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69 最強


 誰かが、私を呼んでいる……

 夢と(うつつ)の狭間。その狭間を、彼女は一糸纏わぬ生まれたままの姿で、漂う。


 誰? 私を、探しているのは?


 なぜ? 私をさがしているの?


 何処? 貴方はどこにいるの?


 何? 聞こえない……


 何者かが近づいてくる。ゆっくりと。優しく暖かく、緩やかに、近づいてくる。

 近づいてきたのは、微笑を浮かべた麗しい見た目の青年。

 だが、記憶に無い人物。


 知らない人だ!


 人見知りの彼女は恐怖で混乱し、心が退行して、幼女と化す。

 あわてて魔法の扉に鍵をかけ、心の部屋に閉じこもる。

 幼女の姿になった彼女は部屋の片隅で、膝を抱えてガタガタと震えた。


 こないで。こないで。

 知らない人は怖い。知らない人は、ここに入っちゃ駄目。

 お願い、こないで。

 心の中で呟く。

 だが、無駄だった。


 扉の向こうで青年は、扉の鍵の符号(かぎ)を使う。

 「иккЯ」

 魔法の扉は、ガチャリと音をたてて、難なく開いてしまう。

 開け放たれた扉の向こうで、青年は微笑んだ。


「やっと見つけましたよ。

 マルティナルス・ドナルド・ハ・ミュラーさん」


 特上の微笑みを浮かべる青年。

 その青年は、もちろん、魅惑の魔術師アマウリ・デ・オリベーラ だった。

 

  ――――――


 ふう。

 やっと(・・)、彼女の精神(アストラル)と、接続(アクセス)できましたね。

 アマウリの顔にも、思わず、作り物でない本物の笑みが浮かぶ。

 なにせ彼にしてみれば、彼女を探して一億年以上もの間、精神(アストラル)の世界を旅してきたのだ。

 かなり感慨深い。


「聞こえていますか? マルティナルス・ドナルド・ハ・ミュラーさん」

 アマウリの念話魔法(テレパシー)が問いかける。


「あ、はい。聞こえてます」

 穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊のダサメガネ魔法使いマルティナの念話魔法(テレパシー)が、呼応する。

「でも、えっと、えっと、貴方は何者なんですか?

 なぜ、私の符号を知っているんですか?」


「私の事を警戒なさってますね。それは当然のことだと思いますよ。

 でも、御安心なさってください。

 私の名は、アマウリ・デ・オリベーラ。『名無き者(ネームレス)』に力添えしている魔法使いです。

 そして、符号はダフネ隊長と言う方からお教え頂きました」


 名無き者(ネームレス)! ダフネ隊長!

 心強いその言葉が、マルティナの心に張り詰めていた警戒を、極端に下げる。

 安心した為だろうか、幼女の様な見た目に変化していたマルティナが、普段の女性の姿に戻っていく。

 元々、精神(アストラル)の世界では、決まった形など無い。

 本人の意思や、その心の動きによって、どんな形にでも変化してしまう。


 普段の、ダサメガネ魔法使いの姿に戻ったマルティナは、一気に捲くし立てた。

 

「『名無き者(ネームレス)』の方だったんですね! あのダーヴァの時は、有難うございました。本当に助かりました。何とお礼を言ったらいいか。

 あ、そんな事より、今、ダフネ隊長はアリファ姫のお供で『名無き者(ネームレス)』の皆様に会いに行ってるんですよね。

 そちらは異常ありませんか? こっちは色々あったんですよ。

 あの"我侭お嬢様"と"死にたがり"の問題児コンビが……、いえ、それはともかく、えっと……

 アリファ姫様は御無事ですか? ダフネ隊長は何と言ってます? あれ? そう言えば、魔法使いのクワイも一緒に行ってるはずなのに、なぜ彼女からの念話魔法(テレパシー)では無いのです?

 あ、あと、マルティナルス・ドナルド・ハ・ミュラーは真名(まな)ですから、普段はマルティナ・ミュラーと名乗ってます。マルティナか、マーナと呼んで下さい」


 整理せずおもいつくままに、自分の言いたいことだけ一気に早口に捲くし立てるマルティナ。

 そんな彼女にアマウリは、内心ゲンナリする。


 念話魔法(テレパシー)の反応の良さや、彼女の精神(アストラル)接続(アクセス)したときの感覚から、魔法力はかなり強そうなんですが……

 『それ以外は、無能』と言うタイプの女性じゃないでしょうね。

 アマウリは、そんな内心での侮蔑は見事に隠して、優しく話しかける。


「では、マルティナさん。

 まず、アリファ姫もダフネ隊長も、その他の皆様も無事ですよ。問題ありません。

 ただ、私自身は少し離れた所にいるので、詳しい現状は把握できていないですけどね。

 クワイと言う魔法使いは、王城を襲った者が使用していると思われる妨害魔法ジャミング無効化(レジスト)できなくて、代わりに私が、念話魔法(テレパシー)を繋げている状態です」


 ちなみに、アマウリは、勇一や姫様達が居る白亜宮が襲われた事は知らないままだ。

 本当に安全かどうかなど、知っている訳では無い。

 と、言うか、実は勇一が会っていた相手がアリファ姫だと言う事すら知っていなかった。

 だが、会話の中に、いかにも何でも知っているようにさらりと嘘を混ぜ込み、自分に有利な方向に話をもっていくのはアマウリの得意とする所だ。


「アリファ姫様は無事なんですね。良かった。

 クワイは役に立ってないんですか。まあ、あの子は、ちょっとねぇ……、いや、もちろん魔法学院でトップクラスの成績だったこの私に比べたらいけないですけど、その頃から成績もいまひとつで、魔法力も正直ちょっと穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊の隊員としては足りてない感じがありますもんね。実はあのこ、魔法学院で卒業する前に……


 話が脱線し、長くなりそうだったので、アマウリは強引に話を遮って問いただす。

「それでですね、マルティナさん。

 こちらとしては、王城で火の手があがっているのを見て、何が起こったのか解らずに少々混乱している所です。

 王城内では、何があったんですか?」

「知りません」


 マルティナの、単純明快かつ、頭の悪そうな回答にアマウリは絶句する。

 一億年かけて旅してきた答えがこれ、『知りません』の一言だ。

 彼でなくても、頭を抱えたくなるだろう。


 アマウリは、幼い子供に文字を教える教師のようなやさしい口調で、ゆっくりと質問する。

「えっとですね。

 まず、王城を襲った者達は誰か解りますか?」


「知りません。

 あ、そういえば、"我侭お嬢様"がこんな事を言ってました。

 『この騒動の主は、姫様のお父様のクルスティアル第二王子だ』って。本当かどうか知りませんけど」


 その言葉に、アマウリは考えこむ。

 クルスティアル第二王子?

 ふむ、跡目争いの武力政変(クーデター)ですか。

 確かに、今の状況で一番ありそうな話ですね。

 それでは"奴ら"の背後(バック)にいた黒幕は、クルスティアル王子と言うことですかね?

 いや、いや。

 それは有り得ないですね。

 もし、そうなら両姫様を襲った件や、エイシャ様の誘拐などが今ひとつ説明できない。


 武力政変(クーデター)を起こした、クルスティアル王子

 そして、"奴ら"

 二つの勢力が、微妙に影響しあいながら、別個に動いていると考えるのが妥協でしょうかね。


「ちなみに、ベルガ姫の安全は、確保できているのですか?」

「知りません」


 アマウリは本気で、自分の耳を、いや、念話魔法(テレパシー)を疑う。

 『知りません』だと? こいつは本当に『知りません』と言ったのか?

 聞き間違いか?

 彼は言葉を変えて、再度質問する。


「えっと、ベルガ姫は、どこかに避難中ですか?」

「知りません」


 間違いない。

 穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊の魔法使いが、自分が守るべき護衛対象の姫様の安全がどうなっているのか、"知らない"と言っているのだ。

 こいつ、本当の無能なのか?

 心の底から侮蔑の思いが湧いてくるが、なんとか押さえつける。


「知りませんと、いわれましたが、あなたは姫を守る穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊の魔法使いなのでしょう?

なぜ知らないのですか?

 貴方自身や、王城内は、いったいどういった状態なのです?」

「知らないから、知らないんですよ。

 あ、ちなみに私の体は、色々あって今は、気絶してます。穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊の仲間に背負われて移動中です」


 まったく要領を得ない。

 だんだんアマウリはイライラしてきた。だが、あまりイライラすると精神(アストラル)に影響がでてしまう。

 心の中で、深呼吸をして心を落ち着かせる。

 改めて特上の微笑を、若干ひきつりながら、浮かべて、ゆっくりと問いただす。


「では、あなたが、気絶するに至るまでに"色々あった事"を順番に教えてください」


「えっとですね……」

 そこから、要領が悪く要点を得ず時系列もめちゃくちゃで、まるで聞いているアマウリの忍耐力を試す試験のような、マルティナの説明が始まった。


 ふむ。

 辛抱して彼女の話しを聞いて、結局の所、解った事は……

『この騒乱の首謀者は、クルスティアル王子らしい(・・・)

『ベルガ姫は、他の穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊の隊員の手によって逃亡中らしい(・・・)

 そして、

『このマルティナは、やっぱり無能』

 と、言った3つくらいですか。

 けっきょく、欲しい情報は、殆ど無い状態ですね。


「ちょっと確認しますけど、王城内には情報管理している魔法使いもいるはずですよね。

 その方と念話魔法(テレパシー)で情報共有できて無いのですか?」


「王城内の念話魔法(テレパシー)網も妨害魔法(ジャミング)が、されてるんです。

 たぶん魔法防御障壁(ファイヤーウォール)の内側、王城内部領域にも、裏切り者がいるんですよ」


 なるほど。

 これは、困りましたね。

 こうなったら、直接に情報管理や念話魔法(テレパシー)網を管理している魔法使いの精神(アストラル)を探しふだして、それらに、無理矢理に接続(アクセス)を試みますかね。

 そんな事を考えるアマウリの思考を途切れさすように、鐘の音が響いた。


 カーンカーンカーン、と、甲高い鐘の音が精神(アストラル)世界の中に響く。


 あれ? 警鐘が鳴っている!?

 マルティナが、その鐘の音に反応した。

 何があったんだろう?

 マルティナは、自分の心の部屋のドアを少しだけ開けて、首だけだして、外を見廻す。


「わわわ?!」

 マルティナは悲鳴をあげて、腰を抜かす。


「何があったのです?」

 アマウリも、ドアの前で腰を抜かすマルティナの頭の上から、外を見る。


 んん?!


 憎悪、怨念、悪意、害意 敵意、殺意、邪意、否定、執着、軽蔑

 あらゆる負の感情が、どす黒く渦巻きながら、宙を漂っている。

 本来なら、王城の内部領域に存在しないはずの精神(アストラル)だった。


「な、な、な、なんで?! なんで、王城の内部領域に、こんなに敵の精神(アストラル)いるの?!

 ま、まさか魔法防御障壁(ファイヤーウォール)が突破されたの?!」


 アマウリには、何が起こったのかすぐに解った。

 自分が、魔法防御障壁(ファイヤーウォール)を突破する時にあけた小さな穴。

 その穴を、"奴ら"が利用したのだろう。

 ダムが、小さな穴が開いたのがきっかけで崩壊するかのように、アマウリの明けた小さな穴を無理矢理にこじ開け、魔法防御障壁(ファイヤーウォール)を突破してきたのだ。

 

 その"奴ら"の、負の感情の精神(アストラル)は、巨大な黒い獣の形に変化し、次々に王城魔法使い達の精神(アストラル)を襲いかかる。

 王城内の魔法使い達は、探知魔法(サーチ)念話魔法(テレパシー)など、補助魔法系に特化した専門化(スペシャリスト)が多く、精神(アストラル)戦闘に長けていない。

 次々に黒い獣の牙に、魔法使いの精神(アストラル)は食いちぎられていった。


 数匹の黒い獣と化した精神(アストラル)が、アマウリとマルティナの存在にも気がつく。

 ウガァアアアア

 雄叫びをあげて、此方へと突進してきた。


「ひぃいいいいいい!」

 マルティナが、情けない悲鳴を挙げる


 別に王都の魔法使いと"奴ら"が潰し合おうが、私の知ったことではありませんが。

 この、私に牙を向けるというならば、容赦しませんよ。

 アマウリが精神を集中する。

 それから、むやみやたらに大きな声を張りあげて、派手な呪文をあえて叫ぶ。


「天空に舞う青き風よ、大地に実る命の光よ、夜空にきらめく希望の星よ、我に力を…… 変身!!」


 目も眩む程のまばゆい光が彼を包んだ。

 その光の中、軽快な音楽を口ずさみながら、なぜか無駄に華麗にクルクルと回転しつつ、精神(アストラル)の姿形を変化させていく。


 光の中から、赤い精神(アストラル)のマントを翻し、現実では有り得ないような派手で奇抜で、不必要な程に肌を露出したセクシーな精神(アストラル)の鎧に身を包むアマウリが姿を現す。

 そして、その手には、巨大な、あまりに巨大な、アマウリの体よりずっと大きく、物見の塔より更に長い、全長20m近くありそうな、蒼く煌く精神(アストラル)の大剣を構えられていた。

 

 そのアマウリに、黒い獣と化した敵の精神(アストラル)が襲いかかる。

 ハアッ! 気合一閃。

 現実なら持ち上げることさえできないような、巨大な、蒼く煌く大剣を振り下ろす。

 見事に、黒い獣を真っ二つに切り裂く。

 切り裂かれた精神(アストラル)は、黒い煙となって僅かに漂った後、消えていった。

 仲間が倒された事にその様子に気付いた周りの黒い獣が、次々とアマウリに襲いかかってくる。


 ふん、この程度の精神(アストラル)獣化魔法で!

 人類最強の精神(アストラル)をもつ、この私!

 アマウリ・デ・オリベーラに!

 敵うとでも思いますか!

 笑止千万! 片腹痛い! へそで茶が沸きますよ!

 

 アマウリの精神(アストラル)の剣が、華麗に黒い獣を切り刻んでいく。

 次々と、"奴ら"の精神(アストラル)を消滅していった。


 アマウリの精神は、高揚している。

 解りやすく言うなら、『ノリノリ』だった。

 精神攻撃には、心の強さ、勢い、そして思い込むことが、大きく影響する。

 その為『ノリノリ』になるのも必要な事でもあるのだ。

 そして『人類最強の精神(アストラル)』と言うのも、アマウリの"自称"でしか無い。

 そう、思い込んでいるだけだ。

 だが、そう言ってもあながち嘘でない程に、実際にアマウリの精神(アストラル)は並外れて強かった。


 予想外の援軍に、"奴ら"の中で動揺が走る。

 逆に攻め込まれ劣勢気味だった、王都魔法使い達が息を吹き返す。

 弱小ながら、力を寄せ合い、精神(アストラル)攻撃魔法を放つ。

 アマウリは、まるで物語の出てくる英雄(ヒーロー)救世主(メシア)かのように、圧倒的な強さで、次々と"奴ら"の精神(アストラル)を切り裂き、煙へとかえていく。


 そして、とうとう、王城の内部領域に侵入した"奴ら"の精神(アストラル)を、すべて撃退する事に成功した。



「すぐに魔法防御障壁(ファイヤーウォール)を調査し、穴を塞ぐんだ。

 また、すぐ敵が来るかも知れぬ、急げ」

 そう、周りに指示を出した精神(アストラル)が、アマウリへと近づいてくる。


 ほう。

 これはまた、とても強く、気高く、美しく、そして一点の穢れない精神(アストラル)ですね。

 思わずアマウリが感嘆の声を洩らしそうになる程の精神(アストラル)だった。

 

「助力して頂いた事を感謝します。

 我は、アルフォニア王国魔法団、団長のホープ・ソロ・ツインと申します。

 大変失礼ですが、貴方はどなた様でしょうか? どうして此処に?」


「私は、冒険者パーティー『名無き者(ネームレス)』の客分、アマウリ・デ・オリベーラと申します。

 穢れなきバラ(ホワイトローズ)親衛隊のダフネ氏の依頼を受け、義をもって、王城の助けに参りました」

 さらりと微妙な嘘をまぜて、自己紹介をする。


「おお、貴方は『名無き者(ネームレス)』の方でしたか。

 ダーヴァでのご活躍の噂は、王都まで届いておりますよ」


 ちなみにホープは会話をすると同時に、アマウリの精神(アストラル)が嘘を言っていないか調べる精神鑑定(スキャン)魔法を実行している。

 しかし、こういった小手先の小細工や悪知恵ではアマウリの方が、一歩も二歩も上手であった。

 彼は会話する前から、高度な精神偽装(フェイク)魔法を使用している。

 ホープは、精神鑑定(スキャン)魔法の結果で『真実』と出た事と、アマウリの落ち着いた雰囲気にすっかり騙されてしまい、信用してしまっていた。


「ホープさん。

 私は全身全霊をもって、貴方がたをお助けしたいと思っています。

 それで、ちょっと確認したいのですが、王城は今、どの様な事態になっているのでしょうか?」


「王城内は、非常に複雑かつ織細な状況になっておりまして……

 武装勢力による攻撃を受けているとしか説明できません。

 助力して頂いたアマウリ殿に対して大変申し訳ないのですが、事情が事情だけに、詳細をご説明する事ができない事をお許し頂きたい」


 アマウリは、申し訳なさそうに答えるホープの精神(アストラル)に、すぐさま読心魔法を掛ける。

 ホープの心の中に一瞬浮かんだ、王城内の状況を素早く読みとった。

 わずかな間に、大量の映像と会話の情報が、アマウリの中に流れこんでくる。


 ほう、なるほど。

 こういった状況でしたか。

 これは、これは……、

 とても愉快な(・・・)状況ですねえ。

 アマウリはこれ以上無いほどの、微笑を浮かべた。



 ガクン、と、急に世界が揺れる。


 足元に穴が開き、アマウリの精神(アストラル)が落下した。

 そのまま、下へ、下へと落ちいく。

 底の見えない深い穴の下へと、物凄い速度で落下する。

 マルティナやホープが遠く離れ、精神(アストラル)世界も薄くなっていく。

 落ちる。落ちる。

 ひたすら下へと落ちていく。


 な!? なにが?



 ……

 ……

 ……


 意識が、元にもどる。

 視力が回復してくる。


 明るい現実の光が、目にしみる。


 目を開くと、いきなり眼の前に、幼女の顔があった。

 ぐーちゃんだ。

 泣きそうな顔で、アマウリの肩をつかみ、ガクガクと体を前後に揺らしている。

 足元では、黒猫のクロがアマウリの足をぺちぺちと叩いていた。


 どうやら、これが原因で、アマウリの精神(アストラル)が、強引に肉体へと呼び戻されたらしい。


「グ、グリン様、い、いったい何を、を、な、なさる、るのです?」

 ガクガクと前後に振られながら、精神(アストラル)の世界から、戻ったばかりで、まだ頭がハッキリしないアマウリが質問する。


 だが、ぐーちゃんの答えが返る前に、何があったのかすぐに解ってきた。

 ガンガンと、外から装甲を叩く音が、装甲指揮車(クーガースリー)内部に響く。

 それとは別に、くぐもった悲鳴や怒号が、装甲の外から洩れ聞こえてくる。

 赤い警告灯が室内を紅く染め、ピーピーと警戒音が鳴り続ける。

『○○です。『高』と○断♪△すぐに◇ж#'@¥して、・・・△至急○|。・あ¥』

 ドローン"タツタ"が警戒音と共に、何かを必死に訴えている。


 タツタが訴えている内容は、使用されている日本語が高度すぎる為、アマウリには理解できない。

 だが、何を言ってるか理解できなくても、だいたい内容は想像がついてしまう。

 アマウリは、現実で迫りつつある危機に対象すべく、ゆっくりと立ちあがった。

 さてさて、どう対処したものですかね。

 アマウリは、ちょっと困ったように苦笑を浮かべる。


 私は、精神(アストラル)の世界では、人類最強なのですが……


  ……現実の世界では、さほど強く無いんですよねぇ。

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