ボッチ勇者のコンティニュー
敵対者の剣が俺の体を切り裂く。
世界最高の剣による一撃。
胴を狙ったその一撃で俺の体は真っ二つに両断された。
HPがみるみる減っていくのがわかる。
これはもう助からない。
「見事だ」
上半身だけになった俺は、押し寄せる激痛の中、敵対者たる少女にそう告げる。
本当に見事としか言いようのない強さだった。
剣も魔法も人智を超え、それを余すところなく使いこなす。
まさに世界最強。
一人の武人としてこれほどの相手に敗れるのならば本望だ。
「あなたも見事だった」
少女は勝者に相応しい、それでいて少し寂しそうな声でそう言った。
彼女は強い。
圧倒的なまでに。
彼女の敵足りうるものはほとんどいないと断言できるほどに。
彼女にはとどかなかったが、俺も世界有数の武人である自負がある。
そして俺は彼女の敵足りえた。
その自信がある。
だからこんなに寂しそうなんだろう。
強者は強者を求める。
武人の本能だ。
俺という敵を失った今、次に彼女が蹂躙ではない本当の戦いができる日はいつになるかわからないからな。
でも心配はいらない。
「また、会おう……」
かすれてほとんど聞こえないような呟きを最期に、俺のHPは0になった。
そして俺は死んだ。
◆◆◆◆◆
「おお勇者。死んでしまうとは情けない」
気がつくと白い神殿のような場所にいた。
そして約一年ぶりに聞くふざけた声。
最初に聞いたときははったおしてやろうかと思ったが、慣れるとどうでもいいな、って感想しかでてこない。
「おひさしぶりですね夏目さん」
「おひさしぶりです女神様」
そう。
目の前にいるのは女神。
俺を勇者としてこの世界に送り込んだ女神だ。
俺は死ぬたびにここに来て、セーブのできないゲームのごとく召喚された地点に戻る。
コンティニューってやつだ。
勇者はコンティニュー前提の難易度だと聞かされた時は、思わずこの女神をぶん殴ったっけ。
「さっそくですが一言いいですか?」
「どうぞ」
「では」
女神はそこで一度大きく息を吸い込んだ。
「勇者と魔王が逆だああああぁぁぁぁ!」
そして耳を塞いで聞いてちょうどいいような絶叫。
うるさい。
「喉痛めますよ」
「茶化さないでください! なにが見事ですか! 勇者が魔王に倒されて言うセリフじゃないでしょ! 逆でしょ! 普通魔王が勇者に倒されて言うセリフでしょうが! 毎度のことですけど、何やってんですかあなた! 勇者失格ですよおおおおぉぉぉぉ!」
さらに胸ぐらを掴んで前後にゆさゆさ揺すりだした。
さっきの戦いは勇者と魔王の最終決戦。
俺が勇者で、あの少女が魔王だ。
たしかに逆の立場のほうがしっくりくる場面ではあったな。
しかし勇者失格と言われても……
「召還という名の拉致被害者であるただの高校生に期待しすぎですよ」
俺は勇者召還の儀式に運悪く当選してしまった一般人にすぎない。
魔王を倒さないと一年くらいで強制的にコンティニューしてしまうから、仕方なく戦い続けてきただけだ。
その途中で武人の精神に目覚めたりしたけど、勇者うんぬんはぶっちゃけどうでもいい。
「それに戦いに身をおく者としては、あの魔王様は尊敬にあたいするんですから、敬意をはらうのは当たり前でしょう」
「勇者が魔王を様づけした! もうダメだこの人! どれだけ私を失望させれば気が済むんですかああああぁぁぁぁ!」
うわ、ガチで泣いてるよ。
まあ、失望させ続けてるのは否定しないな。
とっくに数えるのやめたけど、体感で三桁超えるくらいコンティニューして、魔王と戦う所まで行ったの今回が初だもん。
今度こそは、と期待してたらアレだったんだから気持ちはわからないでもない。
いくらなんでも死にすぎだって自覚はあるし。
「あー、じゃあ次も頑張りますから、魔王倒すヒントとかくれませんか」
「毎回言ってると思いますけど何度でも言います。仲間作りましょうよ」
仲間かぁ。
たしかに俺が死にまくってる理由の一つにソロプレイヤーだからというのがある。
最初の方の周回で陰謀に巻き込まれたり、裏切られたりしてから協力プレイは吐き気がするんだよな。
一回さすがにいきずまりを感じて、吐き気を我慢しつつパーティー組んでたんだけど、前に裏切った奴がドヤ顔で「俺達親友だろ」とか言ってきたあたりで限界に達してデストロイしちゃった。
それ以来ずっとソロプレイしてる。
まあ、ソロプレイもそう悪いもんじゃない。
経験値独占できるし。
コンティニューのたびに、前回のステータスの百分の一が初期値にプラスされるという、強くてニューゲームというには微妙だが、積み重ねるとバカにならないシステムがあるから経験値大事だし。
それに、魔王とはサシでやり合いたい。
うーん。
でも今一度考えてみるべきか。
今回初めて魔王と戦って、その強さがわかったし。
四天王が雑魚にしかみえない圧倒的な強さ。
アレをソロで倒そうと思ったら千回くらいコンティニューしないと無理じゃね? って思う。
1コンティニュー1年として千回。
千年かかるわ。
さすがにやってられない。
「わかりました。次回はそれでいってみます」
「ああ、はいはいわかってましたよ。言っても無駄だって……って、ええ!? わかってくれたんですか!? 奇跡だ! 奇跡が起きたわ! これで勝てる!」
喜びようが半端ない。
そんな嬉しいか。
まあ、今回勝てずとも善戦はできたからな。
思い返してみれば、裏切り魔術士あたりがいれば勝てたかもしれない。
それに、この人、魔王倒さないとこの仕事から解放されないらしいし。
三桁くらいコンティニューしてるってことは、既に百年くらい仕事漬けってことだ。
改めて考えると、ちょっと申し訳ない気がしなくもなくもないような。
まあいいか。
どうでも。
「じゃあ送りますね。今度こそ魔王倒してきてください!」
「善処します」
ここで絶対に倒すと言わないところがみそだな。
じゃないとミスった時に殺されそうだ。
そして床に魔法陣が表れて光り出し、光に飲み込まれるように意識が消えていく。
既に慣れ親しんだ感覚と共に、俺は再び召喚された。
◆◆◆◆◆
「おお勇者様! 世界をお救いくださ……」
「ファイアーボール!」
いつも通り先頭にいた王女を焼き尽くす。
こいつは裏切る確率が高いからな。
始末するなら今の内だ。
それにこいつは経験値が美味しい。
えっ?
仲間?
一人旅の途中で見つけるよ。
国とかは信用できん。
「貴様ああああぁぁぁぁ!」
あっ、ちょっと呆然としてた騎士共が正気に戻った。
こいつらも強さのわりに経験値が美味しいからな。
コンティニューで下がったレベルの足しにさせてもらおう。
魔王を倒すために召喚やる程度には手段を選ばない奴らなんだから、勇者の血肉となれてさぞかし幸せだろう。
断末魔?
知らんな。
そうして襲いかかってくる騎士共を皆殺しにして、意気揚々と旅に出る。
待っていろ、まだ見ぬ仲間達!
俺の冒険は始まったばかりだ!