百六十五話 不死が終わる日
ガンマ戦決着
「はぁ?」
両断されて再生せず増えもせずに息絶えるガンマを見て、ガンマは困惑した。
彼は研究者であるからそれなりの表現の仕方や言葉はあるだろう。
だがガンマはただ驚いただけであった。
いや、驚いたのではない。
起こるはずのない事象を目撃して、『夢ではないのか』と錯覚しているのである。
そして瞬時にガンマ達は思考回路を働かせる。
(どういうことだ!?どういうことだ!?どういうことだ!?どういうことだ!?どういうだ!何で僕は死んでいる!?僕は不死者だ。言葉の通り、死なない者!そして殺すと増える増殖者だ!なのに僕は死んでるし増えない!増える機能を潰すのなら考えられるが死なない者を殺すなどどうやったらできるのだ!?増えすぎたための副作用か?いや、ありえないありえないありえてはならない!副作用など起こるはずがない!僕だぞ!僕自身が作り上げた最高傑作だぞ!副作用なんか起こってたまるか!何で死んでいるんだよ!何で増えないんだよ!生きろよ!増えろよ!こんなの許せない!いい加減立ち上がれ!つまらないことをするな僕!)
ガンマの思考の行き着く先は死んだガンマが死んだふりをしていることであった。
だが考えるよりも先に気づいてしまった。
自分がこんな無意味で低俗なことをするはずがないことに。
そしてガンマの残り数が半分以下になってやっと動き出した。
「貴様ああぁぁぁぁ!!」
自分の最高傑作を踏みにじられた敵に向かって叫ぶしかなかった。
それは研究者よりも怒りの矛先を獲物にぶつけるだけの獣である。
ガンマ達は一斉にシエルに襲いかかるが散らすだけで無意味、念のためにもう一度、説明するがガンマは不死と増殖機能を除くと凡人と大して変わらない弱さだ。
人を弄って怪物を生み出していたのも錬金術や魔法を魔導具で発動させていただけである。
なのでガンマは唖然とガンマが次々と死んでいく様を見ている三人に狙いを変えるが、
「最後の審判発動!!専用魔法慈愛の壁!」
専用魔法の慈愛の壁で攻撃を妨げる。
「彼女達には手出しはさせない!」
「僕をここから出せ!!」
双剣を使って血飛沫を浴びながら舞うシエルは表情を一切変えずに無表情であった。
見渡す限りの赤く染まった土や草花、横たわるガンマの死体、どれも不意に目を移すしてしまうほど物だがシエルの舞にだけ目がいってしまう。
美しくも妖艶さもない舞だが何故かそれだけを見てしまう。
そして三人はシエルの舞が終わったことで気づいた。
ガンマはもう一人だけであったことに。
そのガンマは最初のガンマであったが本人にすらわからない。
シエルは無言で近づいてガンマの首筋に刃を当てる。
「最後に訊きたいことがあります。死なない体を手に入れてあなたは何をしたかったのですか?」
種族としての性なのかシエルは放心状態のガンマに質問する。
ガンマは虚ろな目でこう答えた。
「究極の生物を創るためだ」
もちろん、返した言葉はこれである。
「何のために?」
「何のため…。何のために僕は研究を…」
しかし、その目的を訊かれるとガンマは戸惑う。
「言い方を変えます。誰のために?」
シエルは言い方を変えて問いただすとガンマは突然、叫びだした。
「僕は…。僕は何でこんなことをやっているんだ!創造主を救うために僕は研究していた…。なのに僕は僕は彼女を殺してしまった!ああ、何故だ…。創造主を愛していたのに」
シエルの言葉でガンマの脳裏に創造主である少女の姿が浮かんだ。
その少女は生前に治すことが困難な難病を患っていた。
医者に頼んだが治せず少女はガンマを創って自分の病気を治す手伝いをしてもらうことにした。
月日は流れて少女の難病は治った。
そして少女はガンマと共に医者の道に進んで、普段からこのようなことを行っていた。
「生物はいつか死ぬ。病気にもかかる。そして怪我もする。それら全てを克服した生物は何だ?ガンマ」
「そんなの居ない」
「そう!居ないんだよそんな生物はね。というか私、不死者なんてつまらない生物は嫌いだし。私の夢をガンマにだけ教えおくわ。治せない病気など全て消え去った世界よ!どうよ笑ってみなさい!我ながら馬鹿げてるでしょ?」
「いえ、馬鹿げてなどいません。とても良い夢だと思います」
そうガンマにプログラムされていたテーマは『全てを克服した生物による幸福な未来』ではなく『病気のない誰もが天寿を全うできる幸せな明日』であった。
つまり、ガンマは何者かにテーマを書き換えられていたのだ。
ガンマは後悔するしかなかった。
創造主にプログラムされたテーマを遂行できず、創造主が嫌するような結果を生んでしまったからである。
人を家畜のように弄んで化け物に変貌させて悲しませ殺し、あまつさえ創造主に与えられたこの体を『不死者』という創造主が嫌っていたモノに変えてしまった。
「…頼む剣を貸してくれ。そして屋敷に火を放ってくれ。この辺りは良く燃えるから全体にな」
「わかりました。あなたの魂があなたの創造主のもとに行き着くことを祈ります」
シエルは剣を静かに地面に置いた。
そしてガンマは躊躇いもなく創造主の名前を零して、自分の心臓に切っ先を突き刺して死んだ。
ガンマが死ぬのと同時に元の空間に戻り、シエルは火を放つ。
「シエル様?」
「さあ、彼の遺言を果たしましょう」
屋敷から出ると四人は屋敷全体に火を放っていく。
もう、生物は居ないようで何も物音は聞こえなかった。
聞こえるとするのなら子供のように泣いているホムンクルスの声と慰めながら泣いている医者の声だけ。
さて、ガンマのテーマを書き換えて、創造主を殺させたのは誰なんですかね?
まあ、イプシロンなんでしょうな(´-ω-`)
そういえば何故、アルファはガンマの創造主のことをより詳しく説明しなかったのでしょうか?
気まぐれでしょうな(*´▽`*)
それではまた次の話で!