五十話 絶望と希望
絶望している夜真砥を救うのは勿論、弟子のティナ!
そして更に夜真砥を絶望させる出来事が!
俺はよろけながらもゆっくりと体を動かして月影城の十一階に向かっていた心臓に手をやると鼓動がだんだんと階が上がるごとに早くなっていくのがわかる。
途中で女官に止められたが俺はその手を振り払い歩み続ける。
上がるたびに昼間だが目の前がどんどん暗くなっていき同時に足が重くなっていく。
そして何分経ったかわからないが十一階に到着して扉に手をかけそっと開けた。
そこには親父と母さん、婆ちゃんと咲夜と兄上が、回復魔法の術式を編み込んだ布団をかけられ魔導士に回復魔法をかけられている爺ちゃんを囲んでいた。
俺が入ると家族はその場を立ち去り魔導士と俺だけにしてくれた。
まず俺は座るのと同時に爺ちゃんの布団をめくった…やはりあれは夢でも幻でもなかった爺ちゃんの右足はなくなっていた。
失った体の部位を取り戻す魔法、時間戻しの超回復で戻せばいいだろ?
でも、無理なんだ、その魔法は失ってから三時間以内の部位にしか効かないんだ俺は気絶して丸一日寝ていた…だからもう爺ちゃんの右足は何をしても戻らないんだ。
それを確認した後、俺はようやく理解した、そして時計が狂いだす秒針が逆の方向に進んだり短針が止まったり長針が振り子のような動きをする理解しても俺は時間が巻き戻る魔法はないかそれだけを考えていたでも、初めっからわかっているそんな世界の理を歪める魔法なんて無い。
これだけ言いたい、「誰も近づかないでくれ…俺はもう疲れた」と。
「夜真砥、大丈夫かな?」
「大丈夫なわけないでしょ。でも立ち直ってもらわないと困るわ」
「私、今の夜真砥の気持ちが痛いほどわかります。私はパパを家臣に殺されて、跡を継ぐ私も家臣に殺されそうになった。泣きながら初めて外に出て、でも追いかけられて、もうダメだって思ったとき顔や姿は見ていないけど誰かが助けてくれたの」
忘れもしない私の命の恩人、いつかあってお礼が言いたい誰か。
「そしてその人は『おいガキ、何で地面ばかり見ている。なぜ前を向いて歩かない?まあ、無理もないな。父親が自分を守って死んじまったら、でもなテメェの父親はテメェに絶望してほしくて助けたのか?違うだろ。前を向いて希望を抱きながら生きてほしいと願って助けたんだろ!テメェより不幸な奴なんてこの世界にいくらでもいる!産まれてからすぐに死ぬ者!産まれても周りに親がいない者!テメェの不幸だってかなり重いさ!でもな、救われた命を無駄にしてここで果てる気かテメェは!』と」
「で、あんたはなんて答えたの?」
「首を横に振った。そしたらその人は『だったら前向いて走れ!生きて天国にいる父親にその生き様見せてやれ!そして新たな光をいくらでも見つけてテメェの闇をそこから無くしてみせろ!』って言ってくれた」
その言葉は私に生きる希望をくれた。
今でもその言葉は胸に染み着いている。
そして私は新たな光をいくつも見つけた。
その光の中でとびきり輝いているのは夜真砥だ。
「良いこと言うじゃない」
「うん、だからあの人がしてくれたように私が夜真砥を引き戻してみせる!」
「どうやって?」
う~んそれが問題なんだよなぁ…そうだ!
「月夜、夜真砥をあそこに連れてきて」
「あそこ?」
「朧さんの家」
「なるほどね。了解」
ティナは月夜と別れて鬼神邸に走っていった。
そして月夜は夜真砥の部屋の前に立ちドアを蹴破った。
「はいはい、バカマスターちょっと付き合ってもらいますよ~」
「悪いがそういう気分じゃないんだ」
「バカマスターの気分なんて関係ありませ~ん」
「おい、首掴むな。どこに連れてくきだ」
「あんたの一番弟子ところ」
何やかんやで夜真砥は月夜に引きずられて鬼神邸の門の前に連れてこられた。
「待っておったぞ。ティナなら闘技場にいる」
「何で闘技場に?」
「お前さんと決闘がしたいんだ」
俺と決闘?
「まあ、とりあえず行くわよ」
俺はわけもわからないまま、闘技場に連れてこられた。
闘技場にはティナしかおらず、闘技場の中央で地面に木刀を突き刺して仁王立ちしていた。
「夜真砥、決闘してもらいます。拒否権はありません」
「どういうことだ。俺は今、精神的にマズい状況なんだが」
「でも、そんな状況でも夜真砥は私に負けませんよね」
「ずいぶんとナメた言い方だな。いいぜやってやるよ」
「審判は儂がする。それでは両者、構え!」
夜真砥、あなたを暗闇から引きずり出します!
「それでは始め!」
合図が終わると夜真砥は前方に跳躍、ティナに斬りかかると思いきや、右に飛び横から斬る。
普段ならティナはこれで負けるだが、ティナは左を振り向きながら木刀を振るって夜真砥を地面に叩きつけた。
「ぐっ!」
「いつもなら私は負けてますよ」
「手加減しただけだ!」
夜真砥は立ち上がり下から木刀を振るう。
またもやその攻撃は当たらなかった。
「そしていつもより威力がありません」
ティナに防がれたからだ。
ティナの言うとおり普段ならこんなことをしたらティナは衝撃で吹き飛ばされていた。
「こんなもんですか!ギルドランク序列一位、月影夜真砥はこんなもんですか!」
「ああぁぁぁぁ!!」
夜真砥は飛び上がり、木刀を振り落とす。
「今のあなたなら私だって勝てる!」
夜真砥は腹を叩かれて吹き飛んだ。
「私の師匠はこんなことで負けたりしない!ヘラヘラ笑いながら敵に立ち向かっていく。今のあなたはビクビク怯えているただの抜け殻です!」
「よくわかんねぇんだよ」
夜真砥は仰向けになりながら口を開いた。
「クエストで戦場に出てたくさんの友が死んでいくのを見てきた。それは生きて帰ってきた友と過ごして軽くなった。でもな、爺ちゃんは死んでいないのに体がドンドン重くなって酒を飲んでも軽くならない。どうしたらいいんだ…誰か助けてくれ」
「それは大切な人が不幸になったからです。友は友でも戦場で出会った一時の友、でも白夜さん、夜真砥のお爺さんは夜真砥を育ててくれた大切な人です。だから夜真砥は悲しくなっているんです。私だってパパが死んだときは落ち込みました。でもある人に前を向いて走れ、その生き様見せてやれって言われました。白夜さんはまだ死んでいません!なのに何もせずにここで立ち止まるんですか!」
夜真砥はティナの言葉でやっと気づいた。
なぜ自分がこんなことをしているのか、なぜ立ち上がらないのか、それは自分のせいで誰かが傷つき倒れていくのが怖いから、自分が死屍谷累、敵に怯えているからだ。
「…まさか弟子にそんなこと言われる日がやってくるとはなぁ…もう一度、かかってこい!」
夜真砥は立ち上がりいつも通りの笑顔を見せた。
「はい!」
「ちょっと待ったー!」
「さすがに本気の夜真砥をティナちゃんが相手したら」
「死にますよ。お兄様だから」
「この終夜が相手になろう!」
「この咲夜が相手になります!」
気がつけば闘技場に侍共が集まり、闘技場に終夜と咲夜が木刀を持って立っていた。
「上等だ!こい!」
二人は左右に別れて挟み撃ちにする。
だが夜真砥はティナから木刀を受け取り木刀を二本にして腕を交差させて攻撃を受け止めて力を抜いて二人のバランスを崩して刀身に攻撃を叩き込み木刀を落とさせた。
「さすがお兄様、お強いです」
「いつもの夜真砥に戻ったな」
「ああ、ただいま。もう、迷ったりはしない」
さあ、ここから反撃だ!
…でも、どうしたらあいつに勝てるんだ?
あのからくりがようわからないし。
「と考えているところ朗報があります」
「心!まさか奴らの弱点がわかるのか!?」
「まあ、そんなところです。ここではあれですので夜真砥様の部屋でお話ししましょう。次期鬼神家当主も」
「儂も?」
てなわけで夜真砥は再び、自分の部屋に戻ってきました。
「間者が潜んでいるといけないので防音結界を張ります」
そんなに重要な話なのか?
俺と月夜とティナそして朧だけに話すなんて。
「ヤバい話なのか?」
「ええ、いろいろとあなた達の昔のことで」
昔のこと?
ああ、なるほどやはりバレていたか。
「二大英雄、夜暁様、百鬼様」
「な、なんこことかかかな」
おいおい、いかにも隠し事しているみたいな口振りになってるぞ!
「隠す必要はない。心を覗いたな?」
「ちょっとした弾みでたまたま」
たまたまでバレたのかよ!
「で、俺達の前世と何の関係があるんだ?」
「死屍谷累の正体です」
「奴の正体?」
「死屍谷累は彼のこの時代での名前、二千年前では」
「ちょっと待ってください!二千年前って二千年も生きることができるのですか!?」
「実例はないが可能だ」
可能なんだ…。
「話を戻します。二千年前では死屍谷累は死山結と名乗り、黄泉神に君臨していました」
死山…結だと…。
「もう一度言え」
「はい?」
「あの鬼の正体が何だと聞いてんのよ!」
「死屍谷累の正体は死山結という元黄泉神です」
「そんな…何で」
「理由を言え。何で奴が死山結なんだ」
夜真砥はまるで獲物に今すぐにでも食らいつくそうな竜のような恐ろしい目をしてそう言った。
「ユニークスキル死を超越せし世界またの名をオーバーワールドの力です」
「そんなの聞いたことない」
俺は世界各国の文献をあさりいろんな情報を得ている。
だが先ほど心が言った死を超越せし世界は一度も見たことも聞いたこともない。
「はい、かなり古い文献にしか載っていないと思います。死を超越せし世界は無限に死者を復活させて操ったりする。まさに死後の世界の王のようなことができるユニークスキルです。それの真の力により奴は二千年以上生きているのです」
「真の力って何ですか?」
「ユニークスキル本来の力を発動させることだ。正式には目覚め、アウェイクニングと呼ばれている。で、死を超越せし世界のアウェイクニングはどんな力だ」
「自分を不死者にする力」
「ほう、だからあの時殺してもまだ生きてやがるのか」
「あの時?」
「死山結は二千年前の幼き夜暁がいた陣を壊滅させ夜暁の部下を殺した張本人、前世で殺したはずの仇よ!」
「そうだ。鮮血の薔薇を咲かせた奴だ」
幼き夜暁がいた日の本の陣とは鮮血の薔薇が咲いていたあそこです。
さて、仇がまだ生きていることを知った夜真砥はどうするのか不死者でたる死屍谷累をどう倒すのか!
それではまた次回の話で!