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39 蜘蛛

 勇一達三人は、左の建物へ向けて庭園をすすむ。

 先頭はディケーネだ。

 彼女の手には、レーザー拳銃(レイニー)が構えられている。

「レーザー小銃(ゴーク)は撃っても当たらん。私はレーザー拳銃(レイニー)だけでいい」

 そう言って、レーザー小銃(ゴーク)を持つのを止めてしまっている。

 その代わりといってはなんだが、腰のホルスターにもうひとつ予備のレーザー拳銃(レイニー)を提げている。

 一応、昔から愛用している片手剣も腰に下げていた。


 一番後ろから着いて来るニエスも、手にレーザー拳銃(レイニー)を構えている。

「私もレーザー小銃(ゴーク)は、いらないです」

 そう言って、レーザー小銃(ゴーク)を持つのを止めてしまっていた。

 元々電動バギー(ピェーピェー)の運転の為に、レーザー小銃(ゴーク)を持っていなかったし、彼女も剣術をある程度は心得ているから、仕方ない

 

 うううう、レーザー小銃(ゴーク)よ。

 お前、なんて不人気なんだ。こんなにカッコいいのに。

 でも、安心しろよ。

 俺だけは、ずっとお前を愛用してやるからな。

 勇一は、レーザー小銃(ゴーク)に頬づりする。


 頬ずりする勇一の姿を、後ろからニエスが、まるで『見てはいけない秘密を見てしまった!』といった様子で見ている。

 明らかに、新たな誤解を生み出していたが、幸か不幸か、勇一はその視線に気付いていなかった。



 左側の建物の近くまで到着し、ディケーネが当たりの気配を窺う。

「大丈夫そうだな」


 夜目の利く唖人のニエスが周辺を見回す。

「大丈夫そうですね」


 勇一が、胸のマイクを遣いタツタに確認をいれる。

「タッタ。周りの状況に異常がないか教えてくれ」

「はい。建物内の人と思われる反応数は3のままです。

 地下から動いていません。他に反応らしい反応はありません」

 タッタの能力はもちろん信用しているが、どうやら死霊(ゾンビ)はレーダーに反応しないらしいことが解っている。


 普通に考えると、洋館の中に三人だけって考えにくいよな。

 間違いなく死霊がいるだろう。気を引き締めていかないと。

 

 一番近い窓を、ディケーネがこじ開けて、洋館の中に入っていく。

 周りには誰もいない。

 暗い廊下には、沈黙だけが漂っている。

 窓から月明かりが差し込む廊下を、地下へと降りる階段を探して歩き回る。


 ん? なんだ? この感覚?

 廊下の角を曲がるときに違和感があった。

 薄い空気の膜を通りぬけたような、不思議な違和感。

 勇一は周りを、きょろきょろと見回す。

 

 だが、何もおこらない(・・・・・・・)。


「どうした? ユーイチ、何かあったか?」

 その様子に気がついたディケーネが声を掛けてくる。


「あ、いや、気のせいだ。タブン」

 自分でも、何か良く解らないので曖昧な返事で誤魔化しておく。

 そのまま、無いままに進む。

 少し歩くと下におりる階段を見つけた。


「よし、気をつけて降りていくぞ」

 ディケーネが階段の一段目をおりる。

 続けて勇一が階段を降りていく。


 ん? んんん? また違和感があるぞ。

 またも、薄い空気の膜を通りぬけたような、不思議な違和感。

 それでも、周りに何か起きた気配はない。

 だが、さすがに二度もあると勇一だって気になって仕方ない。

 周りに変化がないか、注意をもって見回す。

 だが、やはり何もおこらない(・・・・・・・)。


 いや、一つだけ小さな変化があった。

 左手につけている『贄妃(にえひ)の指輪』が僅かに鈍く光っている。


 指輪が光ってるな。

 ひょっとして警告の意味でもあるのか?


「なあ、ディケーネ。周りに異常は無いか?」

「いや、別に何も無いと思うぞ。ただ、魔法に関しては私は詳しくないからな。高度な隠密性(ステルス)魔法の罠や結界があっても気付けない可能性は否定できんが」


 うむ。

 とりあえず、ディケーネが気づく範囲では、何も無さそうか。

 悩んでいても仕方がないので、また階段を折り始める。いつのまにか指輪が光るのも止まっていた。


 更に長い階段を地下深くへと下りていくと、たびたび『贄妃(にえひ)の指輪』が鈍く光利を放つ。

 だが、単に鈍く光を放つだけで、別に何も、周りにも変化はない。


 うーん。

 本当に役にたつのかな、この指輪。

 ひょっとして俺、あのフェーさんに騙された?

 まあ、気にしても仕方ないか。

 勇一達は階段を折り続けた。

 そして、何も起きない(・・・・・・)まま、地下牢の手前まで到着した。


 階段はそのまま暗い通路へとつながっていて、突き当たりに鉄格子があり、その手前にテーブルが置いてある。鉄格子の向こう側には、さらに通路が続いている。その奥にはいくつかの牢があるようだ、

 手前においてあるテーブルには、二人の男が向かい合って座っている。

 そして、二人の男達は、見た覚えのある"黒い革鎧"を身に着けていた。


 二人の男の話し声が漏れ聞こえてくる。

「があああ、やられたぁぁ」

「俺の勝ちだな。これで貸しは、えーと、ちょうど銀貨三枚分だ」

「うるせえ、次は勝つ。掛け金は更に倍だ。これで一気に取り返す」


 二人の男はどうやらカードでの掛けに熱中しているようだった。

 まるで周りを警戒していない。

 

 敵は二人か。

 こっちには気付いていなさそうだし、さて、どうしようかな?

 そんな事を勇一が考えている間に、ディケーネが影から飛び出して、二人の男の首を跳ねた。さらに死体をごそごそとあさり鍵束をみつけだし、鍵をつかって躊躇なく通路の鉄格子を開ける。


「よし、奥に入るぞ。気をつけてついてこいユーイチ」


 うん。うん。

 何も問題ないな。

 勇一は、頷くだけで、何も言わずにディケーネについて行くことにした。

 ニエスも、もちろん後をついてくる。


 鉄格子の向こう側で、更に奥へと続く暗い通路に足を踏み入れる。

 その向こう側の暗い通路には、左右に鉄格子がはられた牢がズラリと並んでいた。

 ディケーネが、思わず足を止める。

 勇一と、ニエスも止めた。


 三人は、その光景をみて、言葉を失う。

 ……

 ……

 勇一が、ゴクリと唾を飲み込む。

 ……

 一つ深呼吸をしてから、震える声で、胸のマイクに話しかけた。


「おい、タッタ聞こえるか? 確認したい事がある」

「はい、聞こえています。なんでしょう?」


「最初に、この建物の地下には、人の反応が三人あると言ってたな。俺達が、敵を二人倒した。

 今、この建物には、俺達意外に、何人(・・)の反応がある?」


「現在、その建物には、一人分の人の反応しかありません。

 現在位置から、前方12時の方向に、約40mほど進んだ地点に一つだけです」

 タツタが冷静な声で、教えてくれた。


 そうか。 

 やっぱり、そうなのか。

 勇一は、事実を確認して、改めて周りを見た。

 

 左右にズラリとならぶ鉄格子のはられた牢の中には、全て、人(・)がいた。

 いや。彼らは"人"じゃないんだ。

 元、"人"だったモノタチだ。

 左右の牢の中に大量にいるのは、すべて死霊(ゾンビ)達だった。

 牢の中の人は、ずるずると這うようにして鉄格子へと寄ってきて、崩れかけた顔を押し付ける。

 そして、何かを求めるように鉄格子の隙間から、必死になって手だけを差し出す。


  ぐぅうぉぉおおおおおおおおあ ぐわえええ うぉおおおおお

  おおおおぉおおおおお うがぁああああ ぐぐぐぐううぅうううう


 怨嗟をこめた呻き声が、重なり合い狭い通路にこだまする。

 左右の牢の鉄格子から、何十本いや、百を超える腐った腕が、差し伸べられている。

 ウネウネと波うつように動くその腕は、薄暗い通路の中で、まるで壁から生えてきている別の生物のように見えた。

 そして、左右から差し出された無数の手で、狭い通路の空間は殆どふさがれてしまっている。

 通路の真ん中に、僅かに人が通れる隙間があるだけになってしまっていた。

 

 通路の奥に、眼をやる。

 暗くて解りづらいが、40m程先の正面に、やはり鉄格子があるのが見える。そこに牢があり、そして、何者かが居るのだろう。


「ディケーネ。あそこの奥の牢に、一人だけ生存者がいるようだ」

「解った。私だけで、奥へと入って助けてくる。まっていてくれ」


「いや、俺も行く」

 勇一の言葉に、ディケーネは一瞬、反発するかのような表情を見せた。

 だが、何かを言いかけてやめる。

「では、ユーイチ。二人で行こう」

「よし。じゃあ。ニエスは此処で待っていてくれ」


 改めて狭い通路に見る。

 近づく者の魂でも掴みとろうとするかのように、大量の死霊(ゾンビ)達は必死に手を伸ばしている。通路は、左右の鉄格子の隙間から差し出された無数の手で殆どふさがれて、真ん中に僅かに通れる隙間があるだけだ。


 伸びる手に触れないように体を横にする。

 二人して、蟹のように横歩きで、慎重にすすんでいく。

 時々、差し出された腕の指先が、ディケーネの胸やお尻など出っ張った部分に、僅かに触れる。


 くそ、俺でも触ったこと無いのに!

 内心、怒りが湧いてくるが、そんな事は言っていられない。

 左右の鉄格子のすきまから何百という死霊(ゾンビ)の手が、掴みかかろうと伸ばされているのだ。

 ディケーネより、基本的には体の厚みがある勇一は、伸びる手に触れないように、更に慎重にすすまなければならない。

 一歩、一歩ゆっくりと進む。

 そして、なんとか勇一とディケーネは、死霊達のうごめく地下牢の、一番奥へとたどり着いた

 

 奥の牢を覗いてみると、中はかなり広い。

 パッと見たところ、誰もいないように見えた。

 ガランとして空間の角の床の上に、”何か”が転がっている。


 毛布のかたまり?

 いや、ちがうか。

 誰かが、毛布に包まって丸くなっているみたいだ。


 とりあえず、通路では左右から延びた死霊(ゾンビ)の手のせいで殆ど身動きできない。鍵を使って、牢の中に入る。

 レーザー小銃(ゴーク)を構えながら、警戒しんがらゆっくりと毛布に近づいていく。


 すぐ近くまで寄ると、驚いた事に、毛布のかたまりからは僅かな寝息が聞こえてきた。

 誰だか知らんが、よくこんな所で寝れるな。

 勇一は少し呆れてしまう。

 なにせ、周りは死霊(ゾンビ)の怨嗟をこめた呻き声の大合唱だ。

 

 その時、毛布がピクリと動いた。と、同時に毛布の一部が持ち上がる。


 毛布から現れたのは少女の顔だった。

 まるまった毛布から顔だけ出し、新種のかたつむりのような状態で、眠たそうにこちらを見ている。

 光輝く銀髪で、赤い目の少女。

 見た目は、かなり幼い。少女というより、幼女と言うほうが正確かも知れない。


 ちなみに、救出対象のオーウェン次期公爵の娘、エイシャ様の容姿はもちろん聞いている。

 年の頃は14歳。金髪でクルクルの巻き毛で、青い眼をしているとの事だ。

 眼の前の少女は、完全に別人だ。

 

「お前は何者だ?!」

 ディケーネが尋ねる。

 手にもったレーザー拳銃(レイニー)は、何か変な動きを少しでもしようものなら、すぐさま首を跳れるようにしっかり構えられている。


 少女の反応は鈍い。

 赤い眼が相変わらず眠たそうに、ボーと、こちらを見ている。

 

「答えろ! お前は、なぜこんな所に捕らえられている?」

 ディケーネの問いに、少女は答えない。

 その代わりに、ファーーとアクビしながら、伸びをする。

 毛布がずり落ちて、少女の上半身が露になった。

 大半が隠れていた銀髪は、くしゃくしゃで、そして予想以上に長かった。床に届いて、なお余って蜷局(とぐろ)を巻いている。

 そして、なぜか、毛布の中は、全裸だった。

 暗い牢の中で、浮かび上がるように白い肌。

 勇一は、思わず、眼をそらす。

 だが、目をそらす前に見えてしまった、あまり膨らんでいない胸の先っぽは、仄かにサクラ色だった。


「ユーイチ。見たか?」

「見た見た。サクラ色だった」

『お前は、いったい何をいってるんだ?』といった眼で、思いっきりディケーネに睨みつけられる。


「どこの話をしている。右手首だ。彼女の右手首を見てみろ」

 右手首?

 ディケーネに言われて、少女の右手を見てみる。

 彼女の右手首を取り囲むブレスレットのような、五つの輪の刺青があった。

 真っ白の肌に、黒い線で入っている為、かなり目立つ。


「刺青……、あの刺青って、なんだっけ?」

「おい、教えてやっただろう、忘れたのか。右手の刺青は、犯罪者の証だ」


 あ! そう言えばそうだった。

 いや、聞いてはいたが、見るのは初めてだ。

 なるほど、犯罪者はあんな感じで刺青が入ってるのか。


「彼女は犯罪者ってことか。とてもそんな風には見えないけどな」


「見た目の問題でもないだろう。人族《ヒューマン》で無い種族だったら、見た目は幼くても、実際の年齢は違ったりするからな。

 それより問題は"五本線"だ。私も始めてみた」


「"五本線"? なんのことだ?」

 勇一の疑問に、ディケーネが簡単に説明してくれる。

 犯罪者は右手首に刺青を入れるが、その刑罰の大きさによって線の数が変わるとの事だった。

 一本線が、泥棒などの、一般的な犯罪者。

 二本線が、殺人などを犯した犯罪者。

 三本線が、大量殺人者や盗賊の親分などで、首に多額の賞金がかかっていた重犯罪者。

 四本線が、国家反逆などを行った、国家的規模の犯罪者。

 そういうルールが有るのだと言う。


「ん? それだと"四本線"までじゃないか。この少女の右手には五本の入れ墨が入ってるけど、"5本線"はどんな犯罪をおかした者なんだ?」

「知らん。だが、"それ以上の犯罪をおかした者"と、言うことなのだろうな」


 この銀髪の少女が、国家反逆以上の犯罪を犯したってのか?

 どうにも、ピンとこない。


 不意に、銀髪の少女が、ちょっと鼻にかかった甘い声で、まるで歌うように話しかけてきた。

「♪#○サ・△・・○☆√」


 何を言ってるのか、まるで解らない。

 勇一は、言葉を訳してくれる便利なペンダント型の魔法具を首にかけている。

 だが、これはあくまで人族(ヒューマン)の言葉を訳してくれるだけだ。

 他の言語だと、何を言っているかまったく解らない。


「なんて言ってるんだ?」

「私にも解らん。人族(ヒューマン)以外の言語だな」



「△△♪@ル+◆ ラー@@エ>・・」

「いや、私達はお前の言葉がわからない。人族(ヒューマン)の言葉はしゃべれないのか?」


 ディケーネの言葉に反応したのか、少女がちいさな胸の前で腕をくんで考え込む。

 ちなみに少女は、石の床に直接、胡坐をかいて座っている。

 下半身も何も衣服を身につけていないので、色々(・・)と、丸見えだ。

 何がとは、あえて説明しないが、つるつるだった。


 少し考えていた少女が、片言の人族(ヒューマン)の言葉で呟いた。


「……オナカ ヘッタ」

 お腹減ったかー。

 食い物かー。

 今は何も、食べ物は持っていないんだよな。装甲指揮車(クーガースリー)まで戻れば、あるけど。

 まあ、ここにはエイシャ様も居ないのは確かだし、一旦もどるかな。


「とりあえず、装甲指揮車(クーガースリー)まで、彼女を連れて行くか」

「ユーイチ。連れていくつもりなのか? いいのか? 大丈夫なのか?」


 ディケーネは、少女の"五本線"の事を心配しているのだろう。

 なにせ、国家反逆以上の事をやった犯罪者なのだ。

 

「この少女が何やったか知らないけど……

 でも、こんな、まともな留置所でもない所に置いておく訳にもいかんだろう」


 勇一の言葉に、ディケーネは手を広げて、『呆れた』とポーズをとる。


「いや、でも、ユーイチは、そうゆう男だったな。解った。彼女を連れて行こう」


 着いて来いと、少女に、手振り身振りを加えながら説明する。

 少女は、コクリと頷いてから、立ち上がった。

 彼女のクシャクシャの銀髪は立ち上がっても、毛先が地面に触れてしまいそうな程の長さがあった。

 そして、全裸のままで付いてこようとしたので、あわてて毛布を身にまとわせる。


 さて、連れて行くのはいいけど……

 振り返ると、そこには、通路を塞ぐように延ばされた死霊(ゾンビ)達の手、手、手。

 怨嗟をこめた呻き声が、重なり合い狭い通路に渦まいている。


  ぐぅうぉぉおおおおおおおおあ ぐわえええ うぉおおおおお

  おおおおぉおおおおお うがぁああああ ぐぐぐぐううぅうううう

 

 また此処を抜けていかなきゃいけないのか。

 やだなー。

 そう思っても、抜けない訳にはいかない。


 ディケーネを先頭に、銀髪の少女が続き、最後に勇一が続く。

 体を横にして、左右から伸びる手を避けてすすむ。

 左右から、生きる者の体を求めるように、自分たちと同じ目に引きずり込むかのように、手が伸びてくる。

 蟹あるきで、一歩づつ、慎重に進んでいく。

 少女の足取りはかなり気軽な感じで、慎重さに欠けていたが、体が小さい為にあまり問題なさそうだった。


 入り口へと近づく。もう1~2歩で、通路を抜ける場所まできた。

 その時、地上へと続く階段から、僅かに風が吹き込んできた。

 僅かな風だったが、少女の床まで付きそうな程に長いクシャクシャの銀髪は、大きく揺れる。

 

 一匹の死霊(ゾンビ)の指先に、その髪が触れた。

 指先にわずかに絡まる。

 死霊(ゾンビ)が、力任せに、その髪をひっぱった。


「……!!」

 少女が声にならない叫び声を上げる。

 不意に髪を引っ張られ、バランスを崩した少女の体が揺れた。

 体が揺らいだせいで、その長い銀髪に、更にいくつもの死霊(ゾンビ)の手が触れる。

 つぎつぎに、腐った手が銀髪をつかみ、腐敗で崩れ落ちそうな指に絡みつく。

 亡者が助けの糸を求めるかのように、死霊(ゾンビ)達の何十本という手が、銀髪に絡みついていく。

 更に力を込めて銀髪を引っ張り、少女を鉄格子へと引き寄せようとする。

 

 光の筋(レーザー)が、奔る。

 勇一が、レーザー小銃(ゴーク)で、死霊(ゾンビ)を頭を次々と打ち抜く。

 頭を打ち抜かれた死霊(ゾンビ)が動きを止める。

 だが、腐った指はくしゃくしゃの銀髪に絡まってしまっている。頭を打ち抜かれ動きを止めても、死霊(ゾンビ)の手や体は少女の銀髪を掴んだそのままの状態で、残ってしまっていた。


 ま、まずい!

 勇一が内心 焦る。

 そのうえ、鉄格子から伸ばされる死霊(ゾンビ)の手の数はあまりに多い。

 いくら死霊(ゾンビ)の頭を打ち抜いても間に合わない。

 何十本と言う死霊(ゾンビ)の手が、まるで蜘蛛の巣に捕まる獲物のように、少女の銀髪に絡みついていく。

 それはまさに、捕らえる者と、捕らえる者が逆転した、銀の蜘蛛の巣だった。

 銀の糸に絡まる死霊(ゾンビ)の数は更に増えていく。

 

 フッ! ディケーネが短く息を吐く。

 光の剣と化した光の筋(レーザー)が、暗い通路の中を奔る。

 その光の剣は、死霊(ゾンビ)ではなく、少女の銀髪(・・・・・)を断ち切った。

 引っ張られていた髪が急に断ち切られた為、バランスを崩して倒れそうになる少女。

 飛び込むように勇一が抱きしめる。そのまま、勢いに任せて床を転がり、通路の外へと飛び出した。


「大丈夫ですか! 御主人様、ディケーネさん!」

 少女を抱きかかえた形で床に転がる勇一へと、入り口で待っていたニエスが心配して駆け寄ってきて、心配してくれる。

 もちろん、まったく問題ない。

 床に転がった勢いで、少女の体に巻きつけていた毛布がめくれ上がり、下半身が丸見えになってしまい、勇一の目の前につるつるがあったが、それは非常によくある、とてもありがちな事故なので、まったく問題ない。


 ふう、何とか助かったな。

 振り向くと、何十本という死霊(ゾンビ)の腕たちが、残された銀髪を奪い合っている。

  ぐぅうぉぉおおおおおおおおあ ぐわえええ うぉおおおおお

  おおおおぉおおおおお うがぁああああ ぐぐぐぐううぅうううう

 まるで、その銀髪され手に入れれば自分が助かると信じている亡者のようだった。


 ディケーネが近づいてきて、少女の目の前に跪いた。


「少女よ、すまん。仕方なかったとは言え、髪を切ってしまった」

 ディケーネが、少女に謝罪する。

 『髪は女の命』は、元の世界でもよく聞く言葉だったが、どうやらこの異世界でも同じらしい。

 いや、感覚が中世ヨーロッパに近いこの異世界では、俺が学校に通っていた元の世界よりも、ずっと女性の髪は大事な物なのかもしれない。

 だが、謝罪された少女の方は、言葉が通じていないのか、キョトンとした表情で、ディケーネを見ているだけだ。

  

「謝罪の代わりと言ってはなんだが……、私の髪も切る。それで許してくれ」

 いきなりディケーネが、手にもった片手剣で、自分の髪を切ろうとした。


「ちょっ ディケーネやめろ!」

「わわ、ディケーネさん。早まらないで」

 思わず、勇一とニエスが、ディケーネを止める。 


 どうやら、その様子を見て、少女もやっと事態を把握したらしい。

 あわてて、ディケーネの動きをとめるかのように、片手剣を握るディケーネの手の上に、自分の手を重ねてから、叫ぶ。


「○△****ダ! ◆ザ○@@!」

 もちろん何を言ってるか、解らない。だが、少女の意思は伝わってくる。

 ディケーネは手を止めた。

 それから少女は、小さな胸の前で両手を組んで、しばし考えこむ。

 どうやら何かを何かを伝えるために、言葉を探しているようだった。三人で少し待つ。


 肩に僅かに届くぐらいの長さになってしまったクシャクシャの銀髪を触りながら、少女は言った。

「サッパリ シタ ヨォ」


 そして、少女は唇を左右に大きく開く独特の笑い方で、ニヒヒヒヒと微笑んだ。


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