虎にも勝る勢いで
目を開けた瞬間に上から覗き込む少女の顔が見えた。
「そういう訳で!君の!その学校で!是非とも人間観察してきて欲しいな!!!!」
「ごめんなさい」
「断るのはっやッ!!!!!?????」
含んだ意味すら想像したくもない、少女が口にした食い気味のお願いを、俺は本能的に断っていた。
意味不明を超越すると、一周回って落ち着くモノがある。断じて 逃避 ではない……断じて。
現状が飲み込めなさ過ぎて、悟りの領域ですら抜き出そうな能面顔を表情に付けた。
見覚えのないベッドに寝そべる俺に向かってすぐ左側に立つ、傍から見たら、傍から見たら可愛いらしい。
その一言に尽きる栗色の綺麗な髪を揺らす少女は、未だに俺をジッと大きな瞳の中に捉えている。
「おーーーーいっ」
完全におかしい。
どうしてこんな状況になってる。
俺が取った行動と今の状態がどうにも結び付かないぞ・・・これ。
カップラーメンを食べようとお湯を入れてフタを開けたら中ではグツグツと、煮立ったシチューが出来上がったみたいな。
例えると、これくらい突拍子が無いんだ。
……言いたいことが欠片も伝わってない気がするが。
ともかく俺はカップラーメンを食べようとした理由でシチューを食べるつもりはなかったんだ。
「おーーーーーーい...聞いてますかー?仮にも命を救った大恩人ですよー.....」
何やら聞こえる気がするが気のせいだろう。気が全部悪い。自重を知れ俺の気め!
俺は上半身を起こし、ベッドから窓に目を向けるが、ついさっきまで明るく差していた太陽の光は静まり返ってるようで・・・
さっきまで??? 何時まで眠ってた?
左に付けた腕時計を見やると、時計の針は夜の11時を指していた。
な、何時間経ってんだ...
そりゃ覚醒した時点で分かることなのだが……
過程はどうであれ、結果は見ての通り。
『失敗』したんだろう。
「あのぉ!!まだ考えごと中ですかー!!!!会話出来ない方の御方ですかー!!!!!」
何やら聞こえる気が((以下略
それにしても反省すべき点とはどこだったのか。
思いのほか、寝心地の良いベッドにまた身体をゆっくり倒して状況の整理をする。
俺の頭は今窓に映る暗闇と変わって、太陽の光が冴え渡っていた朝の時刻まで遡ろうとしていた。
「だ、駄目だ…!既に回想に入ろうとしてやがる…しかも他人の家のベッド寛ぎながら!」
ちょ、開幕から、すごいうるさい。分かってるから、後で話はちゃんと聞くから。ちょっと黙ってて...
───────────────────────
朝の8時。
窓から広がる景色をよく澱んでいる、と評された目で見渡した。
気持ちの良い青空だ。
雲は主張を抑えて空は淡い青色を見せびらかしてる。
日の光は建物にくっきりとした影を作りながらも辺りを力強く照らす。
そんな日だから、そんな日だからこそ、
―――死にたいと思ったんだから―――
目的地に向かって人通りの少ない道を歩く。
俺はふと、自分の十七年間を思い返した。
ああ、本当に下らない時間だったと。
もし幸せだったのかと問われるものなら「いや、あまり...」と答えてやりたくなるような、そんな人生。
最後の最後まで自分の価値が見出せなかった。
人を見る目には自信があったのだが、どう贔屓目に見ようと、どれだけ鯖を読もうと自身の中には何も無かったのだ。
寝て。起きて。歩いて。学校に着いて。机に伏して。歩いて。帰って。
『ある日』を境にそんな自分に価値があるのか疑うようになってしまった。
それと同時に他人に期待をしなくなった。
いや、これは元からだったな。
信じられるのは自分だけだと思っていたが自分が何かすら分からなくなったとなっちゃ縋りようもない。
思えば。
昔から見ることだけは得意だったんだ。
自分以外は他人だから、学校に居る連中がどんな人間か逐一落ち着いて客観視できた。
例に出すなら、あの男は交友関係に偏りがあり、内心見下した人としか友達になっていない。
あのおしとやかそうな女は見た目こそは良いが、それを自覚して効率的に物事に当たってる節がある。
一方であそこの女は動くのが大好きなので、損得勘定無しに純粋に担任の仕事を手伝っている、とか。
まあそれも、その男性教師の容姿が優れたがあってこその善意なので。
自分は何も出来ない癖に、偉そうに評価してる俺がその連中以下なのは言うまでもないだろう。
死ぬ理由はないが、それを挙げたら、生きてる理由もないように思えた。
死に向けて色々な感情が胸の中で流れるが死ぬ理由を疲れたから、とそんな一言で済ませるつもりは ――― 何故だかしたくなかった
強いて言えばただ楽な方を選んだだけだ。
俺の性格性質状。 『 人生に対して感じる息苦しさと漠然とした不安 』が取り除かれることは、永遠にない。
自信を持って言える事た。
さて、俺が死んだと聞いたら周りのやつらはどんな反応をするだろうか。
想像してみたが「え...」驚く、というよりか「あぁ...」と、顎を下げて頷き納得するだろう。これには賭けてもいい。
化けて出れたら答え合わせでもしに行こうか。
そんなこんな考えている内に俺は目的他である踏切に着いた。
周りを見渡したが人の居る気配はない。
つくづくこの廃れた農村を選んで良かったと思う。
重苦しいことを思考してる頭とは裏腹に足はしっかり歩を進めているもんだ...この足を褒めてやりたい。
お~よしよしこの愛い足め~
俺は左に掛けた腕時計を見ると順調に事は済んでいるようで
「うっし」と柄にもなく呟いていた。
現在9時50分。
時刻表に書いていた通りだと後15分程度でこの踏切を電車が通過する。
念のため駅のHPから電車の進行状況を確認したが遅れはないそうだ。
だが早い、もう少しだな・・・
俺は近くあった自動販売機で飲み物でも飲んで10分時間を潰すことにした。
ん?人生最後に味わうサイダーの味はどうだったかって?ふふっ…
「サイコウダー」
...............................................
人が居ないとはどうにも悲しいことで
俺が放った渾身のジョークもただただ消えるのみ。(後々考えると本当に消えて良かったが)
孤独とはどうも悲しいもので
言葉のキャッチャボールをしようにも俺が繰り出すこの豪速球を受け止める相手は誰もいなかった。
冷静になって考えるとそんなに(評価甘口)面白くないかもなこれ。。。
数秒前までは感想すら渇望してたのが恥ずかしくなってきた。
受け取る相手がいないのは実に恐ろしい・・・
俺は自信の力量を見誤り、最強だと自負し、この超剛球ストレート一本で世界を制覇しようと もしかしたら考えてもいたかもしれない。
・・・これが死の間際に今から立つやつが考えることなんだろうか。
絶対違う。こんなしょうもないことじゃない。
そういやと登下校中に見かける、自分に懐いていたあの白と茶が混じった毛並みの野良猫は元気だろうか。あの野良猫が元気に明日も送れるよう祈ったのだかこれもまた違うような気がしてならなかった。
そろそろだろうな。
電車が通過するまで後5分といったところで俺は、ポケットから出した錠剤を1錠でも充分足りるだろうが3錠、丁度手にした余ったサイダーで口に流し込む。
死への一歩を踏み出す勇気がない俺は睡眠薬に頼ったのだ。
5分と経たずその効果は表れた。
知り合いからかなり強いぞ、と貰ったが予想以上の効果。
こんなん、いちいち飲んでたら一生自分の力で起きられないぞ絶対。
おぼつかない足元でゆらり、ゆらり、と俺は踏切まで近づく。
猛烈に襲ってくる睡魔に負けずこれだけは、と線路の上まで自分が来たことを知覚すると気を許したかのように俺の身体は崩れた。
これで...全てが......終わりますように.....
既に意識を手放しかけた俺の耳に届くのは
カンカンカンカンカンカンカン!!!!!!と
待ち望んだこの音の響き。
今度はよく眠れそうだ
俺の意識は空に上がった風船のように
身体から離れた―――
そう。ここまでが俺の知る記憶である。
どうやら少女の説明ではどうやらもう一つ聞き逃してる音があったんだとさ。
ダッダッダッダッダッダッダッと迫り来る、荒野を駆ける獣そのものが生み出したかのような地響きは拾わずに。
初書きです。
更新は遅めなので気軽に読んで頂けたら・・・