百六十一話 究極の生物とは?
ガンマ戦 開幕
あたし達は西の領域を支配するガンマを討伐しにアルファにガンマが使用している研究室に転移させてもらった。
しかも正門前にね…。
何故、敵の真っ正面に転移させる?
「気づかない距離に転移させると仰ってましたが…。はて?番犬なら即座に気づきますよ」
「つまり、ガンマは私達の存在に気づいてないってことよ」
「流石、シエル様です!それでは殴りに行きましょうか!」
あの聖女と天使はお構いなく、屋敷の門を通っているがあたしは通りたくない。
何なのこれは!
禍々しい気配が屋敷の奥からこちらまで流れてくる!
戦場で何度も浴びてきたけど、それとは比べものにならないくらい恐い!
気持ちではわかってるけど体が拒絶している…。
「行こう朧。夜真砥に任せれた以上、引けない」
「…わかってる」
門の前で怯えていた二人も屋敷の中に入っていった。
いや、屋敷という言葉は似合わない。
確かにこれは屋敷だ、けど『魔物の腹の中』という言葉の方がしっくりくる。
それぐらいこの屋敷は人が護るべき道徳に違反した物しかなかった。
至る所にこびりついた血痕、無惨に横たわった遺体、そこから放たれる異臭、どこかで人と呼べない何かが地面を這いずっている。
四人は屋敷の主を討伐しに行くさなか奇妙な生物を見かけた。
それは四人の気配を感じ取ったのか部屋から一振りの包丁を持って出てきて、それを地面に落とす。
そして口をゆっくり動かして、頭らしき二つの部位を上下に揺らす。
その生物は人型ではなく、双頭のケンタウロスだ。
シエルは歩み寄って、二つの顔に優しく微笑み抱きしめた後に苦しませずに即死させた。
それ以降、誰も言葉を発せずに主に部屋へと行き着く。
「…やはり、巨人にした方が良案だ。それなら大きな物を持ち運べる。それに内臓を入れるスペースが増えるから片方の心臓が止まった瞬間に動き出し予備心臓を四つ入れておこう。頭蓋骨は割られないように鉄にしてっと」
「おい」
「…殺してくれ」
「うん?大丈夫だよ。君は究極の生物に生ませ変わるんだ。何も恐れることはない。それに死ねないようにしてあげるよ。泣かない泣かない。痛みだって感覚を無くしたからないだろ?何で泣くの?水分の無駄になるから排除するよほら、もう苦しまなくてすむね」
「おい外道!!こっちを向けと先ほどから丁寧に憤らずに言ってんのがわっかんねぇのか!!」
白衣を着た男は作業の手を止めて、冷酷な目つきで振り返った。
その目に怒りは籠もっていない、ただ邪魔をするウザったい興味の対象にもならない羽虫を見る目だ。
「何か用?今、彼を究極の生物に生まれ変わらせている途中なんだけと?…ああ、あれか君達、外の世界から来た人でしょ?何?僕の研究に付き合ってくれるの?」
「その逆だ!ぶっ潰しに来たんだよ!貴様の腐った研究とやらをな!何が究極の生物だ!どんな生物にも欠点はある!それが良いんじゃないか!いくらやっても貴様の願いは果たされないんだよ!さっさと虚無の奈落に落ちろ!」
ちなみにさっきからキレた夜真砥並みに荒々しい言語でガンマに挑発しているのはソフィアである。
まあ、ソフィアはキレるとこうなる。
職業が修道女なのにこれじゃあただの狂戦士だ。
「究極の生物は存在しない?ハハハハ!!存在しないのではない!これから現れるのさ!種の欠点を全て克服し、死すらも乗り越える完全無欠の生物が!それを創るのが僕の使命!僕の研究テーマ!要するにあれだろ君達は僕の研究を邪魔しに来た劣等種であると」
「貴様の方が劣等種だろ」
「…良かろう。ならば身を持って知れ!これが僕が創造した究極の生物!!さあ、立ち上がれ究極生物個体番号五十六万八千五十六!!君の晴れ舞台だ!敵を屠るに感情は無用!全て消しといてあげたがら遠慮なく、新たな体を動かしたまえ!」
ガンマは狂気に近い声を上げた。
そして先ほどまでガンマに弄られ人を止めさせられた悲しき生物が無表情で立ち上がる。
また、ガンマは更に弄くった元人を二体、解き放った。
「雫と朧は他の二人をお願いします。シエル様、私と共に彼を天国へとお連れしましょう」
「…そうねソフィア」
…もう直ぐ死ねるから、必ずあなたはあたしが殺す。
だからどうか安らかに眠ってください。
雫と朧は刀を鞘から引き抜いた。
「鬼神家次期当主鬼神朧、いざ参る!」
「叢雲家次期当主叢雲雫、いざ参る!」
まあ、ほとんど敵のホムはこんな思考で動いております。
ガンマはマッドサイエンティストみたいな性格です。
それではまた次の話で!