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レベル15の異世界英雄記  作者: 花鳥 千
第一部、トルテディア国の双子編
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レインボースライムに飲み込まれました

 昼食後、フェトとエレスは勉強があるということでウルバーニに連れて行かれてしまった。征輝は剣の特訓や乗馬の練習前に、王宮内にある図書室へとやってきた。

「うわぁ、すごく広くて大きい」

 まるで本の洪水だった。三階まで吹き抜けになった天井に、壁という壁に設置された書架にはぎっしりと本がある。王宮の魔導師達もよく利用するらしく、図書室は人が多かった。

(魔法について、ちょっとでも勉強しないと)

 異世界人である征輝の姿は予想以上に目立つらしく、ちらほらと視線を感じた。征輝は書架の前に立つと、本の表紙などを見て驚く。

「日本語だ……」

 異世界だというのに、日本の言葉が通じることに疑問を感じていた。そして本などの文字が読めることも。

(どういうことなんだろう……)

 不思議に思っていると、背後から声をかけられた。

「やぁやぁ、君が噂の異世界人だね」

 話しかけてきたのはダークエルフの女性だった。黒いローブを着用しているが、スカートにはスリットが入っており、胸元は大きく開かれているために胸の谷間がくっきりと見える。モスグレーの髪の毛は後ろで一括りにしており、知的な色っぽさがある。

「あなたは……」

「私はメルス・アーウィン。ウルバーニと同じ、三大武将という役職についている。よろしく、ユキテル君」

「よろしくお願いします」

「本を見に来たのかな?」

「はい。魔法について何も知らないので、調べてみようと思ったんです」

「そうか。……会話も成立しているようだし、文字も問題なく読めるだろう」

「それは、どういう意味ですか?」

 メルスは肩を竦めた。

「難しいことじゃない。遥か昔、古代人が言語と文字を統一したんだよ。この世界には大きく分けて三つの大陸があり、多種多様な種族が暮らしている。かつてはそれらの種族達と言語や文字の壁があったんだが、古代人が言語と文字を統一するシステムを世界に組み込んだのだよ」

「古代人って、凄いんですね。そんな魔法が使えたなんて」

「うん。古代人について研究はされているが、魔法に長けていたことだけが判明していて、どういう暮らしをしていたのか、なぜ滅んだのかは一切の謎に包まれているんだ」

「へー」

「もしも魔法に関してわからないことがあれば、私に相談をしてほしい。普段はこの図書室にいることが多いから、いつでも聞きにくるといいよ」

 征輝は頭を下げた。

「は、はい。有り難うございます」

 メルスは背を向けると、立ち去って行った。征輝はひとまず本棚を眺めながら歩き、幾つか魔法に関する本を抜き取っていく。

(これだけあればいいかな……)

 図書室にある椅子に座って読んでみることにした。文字が統一されているならば本を読むのは容易いだろうと思ったのだが、異世界独自の単語などが並び、征輝は辞書と格闘することとなった。

(うーん……、やっぱり魔力がないと使えない魔法ばっかりだ。魔力がなくても使える魔法もあるみたいだけれど、それに見合ったスキルを持っていることが必須条件のようだし)

 悲嘆に暮れていると、ある文章に目が留まった。それは、レベルが上がれば新たにスキルを覚える可能性がある、ということ。

「新たにスキルを覚えれば、魔力がなくても使える魔法を習得できるかも……」

 どのみちレベル上げをするつもりだったのだ。征輝は図書室の時計に目を向けた。もうじき午後二時になろうとしている。

(そろそろ乗馬の訓練の時間だ)

 征輝は椅子から立ち上がると、書物を本棚へと戻した。



 ウルバーニは双子の教育担当や他の仕事をしており、終始征輝を相手にしていられるわけではない。その為、征輝に訓練を施す指導役がつくこととなった。

「よぉ、ヒョロヒョロ野郎。俺はカリス・デスターだ。よろしくな?」

 カリスは、征輝と年が近そうな青年だった。目つきが鋭く、黒い髪の毛はツンツンと尖っている。腕や耳には金の装飾品がついており、背には大きな剣を装備していた。

「初めまして、風師征輝です。よろしくお願いします」

「ウルバーニ様に頼まれたから仕方なくお前に稽古をつけてやるが、正直俺はお前なんて興味ねぇ」

「は、はぁ……」

「はぁじゃねえだろ、舐めてると殺すぞ」

 征輝は冷や汗をかいた。

(うぅ……、なんか怖そうな人だ。やだなぁ……)

 ここは摩擦を避けるために、謝っておくことにした。

「すみません……」

「とりあえず、俺とお前、グループ登録するぞ。やり方は知ってるか?」

「いえ……」

 カリスは舌打ちすると、征輝を睨みつけた。征輝はその視線に震えそうになってしまう。

「自分のステータスを見ると、仲間っていう欄がある。そこに視線を合わせると、グループ欄が表示されるようになる。お前はまだグループがいないだろうから、欄は空白になっているはずだ」

「は、はい。誰の登録もされていません」

「空白の下に、グループ登録ってあるだろ。それを選んでから俺を見てみろ。そうしたら俺を登録するかどうか選択肢が出るはずだ」

 征輝は言われた通りにやってみた。


【カリスを仲間にしますか?】


・はい

・いいえ


 征輝は『はい』を選択した。すると空白だった欄にカリスの名前が浮き上がる。


【カリス・デスター】 レベル76 大剣


「グループ登録ができました」

「じゃあ、早速外の魔物をぶち殺しに行くぞ」

「え?」

 カリスは征輝に向かって思い切り凄んだ。

「こっちはお前みたいに暇じゃねえんだよ。お前が外の魔物と鉢合わせしても逃げられるように、ある程度レベル上げに付き合ってやる、って言ってるんだ」

「は、はい……、ありがとうございます」

「ったく、なんでこの俺が人族なんかを……」

 征輝は何とも複雑な気持ちになった。というのも、魔族の中には人族に対していい感情を持っていない者がいる、という話を思い出したからだ。もしも知らないままだとすれば不条理を感じずにはいられなかっただろう。

(そもそも、僕は与えてもらっているばかりで何もお返しができていないんだ。不平不満を言える立場にない)

 カリスに連れられて、征輝は城の外へと出た。そのまま城の東に広がる原初の森という場所へ連れてこられる。見た目は至って普通の森に見え、日本にいるのではと錯覚してしまいそうになる。

「カリスさん、この森でレベル上げをするんですか?」

「あぁ。この森の敵は珊瑚の森に比べてレベルが低いからな。お前は俺の足手まといにならないようにだけしておけ。魔物は俺が倒して経験値を稼いでやる」

「わ、わかりました」

 了承した刹那、茂みから虹色に発光するゼリー状の魔物が五体出現した。


◆レインボースライム レベル53


 征輝の記憶が正しければ、スライムはロールプレイングのゲームで序盤に登場する敵だ。だがストーリーが進むにつれてレベルの高いスライムも登場するようになる。

(レベル五十三のスライムなんて、可愛くない!)

 征輝がそんな感想を抱いている傍で、カリスは両手の拳をボキボキと鳴らしていた。

「おー、丁度いい雑魚が出てきたな」

 極悪な笑みを浮かべるカリス。彼にとってレベル五十三のスライムは雑魚らしい。

「カリスさん、武器は使わないんですか?」

「こんな連中に武器なんざいらねえよ。拳だけで十分だ」

 そう言うなり、カリスは駆け出した。そして先ほど宣言した通り、拳だけでレインボースライムを吹っ飛ばす。

(ひえ……、怖い……)

 得体のしれない魔物達を、一発拳を打ち込んだだけで消滅させていってるのだ。

「……っ! お前、ボーッとすんな!」

「え?」

 カリスから怒鳴られたものの、気付くのが遅かった。征輝は背後から音も立てずに忍び寄っていたジャンボレインボースライムにより、飲み込まれてしまった。



 異世界に来て、両親のことが気になった。行方不明になった自分を、絶対に心配しているだろう、と。

(母さん、父さん、ごめん。僕……)

 ぼんやりと意識が覚醒してくると、征輝は妙に息苦しいことに疑問を覚えた。

「うぐっ、……っ、なに……?」

「あぁ? やっと目を覚ましたか」

「え?」

 征輝は後ろ襟首をカリスに掴まれた状態で、ずるずると地面を引きずられていた。両足も尻も引きずられていたせいで、物凄く痛い。

「ったく、スライムになんざ飲み込まれやがって。俺の手を煩わせるな」

「すみません……」

 カリスが征輝の後ろ襟首を放すと同時に、征輝は背後に倒れた。だがすぐに体を起こし、自分の服がぐっしょり濡れているのを確認してげんなりする。

「お前が居眠りしている間、魔物を狩って経験値を稼いでおいてやった。感謝しろ」

「有り難うございます」

「とっとと行くぞ。ヒョロヒョロ野郎」

「は、はい」

 返事をして僅か三秒後、今度は人食い蟻の群れに遭遇した。カリスはやはり素手で人食い蟻を粉砕していく。

「お前は隅っこにでも隠れてろ! 足手まといになるだけだしな!」

「すみません!」

 言われた通り、木の陰に隠れることにした。

(歳が近そうに見えるのに、凄いなぁ……。僕とは大違いだ)

 何もできない自分が歯がゆく、辛かった。せめて後方支援でもできればいいが、何をしても迷惑になるのは目に見えている。

「お前っ、ボーッするなって言っただろうが!」

 突如カリスから怒鳴られた。

(え?)

 カリスに問いかける前に、征輝は背後にいた人食い蟻に酸を吹きかけられた。意識があるまま、手足がどろどろに溶かされていくのだ。

「うわあああぁぁぁぁあああっ!」

 発狂したように叫び声を上げた瞬間、トドメとばかりに頭から酸をかけられ、征輝の意識は完全に消えた。



 カリスは征輝を肩に担いでノーブルセレスト城へと戻ってきた。人食い蟻の酸のせいで衣服がどろどろに溶けてなくなってしまった征輝は、現在カリスの上着を着用している。

 カリスが前門をくぐると、フェトとエレスが一直線に駆け寄ってきた。

「ユキちゃん! どうしたの!」

「ユキお兄ちゃん! 大丈夫?」

 カリスは不安そうにしている双子へと微笑んだ。

「大丈夫ですよ。こいつ、気を失っているだけなので」

 そう言えば、双子はほっとした。

「ユキちゃんの眼鏡、また壊れたみたいだね。修理してあげないと」

「そうだね。眼鏡がないと、ユキお兄ちゃんが困るものね」

 少し遅れてウルバーニがやってきた。

「カリス。どうだった、レベル上げのほうは」

 カリスは肩を竦めた。

「普通高レベルの魔物を倒したら、レベルの低い仲間はどんどん成長していくんですけど、どういうワケかあまりレベルが上がりませんでした」

「なに……?」

「レベル五十から五十五ぐらいの魔物を三百体倒したんですけど、こいつのレベルはまだ十で止まってます」

「それは面妖な……。通常それだけ倒したら、とっくにレベルが三十を超えていてもおかしくはないというのに」

「異世界人であることと関係があるかもしれないですね」

 ウルバーニは両腕を組んで考え込んだ。

「……そうか。わかった。今日はすまなかったな。またユキテル殿のレベル上げに付き合ってあげてほしい」

「はい。それでは、俺はこいつを部屋まで運んできます」

 カリスは軽く頭を下げると、城内へ向かって歩き出した。フェトとエレスは征輝に付き添うために、一緒に歩き始める。



 征輝は夢を見ていた。

 フェトとエレスが両目からぼろぼろと涙を流して泣いている夢を。

 泣かないでほしいのに、二人を抱きしめることも涙を拭うこともできない。

(二人とも、泣かないで)

 フェトとエレスは泣き止むことはなく、ずっと悲しんでいた。

「……っ」

 夢から目を覚ますと、征輝はすぐに起き上がろうとした。だが両腕に重みを感じ、左右を確認する。

「……、フェト様に、エレス様?」

 双子がユキテルの腕を枕にして眠っていた。室内は窓から差し込む星明りに照らされており、双子の表情が見える。

(涙……?)

 フェトとエレスの頬に涙が伝っていた。どうして二人とも泣いているのか。

 征輝にはわからなかったが、二人の体をそっと抱き寄せた。すると双子は征輝の体に密着するように眠る。

(そういえば……、この二人の両親ってどうしているんだろう。フェト様とエレス様、いつも僕の部屋で眠っているんだけれど……)

 周囲から敬称をつけて呼ばれていることから、身分ある家の子だというのはわかっている。けれども、征輝は二人がどういう素性の子供なのか全く知らないのだ。

(僕は、知らないことばっかりだ)

 カリスに連れられて森でレベル上げをしていたはずだというのに、いつ戻ってきたのかさえも記憶がない。ひとまず自分のステータスを確認してみるのだが。


【ユキテル・カザシ】 レベル10 デュアルフォトンセイバー

攻撃力 30

防御力 50

敏捷 80

魔力 0

魔力耐性 20


【スキル】

『詠唱無し』『魔力消費無し』『召喚代償無し』

『魅了』『盟友』『盟約』『災厄』『光無効』『闇無効』『光属性』『闇属性』

『自動結界』『時空断裂』『情報共有』『気配遮断』『索敵』『アンデッドキラー』

『隠忍』『挑戦』


 レベルが上がり、新たにスキルを習得していた。

(気配遮断と、索敵、それにアンデッドキラー? 隠忍とか挑戦って、どういうスキルなのかな。自分でも把握していないスキルが多いし、明日、図書室で調べてみよう)

 魔力は相変わらずゼロのようだった。

 落ち込まないと言えば嘘になるが、征輝はカリスの戦闘を思い出す。武器を使わず、素手でも十分に強かったのだ。

(頑張らないと……)

 魔物とはいえ、生き物を殺すことには抵抗がないわけではない。だが戦わなければこちらがやられてしまうのだ。異世界に住む魔物は好戦的なものが多く、油断をすればすぐに倒されてしまう。

(……それはそうと、どうして僕はこの世界に呼ばれたんだろう)

 未だにその理由を、征輝は知らなかった。


読んでくださり、ありがとうございます。

続きは、本日22時に更新予定です。

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