8話 サンドリア防衛戦後編
てなわけで後編
ヤマトの号令により魔法の一斉射撃が行われ、第一波の魔物の数は約半分となった。
それでもなお冒険家の倍以上の数は居る。
「トラップ魔法って雷を落としているあれの事ですか?」
平原には無数の雷が魔物に目掛けて落ちている。
今日は快晴、言うまでもなく落雷が発生する要因はない。
明らかに師匠が仕掛けたトラップ魔法としか思えない。
「やり方は教えないが当たりだ。ほら、そこの魔物を倒してみろ」
「はい!」
「魔物からしたら地獄絵図だな」
「地獄絵図とは失礼だな。魔物が街に入ってきたらこの街が地獄絵図になるわ」
「ヤマトに同感だ!この街はなんとしても騎士の僕が守る!」
ジャックがま~た張り切り始めた。
それにしても魔物の攻撃が全く手応えないな。
何かあるのか?
「第一波は何とか防げそうですね」
気が早いのでティナに『よそ見をするな』と言おうとした。
しかし、その言葉は途中で別の言葉に入れ替わる。
魔法の塊がこっちに向かって飛んできたからだ!
そして何よりティナが喰らえば騒ぎが起こってしまう!
「ティナ!今すぐワープしろ!」
「はい?」
魔法は俺達の居た砦に直撃した。
威力に耐えられなかったのか砦の一部が崩落する!
ティナ以外の人達は何とか崩落を間逃れたが、それはどうでも良い!
ティナが心配だ。
もしかしたら最悪の事態になってるかもしれない。
「おーい!大丈夫かー!」
「テメェらはこっちに来るな!」
俺はこっちに来ようとした冒険家、全員に大きな声で怒鳴った。
だが、それに反してリリムが、
「ヤマト!なぜ急に怒鳴った!」
「これが怒鳴らずにいられるか!師匠…あんたの目は節穴か!あの魔法が何なのかわからないのか!」
「最悪じゃ…!ヒルデ!ジャック!ティナの周りを囲め!」
魔法の正体は能力封じ、俺がティナのスキル飛翔を封印した魔法だ。
能力封じは、複数の封印ができると思われがちだが一つのスキルしか封印できない!
仮に既にスキルが封印されている相手に使ったのなら封印されていたスキルは解除される!
要するにティナの正体がバレるっつう最悪の結果を生む!
「おい…何で…ここに魔族が居るんだよ!」
「何で翼が出ているの!」
「討伐しろ!今すぐ魔族を殺せー!」
約百人の冒険家は躊躇いもせずにティナに魔法を放った。
「バカ野郎どもが!」
そしてヤマトは防御も忘れティナの前に飛び出す。
結果としてティナは守れたが大量の魔法を全身に浴びてしまう。
まるで彼らの心の動揺を現すかのように街と平原全体に爆発音が揺れのように轟いた。
「師匠!」
「ヤマト!大丈夫かー!」
「大丈夫だ!全然痛くない!」
嘘だ…師匠の体のあちこちから血液が流れている。
そして闇夜のような色の服は夕日より赤く染まっている。
「痩せ我慢するな!お主、体中から血が出ているのぞ!回復するからじっとしていろ!ジャックお主も手伝え!」
「ああ!君達何してくれてるんだ!」
リリムさんとジャックさんが師匠を回復しようとすると師匠が二人の手を払った。
「全然痛くねえ…全然痛くねえんだよ!ティナがこれから心に受ける傷よりかは全然痛くねぇんだよ!」
何故かその言葉は胸に突き刺さった。
普段は私に冷たく接しているから意外という感情で突き刺さったのだと思ったがそれは違う。
その言葉は師匠、本心の言葉だったからだ。
そして理不尽に対しての怒りを感じる。
「ヤマトさん!何でその魔族を守った!」
「俺の弟子だからに決まっているだろ!」
「あんたはその魔族に騙されているんだよ!」
こいつらティナに殺気を絶えず放ってやがる…。
良いぜお前らがその気ならテメェらの概念をぶち壊してやる!
「こいつは俺の一番弟子ティナ・キャロル!お前らの言う通り魔族だ!だがなバカで間抜けで呆れるぐらい優しさ魔族だ!こんな魔族見たことあるか?俺はある!テメェらが今やろうとしているのは魔族に対する差別行為だ!そもそも魔族を弟子にしたらいけない法律なんてあるのか!断じてそんなの存在しない!」
「しかし魔族は…」
「文句のある奴らは遠慮なく来い!俺を倒しテメェのエゴが正しいってのを証明しろ!!」
こんなに怒っている師匠は初めて見た。
でも…何故だろう…とても言葉の全てが暖かい…。
「ヤマト!あたい達を忘れてもらっちゃ困るね!」
「我もこの者を気に入っておるのでな」
「もちろん、僕達も君達の相手になるぞ!」
「儂も可愛い愛弟子を傷つけられて黙っておらん!儂も相手になってやるわい!」
冒険者達がヤマト達の気迫に押され後ろに後退りする。
数人ほどは気絶したり腰が抜けている。
「わかったかティナ!俺達はお前を仲間だと思っている。だから些細な事で俺の弟子を止めるとか勝手に言うなよ!」
私は涙を流して答えた。
「はい!もちろんです!私を弟子にしてくれて…ありがとうございます!」
「文句がねぇなら再開だ!っう事で師匠!第一波の魔物共を殲滅してくれ!ついでにスキル追撃と範囲拡大を発動させろ!」
スキル追撃は、このスキルを発動して次に使った魔法を喰らった相手にもう一度条件なしで同じ魔法を喰らわすスキルだ。
範囲拡大は、その名の通り魔法の攻撃範囲を拡大するスキルである。
「了解!」
リリムは返事をして魔法の詠唱を開始した。
魔法は詠唱すると威力が上がるが少し時間がかかる。
「我は望むこの世界が氷に包まれることを!我は望む汝の時間が永久に止まることを!美しき氷の精霊が奏でるレクイエムを汝にも聞かせよう!氷河が贈る鎮魂歌!」
詠唱をし終えるとリリムの前方に大きな氷の波が二波、出現して魔物の軍勢を飲み込んだ。
そして飲み込まれた魔物達は手も足も出ずに氷の彫刻になってしまった。
よし!第一波の処理は完了だ。
後は、
「魔物の軍勢の大将につぐ!今すぐ第二波を進軍させろ!俺達、五人が相手だ!」
第二波の軍勢はサンドリアに進軍してきた。
「ティナ!大暴れするぞ!」
「はい!」
やっぱり、五人のうちの一人は私だった。
さっきまでは怖かったけ、今は全然怖くない!
今なら勇気を振り絞ってやれる筈だ!
「行くよ!シルビィア!」
「おう!」
ヒルデがシルビィアに乗って進軍してきた軍勢の先頭を炎で蹴散らす。
普通なら魔法でも溶ける筈の氷なのだがリリムの魔法だけあって全く溶けていない。
「出遅れてしまった!」
ジャックが全身を鎧で覆うと魔物の軍勢の中央に目掛けて飛び出していく。
「ティナはリリムと一緒に援護射撃しろ!俺は大将を討つ!」
「はい!」
「任せておけヤマト!」
俺が魔物の軍勢の最後尾に向かおうとした。
しかし、その俺がティナの側から離れようとしたこの瞬間を狙っていたのか後ろからティナに向かって魔法が飛んできた。
大した威力ではなかってので両断して消し去ったがな。。
「おい…誰だ?今、ティナに魔法放った奴…次やったら魔物の軍勢の中央に放り込むぞ…!」
「早く行かんか!」
「ああ…頼んだぞ」
俺は武器を構えて魔物の軍勢の最後尾に向かう。
「ヤマト!あれやるからジャックに伝えてくれ!」
「了解!」
おそらく、風刃の嵐をやるつもりだろう。
風刃の嵐とはヒルデとシルビィアの合技魔法だ。
竜騎士はたいてい相棒のドラゴンと合技魔法を放つが威力が小さい。
だがヒルデとシルビィアは別格、調子がかなり良い時は一つの国を滅ぼす事ができるぐらいの合技魔法を放ってくる。
軍勢の中央あたりで半分になった魔物の体が飛んでいる。
ジャックが中央で待機していた魔物の軍勢を大剣で凪払っているようだ。
ヒルデに言われた通りに伝えるか。
「ジャック!ヒルデがあれやるぞ!」
「風刃の嵐か!了解!」
軍勢の最後尾に到着すると空から風の刃が降って嵐のように激しくダンスをしながら魔物を切り裂いている。
これが風刃の嵐である。
触れた魔物は問答無用で切り裂かれている。
一方でジャックは飛んできた風刃の嵐を魔物の方へ跳ね返している。
伝えられたからこそできる芸当だ。
「やっと着いたか」
軍の後ろには首なし騎士デュラハンとお馴染みのみ首なし馬が居た。
こいつがこの軍の大将だろう。
取り巻き連れてるし雰囲気的にな。
「お前が大将か?」
「そうだ」
「それは良かった。それと一つ聞きたいことがある」
「何だ?」
「能力封じを使ったのはお前か?」
「ああ、それがどうした?」
予想的中か魔物で能力封じが使える魔物は絞られてくるからな。
そもそも、スキルの存在を認知しているのが前提条件のため知性が高くなければ『魔力の塊を放っている』だけと捉えるので興味を示さない。
「なら問題はない。一瞬で終わらせる」
「一瞬で終わらせるだと!我を誰だと思っている!魔王軍の幹部のその一人ディラード様だ!返り討ちにしてやるわ!」
「もう終わっている」
この攻撃が見えないって事は最近になって出現した魔王の幹部か。
ああ、こんな雑魚に翻弄されたとか情けない話だ。
怒ってた事すら悲しくなる。
「はぁ?…何だこれは!体のバランスがとりに…」
「剣技刹那が贈る静寂な死」
大将が倒されると魔物の動きが止まった。
魔物でも自分達の大将が倒された事は自分達も倒される可能性があると理解できる。
なので魔物もこの後の行動は人間と同じく逃走か抗いだけだ。
「ディラード様が倒された…」
しかし、魔物の軍勢は前者の行動を取った。
要するに戦場からの逃亡である。
「逃がすわけねえだろ!落雷!」
全ての魔物に雷が落ち魔物の軍勢は全滅する。
これにてサンドリア防衛は終了した。
そして第二波と大将の全滅に掛かった時間は約五分である。
「スゴい…何が起こったのかわからない」
雑談を交わせるほどの一瞬の時間で第二波は終わった。
私はただ呆然と魔物の死体が転がる戦場をただ見つめているだけだった。
「あんまし考えないほうがよい。とりあえず戦いは終わったのじゃ」
ヤマト達は戦場から街に戻ってくる。
勝利はしたが冒険家達は喝采を上げなかった。
上げていたのは彼らの強さに怯える声だけ。
そして学んだ、自分達が喧嘩を売った相手が魔物の軍勢より遥かに強者だったという事を。
自分達が遥かに愚かだったという事を。
数時間後ギルドで宴が行われた。
「それでは!皆様の勝利を祝して乾杯!」
受付嬢が乾杯の音頭をしたがギルドは静かだった。
「あれ?皆様、元気がありませんね?」
「あんなの見せられたら元気なんてなくなるよな…」
「そうだよな…」
冒険者達がティナ達の前に並んだ。
そして頭を垂れた。
「すみませんでした!魔族だからといって恐れ殺そうとしたこと心からお詫びいたします!」
冒険家達はティナに謝る。
五人の戦いを見る中で魔族に対する考えを改めたのだろう。
「いや…その…師匠どうしたら良いですか?」
「許してやる…。だが次はないと思っておけ」
本心ではそう簡単に許したくはないと思っている。
中には『誰かがやるから頭を下げた』という糞みたいな共感で謝る愚者も居るからな。
「はい!本当にすみませんでした!」
その後はギルドに活気が戻った。
だがヤマトは本心では許していないので機嫌が悪い。
おそらく、宴会中はずっとこんな感じだろう。
「あの…ヤマト様、ギルド本部から依頼が来ています」
俺は受付嬢から依頼の内容が書かれた紙を渡された。
「あの爺…本当に最高の爺だ!ティナ、宴が終わったら早急に街を出て王都に向かうぞ!」
「また防衛戦?私は疲労が溜まって一歩も動けませ~ん」
「防衛戦じゃない!とても楽しい事だ!」
「楽しい事?」
三時間すると宴は終わり、私と師匠はヒルデさん達と別れて王都に向かうことになった。
そして師匠が言う楽しい事により私はより一層、ヤマト・ツキカゲというギルド最強の冒険家の弟子になれたのが幸運だったと改めて実感する事になった。
次回は楽しい依頼をするために王都に向かいます。
それではまた次の話で!