魔力ゼロだったので笑われました
食事前に入浴させてもらえることになった。
(召喚、か。カツ君も、もしかしてこの世界のどこかにいるのかな)
征輝がこの世界へ来る前、魔法陣らしきものを二つ遠目に見たのだ。克人が吸い込まれたものを合わせれば三つとなる。
「ユキちゃん、こっちだよ!」
フェトがぱたぱたと廊下を先導して、浴場へと案内してくれた。使用人の女性も案内役として付き添ってくれているのだが、普通の人間と比べてとても耳が長かった。赤味のない白い肌に、髪はモスグレー、瞳は世にも美しい夕日色をしている。エレスの説明によればダークエルフという種族らしく、古来よりトルテディア国に仕える狩猟民族なのだとか。
「脱衣所はこちらになっております」
「有り難うございます」
ぺこりと頭を下げ、征輝は脱衣所へと入った。だがそこにフェトも一緒にいることを知り、征輝は目をぱちぱちさせてしまう。
「フェト様は、外で待っててね」
周囲が二人に敬称をつけている為、征輝もそれに倣って話しかけた。
「やだ、私もユキちゃんと一緒に入る」
「い、いけません!」
いくら年下とはいえ、少女と一緒にお風呂に入るなど言語道断。征輝はとんでもないと首を振った。フェトを脱衣所の外へ締め出すと、扉に鍵をかける。
「僕はいいよね、ユキお兄ちゃん」
笑顔を浮かべるエレス。当然、男同士であるからして問題はない。
征輝は服を脱いだ。エレスも自分でフリルブラウスのボタンをはずして脱ごうとしているのだが、とてももたついていた。
(もしかして、自分で服を脱ぐことに慣れていないのかな)
ここへ来る途中何人かの兵士らしき人物などとすれ違ったが、皆一様に双子を敬っていたのだ。身分ある子供というのは間違いないだろう。
「一人で脱げる?」
「で、できるよ! 平気だよ!」
ボタンを全てはずし、首元のスカーフもはずし、エレスは自分で服を全て脱いだ。そして征輝へときらきらした眼差しを向ける。明らかに、褒めて、と訴えている表情だ。
「よくできました。偉い、偉い」
征輝がエレスの頭を撫でると、エレスは満面の笑みを浮かべた。
(なんだか弟ができたみたいだ)
征輝はエレスとともに浴場へと足を踏み入れたのだが、あまりの豪華さに度肝を抜いた。大理石のようなタイルで室内は覆われ、円形になった浴槽は直径二十五メートルはある。湯の噴き出す部分は鯉に似た魚の口であり、中央にはドラゴンらしき像もある。
「凄く大きいな。まるで温泉施設みたいだ」
「ユキお兄ちゃん、ここの湯は温泉だよ!」
どうやら温泉らしい。なんとリッチなのか。征輝は腰が引けつつも、まず体を洗うことにした。エレスは征輝のすることを真似したいらしく、征輝が海綿に似たスポンジ状のものを石鹸で泡立てて体を洗い出せば、エレスも真似をして自分の体を洗う。
「いつもお風呂に入るときはどうしているの?」
「んっと、使用人に洗ってもらってるよ!」
やはりそれは女性だろうか、とちらりと思った。
「へぇ、そうなんだ?」
「うん。体を専門で洗ってくれる男の人と、体をマッサージしてくれる男の人と、服を着替えさせてくれる男の人」
「全員男なんだね?」
「当たり前だよー。だって僕、男だもん」
いくら異世界とはいえ、そこまで甘くないか、と征輝は思った。体と頭を綺麗に洗った後は、エレスと一緒に湯へとつかる。意外に深く、征輝が座って丁度湯が肩へくる。エレスは膝立ちをしており、嬉しそうにずっとニコニコしていた。
「とりゃあっ!」
何とも可愛らしい声が背後から聞こえてきた。征輝が振り返ると、そこに湯浴み着姿のフェトが浴室へ入ってきたところだった。
「ぶふぉっ! フェ、フェト様っ? 何をしてるの?」
「エレスばっかりズルイ! 私も一緒に入る! とうっ!」
フェトは浴槽へと思い切りジャンプして飛び込んだ。大きく飛沫が上がり、エレスと征輝は頭から湯をかぶる。
「もう、フェト! 飛び込んだら危ないよ!」
フェトは鼻から湯が入ってしまったらしく、思い切り咳き込んで涙目になっていた。征輝は腰に布を素早く巻くと、フェトの背中を撫でる。
「大丈夫?」
「鼻痛い……」
「飛び込むからだよ。危ないから、飛び込んだりしちゃダメだよ」
「うん……」
フェトを慰めた後、三人並んで仲良く湯に浸かった。
その後風呂から上がる際、先にフェトに脱衣所を譲り、エレスと征輝は後から着替えたことは言うまでもない。
体を清めた後は、食事だった。食事部屋で昼食をすることになったのだが、征輝の想像通りナイフとフォークが幾つも並ぶコース料理だった。天井には豪奢なシャンデリアがぶら下がっており、真っ白なテーブルクロスの上には燭台が設置されている。夜になれば使用されるのだろうが、現在は窓から差し込む日差しがある為に必要ない。
双子は流石というべきか、お上品に食事をしていた。征輝もフォークやナイフは慣れていないが、双子を見習ってできる限り上品に食事をする。野菜は見たこともないものばかりであり、肉や魚も何かはわからなかったが、どれも味付けは絶品だ。
「ユキちゃんの国ではどんな食事をしているの?」
フェトの問いかけに、征輝は日本の料理を思い出した。
「主食は米かな。パンも食べるよ」
米やパンと言って伝わるだろうか、と征輝は不安になった。
「パンって、あれ?」
ダークエルフの使用人が、籠に入ったパンらしきものを運んできた。焼き立てらしく、いい香りがしている。征輝は白い更に乗せられたパンをちぎって食べてみるのだが、味は正しくパンだった。小麦の味がしており、風味がよい。
「うん。パンだ」
「米も知ってるよ! 昔、異世界から来た人族が持ってきた穀物でしょう?」
「そうなの? じゃあ、米もあるんだ?」
「あるよ! ユキちゃんのために、明日用意してあげるね!」
「あ、そんな気を遣わなくてもいいよ。こうして食事をさせてもらっているだけで十分に有り難いし」
「大丈夫! 私もお米が食べたいから!」
風呂から上がった後、フェトはずっと上機嫌だった。
「そういえば、さっき、昔異世界から来た人族、って言ったよね。その異世界から来た人って、どうなったの? 元の世界に帰ったの?」
フェトはわからない、と首を振った。エレスも首を振る。
「書物によれば、前回異世界人がこの世界へ訪れたのは、五百年前らしいよ。だから、ユキお兄ちゃんは五百年ぶりに召喚された、ってことになるみたい」
「五百年?」
「うん。……数百年に一度、この世界と異世界がすごく近くなる日があるんだって。その時に召喚の魔法を使うと、異世界から異世界人を呼べるみたい」
「数百年に一度って……」
「一週間前のことだよ」
もしもこの世界と異世界が近くなったときにしか日本へ帰れないのだとすれば、絶望的だと思った。数百年に一度にしか無理ならば、その頃を迎える前に征輝は寿命で死んでいるからだ。
「あの、南方にも召喚された人がいるんだよね。それも、三人。確かめに行く術ってないのかな」
「それは難しいだろうな」
征輝の疑問に答えたのは、白い虎の顔を持つウルバーニだった。食事部屋へ入ってきたところであり、テーブルの傍へと寄ってくる。
「どうして、ですか?」
「我らが暮らすトルテディア国は二つの国と隣接しているのだが、南方のミュルサンス国とは敵対している。人族の国へ行くにはその敵対している国を必ず抜けねばならず、そこを通らずして人族の国へ行くのは難しい。ミュルサンス国を通らずに東の大陸を経由する方法もあるが、それだと膨大な時間がかかる」
「そんな……」
「おまけにこの国の周辺にいる魔物達はとてもレベルが高く、ユキテル殿が一人で外に出るのはあまりにも危険だ」
これにフェトがうんうん、と頷いていた。
「だって、ユキちゃんのレベル、一だもん。すぐ死んじゃう」
エレスも同意していた。
「そうそう。ユキお兄ちゃん、既に一回死にかけてるし。瞬殺されちゃう」
征輝は魔物ときいて、はっとした。
「そういえば、魔物を見たときに名前とレベルが表示されていたような……」
ウルバーニは自身の顎を撫でていた。
「この世界では、意識してみれば相手のレベルを見ることができる。試しに私のレベルを見てみるといい」
征輝はできるかな、と躊躇いつつもウルバーニを見つめた。するとポップが現れる。
◆ウルバーニ レベル83
「あ、出ました。レベル八十三です」
「うむ。この世界では、レベルは数値化されて見えるようになっているんだ。遥か昔、特殊な種族がいた。今は古代人と呼ばれている者達なのだが、彼らは自分達が安全に暮らせるようにと、そのようなシステムの魔法を世界に組み込んだらしい」
「へー」
「ごく稀だが、星マークがつく魔物がいる。それはレアな魔物で、倒せば経験値が驚くほど入ってくる。……まぁ、逃げ足が速かったり通常の魔物よりも強かったりするから、倒せる確率は凄く低いんだがな」
某ゲームに出てくるメタルのモンスターみたいだ、と征輝は思った。
「レベルは、百が最高なんですか?」
「人族などは、一般的にはレベル九十九が限界とされているな。だが魔王級や一部の魔物などは、レベルが百を超えるものも多く存在している」
征輝はちらっ、とフェトとエレスのレベルを見た。二人ともレベルが五十であり、幼いながらも征輝など到底及ばない強さを持っている。
「二人とも、凄いね。レベル五十だなんて」
フェトとエレスは揃って照れくさそうに笑った。ウルバーニは説明を続ける。
「ユキテル殿。今度は自分へと意識を向けてみてください。そうすれば、自分の情報が見れるはずです」
征輝は自らへと集中してみた。すると目の前に3D画面でも見ているかのように情報が表示される。
【ユキテル・カザシ】 レベル1 デュアルフォトンセイバー
攻撃力 3
防御力 5
敏捷 8
魔力 0
魔力耐性 2
【スキル】
『詠唱無し』『魔力消費無し』『召喚代償無し』
『魅了』『盟友』『盟約』『災厄』『光無効』『闇無効』『光属性』『闇属性』
『自動結界』『時空断裂』『情報共有』
(うわ。なんだかいっぱい情報が出てきた。攻撃力とかの欄はおそらくそのままの意味だよね。じゃあ、スキルってなんだろう……。災厄とか、なんだか不吉な名前が表示されているんだけれど……)
征輝はわずかに首を傾げた。
「ステータスが表示されたと思う。攻撃力から魔力耐性まで数字があると思うが、これは現時点における己の強さだ。各数字はレベルが上がるごとに上昇していく」
思った通りだった。
(敏捷だけちょっといいけれど、あとは酷いなぁ……)
運動が得意というわけではないが、全く苦手というわけではなかっただけに、征輝は少しだけショックを受けた。
「スキルについてだが、これは二種類に分類される。まず、所有している者が多いポピュラーなスキル。たとえば炎や水、風などの『属性』というスキルだ。もしも『炎属性』というスキルを持っていれば、自身の炎魔法の攻撃力が上がり、敵から受ける炎のダメージが軽減される」
「へー」
「次に、レアスキル。持っている者が少なく、あまりお目にかかれないスキルのことを言う。ユキテル殿はどんなスキルが表示されているのだろうか」
征輝は隠すことなく、自らのスキルを話すことにした。
「えっと、『詠唱無し』『魔力消費無し』『召喚代償無し』『魅了』『盟友』『盟約』、それから『災厄』『光無効』『闇無効』『光属性』『闇属性』『自動結界』『時空断裂』『情報共有』です」
この発言にウルバーニが驚愕した。
「なんと! さすがは異世界人! そのようにレアスキルをたくさん持っているとは。私が聞いたことのないスキルも幾つかある」
「そうなんですか?」
「あぁ。災厄と時空断裂は初めて聞くな。……詠唱なしは、魔法を行使する際に詠唱を全く使用せずに発動できるスキルだ。魔力消費なしは、魔力を消費せずに魔法が行使できる。魔導師達からは妬まれても仕方のない反則スキルだ」
「なんだかとてもいいスキルですね」
「あぁ。召喚代償なしは、本来何かを召喚する際に代償、つまりそれに応じた供物が必要になる場合があるが、これはそれがいらなくなる。盟友は盟約とセットになっていて、盟友関係を結んだ者を、盟約のスキルを用いて召喚できるようになる」
とてもいいスキルだらけなのではないのか。征輝は目を輝かせた。
「魅了ってなんですか?」
「魔法に例えると、チャームだな。相手を魅了し、意のままに操るスキルだ。……うーむ。これだけのスキル、とても素晴らしい。もしかすると、征輝殿には魔導師の才があるのかもしれないな。そういえば、征輝殿の魔力数値は、いかほどなのだろうか」
征輝は自らのステータスを見た。
「魔力は、ゼロです」
こう発言した瞬間、双子が爆笑した。フェトは両手でテーブルをバンバン叩き、エレスはお腹を抱えている。
「ふふふ、魔力ゼロ! ユキちゃん、魔力ゼロ!」
「あははははは! だ、だめだよ、フェト、笑っちゃ……」
征輝は何がなんだかさっぱりわからなかった。ウルバーニは気まずそうに視線をそらしてしまう。
「あ、あの、ウルバーニさん? 魔力ゼロって、悪いんですか?」
「悪くはないと思うんだが……、そうだな。魔力ゼロということは、魔法は一切使えないということだ。いくら魔力消費なしのスキルを持っていても、魔力がゼロでは魔法を行使することはできない。……基本的にレベル1の時点で魔力がゼロの者は、レベルを上げても魔法が使えるようになる可能性は低いとされている」
「え……?」
「あ、稀にレベルが上がったら魔法を使えるケースもある。……だが、殆どの場合は魔法が使えぬまま生涯を終える」
フェトはまだ笑っていた。
「ユキちゃんのスキル、全部ゴミスキルだ!」
ユキテルは半泣きになった。ゴミとまで呼ばれてしまったことに、深く傷つく。
ウルバーニは見かねて注意をする。
「フェト様。ゴミスキルだなんて、あまりにも失礼ですよ」
「だって、宝の持ち腐れだよー? 魔法が使えないのに、魔法特化のスキルばっかりだもん。魔法が使えないのに魔力が必要なスキルばっかりだなんて、ゴミだよ」
征輝は目頭を押さえて泣きそうになるのを堪えた。
(い、いや、元々普通の人間には魔法なんて使えないんだし、おかしくないよ。それが普通だもの)
だが魔法が使えるという世界にきて、魔法が一切使えないのは、辛かった。
「……あ、そういえば、デュアルフォトンセイバーって書かれているんですけれど、これはなんでしょうか」
聞いたことのない名前だった。どういう武器なのかも全く想像がつかない。
「それは、適性のある武器だろう。ユキテル殿にはフォトンセイバーの適正があるということだ」
「じゃあ、この武器だったら扱えるっていうことですか?」
「あ、いや……、フォトンセイバーは魔力を流し込んで使う武器だ。魔力のないユキテル殿は、扱えないだろう」
征輝は今度こそ轟沈した。エレスは流石に気まずくなったらしく、慌てて取り繕う。
「ユキお兄ちゃん、デュアルってことは、両手で剣を使えるんだね! デュアルの適正はちょっと珍しいから凄いよ!」
幼い子に慰められ、征輝は元気を出そうと思った。
「う、うん、ありがとう……」
ウルバーニはわざとらしく咳払いをした。
「それはそうと、ユキテル殿。君を召喚したのは我が国の王でな。君には衣食住が提供されることになっている」
「はい」
「こちらが勝手に召喚しておいて申し訳ないのだが、君には仕事をしてもらいたいと思う」
「仕事、ですか?」
征輝は学生の身であり、仕事はおろかアルバイトもしたことがなかった。
「うむ。国賓の立場にあるユキテル殿にこのような仕事をしてもらうのは気が引けるのだが……」
人間を倒しに行け、など無茶な仕事をさせられるのでは、と征輝は怯えた。
「どういう、仕事内容でしょうか」
「子守だ」
「こ、子守?」
「そうだ。双子のお目付け役をしてもらいたい。勿論終始ずっとというわけではなく、ユキテル殿には勉強もしてもらう。この世界のことや剣の使い方、乗馬の仕方やワイバーンを乗りこなす訓練」
勉強をさせてもらえるのは有り難い。だがしかし……。
「剣も、学ばないといけないんですか?」
「当然だろう! 男子たるもの、己の身は己で守り、肉体を高みまで極めるべきだ。……まぁそれは建前として、正直なところこの国の周辺にいる魔物達はとても強い。だから万が一外へ出た場合、最低限生き残れる術を学んでほしいのだ」
そうだったのか、と征輝は自らを恥じた。
「すみません、僕の為に」
「まぁ、勝とうなどと、そこまで気負わなくていい。せめて、逃げられるようにさえなればいい。この周辺はレベル五十から八十以内の高レベルの魔物が多いからな。まぁ、そのおかげで人族達やオーガ族などが攻めてこられないんだが」
ここで征輝は、ふと疑問に思ったことがあった。
「この国に暮らしている人達も、皆ウルバーニさんみたいに強いんですか?」
そう問いかけると、フェトが首を振った。
「ウルバーニは特別だよ! 魔王様の側近として仕えるのを許されるぐらい、強いんだよ!」
ウルバーニは見るからに挙動不審になった。
「あっはっはっは! フェト様、魔王様とはなんです。魔王様なんて、この国にいるはずはないでしょう!」
「あ! うん、そう! 魔王なんていないよ! 普通の王様しかいないよ!」
「おそらく、おとぎ話などの本を読みすぎでしょうな」
チラッチラッと明らかに征輝を意識するウルバーニ。
(あぁ、これ絶対魔王がいる反応だ。魔王がいるんだ……)
ここは知らないふりをしておいたほうがいいのだろう、と征輝は敢えて何も言わなかった。
「じゃあ、この国の人達はそれほど強い人はいないんですか?」
「そうだな……。大体五十から七十ぐらいのレベルの者達が多いな」
「それって、かなり強いのでは……」
「まぁ……、人族の兵士の平均レベルが三十ぐらいだと考えると、強いかもしれないな」
わはは、と笑うウルバーニ。
征輝は、とんでもない場所へ来てしまった、と頭を抱えた。たとえるならば、レベル一でラスボスがいるエリアからスタートしたようなもの。唯一救いだったのは、ラスボスエリアの住人が友好的だということか。
「うぅ……。カツ君もこの世界にいるかもしれないから、探しに行かないといけないのに。今のレベルじゃ絶望的だ」
カツ君、という名前に、フェトとエレスが反応を示した。
「ユキお兄ちゃん。カツ君って、誰?」
「水明台克人といって、僕の親友なんだ。僕がこの世界へ来る前に、どうもその親友も召喚されたみたいなんだけれど、行方がわからなくて……」
「もしも召喚されたのなら、人が住む国にいるだろうね」
ウルバーニも肯定していた。
「人の国には偵察を放っている。現在召喚された人物について調査をさせているところだし、ユキテル殿の親友の行方もわかるかもしれない。もしもその親友について情報が入ってきたら、君にも教えよう」
「いいんですか? 有り難うございます!」
征輝は座ったまま頭を下げた。
「いや、これぐらいしかできず、むしろ申し訳ないぐらいだ。ユキテル殿を一方的にこの世界へ召喚したのは我々なのだし。我々が協力できることがあれば喜んで力になるから、何でも相談してほしい」
不安だらけだったが、なんとかやっていけそうだと思った。
食事の後は、中庭でウルバーニにほんの少しだけ稽古をつけてもらえることとなった。
「デュアルなので、二刀流が向いているだろう。ユキテル殿は剣を二つ持つといい」
剣などこれまで一度も持ったことがない。だから、征輝はたとえ練習用の木剣だとしても、両手に持った時はとても重く感じた。
「ぼ、僕なんかでも強くなれるでしょうか」
ウルバーニは頷いた。
「レベルが上がれば自然と強くなる。肉体面は心配しなくていい。私や他の兵士が君をグループ登録して魔物を倒せば、君のレベルは上がるだろうから。ステータス上でグループ登録を行えば、魔物を倒した際に平等に経験値が入ってくるからな。だが、技に関しては君自身が磨いていくしかない」
「はい」
「魔法が使えない君は、他の者と比べて不利だ。だから、今はとりあえず剣技を習得しなさい」
「……魔法は、無理なんですよね。僕……」
魔法に特化したスキルを持ちながら、魔力ゼロという事実。
「……いや、もしかすると盟約のスキルで契約を結んだ者を、召喚術で呼び出すことは可能かもしれない」
「え?」
「ユキテル殿のスキルに、召喚代償無しと盟約のスキルがある。だから、召喚魔法だけは発動できるかもしれない。……だが、果たして盟友関係を結んでくれる者がいるかどうか」
ウルバーニが表情を曇らせていた。
「難しいんですか?」
「人族と盟友関係を結ぼうという奇特な者は少ないだろう。人族の召喚師の殆どは、隷属魔法をかけて無理やり従わせ、惨い扱いをするからな。同族殺しをさせたり、こき使って家畜のような扱いをしたり。だから、人族に召喚を許す者は少ないんだ」
「……、僕も、そういうのは好きじゃないです。友達ならいいですけれど……」
そういう扱いが平気でできる者が存在していることに、征輝は恐ろしくなった。
「……ユキテル殿。我ら魔族の民の中にも、人族を嫌う者は多い。もしも何かトラブルが起きた際は、遠慮なく私に相談をしてほしい。必ず対処する」
「はい、ありがとうございます」
「うむ。では、早速訓練をしようか」
征輝はウルバーニより教わった方法で剣を構えてみた。基本の攻撃の型が幾つかあり、それを反復練習で行うように言われたのだ。
(よし、とりあえず頑張ってみよう)
ウルバーニが見守る中、征輝は真面目に訓練に励んだ。