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終わりと始まり

気まぐれで更新するかもしないかも

きっと誰もみていない。

孤独とはそういう気持ちにさせてくれる。

認める人どころか自分のことを見てくれる人すらいない。話すらできない。いや、正確には話はできる。ただ、それが上部だけの会話かどうかの違いだ。

会計でのやり取りを会話という奴がどこにいるだろう?そのやり取りに心など一切通っていないというのに。

ならば、消えても誰もわからないんじゃないだろうか?

ーーそう思ったツケなのだろう。結果僕の存在は消えて無くなった。


朝、いつも通り教室に入る。

2年3組。席はまだあり、僕杉並透里はそこに座る。

教室ではクラスメイト達がHR前の時間を友達と談笑しながらすごしている。

違和感など何もない。例え僕だけぽつんと席に座っているとしても、それは今まで通りだ。

今までと違うところがあるとするなら……

チャイムが鳴る。クラスメイト達は席に着き、黒髪で長身の女性教師が入ってきて出席を取る。

ーー僕を飛ばして

無視するイジメ。というのは心にくるものがあるだろう。だが、そこには悪意がある。敵意がある。

僕の場合は何もない。彼女。いや彼女らは素なのだ。

僕に気がつけない。存在しているのに。いるのに。どうしてもそれに気がつかない。

無視の徹底。存在の否定。だが、確実に僕は存在していて物にも触れるイレギュラー。

ふぅ……と自席で大きく息を吐く。ため息など、存在が消える前からしていたが最近はさらに増えた。

一週間だ。もうこの状態になってから一週間が経っていた。

その間にわかったことなど大してはないが、現状は透明人間に近いということだ。

ただ、透明人間と違う点はその作用が視覚だけにとどまらない点だ。

例えば透明人間がスカートを捲れば、された方は違和感を覚える。だが、僕の場合はそれすらない。スカートをめくられている。と認識できないのだ。

それは僕が相手に触れたりしても同じことだ。

要は無いものが行う行為は全てが無いもの。として扱われるということだ。

当然犯罪はし放題だし、それが罪に問われることなどない。これは試した結果だ。コンビニやスーパーで籠に大量にものを入れて堂々と店を出たところ。なんにも言われなかったどころか、窃盗扱いにすらならなかった。

ただ、齟齬はでないものか?と疑問に感じて店に入り帳簿を見たところ齟齬は無かった。

詳しく調べてみれば、他の商品の単価が上がって現金の帳尻が合わされていた。

店側が書き直した跡は無い。世界が丸ごと僕の存在を否定しているのだろう。

悲しくなる。

相手が人間ならまだ対処の仕方があるというものだが、こと世界に挑めなどとは馬鹿げていて精神論じゃどうしようもない。

これならいっそ殺してほしい。だが、死ぬなら自分で死ねというのが神様の結論なのだろう。

いつでもあいつらは意地汚い。直接自分では手を下さず、極端な不公平を作ることで、それを肴に楽しんでいる。

助けるのは恵まれた人間だけ、不幸に落とすのは元々不幸な人間だけ。世の中は不公平で神様はおもちゃだ。

ーーならばいっそその遊び場を赤く染めて一矢報いてやろうか?

心の何処かで何かが騒ぎ立てる。

疑問に思っても確かめてないことだ。人を殺したらどうなるのか?

罪に問われなければやってもいいという考えもある。例えそれが罠で、そのタイミングだけ僕が存在しているとなったとしても、現状は打開できる。

やるか?認識できないのだ。今座っている椅子を持ち上げ、脳天をぶち抜いてやればそれで終わりだ。簡単じゃない。やればいい。それで終わりだ。

ーーできるわけがない。

思い直して、僕は首を振る。

神様が不幸を楽しでいるのなら、ここで僕が人を殺すことほどの楽しさはないだろう。第一隣に座る彼女にはなんら罪はない。

相当参ってるのかもなと思い席を立って教室を出る。

授業中だが、咎めるものなどいない。

廊下は静まり返っていて、日の暑さと蝉の鳴き声だけが響いてくる。

まだ、夏には早いというのに働き者だなと思う。廊下の気温の体感からいってまだ30度には達していないだろう。精々26、7くらいだ。全然耐えられる。

ならば、外に出ようか。と考えたところでふと今まで気になっていたことを思い出す。

学生ならばみんな思うことだろう。屋上はどうなっているのだろうと。

今なら難なくその疑問を解消できる。気晴らしに行ってみよう。

早速職員室に堂々と入り鍵を取り屋上の扉の前にくる。

扉のは錆付いていて、その周りのスペースも掃除されてなく、様々な不用品が埃をかぶっている。

それらを少しどかして、屋上の鍵を開ける。鍵が開かないオチを想定していたが意外とすんなり周り、重苦しいキィという音を響かせ、扉が開く。

暖かな陽光と共に、爽やかな風が頬を撫でる。

気持ちがいい。

屋上に一歩踏み出して、扉を閉め大きく深呼吸する。

見渡せば、屋上は案外広く、鉄柵に囲まれてはいるが、見晴らしは非常にいい。まるで学校の支配者になった気分だ。

いっそ声に出して見るか?どうせ誰にも聞こえないのだ。

すぅーっと大きく息を吸い込む。


「我こそが!!!この学校!!!支配者なり!!!」


フッ我ながら恥ずかしいことを言ったもんだ。誰かに聞かれてたら絶体死なくなる。


「うわ、久しぶりにお客さん来たーどんなのだーって思ったらとんだキチガイじゃん。萎えるわ〜。最近の若者は本当に何考えてるんだかね。こんなところでそんなこと叫んで恥ずかしくないのかね。」


ギギギと声の方に顔を向ける。

歳の頃は僕と同じくらい。物言い同様サバサバしてそうな茶色い髪をサイドに結わえた女の子が立っていた。いや、姿こそ立っているが、立ってない。浮いていた。

浮いていた?


「おばっっっっ!!!」


「いやそこまでいうならけまでいいなよ。可哀想でしょけが。」


いや待て。それよりこいつさっきなんていった?最近の若者はキチガイ?こんなところで叫んでて恥ずかしくない?聞こえていた???

つまり……


「死にたい……!!」


「おーう、すごいな君は。ここまで脈略もなんもない奴は初めてだよ。愉快ではあるが、私の見えないところで死んでくれ」


これが、存在を無くした僕と屋上の幽霊との出会いだった。



「で、少しは頭冷えた?」


「冷えたというか壊れそう……」


屋上で縮こまり頭をさする。何のためらいもなく鉄柵に足をかけたところ、よくわからない力で吹き飛ばされ、頭を校舎に打ち付けた。

ポルターガイストという奴だろうか?何でもいいけど痛い。加減して欲しい。


「少しは悪かったと思ってるけど、何のためらいもなく死のうとするんだもん。こっちも焦る。」


それはその通りである。責めるのはお門違いと思う。が、痛みは隠せないので涙目にはやはりなってしまう。


「そんなことより!」


「そんなことじゃない脳細胞が死んでる」


「もう悪かったって!それよりも!何で死のうとしたのさ?君ためらいなかったでしょ?悩みがあるなら聞くけど?話し相手なんて久しぶりだしね」


「僕だって話せる相手は久しぶりだ!」


「うん?」


首を傾げる幽霊女。

そこで冷静になる。こいつには、僕が普通に認識できているのか?普通の人間に。

勿論認識されないだけで普通ではあるのだが、幽霊には普通に見えると?違和感しかない。


「つまりは、ぼっちってことかな?」


「間違ってはいないけど、違う。ぼっちだってコンビニ店員にまで無視されない。」


「ふむ?」


幽霊女はよくわからないという風に首を可愛く傾げる。

僕は疲れたように息を吐いて、とりあえず肩の力を抜く。折角話せる相手と出会えたんだ。話くらい聞いてもらおう。しかも、相手は幽霊。境遇的には似たようなものかも知れない。

僕は一週間前から続く現状を話した。

幽霊女は驚いたように、だが真剣にその話を聞いてくれた。


「つまりは今君は誰にも認識できない完璧な透明人間である。と」


「あぁ、銀行強盗だってお茶の子さいさいだ。」


「使う必要性がないじゃないか」


「まぁ……そうだけど……」


ふーむと唸りながら、幽霊はフワフワと飛ぶ。

相談したとして、現状が改善するなどとは思わないが、一人で考えるよりマシだ。

人間には人と話さないのにも限界がある。僕はもう限界だった。孤独にはそんなに耐えられるものではない。


「それは大変だったね。私も地縛霊として、ここにずっといるから、一人で漫然と過ごす辛さは理解できるつもりだよ。尤も私は人ではないから君達と時間の流れが違うのだけどね。」


「……そうか」


思わず顔を下げてしまう。理解されるとというのはいつでも心地の良いものだ。

体が少し軽くなった気分だ。


「まぁそういうことなら、何の気兼ねもなくやっていいかな」


「あ?何を?」


幽霊女は僕の顔の前に寄ってくる。唇が数センチのその距離に思わず、後ずさる。だが、彼女は止まらない。

幽霊なのだ。触れられるわけがない。何をするつもりだ。意味がわからない。など頭の中が混乱でぐちゃぐちゃになる。

とりあえず、キツく目を瞑った。その時、何か温かいものが入り込みそして消えた。


恐る恐る目を開けてみるが、そこには何もなかった。幽霊女もいやしない。

不思議に思っていると、不意に声が聞こえた。


「あーあー聞こえる?応答せよー」


!?

びっくりして周囲を探るが、あの幽霊の姿はない。


「その反応はちゃんと聞こえているみたいだね。」


「どこにいるんだ?」


「君の中だよ、守護霊って奴さ。君に取り憑かせてもらったんだ。だからこんな風に……」


肩に何か違和感を覚えて振り向けば、幽霊女が背中にくっつき、肩に手を載せている。


「うわぁ……!」


「そんなに驚かなくていいじゃないか、おばけじゃあるまいし……いやお化けか。」


胸を抑え、呼吸を整える。

振り向いたら突然人がいるというのは、何とも心臓に悪い。


「まぁこれからは、常に一心同体ということだ。私は神楽坂明野。よろしくね。」


「杉並透里だ。」


ぶっきらぼうに答える僕に向こうは微笑みながら応じる。かくして、誰にも認知されない僕は幽霊女に取り憑かれた。

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