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レベル15の異世界英雄記  作者: 花鳥 千
第一部、トルテディア国の双子編
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征輝、奮起する

 アンデッド討伐はうまくいき、王家の墓所は静けさを取り戻していた。

「ユキテル殿、気分はどうですか?」

 エリオットが地面に座り込んでいる征輝に、水筒の水を差しだした。征輝はそれを受け取ると、水を飲む。口の中は血の味が残っており、とても気持ちが悪い。傷のほうはいつも通り治っており、怪我をしたことがまるで嘘のようだ。

「平気です。それよりも、すみませんでした。戦闘中に気絶したりして……」

「いえ、こちらこそゾンビやグールを完全に囲い込むことができなくてすみませんでした」

 征輝は青白く光る花々の草原を見つめた。

「ここのアンデッド達って、しばらくしたら復活するんですよね?」

「はい。三日ほどしたら、復活します。今回は墓所の周囲だけ討伐しましたが、墓所の中にもアンデッド達がたくさんいるんですよ。今しがた戦ったアンデッド達よりも強いので、墓所内までは討伐できないんですが……」

 墓所内もアンデッドの巣窟になっているのか、とぞっとした。

「三日で復活するなんて、これじゃあきりがないですね……」

「そうですね。根本的な原因である亡き王の魔力をどうにかできたらいいんでしょうけれど、それは難しいですし。あとは……、強力な光属性を持つ武器とかなら、浄化できるらしいです」

「浄化?」

「はい。アンデッドの類は倒しても復活してしまうんです。完全に倒そうと思ったら、魂そのものを清めて無害なものにし、屠るしかありません」

「そうしたら復活しないんですか?」

「はい。でも浄化のできる武器なんてそうそうありません。もしもそんな武器があるならば、五百年もこんなふうにアンデッドの討伐に追われたりしていません」

 征輝は青白く光る花々の間に、幾つもある骨の残骸を見た。兵士達が倒したアンデッド達は全て、ただの骨になったのだ。

(僕に触れたゾンビやグールは、どうして骨にならなかったんだろう……)

 そんな疑問を抱いた。



 アンデッドの討伐を終えて兵士達とともに王城へと戻ってきた征輝は、部屋へ戻る前に図書室へと寄った。そこでエリオットが言っていた浄化について調べてみることにする。

(この本かな……?)

 アンデッドについて書かれた本ならば、浄化についても記載されているのではないかと思った。本を手にして椅子に着席すると、ページをめくって目的の内容がある場所を探す。

「……あった。これだ」

 本には挿絵があった。骸骨の体が薄くなって光と化す絵だ。

「アンデッドは浄化される際、骸を残さず無に帰す……」

 本の一文に目を通し、征輝の疑問が確信へと変わった。

(僕は、光属性とアンデッドキラーのスキルがある。もしかしてそのせいで、アンデッドが浄化された……?)

 もしもこれが事実ならば、王家の墓所にいるアンデッド達を永遠に眠らせることができる。

「いやいやいや、たとえ浄化できたとしても、レベルがたった十五しかない僕に何ができるんだよ。さっきだってグールに刺されて気絶したばかりなのに……」

 刺されるのも切られるのも頭をつぶされるのも、嫌だった。痛みを喜んで受け入れられるほど、自らは強靭な精神を持っていない。

 だが、エリオットの言葉を思い出した。

『浄化のできる武器なんてそうそうありません。もしもそんな武器があるならば、五百年もこんなふうにアンデッドの討伐に追われたりしていません』

 五百年も繰り返されている。五百年もの間、彼らは安らかに眠ることができない。

 征輝は机に突っ伏すると、ぎゅっと瞼を閉じた。

(僕はもうこれ以上、強くなる見込みがない。なら、弱いなりにこの世界でできることをしないと)

 征輝は腹をくくった。



 その夜から、征輝はアンデッドとの戦いを想定した練習に打ち込むことにした。

「ユキちゃん、今日は妙に気合いが入ってるね。どうかしたの?」

 夕食後も、征輝は城の裏庭で木剣を構えて戦い方を考えていた。そんな征輝をフェトとエレスは見守る。

「実は、王家の墓所にいるアンデッドとの戦闘を模索しているところなんだ。攻撃をかわしつつこっちの攻撃を当てるには、どうしたらいいかなって……」

「無理だよ。ユキちゃん、レベルが低いのに。素直に逃げたほうがいいよ」

 エレスもいい顔をしていなかった。

「……まぁ、一撃当てるぐらいなら気配遮断を使って不意打ちすればできるかも……? でもどうして急にそんなことを? もしかして誰かに何か言われた?」

 エレスが双眸を細めた。フェトも征輝の表情を見逃すまいと観察をする。

「いや、誰にも何も言われてないよ。……気配遮断スキルかぁ……。確かにそれを使えば姿は隠せるけれど……」

 レベルを上げに森へ行った際、気配遮断スキルを使っているから敵にばれないと油断していたところ、レインボースライムが体からマシンガンのように体液を放出したのだ。征輝はその攻撃をまともに受け、体が穴だらけになった。

(気配遮断スキルは便利だけれど、あれに頼ってばかりじゃダメだ。広範囲の攻撃を食らったらすぐ死ぬ)

 エレスは木のそばに置いてあった木剣を手にすると、征輝の前に立った。

「ユキお兄ちゃん。アンデッドを相手にするなら、僕の攻撃を全てかわせるぐらいにならないとダメだよ」

「え!」

「だって、当然じゃない。僕はレベル五十で、アンデッドは七十以上ある」

「エレス様?」

「僕にボコボコにされたら、アンデッドと戦うなんて無謀な考えは改めてくれるよね?」

「それは……」

「ユキお兄ちゃんは僕達に守られていればいいんだよ」

 エレスは地面を踏み込むと、征輝へと木剣で切りかかった。征輝は木剣でそれを受け止めるものの、背後へ吹っ飛ばされてしまう。すぐに地面から体を起こすものの、エレスは目を丸くしている。

「一発打ち込んで気絶させるつもりだったのに……」

 すぐ近くにいたフェトも信じられないという顔をしていた。

「エレスは手加減してたけれど、あの強さの攻撃を今までユキちゃんが受け止めたことは一度もなかったのに」

 征輝は双子の言葉に慄いていた。

「気絶をさせるつもりだとか、物騒なことを言わないでよー……」

 これまで幾度も強い魔物を相手にしてきたせいか、攻撃の速さに目が慣れてきた感覚があった。まともに食らえば戦闘不能になるのは間違いないが、毎日の特訓の成果が表れてきたのか、徐々にかわし方がわかるようになってきたのだ。

(よし。今の感じでいこう)

 エレスを見れば、天使のような愛らしい笑顔を浮かべていた。征輝もつられて微笑んでしまう。

「ユキお兄ちゃん。ごめんね、侮って。僕、手加減をしすぎたみたい」

「エレス様? え? どうしたの?」

「次はちゃんと眠らせてあげるからね」

 エレスが笑顔とともに放った手加減なしの一撃を受け、征輝は今度こそ気絶した。



 征輝は、またもや双子が泣いている夢を見ていた。

 フェトとエレスが大粒の涙をこぼして泣いているのだ。

 その光景を見ると、心臓が酷く痛んだ。

 抱きしめたくてもできず、頭を撫でたくてもできない。

 まるで体が鉛になってしまったかのようだった。

 双子の背後に見える景色は、紅い珊瑚の森。

「……っ」

 目を覚ませば、寝台の上だった。隣にはエレスとフェトが心地よさそうに寝ている。まだ夜明け前らしく、窓の外は暗い。

(あぁ、そうだ……。エレス様の攻撃で気絶したのか……)

 双子を起こさないように寝台を出ると、出かける支度をした。目的の場所は、王家の墓所。

(墓所までの道のりは難しくないし、一人で行ける)

 厩舎にて馬を借りると、城門に赴いた。門衛には乗馬の練習をしてくると告げ、外に出させてもらったのだ。王家の墓所までは北へ上がっていけばいいだけなので、一心に馬を走らせた。

 そうして、再び王家の墓所へと到達した。青白く発行する花が咲き乱れる場所。

 エリオットの話によれば三日ぐらいはアンデッドは出現しないということだったが、征輝が馬上から降りると数体のゾンビ達が出現した。

(勝とうだなんて思わず、とにかく防備と回避に集中しよう)

 ゾンビ達に取り囲まれないように、できるだけ間合いをとって気配遮断のスキルを用いた。ゾンビ達は征輝がどこに消えたのかわからなくなり、彷徨い始める。

(この隙に……)

 征輝は一体ずつ相手にしようと、他の仲間からはぐれたゾンビと戦うことにした。気配遮断のスキルを解かないまま、ゾンビを背後から剣で切り付ける。すると、ゾンビの体は空気に溶けるように消えて光となった。

「剣での攻撃も有効なのか……」

 今の調子で倒して行こう、と征輝は別のゾンビの元へ向かった。気配を隠したまま一体のゾンビに忍び寄り、剣を振るう。正直何かを斬るという感覚は居心地が悪く、抵抗感がある。けれども自らの攻撃によってゾンビ達が解放されるのであれば、助けたいと思うのだ。

(これで復活をしなければ、浄化されてるってことだよね……?)

 先日トルテディア国の兵に討伐されたアンデッド達の骸に触れると、白い光となって消えた。

「暫く毎日ここへ通おう。今日はゾンビしか出ていないけれど、前回見た限りではグールとかも出るし……」

 あまり長居をしていては、双子に怪しまれてしまう。征輝はゾンビ達を倒し終えると、馬に乗って帰城することにした。


エレス「僕にボコボコにされたら、アンデッドと戦うなんて無謀な考えは改めてくれるよね?」


――その頃のウルバーニ

「エレス様、暴力はよろしくないかと……」

育て方を誤ったと、木陰で泣いていた。

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