百六十二話 ソフィア
ソフィア、ユニークスキル発動!
後、ガンマの能力を発動させます。
開始早々にソフィアはガンマ、目掛けて突っ走った。
当然、巨人はガンマを守るため進路を遮り、拳を振り下ろす。
だがソフィアはそれを弾き飛ばして、減速すらせずにガンマの眼前にたどり着いた。
「…面白い!」
やっと間近でこの目で捉えた不倶戴天の敵!
ソフィアは敵の名前を今まで貯めてきた怒りを解放するように叫んだ。
そして拳は届きガンマの腹を穿った。
先ほどまで有利な立場であったガンマは下半身だけをその場に残して背後の壁に激突した。
「…これは驚いたなぁ。何も装備してないのにこの威力って…。けど相手がわかるかったね」
「ソフィア!直ぐに退避して!」
それはただの直感で発した言葉であった。
別に何か予備動作があったわけでもなくきシエルは目の前の巨人の攻撃に見向きもせずに忠告した。
しかし、それを受け入れたソフィアは奇跡的にも死を免れた。
ほんの一瞬の出来事であった。
ソフィアの背後にもう一人のガンマが現れソフィアの心臓を貫こうとしたのだ。
そして先ほどまで息絶えそうな状態であった上半身は下半身を再生させて、今まさに目の前で起きた状況に驚く二人の顔を見て高らかに笑う。
「ねえ、君達、プラナリアっていう生物、知ってるか?」
「意地悪は止めよう僕。無知な彼女らにわかるわけなかろう」
「知ってますよプラナリア。切ったら二匹に増えるっていう生物でしょ?」
「流石に知ってるか。そう僕は…いや、この場合は僕達か?まあ、どうでも良いか。とにかく僕はそのプラナリアが持っている幹細胞を全身に作ったのさ。で、この瞬間に成功した」
「これで究極の生物に近づいた」
分裂したガンマは元の個体の記憶を有している。
つまり、元個体から別個体が生まれるのではない。
元個体が致命傷を与えられた瞬間に文字通り増殖するのだ。
また、記憶を引き継いでいる事はこの能力も引き継いでいる事になる。
例えばガンマを殺してもマイナスにはならずに永遠とプラスされ続ける。
この決して減ることなく無限増殖するガンマを倒す手段は現状では見当たらない。
「…つまり、貴様を殺す手がないってことか!?」
「まあ、そうなるね」
「落ち着いてソフィア。…あんた達、一応は生物なんだよね?」
「何を言ってんだこの女は。当たり前だ僕達は生きている」
「良かった。それだけで勝率が上がった。悪いけどソフィア、しばらく時間稼ぎしてくれない?命、絶つから。ああ、遠慮なくあの気色悪いのは増やしていいから!どうせ増えても弱いだけよ」
確かにシエルの言う通り、ガンマはソフィアより弱い。
ガンマは魔術回路を持っているものの強大な魔法を使うことはできない。
ましてや筋力もあまりなく物理攻撃も苦手分野である。
しかし、ガンマは先ほど説明したように不死性の分裂能力を持っている。
そんなガンマの命をシエルは絶つと言うのだ。
堂々と誇り高く発させられた常識外れな言葉を聞いて、ガンマおろかソフィアでさえも唖然としている。
「了解!」
だがその言葉を信じてソフィアは返事をする。
また、無謀で現実味のない作戦を信じるソフィアをガンマは腹を抱えながら笑い見下す。
「もしかして信じてるの!?これは傑作だ!頭、おかしくなっちゃったかな?」
まだ笑い続けるガンマAをソフィアは再び殴って倒す。
一方でシエルは巨人の頭を撫でた後に素早く全ての心臓を止めて眠らせる。
「黙りなさい。仲間がやるって決めたのなら最後まで信じる。その何がいけないのかしら?」
「その調子よソフィア!ユニークスキルも使ってじゃんじゃん倒しちゃって!」
シエルは自分の周囲に結界を張って、魔法陣を展開させた。
今からシエルが行うのは魔法陣を大量に展開させた後に詠唱する大魔法なので一度、集中を途切らして失敗すると最初からやらなければならない。
なので邪魔されないように結界を張ったのである。
…それよりもシエルが使おうとしてるのを魔法と呼ぶのは果たして正解なのか。
「ええ、もちろんです!ユニークスキル!」
聖職者が保持しているユニークスキルは防御系、回復系等の他者を守ることに特化した能力がほとんどだがそんな中、ソフィアのユニークスキルは祓魔師なら珍しくない能力だが修道女が有するにはあまりにも歪。
ユニークスキルは古来より、『保持者の代弁者』と云われるほど保持者の内面を表す鏡のようなモノだ。
防御、回復特化の修道女では異常、攻撃特化の祓魔師では正常ということだ。
ソフィアの心の本質、この世界で生きる人々に仇なす存在を嫌い真っ向から否定する。
この心はたった六歳の頃、住んでいた町が魔族に蹂躙された自分だけ生存した時に根付いた。
そして当時の教皇の養子として拾われ、魔王を倒した勇者グロリアを崇めるグロリアス教に入信、本来なら普通の生活を送り、普通の結婚をし、普通に天寿を全うするはずだった。
自分の未来を変えた者が憎い。
皆の未来を奪った者が憎い。
今もどこかで誰かの命を奪う者が憎い。
神に何度も祈ってもそれは続きやがて十五の時に勤めていた教会の村に魔族が現れた。
ユニークスキルが目覚めたのもその時だ。
そんな理不尽な世界に抗い続ける少女が得たユニークスキルの名は、
「不倶戴天発動」
自分が持つ『相手を屠りたい』という意志が強ければ強いほど全能力が上昇する超攻撃特化のユニークスキルだ。
逆に『相手を護りたい』という意志が強ければ強いほど全能力が弱体化するユニークスキルでもある。
しかし、ソフィアはガンマが支配する領域に来てからガンマによって命が弄ばれ散っていく瞬間を何度も見てきた。
今のソフィアが振るう武器いらずの拳は夜真砥をも凌駕する。
これが弱者が淘汰させる世界に抗うギルドランク序列八位鉄拳聖女のソフィア・クルスである。
ということでシエルが魔法を発動させるまでソフィアがガンマの足止めをします。
ああ、次回は朧と雫の方をやります!
今回は出てませんが一応、戦ってますσ(^◇^;)
それではまた次の話で!