表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/96

75 価値


 勇一が、アリファ姫の部屋へと飛びこんだ。 

 敵の攻撃をうけないように、身を投して柔らかな絨毯の上へと転がり、部屋の中央付近においてあるテーブルの影へと飛び込む。

 テーブルを盾にするような形で、部屋の中を窺う。


 !?

 そこで、見たのは、勇一の想像していたモノとはまったく違う風景だった。


「あ゛あ゛あ゛ぁああああぁぅああああぁあああああああああ!」

 アリファ姫が叫ぶ。

 椅子を振り上げ、ガラスが一面に張ってある棚を殴りつける。

 ガラスは飛び散り、棚の中に飾ってあった装飾具達が床に転がる。

 床の上には、すでに、脚の折れた別の椅子や、粉々にくだけた花瓶や、綺麗にかざられていたであろう花達があたり一面に散らばっている。

 美しい顔をゆがめ、金髪を振り乱したアリファ姫の姿が、そこにあった。


「あ゛あ゛あ゛ああああぁああなんで! なんで! なんで! いつも! いつも! いつも! いつも!」


 椅子を振り上げ、壁際の家具を、何度も何度も殴りつける。


「いつもそう! 勝手に周りを巻き込んで! 勝手に死んで! 勝手に! 勝手に! 勝手に!

 残された私は! 私は! 私は 何?! 何なの? 何なのよぉおおおあおおああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああ」

  

 彼女は視界の隅で、勇一が部屋に入ってきたのを捕らえているはずだ。

 それでも、激しい衝動を抑えきれないらしい。

 椅子を振り回し、破壊をやめようとしない。手に持った椅子で、次々に家具を殴りつけ、壊れて意味をなさなくなった装飾具の数々を何度も何度も何度も執拗に踏みにじる。

 別のタンスの中からドレスを引きずりだし、次々と引き裂いていく。

 両手で引き千切り、口をつかって引き千切り、ビリビリになったドレスを撒き散らす。

 アリファ姫の表情は、色々な感情が混ざりこんで歪んでいる。

 怒りや、悲しみや、やり切れなさ、諦めや、絶望。

 美しい顔をゆがませ白亜宮の部屋の豪華な家具を叩き壊し、踏みつけ、引き千切るその姿は、なまじ元がとんでもない美人なだけに、あまりにも鬼気迫るものがあった。


 どれだけの時、暴れまわっただろうか。


 急に嵐が過ぎ去った。

 アリファ姫がピタリと動きを止まる。

 まるでゼンマイが切れた人形のように、グニャリと崩れるように床に倒れこんでしまう。

 だが、彼女は、まるで短い映像を逆回しするかのように、すぐに立ち上がった。

 深呼吸をして息を整え、乱れた髪を撫で付けてから、勇一の方に向きなおる。

 そして、何事も無かったかのように、完璧な笑顔(・・・・・)を浮かべて言った。


「イオキベ様、私になにか御用でしょうか?」


 美しさと優しさを兼ね備えた、女神の微笑のように笑顔。

 そのうえ、その笑顔は本物だった。

 演技などと言う浅はかな物ではない、本当に心の底から発している笑顔だ。

 別に彼女は、"完璧な姫"を演じる為に、無理に"完璧な笑顔"を作り出している訳ではない。

 その笑顔は、本物だ。

 勇一から見ても、その笑顔が、心の底から発せられた本物の笑顔である事が、解る。

 そして、"完璧"であり"本物"の笑顔であるがゆえに、その笑顔は余りに恐ろしい笑顔だった。


  ――――――


 アリファ姫こと、

 アリファールス・オリヴェイラ・ルルス・アルフォニア


 彼女は、クルスティアル第二王子の長女として生を受けた。


 容姿端麗。子供の頃から"アリフォニアの妖精"と呼ばれ、その美しさは王国内に留まらず、周辺国家でも噂になるほどだった。

 更に、彼女は見た目が美しいだけの女の子ではなかった。

 頭の回転が抜群に早くて、物覚えも良い。運動能力も高く、指先も器用。芸術方面にも抜きん出た才能があり、貴族に愛用されるヴァイオリンによく似た楽器『ヴィリオール』の名演奏者でもあった。

 性格も素直で、正義感が強く、弱い者へも優しかった。

 まさに才色兼備。

 これほどの美と才能に溢れた非の打ち所の無い子供は、アリフォニア王国内を捜しても二人としていない。

 そう皆が思うほどの子供だった。

 実際、 純粋無垢な子供の彼女本人には、一点の曇りも無い。

 アリファ姫は、個人としては完璧と言えた。


 問題(・・)は、彼女自身には、どうする事も出来ない所に存在していた。



 アリファ姫が十歳の時だった。

 彼女はアリフォニア王国内の、学生論文大会に優勝した。

 学生向けの論文大会とはいえ、各種学院に通う20代の論学者なども対象になるような大会である。

 優勝した者の多くは、後に論学や各種分野で王国の歴史に名を残すほどの偉業をうち立ていた。

 王族や貴族が、まして十歳の子供が軽い気持ちで出場して優勝できるような大会では決して無い。

 

『お父様、見て。私、論文大会で優勝したのよ』

 帰宅するとすぐさま、父親に報告する。大会でもらった賞状と記念品のシャーレと、


父親、クルスティアル王子は満面の笑みを浮かべる。

『素晴らしい。さすがは我が娘』


 そして、大きな手で、彼女を抱きしめてくれた。


 早熟だったとは言え、十歳の子供である。

 その時の彼女にとって、親に褒められると言うことは最高に幸せな事だった。


 だが、次の瞬間。

 彼女の総てを全否定し、どん底へと叩き落す、一言。

 その後、ずっと彼女の心に纏わりつく呪いの言葉となる一言を、聞くことになる。


『お前が、男の子だったら、よかったのになあ』


 跡継ぎとなる男子。

 それは、クルスティアル王子に限らず、王家や貴族の家では、絶対的(・・・)に望まれるものである。

 すべてを優先すると言っても過言ではない。

 逆に言ってしまえば、跡継ぎで無い女の子など、例え、どんなに優秀であろうと……


  ほぼ、無価値。


 男女平等の観点から言えば、考えられないような話である。

 まったく非人道的で、差別的で酷い話だ。

 だが、貴族や奴隷などの身分制度が存在し、家督が存続されるこの異世界において、それは当たり前の話であった。

 下手すると、娘など、将来的にはどこかの貴族とでも政略結婚させるぐらいしか使い道の無い"駒"程度の扱いなのだ。

 


 アリファ姫は、その後もすくすくと成長し、多くの才能を発揮する。

 だが、彼女がどれだけ、努力し素晴らしい結果をだそうと、心の底から祝福された事は一度もない。


『アリファ姫が、男の子だったなら……』

 その思いは父親だけでは無い。

 親戚や血族すべて、いや臣下の者や、領地の住民まで、皆が皆、悔やんだ。


 なぜなら、クルスティアル王子の妻であるアグリット妃は、アリファ姫とベルガ姫、二人の娘を産んだ後、体を悪くして、子の生めぬ体になってしまった。

 跡継ぎは、もちろん必要である。

 その為、クルスティアル王子は、別の妻を娶ることも考えられた。

 だが、別の妻を娶ると、現妻であるアグリット妃の実家である公爵家との関係を難しいものにしてしまう。

 それらのジレンマが、またアリファ姫へと向けられた。

 彼女が優秀であれば、優秀であるほど、悔やまれる。


『アリファ姫さえ、男の子だったら、安泰だったのに……』


 彼女はより努力し、素晴らしい姫になる。

 そして、より一層、周りに『男だったなら』と悔やまれた。


 それは、何の前触れもなかった。

 ある日、突然、アリファ姫は、感情を爆発させた。


 意味不明の奇声をあげながら、椅子を持ち上げ振り回しす。

 泣き叫び、暴れ、総てを叩き壊し、部屋をあらしまわった。

 突然の姫の乱心に、彼女の世話をするメイドや執事達は、呆気にとられ止めることさえ出来なかった。

 子供だった彼女は最後には体中を痙攣させて、口から泡を吹いて気絶した。


 それから、ごくまれに起こる発作のように、突然の嵐のように、彼女は暴れた。

 普段は完璧な姫様である。それは決して演技ではない。

 そんな演技などするまでもなく、普通に過ごすだけで彼女は"完璧な姫様"なのだ。

 才色兼備で、才能豊かで、誰にでも優しい、完璧な姫様。


 ただ、心のどこかが少しだけ壊れているだけだ。


 だが、彼女の立場をずっと見てきた者に、彼女を悪く言う者はいない。

 誰が、彼女を責められようか。

 そして、また、彼女の心を癒すことができる者もいなかった。 


  ――――――


「イオキベ様、私になにか御用でしょうか?」

 アリファ姫は、そう言って、完璧で本物の笑顔を浮かべる。


 勇一は、アリファ姫の取り乱した姿と、その後の変わり身の速さを見て若干動揺しつつ答える。

「いや、実は、姫様と、話をする為に此処に着ました」


「話しですか。ぜひとも窺いたいと思うのですが……、

 残念な事に椅子もテーブルも、私が壊してしまったんです。立ち話と言うのもなんですし、困りましたね。

 いっそ、床にでも座りますか?」

「良いですね、それでは床に座りましょう」


 勇一の言葉に、アリファ姫の完璧な笑顔がとまり、若干戸惑った表情が浮かぶ。

 この異世界では、床に座る習慣など無い。だから、もちろん、アリファ姫は、皮肉まじりのくだらない冗談のつもりで"床に座りましょう"と言っただけだ。

 まさか勇一が同意して本当に、床に座りましょう、などと言い出すとはおもっていなかった。


「じつは俺の生まれた国では、部屋の中でも、床に直接座ったりもするんですよ」

 そう言ってから勇一は部屋の真ん中で、ドカッと床の上に座り込んだ。

 

 破れたドレスや花瓶が散乱する部屋の真ん中に胡坐(あぐら)をかいて座る勇一。

 その姿を、アリファ姫は面白そうに興味深げに、しげしげと見つめている。


 姫が勇一のすぐ前まで、近づいてくる。

 そして向かい合うようにして、床の上に座った。

 ちなみに、床の上に座ったことが無いアリファ姫は、当然、座り方を知らない。

 丈の長い膨らんだスカートのせいで見えていないが、勇一の真似をして胡坐をかいて座っている。


「部屋の中で床の上に直接座るなんて……、始めての経験ですよ」

 そう言って楽しそうに笑った。

 その笑顔は、先ほどまで顔に浮かべていた完璧の微笑に比べると、どこか子供っぽくて品に掛けている。

 だが、まるで、悪戯をする子供のように、どこか愛嬌のあるあどけない笑顔だ。

 

「それで、私と、どんな話をしに来たのです?

 まあ、この状況ですから、だいたいの察しはつきますが。

 私の価値(かち)を値踏みしに来たのですよね? 

 あるいは報酬の約束を取り付けにきたのですか?

 それでしたら、結果払いでよろしければ、何でもお望みのままに差し上げますよ。どんな物でも、どんな約束でもします。

 すべての金銀財宝でも、すべての権力でも、なんでしたら、この私自身でも、いいですよ。

 これでも、私は結構、殿方に人気が有るみたいですからね。欲しければ差し上げますよ。

 結果払いで宜しければ、」


 彼女は、今度は、さっきまでのあどけない笑顔とは違う、渇いた皮肉を込めた笑いを顔に浮かべる。


「どうせ、どうあがいても、その報酬を手にすることは出来ないでしょうからね。

 約束だけなら幾らでも、してあげますよ」


 普段は"完全な姫"である彼女の表情と雰囲気が、言葉や感情しだいでコロコロと変化する。

 元々、彼女は普段から、心を隠して演技して、"完璧な笑顔"を浮かべているわけではない。

 心の中にさほど感情が篭めず、そのままの気分で、単に笑っているだけだ。

 ある意味では、感情をそのまま表した、純粋な、本当の(・・・)笑顔なのだ。

 そんな重みの無い笑顔でありながら、それでいてその笑顔は、誰が見ても"完璧な笑顔"であったのだった。


 だが、今のアリファ姫は、非常に珍しい事なのだが、内心があまりに情緒不安定であるがゆえに、その不安定さが表情にでてしまっていた。


「そんな話じゃないです。

 俺は、姫様の"気持ち"を聞きに来たんです」

「私の"気持ち"ですって?」


「そうです。俺は、ダフネ隊長から、姫様の警護を依頼されてはいるんです。

 でも、姫様自身が、本当に俺の助けを必要としているのか、あるいは何を思って、どう考えているのか。

 姫様本人の"気持ち"を確認しておこうと思って、此処にきたんです」


「助けた後の褒賞や、地位の約束をしに来たのではなくて、私の"気持ち"を聞きにきたと言われるのですか?

 改めて言うまでもありませんが、私の"気持ち"など意味がありませんよ。

 今、私を窮地に貶めているのは、『逆賊の娘』と言う立場であり、

 そして、今、私を護るべき価値が有るとしているのは、王位継承権をもつ私の体の中に流れる王家の血です。

 私を邪魔だと思う者が、私を亡き者としようとし、私を必要だと思う者は、私を欲する。

 この状況の中で、私個人の意思や気持ちなど、まったく意味も価値もありません」


 今までも、誰も彼女の"気持ち"など、気にした者はいない。

 彼女を、彼女たらしめているのは、王家の血だ。

 クルスティアル第二王子の長女と言う立場が、彼女の総てなのだ。

 王家の血に"気持ち"など、意味がない。

 たまに、その見た目のあまりの美しさに、嫁として欲する貴族や、下卑た欲望で手に入れようとする者も確かに存在した。

 だが、その者達にとっても、やはり彼女の"気持ち"などは、まったく関係の無いモノであった。


 と、言うか、彼女自身が、自分の"気持ち"など、ちゃんと顧みた事がない。

 自分の"気持ち"に価値を見出せず、ずっと無視していた。

 だからこそ、歪みが溜まり、感情が抑えきれなくなって逆上してしまっているのだ。


「そんな事情や立場なんて、知ったことか。

 王国の王位継承権がどうなろうと、俺にはまったく関心がない。

 それに、父親が武力政変(クーデター)したからって、アリファ姫様が『逆賊の娘』として扱われるなんて……、

 俺には、絶対に、納得できない!」

 

 予想外に、強い口調の勇一にアリファ姫は、少々戸惑う。

 更に、勇一の、黒い右目と紅い左目のオッドアイが、正面からアリファ姫を見つめてくる。


「俺は、姫様の"気持ち"が知りたいだけだ」


 勇一のオッドアイに、正面から見つめられたアリファ姫は、困惑してしまう。

 もちろん、勇一が言いだした言葉の内容にも困惑している。

 だが、それよりも、もっと彼女を困惑させているのは、目の前にいる勇一の存在そのものだった。


 アリファ姫の勇一に対する第一印象は、正直、あまり良い物ではなかった。

 見た目や不思議な格好などは関係ない。食事の時にテーブルマナーや会話内容ばかり気にして、妙にオドオドしていた態度が、悪い印象を与えていた。

 会う前に、『私達を賊から救ってくれた、"竜殺し(ドラゴレス)"と呼ばれる程の英雄にお会いできる』と、期待に心を膨らませていただけに、余計に第一印象は悪かったのだった。


 だが、今。

 眼の前にいる人物はまるで別人のように、確固たる意思の力(ディターミネーション)を感じる。

 

「ユーイチ様の要望は、わかりました。

 それでは、私も正直に告げましょう」


 アリファ姫は一度、眼を瞑る。

 彼女は、心の底にある、本当の自分の"気持ち"を探る。

 考えてみると、自分の"気持ち"に、こんなにちゃんと向き合った事がなかった。


 沈黙が部屋を支配する。


 再び眼を開いたアリファ姫は、勇一を正面から覗きこみ返す。

 そして、きっぱりと宣言した。

 

「貴方の助力は、必要ありません」


 更に言葉を綴る。

「なぜなら、私は"死ぬ"からです。

 私の父、クルスティアルが武力政変(クーデター)を失敗した今、私は王国にとっては『逆賊の娘』。

 いつか、この様な日が来るのは解っておりました。

 なにせ、私の父は野心が強く、その思いを隠そうともしない人でしたからね。

 それだけでなく、今はさらに正統帝国軍が王都へと迫っています。

 このような情勢では、私は、絶対に助からないでしょう。

 私に助力してくださる方がいても、それは結局被害を大きくするだけです。

 穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊の皆は、私に忠誠を誓ってくれています。私の為に戦って死ぬ覚悟があります。彼女達も、すでに助かるつもりは無いでしょう。

 私にとっても、いつも私の身近にいてくれた彼女達は、もう家族よりも大事な存在です。

 私は姫としての重責を果たすべく、彼女達の忠誠の対象として最後まで威厳を保ち、姫らしく振舞い……そして……」


 彼女は、素晴らしく美しく、そして最高に儚げな笑顔を浮かべながら言った。

 

「姫として、穢れなきバラ(ホワイトローズ)と共に、死にます」


 それは、彼女の嘘偽り無い本音であった。

 今まで自分の為に戦ってくれ、さらにわざわざ自分の気持ちを聞きに来てくれた勇一に対し、最大の感謝と敬意を表し、自分の思いを正直に話したのだった。


「姫様の"気持ち"は、……解りました」

 アリファ姫の言葉を聞いた勇一は呟くように答えた。

 それから、勇一も、一度眼を瞑る。

 だが、すぐに眼を開き、姫を見つめながら宣言した。

 

「俺が、姫様を護ります」


 アリファ姫が、その美しい顔を、僅かにゆがめる。

「何を言われているのですか? ユーイチ様は私の話を聞いていたのですか? 

 私は、"貴方の助力は必要ない"と言ったのですよ。

 貴方は私に必要とされているかどうか確かめに来られたのでしょう?」


「姫様の"気持ち"を聞きに来たのは本当です。

 それは、今、何よりも、姫様の"気持ち"が大事だと思ったからです。

 でも、

 それでも、俺は、この部屋に来る前から決めていたんです。

 姫様の答えはどうであろうと……、

 『俺は、俺が姫様を護りたいと思うから、姫様を護る』

 そう、決めていたんです」


 人は、変化する。

 もちろん人は日々成長しているのだが、ある日突然、大きく変化することがある。

 特に大きな出来事があると、その影響で人は変わってしまう。

 物語の中で『大事な人を亡くした主人公が覚醒する』なんてのはよくある話だ。

 そこまででなくても、学校を卒業したりして環境が変わると影響されて人が変わってしまったりする。


 だが、今の勇一には、そんな大きな事件があった訳ではない。

 ただ『俺はやる』と、そう決めただけだった。だが、勇一は変わった。

 彼の心の中の大事な部分が大きく変化していた。



 アリファ姫は、更に大きく困惑する。

 勇一が発する言葉と態度から伝わってくる確固たる意思の力(ディターミネーション)


 その意思と決意の強さが、アリファ姫を困惑させている。

 彼は、美辞麗句で飾った明るい展望を語ったわけでは無い。

 具体的に今後どうするかの素晴らしい策を冷静沈着に語っている訳でも無い。

 それでも、その短い言葉から……

 この絶望的な状況で本当に自分を護りきれるだけの自信があるのが、伝わってくる。


 これが英雄『竜殺し(ドラゴレス)』ユーイチ様の本当のお姿?!。

 もともとの勇一をあまりよく知らないアリファ姫には、勇一に変化があったことは解らない。

 よく理解できていない。


 なぜ? こんな一言だけで……

 さっきまで死を覚悟していた。なのに……、

 私は……

 彼の言葉を聞いただけで、この絶望的な状況の中で、希望が湧いてきている……。

 彼の態度を見ているだけで、この危機的な状況の中で、安心感を感じている……。

 彼に見つめられるだけで、こんな状況の中なのに、なぜか胸が高ぶっている……。


 

「俺は、姫様を護ります。

 姫様にとっては、俺の一方的な押し付けで、迷惑かも知れませんが、それでも護らせてください」


 勇一の言葉をアリファ姫はあわてて、叫ぶように否定する。

「め、迷惑だなんて、とんでもありません!!」


 思わずそう叫んでしまった自分の声が、思った以上に大きく、必死だった為に、彼女は急に恥ずかしくなってきてしまう。

 見つめてくる勇一のオッドアイの瞳を見つめ返す事が、できなくなり、思わず眼をそらしてしまった。

 心臓も信じられないほど、早い鼓動を打つ。


「ユーイチ様、改めて、私からもお願いさせていただきます」

 なぜか自分の顔も赤く火照っていく事を感じた。なぜかは解らない。でも、自分の意思では自分の顔が赤くなるのを止めることなどできない。顔がもう真っ赤だ。

 こんな事は、もちろん生まれて初めてだ。

 今までとは違う意味で感情が制御できない。

 そして、更に、自分の唇から洩れるように出てくる言葉も、とめる事ができなかった


「私を護ってください。


 その、できるならば、いつまでも……


  私のすぐ(そば)で……、ずっと、永遠(とわ)に……」


   

※お知らせ


別の小説も、公開いたしました。


 異世界殺戮バトルロイヤル  

 http://ncode.syosetu.com/n1246dx/

 


異世界スクワッドが、『題名から、中身が想像しづらい』と散々言われたので、あえてド直球な題名をつけています。内容も、題名そのままの内容となっています。

宜しければ、お読みください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ