百七十三話 悪魔の微笑み
リアムと寄生虫が戦闘している一方で三人は急いでビルから脱出しています。
そして今回はアーサーがユニークスキルを発動させます!
ああ、タイトルのヤツではありません。
リアムと寄生虫の戦闘が激化する中、救いようよないホムンクルス達を倒しながらボルクス、アーサー、ウィリアムは急いで塔を下っていた。
「糞野郎が!!仕方ない事だがこれはあんまりだろ!」
「叫ぶ前に手を動かせボルクス!!少しでも俺の手に傷が付いたらギルドに土下座しほよ!」
「はぁ!?何で俺が土下座しないといけないんだ!」
「自慢じゃないが俺は冒険家ギルドで最強の医者だ!俺の腕が死ねば死者が増加するぞ!だからだ!」
実はアーサーの言葉は意外にも現実味を帯びている。
アーサーが冒険家ギルドで序列六十二位になってから冒険家ギルドでの死者数が低下してのだ。
そのためか登録はされないが序列六十二位では異例の二つ名、不可能知らずを与えられた。
「ああそうですか!『神の腕を殺し死者を増やしてしまいすみません』って謝れってことね!何なら死ぬ気で守るわ!お前も生還率上げるために死ぬ気で援護しろ!」
「ハッ!!ならそれに見合う働きをしろ!怠け者!」
「お前に言われたくないわ!ひねくれ者!」
「そこの若者二人!おじさんも居ること忘れてないか?おじさんは騒がしいのが苦手なんだよ!」
(ま、笑い飛ばしている間は大丈夫だが進むにつれて精神面が削られていくだろうな。ホムンクルスは一部では人として認められていないが、人として認め人権を与えている国だってある。当然、二人はこの事を知っている筈だ。何とかこの状況を打開しないといけないな。…出し惜しみはなしだ。ごめんな)
この状況を打開するべくウィリアムは目の前に六発の弾丸が込められた銃を出現させて弾丸を放った。
その弾丸はまるで空間そのものに当たったのかのように何もない所で静止する。
そして弾丸の先から空間に悪魔が笑っているようなひび割れが生じた。
「専用スキル悪魔の微笑み」
悪魔の微笑みは現状を打開するための最適案を授ける魔弾の射手の専用スキルである。
これは魔弾の射手の『絶対に対象に命中する』という能力から『絶対に現状を打開させる』という能力に派生したものだ。
どのタイミングでも発動できるが一日に六回までしか使用できない。
付け加えるとウィリアムが使った銃は悪魔の微笑みを発動させると現れる専用銃なのだ。
…そして先ほどウィリアムが心の中で謝罪を述べたのはこの専用スキルと妻の死が関係しているからだ。
魔弾の射手は妻の死がトリガーとなり発動したが専用スキル悪魔の微笑みは死の運命を変えようとして発動した…。
彼はこの専用スキルを使用して妻が魔物に殺されない運命を手繰り寄せようとしたが叶わなかった。
悪魔の微笑みは打開策を授けるだけで運命を変えようとはしない。
端から妻が生き返る未来はなかったのだ。
悪魔が笑っているようなひび割れが空間から消えるとウィリアムは直ちに行動に移した。
「アーサー!ユニークスキルだ!このフロアの柱を全て同時に崩壊させろ!」
「チッ!結局、俺がボルクスの尻拭いをするのか…!」
「ああ!?誰の尻拭いだって!」
「テメェの尻拭いだよ脳筋!再生と死滅の円環!!さっさと錆びやがれ!」
再生と死滅の円環は生命と死を操るユニークスキルで二つの能力がある。
一つ目は怪我や骨折等の病気以外の症状を完全治癒させてしまうという回復職向けの能力だ。
また、再生と死滅の円環を使いこなせるようになると事故や戦闘による部位欠損すらも治してしまう。
無論、アーサーはこれを可能にしている。
病気を治癒できないのは『治癒をしている』のではなく『元の状態に巻き戻している』ためだからだ。
要するに巻き戻しても時間が経過すれば再発してしまうからだ。
一方で二つ目の能力は前者とは違って症状を悪化させる能力だ。
例えば骨にひびさえ入っていれば骨折させ、風邪をひいていれば余計に進行させ、限度はあるが怪我の範囲さえも拡大できる。
しかし、このユニークスキルで直接的に対象の命を奪う事はできない。
アーサーが今やってるのは後者の行為で柱の錆や脆い部分の進行を早めている。
そして再生と死滅の円環の能力で直接、柱を崩壊させる事はできない。
しかし、誰もが理解しているように柱は支えるもの。
脆くなった柱や錆び付いた柱に付加をかければどうなるか?
当然、付加に耐えきれなくなり建物は崩壊する。
更にこの建物は縦に長いので何処かのフロアが一度、崩壊すれば止まることなく破竹の勢いで砂煙を巻き上げながら崩れ落ちる。
悪魔の微笑みがウィリアムに授けた答えは『このフロアの柱を全て消し去り建物を崩壊させろ』だ。
アーサーは言われた通りにこのフロアの柱を全て脆くさせた。
柱は上からの付加に耐えきれなくなり砂山のように崩れる。
「これで全てだウィリアムのおっさん!後は任せたぞ!脳筋野郎!!」
「ウィリアムさん!脱出経路は!」
「俺らを担いで向かいの塔に乗り移れ!」
「了解!」
三人が塔から脱出したのと同時にフロアの柱は全て崩れ落ちる。
所々でホムンクルス達が衝撃により爆発して崩壊を更に加速させる。
それでもなお最上階での戦闘は終わらない。
だが確実に終わりは近づいていた。
まあ、次回あたりに決着を付ければなぁと思っております。
ということで次回はリアムと寄生虫の戦闘に戻ります。
それではまた次の話で!