レベルが15でカンストしました
翌朝、スキルについて早速調べてみることにした。征輝は一人で図書室へ行こうとしたのだが、フェトとエレスもついてきたのだ。二人は征輝の邪魔をすることなく、大人しく椅子に座って本を読んでいる。征輝もまた、スキルについて説明がされている本を手にすると、それを読み始めた。
(とりあえず、先に自分が持っているスキルについて把握しておこう)
まず、時空断裂というものを調べてみることにした。だがどの本にも記載されておらず、征輝は項垂れてしまう。
(わからないスキルはひとまず置いておいて、他のスキルを調べよう)
災厄という恐ろしい名前のスキルを調べてみることにした。だがこちらも本には記載されておらず、溜息が漏れてしまう。続けて情報共有というスキルを調べてみるのだが。
(……ん? これは、名前が載ってる。でも、詳細なことは記されてないな。どうしてだろう)
征輝が悩んでいると、昨日図書室で会ったメルスが書庫から出てきた。
「おやおや、ユキテル君じゃないか。朝から勉強かい? 熱心だね」
「あ、メルス様、おはようございます」
「おはよう。……何か調べものかい?」
「はい。自分のスキルについてわからないものが多いので、調べていました」
「スキル……。私でよければ教えてあげるよ。どういうスキルを持っているんだい?」
ユキテルはメルスに自らが所有しているスキルを告げた。メルスは興味深そうに両腕を組んで考え込む。
「ほう。私の知らないスキルがいくつかあるな。災厄とか時空断裂、あと隠忍や挑戦なんてのも聞いたことがない。情報共有は、レアスキルだね」
「そうなんですか?」
「うん。とある一人の古代人が持っていたとされている。詳しいことは定かではないんだが」
「古代人……」
確か言語や文字を統一した種族、と征輝は思い出した。もしもその種族が統一してくれなければ、征輝は言葉も文字も通じない世界で困っていたことになる。
「気配遮断と索敵、そしてアンデッドキラーは新しく覚えたスキルなんだよね。なかなかいいスキルを覚えたじゃないか」
「そうなんですか?」
メルスが大きく頷いた。
「気配遮断は隠密行動に適している。敵に気配を察知させないように行動できるから。レベルの低い君にはぴったりだ。索敵は周囲に敵などがいないかどうか探ることができる。これも、君にぴったりだね。……あとは、アンデッドキラーかな。ゴーストやゾンビ系といった敵にダメージを多く与えることができる。彼らは光属性が苦手だったりするから、君には相性がいい敵だろう」
ゴーストやゾンビがいるのか、と征輝は遠い目をした。昔からそういった輩は苦手であり、できれば絶対に会いたくない。
「正直、あまり嬉しくないです……」
そこでフェトが目を輝かせながら征輝を見つめた。
「ユキちゃん、王家の墓所に行けばいいよ」
突如として墓所行きを勧められた征輝。
「え? どうして?」
「墓所にはゾンビやグールやゴーストがたくさんいるからだよ。王家の墓所は王の亡骸に残った魔力に引き寄せられて、ゾンビとかグールとかゴーストがいっぱい集まってくるの。定期的に駆除しないといけないんだけれど、皆アンデッドを怖がって行かないの。だからユキちゃんがやっつけたらいいよ」
駆除とかしないといけないほどに墓所へ群がるのか、と征輝は青ざめた。
「いや、僕もできたら遠慮したいかな……。ちなみに、墓所にいるアンデッドってレベルはどれぐらいなの?」
「七十以上だったかな……。ユキちゃんのレベルが八十ぐらいになったら、行くといいよ」
そんなに強いアンデッドとは、余計に戦いたくないと思った。メルスはそんな征輝の表情を読んで楽しそうにする。
「まぁ、アンデッドは皆苦手だからね。ユキテル君だけじゃないよ。アンデッドには普通の武器なんて通用しないから、アンデッド専用の武器か道具、もしくは人族が用いる光属性の魔法ぐらいしか有効手段がないし。そんな厄介な特徴があるから、進んで戦いたがる人がいないんだよねー」
征輝は顔を引き攣らせた。この国には征輝よりも強い者達がごろごろしているのだ。そんな強い者達が戦いたがらない、というのは相当嫌な魔物なのだろう。
「そうなんですか……」
「アンデッドキラーのスキルがあれば専用の武器なんてなくても攻撃が当たるようになるけれど、アンデッドは通常の魔物よりも攻撃力や防御力が高くてね。あと、ごく稀に死神なんていう化け物も出てくる」
「死神、ですか?」
「うん。死神は低いレベルのやつでも八十はある。即死攻撃の魔法も使ってくるし、本当に厄介な魔物なんだ。過去に一個中隊がたった一匹の死神に全滅させられた、っていう事例もある」
「そ、そんなに恐ろしい魔物なんですか?」
「うん。だから、もしも死神に出会ったら戦おうなんて絶対に思わず、逃げること。いいね?」
征輝としてもそんなおっかない魔物とは戦いたくなかった。そして、死神が出ると噂が立つような場所には行かないでおこう、と決める。
ここでエレスがはいはい、と威勢よく手を挙げた。
「メルス。アンデッドには、ドラゴンブレスも有効だよね?」
「そうですね。ドラゴンブレスは光属性を持っていますから。闇属性であるアンデッドには有効です」
征輝はそんな会話にぼんやりと思った。
(ドラゴンかぁ。いつか見てみたいな)
異世界での生活は不安だらけだが、自分は恵まれていると思った。衣食住に困らず、周囲の者達も友好的だからだ。
昼食後は、再びカリスに連れられて森でレベル上げをすることとなった。
「おい、ヒョロヒョロ野郎。俺の手を煩わせるんじゃねえぞ」
「はい、善処します……」
そう返事をした傍から、征輝は真横から飛び出してきた一角アライグマに飛び蹴りを食らって吹っ飛ばされた。
次に目を覚ました時、征輝は後ろ襟首を掴まれた状態でカリスに地面を引きずられていた。
「ったく、弱すぎだろ、こいつ……」
「……す、すみません。カリスさん」
カリスは征輝が目を覚ましたことを知ると、手を放した。征輝は頭を地面に打つが、後頭部を押さえたまま起き上がる。
「お前な。もうちょっと周囲をよく見るとか、気配を察するとかできねえのかよ! このクソ虫野郎がっ!」
「ごめんなさい……。一応スキルで気配遮断と索敵っていうのを覚えたんですけど、役に立ってないみたいで」
「それは、発動してねえからだろ。持ってるだけじゃスキルってのは使えない」
「そうだったんですか……」
カリスは征輝の頭を思い切り殴った。勿論彼は十分手加減をした状態で。
「お前、もうちょっと頭を使え! 死なないから平気だとでも思ってるのかっ!」
「そんなことは……」
「なんで陛下はこんな奴を。お前みたいな糞野郎だってわかってたら、召喚なんて」
カリスはぐっと言葉を飲み込んだ。だが征輝には彼が何を言おうとしたのか、大体を察する。
(召喚なんてしなかった……。そう言われても仕方ない)
何か目的があって召喚をしたのだろう。だが現れたのは何の力も持たない非力な人間。
「ごめんなさい……」
ただそうとしか言えなかった。自分とて召喚などされたくはなかった、という言葉にだけは逃げたくなかったからだ。
「……行くぞ」
カリスは大股で歩きだした。征輝は立ち上がると、慌てて追いかける。
(僕は弱い。誰かに守ってもらわなくてはいけないほどに)
それが歯がゆく、悔しかった。
前を見れば、カリスは黙々と敵を倒していた。征輝は気配遮断のスキルを用い、気配を消して敵に攻撃されないようにひっそりとついて行く。
「カリスさんも敵をかなり倒していますけれど、レベルが結構上がってるんじゃないですか?」
「いや、自分よりもレベルの低い魔物を倒しても、経験値は微々たるものしか入ってこない。もしもレベルを上げようと思うならば、自分よりも強い魔物を倒さないとレベルは上がらない」
「そうなんですか……」
「あぁ。通常はそうなのに、お前のレベルはあんまり上がらないんだよな」
征輝もその理由はわからなかった。だがふと、昔プレイしたゲームを思い出す。ゲームの中盤や後半になると強力な魔法や技を覚える仲間がいたのだが、ほかのメンバーよりも経験値をたくさん稼がないとレベルが上がらなかったのだ。
(これはゲームの話ではないし、そもそも僕は魔力ゼロだから魔法自体使えないんだけれど……)
征輝はカリスの戦い方を観察しようと、真剣に見続けた。
そうして夕暮れ。
征輝はカリスとともにノーブルセレスト城へと戻ってきた。門をくぐると、城の前で待っていたフェトとエレスが駆け寄ってきた。
「おかえり!」
双子が声を揃えて出迎えてくれた。征輝は笑顔を浮かべると、二人の頭を撫でる。
「ただいま、フェト様、エレス様」
ウルバーニも一緒に待っていたらしく、カリスへと話しかけた。
「カリス。今日はどうだった?」
カリスは首を横に振ると、大きな溜息を漏らした。
「ダメです」
「何かあったのか?」
「あのクソガキのレベル、十五でストップしたまま全く上がらなくなりました」
「な、なんだとッ?」
ウルバーニは征輝を凝視した。征輝は気まずそうにしてしまう。
「ごめんなさい。カリスさんが頑張って魔物をたくさん倒してくれたんですが、レベルが上がらなくなってしまいました……」
「バカな……。レベルが上がらないなんて、そんなことが……」
カリスは吐き捨てるかのように征輝を睨みつけた。
「冗談みたいですが本当です。あいつのレベルは十五で完全にストップですよ」
征輝自身もどういうことなのかわからなかった。レベルが十五で止まってしまうなど、自分でも予想外だったからだ。
読んでくださり、本当にありがとうございます。
続きは、明日の朝6時に更新予定です。