17.5話 出航前の嵐
さて、老人の正体はいったい誰だ!
予定通りに武器を完成させたヤマトはネレウスに別れの挨拶をしていた。
「それじゃな」
「お前さんも元気でな。で、これから何処に向かうんじゃ?」
「久しぶりに帰国しようかなと暫く休むわ」
休む!ということは修行もお休みってこと!
じゃあ、全力で休憩して観光を楽しもう!
「おい、我がバカ弟子よ。流石に修行は休まないからな」
「何でわかったの?」
「表情から見え見えなんだよ、お前の考えは!」
「久しぶりに煎餅が食べれる!」
ツクヨの好物は煎餅である。
…久々に煎餅を買い込まなければ文句を言われるな。
「そうだな…。クソ親父に会うのはイヤだけど」
そんな風に別れを告げて何事もなく港に向かおうとした。
だが、そんな時に駐在騎士がネレウスに伝令を持ってきた。
「ギルドマスター!大変なことが起きましたあぁぁぁ!!」
「そんなに急いでどうした?」
「先ほどジュダが脱獄しました!」
「なっ…」
騎士以外のその場にいる全員が凍りついた。
ジュダ、つまりバトラーの弟が牢屋から脱獄したらしい。
「どういうことじゃ!」
「ジュダを護送していた騎士が殺されていました!」
護送する騎士は全員ベテランの筈だぞ!
獄中脱獄ではなく護送中に脱獄したのか!?
しかも四人も殺して!?
「ちゃんと手錠をかけていたのか!」
「奴は足だけで護送する騎士を殺しました!」
「足だけで殺すのってそんなに難しいことなんですか?」
「不可能よ。両腕を封じられたらバランスが取れないもの」
それを護送の担当者は顧慮していなかったのだらう。
てか、あの男はお前らが倒したんじゃないぞ!
そんなことも考えずに護送しようとしたのか!!
ちょっと慢心過ぎだろ…。
「ヤマト、今からジュダを捕まえることはできるか?」
「無理だ。居場所も特定できてない。何より今の状態では勝ち目がない!てか無理以前にできないんだよ」
「…ヤマト、気をつけろよ」
いつものように気軽に別れる気だった。
けど一つの伝言で崩れるとは思いもしていなかったな。
その後は気持ちを切り替えて港近くの通りに向かった。
日の本の国に向かうには乗船する必要があるからだ。
「ヤマト!早く早く!」
「呑気な奴だな」
ティナは心を踊らせながら通りを歩いていた。
しかし、路地裏から出てきた一人の老人に衝突してしまう。
幸いにも老人は尻餅をつかなかった。
「ごめんなさい!怪我はないですかお爺さん?」
「大丈夫じゃよ。お嬢ちゃんは大丈夫かい?」
「大丈夫です!」
「それじゃ気をつけるんじゃぞ」
「はい!お爺さんさよなら!」
おいおい、呑気にも程があるぞティナ!
いったい誰にぶつかったと思ってんだ!?
お前がそいつに怪我を負わせることはできない!
逆に嘲笑いながら殺されるのが落ちだぞ!
「ツクヨ、先に行け。ティナを頼んだ」
「うん、マスター死なないでね」
「努力はする」
ヤマトはツクヨを先にティナの方へと向かわせた。
そして自身の横を通過する時に老人を引き止めた。
「ご老人少しいいですか…。それとも元王子様と言った方がいいか?」
「ほう、小僧、儂の正体を暴いたか。どれ儂を捕まえるチャンスじゃぞ」
老人は変装したジュダだった。
けどヤマトは動こうとしない。
それに剣を引き抜こうともしていない。
今のヤマトはジュダを捕縛する気がないのだ。
「俺が剣に手をかけた瞬間、周りの人間を鏖殺するだろ?」
「…さて、それはどうかな?」
「惚けるなよ。大会で本気を出していたのか?」
「流石は序列一位、観察眼が鋭いな」
「…お前の目的は何だ?」
「冥王を救うことそれが我らの目的だ」
我らだと?
こんな化け物がまだいるのか。
「おい、救うってどういうことだ」
「そのままじゃ。それと小僧、お主はまだ帝国の真実の欠片を掴んだにすぎん…。また会おう」
「まだ真実があるのかジュ」
ヤマトはジュダに再び疑問を投げ掛けようとした。
だがジュダ・サルディアの姿はもうそこにはなかった。
「転移したか…」
まだ約十年前の嵐は治まっていないようだ。
この国が太陽を拝めるようになるのはいつになることやら。
次回!日の本の国に向かいます!
それではまた次回の話で