんなの意見に、賛成、です」


 茶菓が、驚きながらもそう返した。


「んじゃ僕も、それで」


 ルイは、ニヤケながら頷いている。


 3人は、ペンネへと視線を向けた。


 ペンネは……。


「なんだあの鮮烈な黄色は……ナトリウム……いや、リチウムとストロンチウムの赤も混じってる。

 そして、茎に当たるバリウムの緑とカリウムの紫、銅の青……。


 信じられない、これは大気と金属反応の芸術だ……今までのアートとは一線を画している……」


 ……なんだかブツブツ、呟いていた。


 ###


 西暦3018年10(・・)月某日 旧地球(ガラパゴス)


 反重力発生道路の上を走る、一台の屋根のないバギーがあった。


 車には、4人の若者。


「じゃあ、多数決!旧地球(ガラパゴス)を抜け出したい人!


 私は絶対賛成!」


 九JACKが、大声で叫ぶ。


「僕は、絶対反対!


 この星にはまだまだ見るものがあるよ!」


 とペンネ。


「わ~、もう勝手にしてください……」


 と茶菓。


「う~ん、やはり、この二人の喧嘩がないとね。


 今日もこの世は、事も無し、てね」


 とルイが肩を竦めて言った。


 ###


 これは、とある、終わってしまった、星の話。


 西暦3018年。


 既に人類は……巨大で豊かな土地と多くの資源を有する新しい地球(・・・・・)へと、その移住の殆どを終わらせていた。


 かつて地球と(・・・・・・)呼ばれた星(・・・・・)には、その星を終の棲家と決めた老人と、偏屈な人間(・・・・・)だけが、残っていた。


 今日もまた、そんな人達を乗せて。


 どうやらまだまだ、旧地球(ガラパゴス)は、回るらしい。

九JACK様(い、いらない……)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふえー! NiOさんこんな雰囲気のお話も書けるんですね! 引き出しの多さにビックリです。
[良い点] 茶菓とルイまで拾っていただき、もうNiOさんに足を向けて寝られないじゃないですか。 ええと、南って確かこっちだよね(北に足を向け、大の字で眠る) [気になる点] ルイの茶菓さんに忠実な感じ…
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