五十八話 感情
死屍谷対夜真砥の戦いが決着します!
少し空に雲がかかってきた頃、死屍谷と夜真砥との戦いは終わりを迎えようとしていた。
「荒ぶる大地!!」
死屍谷の下から尖った岩が次々と突き出てきた。
それは夜真砥を狙ったものではなくただ無造作に突き出ているのだ。
また、禁忌魔法かよ!
荒ぶる大地、地面から岩の槍が次々と突き出てくる極土属性魔法で禁忌魔法だ。
禁忌魔法禁止法にこう載っている。
この魔法は共に戦う友や己すら巻きこむそして魔力量が多いと被害が増えるため禁忌魔法として定めると。
なぜ禁忌なのかというと自分や味方までも巻き込むからだ。
だが、体を再生させる死屍谷には関係のない話だがな。
そうそう、聖毒は時間により効果がなくなっている。
俺はすぐに下がり動きながら様子を見る。
そして機をうかがって突き出た岩を斬って破壊する。
ついでにそれでできた破片で!
「幾多の飛礫!」
幾多の飛礫、比較的に覚えやすい土属性魔法だ。
簡単に言うと、飛礫を魔法で操り相手にぶつける魔法だ。
俺のは加速魔法で速度と硬化系の魔法で硬くして威力を上げている。
これで!
「効きませ~ん!」
「だろうな!本命はこっちだ!」
死屍谷の頭上に大岩が出現した。
「ヒュゥ~!どしたのこれ!」
「テメェの魔法で出てきた岩だよ!潰れろ!隕石!」
詳しく説明するとこれは隕石ではない。
先ほど斬って破壊した岩を凝縮させて岩石にして単純に落としただけだ。
「潰れませ~ん!」
あれを拳で砕きやがった!
なるほどな!
完全に魔力を身体強化に注ぎ込んでる!
やっぱし死を超越せし世界にも弱点はあったんだ!
ユニークスキルは死んだ瞬間、その身からはがれる。
それに対して死屍谷は死んでもなおユニークスキルが残ってる。
何故だ!答えは至ってシンプル!
鎖でユニークスキルを縛り付けているんだ!
こんな奴が二千年もこの島にいたら人族なんかとっくの昔に滅んでた!
おそらく一回、致命傷を何度も負う戦闘をしたら何年かは休息しなければならない!
そして俺というすぐに戦闘を終わらすことのできないイレギュラーが出てきてがたが来てんだ!
要は鎖が切れかかってる!
この機を逃すな!
奴を殺せ!
守るんだ日の本の国をこの島を俺の大切な人を!
「我が命によいてここに集え!光の精霊達よ!その溢れんばかりの聖なる力を携え我と共に戦いたまえ!極光属性不要!!」
魔力を使用しない付与はその場に溢れている属性の精霊に呼びかけて詠唱をして行うことができる!
この場には光の精霊が集まっているので極光属性の付与ができる!
そしてそれを一気に奴にぶつける!
「これで終わりだ!死屍谷!」
「まだ終わらないぜ!俺は!まだまだまだまだまだまだ!殺したりねぇよ!苦しめ!もがけ!悲しめ!怒れ!恨め!憎め!俺にテメェらの感情全てを見せろおぉぉぉぉ!!出でよ!死神の盾…さあ!打ってこいよ!」
攻撃を防げたらその攻撃を倍にして相手に弾き返す防御魔法、死神の盾だと!
…無理だ!
あれを打ち崩すには威力が足りない!
誰かの助けがあれば!
でも、今は声を出せない!
助けが呼べない!
「どうした!打てねぇのか!そりゃあそうだよな!防がれたら貴様の大事な大事な日の本の国が貴様諸とも吹き飛ぶからな!」
俺と日の本の国は一直線上、防がれたら消し飛ぶ!
どうする…どうする!
夜真砥があきらめかけてたその時、一人の魔族が夜真砥に駆け寄り夜真砥を支えた。
ティナではない。
「心!?」
負担が少し心に行って軽くなって喋れる!
「夜真砥、お願い!私の力であの人の人生を終わらせてあげて!」
「気づいていたか!」
「うん!あの人、魂はあっても感情がない!」
俺が感じていた違和感、死屍谷の表情が生きている者の表情とは違ったことだ。
奴は不死として生きてるだが、感情が一切ない!
おそらくだが最初に死んだ時に感情だけ死んだんだ!
「だから、奴は感情を求めていたのか!」
「そう!自分の足りないものを求めてたどり着いたのが感情!」
「なるほどね!で、最初の犠牲が俺達だったってか!」
最初、会った時から奴は不死者だったのか。
「終わらせるぞ心!」
「はい!」
考えていることが読める心なら、俺が今やろうとしていることがわかるはずだ!
行くぞ!
「「数多の光よ!切り開け終わりの道を!誘え我らの勝利を!駆け抜けろ勝利の道を!皆、我が勝利を刮目せよ!今ここにおいて全ての闇を穿つ!栄光ある勝利!!」」
心が魔力そして夜真砥を支え夜真砥が暗い曇天を穿つように伸びた光をまとった刃を振り下ろす!
光は地面に近づくにつれてまるで夜真砥達を勝利へと導くような光の道を作り出した!
そして光が地面に着いて死屍谷目掛けて一気に駆け抜けた!
死神の盾は一瞬で光の中に消え去り死屍谷も光に飲み込まれた!
「…負けたぜちくしょう」
これが極光属性魔法の一つ栄光ある勝利だ!
倒れた死屍谷に夜真砥と心が近寄る。
「チェックメイトだ」
「なあ…敵に聞いてあれなんだがさぁ…感情って何なんだ?」
「…ようわかんねぇよ。逆に俺達が聞きたいぐらいだ」
「そうですね」
死屍谷は倒れたままその話を聞く。
「笑ったり」
「悲しんだり」
「苦しんだり」
「恋をしたり」
「怒ったり」
「喜んだり」
「まあ、いろいろあるそれが感情だ。お前の言うとおり、時には怒りや傲慢さで戦争したり、悲しみや憎しみで殺したり、けど時には誰かと気持ちを分かち合って泣いたり笑ったり喜んだり…恋つうのをしたり、こんなのなくなれって何度も思ったことがある。感情が無ければ戦友が死んで苦しんだり、誰かを憎んだり恨んだりすることない…でもな感情がなかったらあいつらとの出会いを喜んだり、時間を共有して笑ったりすることもできなかった。感情っていうのはなくてはならない俺達を構成する最高でもあり時には最悪になる見えない物質なんだ。まだわからないことだらけの感情を俺達に語る資格はない…でも、感情がわかってしまえばそれは感情じゃなくね?だから俺はあえてこう答える」
「何と答えるのだ?」
「どうでもいい」
夜真砥は笑顔で答えた。
死屍谷は予想外の答えに戸惑い目を丸くした。
そしてふと笑いこう答えた。
「こんなのを追い求めていた俺がバカバカしくなるな」
「だろ!」
「俺はやり直せるだろうか?」
「さぁどうでしょうか?閻魔様に正当な裁きを下してもらい地獄でもう反省して今まで殺してきた人達に謝罪しまくって奈落さんに謝った後、この人のように生まれ変わったらどうですか?」
「あいつは俺のことを許さないだろうな。なんせ俺はあいつの恋という感情を踏み潰したのだから」
「それはどうでしょうか?奈落さんは死ぬ間際にあなたの心配ばかりしてました。常に頭の中は死屍谷さんで埋め尽くされてましたよ。案外、三途の川で待ってたりして?」
最初っからいたんだ。
頭に血が上りすぎて気がつかなかった。
「そうなるといいな…すまなかった夜暁」
「謝っても許しはしない。…でもお前が正しい道をこれから進むというのなら俺は心から応援する」
生きてる限り、人は皆罪を犯す。
犯した罪は消えない。
たが、それをこれからどう償っていくのかが大事だ。
だから俺はこいつのことを応援する。
「そろそろ迎えが来た。…最後に一つ言っておくことがある夜暁」
「何だ?」
「お前は黄泉神には勝てない。なんせあいつは」
死屍谷は言い終わる前に息を引き取った。
「言い終わってから逝けよ」
「こう見えても不器用な妖怪なんですよ」
「そりゃあそうかい」
夜真砥と心は合掌した。
一方、その頃、この島の火山の麓では、
「放り出すとこぐらい決めとけ!暑いし寒い!」
朧が愚痴をこぼしながら麓まで下りてきていた。
「全くあいつは何か大事なものが抜けてる!誰か迎えにきて~!」
「お前の願った迎えじゃなくて悪かったな」
(このとてつもない殺気は何!?)
朧は一瞬にして体が硬直して動けなくなった。
そして森から明らかに味方ではない布で姿を隠した者が現れた。
「鬼神朧とお見受けする」
「そうだけどあんた誰?」
「…黄泉神」
現れたのは敵の総大将、黄泉神だった。
(黄泉神!?勝てる勝てないの問題じゃない死ぬ!)
「殺しはしない。ただ絶望を味わってもらう」
そう言うと黄泉神は朧の目の前に現れて夢幻の刹那に触った。
「夢幻の刹那とは魔法を消すという意味以外のもある別の意味がある。大切な人を夢、幻の如く刹那にして消すという意味もある。夢幻の刹那は鬼、本来の闘争本能の制御を無くすことができるのだよ。要は何も考えず暴れろ」
夢幻の刹那がだんだん黒く変色してきた。
「貴様、何をする気だ!」
「壊し尽くせ大切な人や国を!己の闘争本能に委ね暴れまわれ!鬼神朧!…いや、鬼神百鬼」
「なぜあたしの正体を知っている!?まさか!貴様の正体って!?」
「名などもうないさ。さらばだ」
黄泉神は立ち去り、夢幻の刹那から黒い霧が出てきて朧を飲み込んだ。
「あああぁぁぁぁ!!」
「さぁ、どうする。月影夜暁よ!お主の大事な人を守れるかな?」
黄泉神の正体のヒントを出します。
この作品に登場した人物です。
そして夜真砥と朧の正体を知ってるかつ夜真砥と死屍谷が戦っていたあの場に居なかった人物です。
さて、黄泉神の正体は誰でしょうか?
それではまた次回の話で!