52 知人
ぐーちゃんと一緒に食事して、さらに半日ほど一緒に遊んでからダーヴァの街へと帰ってきた。
ダーヴァの街に入る為には、門の所で検査を受けなければならない。勇一達も検査を受ける為に人の列で並ぶ。
もう少しで門に入れるという所で、後ろから声を掛けられた。
「こんにちわ」
勇一が声の方向に振り向く。其処には『紫檀の風』の魅惑の魔法使い、アマウリ・デ・オリベーラが、柔らかい微笑を浮かべて立っていた。
「えっ?あれ?! アマウリさん!?」
勇一は、グルキュフに付かれた嘘によって『紫檀の風』のメンバーは大魔法使い『グリン・グラン』の館で全滅したと思っていた。実際、リーダーのアドリアーンと、ムトゥー、ライ、ルッカの三戦士は『魔』にとりこまれて、最後はディケーネとニエスに引導を渡されている。
だが、アマウリの生死に関しては、実際の所は確認されておらず不明となっていた。
「アマウリさん。よかった、無事だったんですね」
「ええ、なんとか」
彼の無事を無邪気に喜ぶ勇一に対して、アマウリは苦笑した。
そんなアマウリに対してディケーネは当然のように警戒心をあらわにする。
「貴様、今まで何処にいたんだ? どうしてお前だけ無事なんだ? どうやって、あの『グリン・グラン』の館から帰ってきたんだ?」
ディケーネの強い視線と矢継ぎ早な質問を受けて、アマウリは力なく下を向く。目を伏せたまま、呟くように答えた。
「私は、浮遊魔法が使えるんです」
アマウリのその一言だけで、ディケーネも、なんとなく状況を想像してしまった。
「我々『紫檀の風』は死霊の大群に襲われてしまい窮地に陥りました。それで、助けを呼びにいくつもりで浮遊魔法を使って私だけ館を脱出したんですが……、
結果としては、私だけ仲間を見捨てて逃げてしまう形になってしまったんです」
顔をあげたアマウリの目には、涙が溜まっている。
「それで、ノコノコと公爵の所へ行く事もできず、さりとて、一人でフィオレの街へ帰る事もできず。
さらに時間が立ち、恐怖が薄れてくると、今度はやはり良心の呵責で押しつぶされそうになってしまい、もう、どうすることもできず、この数日間は、いく当てもなく、ただただ荒野を彷徨っておりました」
「そうだったか」
アマウリの話に、ディケーネは深く同情していた。長く冒険者をやっていると、仲間を見捨てざるを得ない状況というのは、一度くらいは直面するものだ。決して他人事ではない。
『水と炎の旅団』のリィは同じように助けを求めて飛び立ち、偶然にも勇一達の上を通って気付いた為に助かった。だが、アマウリは飛び立つ方向が違っていたため、勇一達を発見できずに飛び去ってしまったのであろう。その様子は、容易に想像できる。
ニエスも横で話を聞きながら、ハンカチ代わりの布を取り出して、涙を拭いている。
知らなかったけど、どうやらニエスは、結構涙もろいようだ。
「どこか遠くに……、誰も自分の事を知る者のいない所に……、行ってしまおうとも思っておりました。
ですが、ユーイチ殿に、渡さないといけない物ができたので、ここまで来たのです」
「渡さないといけない物? それって何でしょう?」
「はい。そこの馬車に載せてあります」
アマウリは自分の後ろにある、大きめの馬車を指差す。
「実は、あの後、仲間の遺体を回収するのは無理でしょうけど、せめて何かしら遺品でも手にはいらないかと思いまして、一度バニアの街に戻ったのです。そこで、これを見つけまして……」
アマウリが馬車の幌をめくる。そこには電動バギーが乗っていた。
「ピェーピェーちゃん! 無事だったのね」
ニエスが飛び上がって喜んだ。
「どうぞ、お受け取りください。
死霊たちは、この『馬なし馬車』には興味なかったらしく、傷も付いておりませんよ」
「有難うございます。バニアの街から持ち出すのは大変だったんじゃないですか?」
「浮遊魔法を使って空から見ていて気付いたのですが、朝一番の陽の光が強い時間帯は、死霊の動きが若干鈍いのですよ。その時間帯であれば、気配を消す魔法を使えば、殆ど死霊達が寄ってこないことも解りました」
ほう、そうなんだ。
まあ、死霊って、朝は動きが鈍りそうだよな。それに気配を消せば確かに寄って来なそうだ。
「いや、でも、アマウリさん。電動バギーを持ってきてくださって有難うございました。自分達で回収しようとしたら、多分かなり大変だったと思うので、本当に助かりました。お礼をしたいんですけど、どんな形がいいですか? 下世話な話ですけど、お金でしたら、金額を言って頂ければもちろんお支払いしますよ」
「お礼なんてとんでもない」
アマウリは大げさに両手を振った。
「それどころか、噂でユーイチ殿達が魔に落ちた仲間たちを討ち取り、魔から解放してくれたと聞きました。私の方こそお礼をさせて頂きたい」
「いや、そのことについてはお礼とか、そんな困りますよ」
「いやいや、私としてはぜひお礼をしたいのです。もし、よろしければ、あなた方のお手伝いをさせていただけませんか?もちろん報酬の分け前などは、頂きません。
私としては、 仲間を魔から解放してくれたあなた方に力を貸すのは、仲間の弔いになるような気もするのですよ。どうか、お手伝いさせてください」
アマウリは頭を下げ、真摯に懇願する。
『仲間の弔いになる』と、言われると、勇一達としても、何とも断りにくい。
それに正直な所、 次にパーティーメンバーを増やすなら、魔法使いの仲間欲しいと、勇一はずっと考えていた。
とにかく今の勇一達には、魔法に対する防御どころか、基本的な知識さえも足りていない。
それに、アマウリなら、元『紫檀の風』のメンバーで、青い宝石付札の魔法使い。実力も申し分ないはずだ。
勇一はつい、いつもの癖で、チラリとディケーネを見る。
眼が合ったディケーネは、小さく頷いた。どうやらディケーネも、反対では無い様だ。
彼女は、内心でアマウリの立場に強く同情もしていた。冒険者を長くやっている者なら、同情しない訳がない。
そしてディケーネも勇一と同じく、自分達のパーティーに、魔法に関する知識が足りていない事を自覚していた。
そんな勇一とディケーネの、目と目でのやり取りを見て、アマウリは少し誤解したようだった。
「ああ、もちろん。私生活はお邪魔しませんので、ご安心ください」
『男性がリーダーで、見た目の良い女奴隷が二人』と言う構成のパーティーだ。まわりから、当然のように『そういった関係なのだろう』と誤解されてしまっている。
それでアマウリも、気遣ったようだ。もちろん、その気遣いは、勇一達にとってはまったく無駄な気遣いなのだが。
「まあ、私は女性には興味ありませんので」
軽くアマウリがそう呟いた。
元の世界でも最近はLGBTとかさほど珍しくはなくなっているので、抵抗もないし、人の嗜好に口出しするつもりもない。
勇一は、その呟きについては、とりあえず何も突っ込まずに、ニエスへと声をかける。
「ニエスは、アマウリさんのパーティー加入について、どう思う」
「ワタシも、もちろん異論ないですよー」
勇一の問いにニエスは即答だ。電動バギーを連れてきてくれたアマウリに対して、かなり好意的な感じいるようで、当然のように、反対しない。
パーティー全員の意思が確認された。
「じゃあ、少しの間、一緒に冒険しましょうか」
「有難うございます。
それでは、私生活は別で、朝に冒険ギルドに集合するという形でパーティーの活動に参加させていただきます。さっそく明日の朝から集合と言う事で、宜しくお願いします」
丁寧に頭を下げてお礼を言うアマウリに対して、勇一も頭をさげる。
「いえいえ、こちらこそ宜しくお願いします。それじゃあ明日の朝からお願いしますね」
少しの間は、アマウリさんと一緒に依頼をこなしてみよう。
多分、アマウリさんは実力は問題ないだろうから、一緒に依頼をこなしていって、性格や相性なんかも問題無いようだったら、改めてパーティーの仲間に誘ってみるのもいいかもしれないな。
そんな事を勇一は暢気に考えている。
アマウリが、勇一達に見えないように、ほくそ笑んだことには、もちろん気付かなかった。
三章もまだ序盤で盛り上がりませんが、気長にお付き合いください。




