10話 王都魔法闘技会開幕
さあ!始まりました!王都魔法闘技会一回戦!
朝になり私達は王宮を出て王都の巨大闘技場の観客席にやってきた。
「うわぁ、この全員が観客ですか…。こんなにも多くの種族が集まっている状況なんて始めて見た。」
「魔法闘技会は毎年開催され各国から凄腕の冒険者達がやってくるからな。それに今回は犯罪者も出場も有りという異例中の異例。かなりの人数が王都に押し掛けてくるはずだ」
「まだこれでも少ないんですか?」
「テレビでライブ中継もされるから、そんなには闘技場には来ないだろう。しかし、選手を一目見ようと王都に来る奴もいるからまだ来るな」
テレビというのは映像を映し出す魔導具で画面の下にある穴に魔石をはめて映像を映し出すという仕組みである。
ちなみにテレビ用の魔石は十グリア、これで一年は持つ。
映像は専用のカメラを通してテレビ局に通され、そこから各国のテレビに配信されるらしい。
そして今はギルドや観光席を設けた広場等の公共施設に多く見られる。
つまりは一般家庭向きの価格設定はされていないのだ。
とまあ考え込んでいたら開始時刻になったらしい。
「それでは!王都魔法闘技会開会式を始めます!実況はこの私リコと……あれ?もう一人は何処に行ったのでしょうか?」
「君は何処を見ているのかね?私は!ここに居るぞ!上を見たまえ!」
実況席の上を見ると一人の筋肉質の男が立っていた。
そして男は勢い良く飛び降りた!
更に空中で一回転をして笑いながら実況席に座った。
…おいおい、何がしたいんだよこの人は。
「この私!ミスターナレーターが実況を行うぞ!」
「…という事でミスターナレーターさんと共に実況を行います」
派手なパフォーマンスのせいで相方が引いてるぞ。
というか聞いたとのある偽名だな。
そういえば、そんな名前の一部で人気絶好調中の実況者が居るって本部で聞いた覚えがある。
「それでは!大会のルール説明をします!トーナメント形式で行われ一人で出場したり、チームで出場する事ができます!なおチームで挑んでもいいぞ!ただし!一人しか試合に出れません!相手の降参、または戦闘不能で控え室にワープされた時点で勝利となります!そして…」
実況のリコが続きを説明使用とするとミスターナレーターがマイクを奪い取る。
また、奪い取られたリコはもう一本のマイクをミスターナレーターの前で上下に振る。
まるで『机上に置かれたこれが見えんのかおっさん!』と言いたそうな顔で。
ちなみにこれはミスターナレーターが使う予定だったマイクである。
「犯罪を犯している者が負けたら即牢獄に送られるぞ!それでは第一回戦の対戦カードを開けてみようか!」
「ちょっと待ってください!まだ優勝賞品の説明をしていません!」
「そうか!なら私が説明しよう!」
「いえ!私が説明します!」
「優勝賞品は約六十キロのアダマンタイト!なんと価格にすると三億グリアになります!」
五十万グリア?どれくらい高いんだろだろう?
わからないことはヤマトに聞いてみよっと。
「具体的にどれくらい高いんですか?」
「万札が三万枚」
「はい?まんさつ?」
ヤマトは溜め息をして少しの間だけティナから顔を逸らす。
そして笑顔の裏に怒りを込めてこう言い放った。
「…じゃあ、歴史と算数の時間を始めるよ!」
要するに『これぐらい知っとけよバカたれ』と言いたいのである。
「何か嫌なの始まった!」
「数百年前まではこの大陸にも様々な貨幣が存在していた。もちろん、貨幣価値が違うため物々交換でしかできない。故に貨幣取引をするために価値を統一した国際貨幣のグリアが登場した」
「今までの貨幣は使えないの?」
「極端的に価値がわかりにくい物や不規則な物以外は母国貨幣として、その国のみで使える。だが国をまたぐ活動をしている者は母国貨幣ではなくグリアを使用している」
「冒険家みたいな人達ですね!」
…『みたいな』じゃなくてお前も冒険家だろ!
というかこの話はガキの頃に学校とかで知る話だぞ。
執事とかに教えてもらわなかったのか!
「…そうだな。で、母国貨幣と国際貨幣の変換は商業ギルドでできる。後は省くぞ自分で適当に調べろ。次は算数だ。というか計算の仕方もわからずにどうやって使ってたんだ?」
「最初の宿である程度は学んだ」
まさかとは思うがこいつが金銭的に乏しかった理由って価値がわからなかったせいか?
いくら箱入り娘だからといって限度があるだろ。
それか魔王の家系だから金を知らなくても大丈夫だったとか?
「…これが一万円、五千円、千円、五百円、百円、五十円、十円、五円、一円だ。そして一万円はギルドで規定された回復薬が約六十六本買えるの。その回復薬が約六十六本も買える一万円札を三万枚集めるとあれが買える。おわかり?」
「三億円で回復薬は何本買えるの?」
「二百万本」
「……はい!?あの岩石にそんな価値があるの!?」
「アホか!!神の鉱物の異名を持つアダマンタイトだぞ!百グラム当たり五千円で取り引きされてんだぞあれは!俺だってあんな量は持ってないわ!だいたいな三億円とか商業ギルドの本部ぐらいしか見かけないからな!というか師匠と一緒に行った商業ギルドでの販売価格を思い出せ!」
「確かに!三億円なんて見かけてない!」
こいつが箱入り娘だと改めて実感できるな。
金銭感覚のズレも坊ちゃん嬢ちゃんの特徴てか?
俺もそうならないで良かった。
「一回戦は俺らか」
歴史と算数の時間をしているうちに対戦カードが発表された。
一回戦は俺らだ盗賊団との対戦になっている。
さてと控え室に行って準備をさせるか。
二人は試合の準備をするために控え室に移動した。
とは言ってもヤマトは試合の準備をする必要はない。
だって準備するのはティナだから。
「一回戦はお前が出場しろ」
「はい!?私って登録されてるの!?」
「修行目的でされてるぞ。というか勝てる相手だから安心しろ。そこんとこの線引きぐらいはしてある」
私でも勝てる?いやいや!絶対無理でしょ!
盗賊団が対戦相手ならどう考えても首領が出てくるでしょ!
「一撃で倒す作戦を教える。試合が開始されたらこのセリフを言って急いで俺の所に来い」
ヤマトに教えられたセリフの内容は恐ろしい内容だった。
「えっ!無理無理!絶対言えません!」
まあ、普通は言えないわな。
「とりあえずさっさと廊下に出るぞ」
「考え直してください!無理ですよ~」
「いつまでも逃げ腰なら勝てる戦いも負けるぞ!魔法の干渉ができない結界か…作戦に支障はないな」
控え室から廊下に出て少し歩に出場選手の観戦席に移動した。
観戦席と言っても腰をかけれる椅子が複数あり前に防御用と魔法干渉無効化の結界が張ってあるだけの簡素な場所になっている。
要はチームで出場する選手の待機場だ。
よくここの闘技場はチーム戦を行ってるからな。
「う~っ相手の選手かなり多くないですか」
相手の選手は見える限り約三十人ってとこか?。
負けたら盗賊団は解散されるってこと考えてるか?
まあ、相手の場合は集団で出た方が得なのか。
「盗賊団ハイエナ、戦争や災害等のどさくさに紛れて盗みを行う盗賊だ。人数が多いのは首領のスキルのため」
「知っているんですか?」
「指名手配犯はそれなりに確認している。捕縛の依頼も回ってくるからな」
「両選手!闘技場に入るがいい!熱い戦いを俺達に見れてくれ!」
ミスターナレーターの暑苦しい実況とともにティナと盗賊団の首領は中央に移動する。
「予測通り首領コンフォスが出てきたか。あいつならティナでも倒せる」
「おいおい、ヤマトじゃねえのかよ!」
やっぱり聞かれた!
私なんか出ても勝ちっこないよ!
「私に出ろっと言ったもので…」
「ふざけんな!」
だってしょうがないじゃないですか!
出ろって言われたら出るんですよ!
「もめ事をしているようだが…試合開始!」
こうなったらヤケクソだ!
とりあえず作戦通りに!
「時間をあげるから本気でこい!このドスケベ、変態、ただの性悪盗人!」
「なんだと!小娘、いいだろう望み通り本気でいってやる!スキル魔力接続!後悔すんじゃねぇぞおぉぉぉぉ!!」
さっさとヤマトの方に撤退だ!
何かヤバい状況になってるけど逆転できるはず!
「で、作戦は何ですか?」
「あっち向いてホイするぞ」
「はい~!?」
ヤマトに言われるがまま私はあっち向いてホイをする事になった。
完全に挑発してる感じになるけど何で?
「おっと!ティナ選手あっち向いてホイをしています!ミスターナレーターさんこれはどういう意図でやっているんでしょうか?」
「えっと単なるお遊びですね。まあ、対戦相手のコンフォス選手はかな~りキレてますけどね」
コンフォスがスキルを発動させてから約数分が経過した。
ヤマトならこの間に瞬殺というか開始早々にそうしている。
「終わったぞ小娘!」
「よし!ティナ行ってこい!」
「はい!」
ティナは元気よく返事をするとコンフォスの背後に転移する。
先ほどとは違って敗北の気配がない良い雰囲気だ。
そしてティナはコンフォスに触れて再び元の位置に戻った。
「試合終了です!それじゃあお大事に」
「貴様どういう事だ?俺はまだ倒れていねえぞ」
「逃がすか!おっ…」
コンフォスはティナに攻撃しようとしたが崩れるように倒れる。
そしてもがき苦しみながら口から吐瀉物を撒き散らす。
その一秒後コンフォスの部下も嘔吐する。
更にコンフォスは戦闘不能と見なされ闘技場のシステムによりワープされた。
「いったいなにが起こったのだ!コンフォス選手が突如嘔吐し、戦闘不能とみなされワープされたぞ!」
「ヤマト!やりましたよ!」
「良くやった!」
ヤマトとティナは喜びを分かち合うようにハイタッチした。
「今の状況を全く理解していない奴に説明してやる」
これは説明されなきゃ経験を積んだ上級者以外はわかからないと思う。
その証拠に観客席で少し笑っている人が見える。
結論を述べるとあのスキルはデメリットの方が大きいんだよ。
「スキル魔力接続には一つ欠点がある。それは、他人の魔力を体内に入れることだ」
「それがどうして嘔吐に繋がるんですか?」
ミスターナレーターが聞き返してきた。
「他人の魔力は魔力接続により制御されているがそれを少しでも解除されたらどうなる?もちろん、制御不能となって魔力が暴走し自分の魔力と混じり合う。それが嫌悪感を抱く原因になり吐いたということだ。ちなみに解除の仕方は対象に自分の魔力を強引に入れるだけだ」
部下の方は首領の方で他の部下の魔力と混じり合った自分の魔力が一気に体に戻ってきたからだ。
それでコンフォンスと同様に吐いた。
まあ、これは説明しなくてもわかるだろう。
「あっち向いてホイも作戦だからな」
「どういった作戦なんでしょうか?」
今度はリコが聞き返してきた。
「魔力でパーにいつ首を下に振るのかの指示を書いて、地面に作戦の内容を魔力で書いて伝えた。あっち向いてホイで作戦を伝えたのはコンフォスを怒らせるためだ。戦闘中に目の前でお遊びなんてされたら、誰だってキレるだろ?それと初っ端で作戦を伝える時間がなかった以上」
「そう言うことですか。……これは失礼しました!一回戦勝者ティナ選手!」
会場の観客かティナに惜しみない拍手が送る。
まさか控え室でだだをこねていた選手とは夢にも思っていないだろう。
その後、二人はは王宮の部屋のテレビで観戦するために戻った。
という訳で一回戦はティナの余裕勝ち。
ああ、一回戦しかティナは出ません。
後は化け物しか出ないので。
それではまた次の話で!