表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/96

37 侵入

 

 上り坂になっている表通りを、なおも丘の上にある館を目指して進んでいく。

 少し進むと、小さな広場のような所にでた。

 真ん中に噴水の小さな広場からは、四方に道が伸びている。

 その広場にまた二十体程の死霊(ゾンビ)の集団が道を塞いでいるが、先頭にいる『紫檀(したん)の風』が、物ともせずに蹴散らしていく。


 横にある建物と建物の隙間のような狭い路地から、湧き出るように三体の死霊(ゾンビ)が現れて、装甲指揮車(クーガースリー)にも襲い掛かってきた。

 

 ハッチから半身を出した勇一が、落ち着いてレーザー小銃(ゴーク)で狙いを定める。

 一体の死霊(ゾンビ)は胸を。

 一体の死霊(ゾンビ)は右足を。

 そして最後の一体の死霊(ゾンビ)は頭を、それぞれに狙いを付けて十字を刻む。


 

 胸を撃たれた死霊(ゾンビ)は十字型の穴を胸に開けたままで、右足を撃たれた死霊(ゾンビ)は右足がもげても地面を這いずって、こちらに向かい続けてくる。

 頭を打たれた死霊(ゾンビ)のみは、そのまま動かなくなっていた。


 やっぱり、頭を打ちぬかないと倒しきれないのか。

 俺の知ってる死霊(ゾンビ)と基本は一緒だな。

 後は、"ゾンビに噛まれるとゾンビになってしまうのか?"も、本当は検証したいけど、さすがにそれは無理だよなぁ。


 とりあえず、検証し終わった勇一は、動き続けている二体の死霊(ゾンビ)の頭を打ち抜き、トドメを刺した。


 前も見ると、広場の死霊(ゾンビ)もすでに『紫檀(したん)の風』のメンバーによって全滅している。

 だが、なぜか、戦い終わった『紫檀(したん)の風』のメンバーが全員、勇一を見ている。

 いや、『紫檀(したん)の風』のメンバーだけでなく、『水と炎の旅団』のメンバーも全員が、驚愕の眼で勇一を見ている。


 なんだろう?

 なんで、みんながコッチを見てるんだ?

 俺が、なんかやっちまったか。


 戦闘に殆ど参加していなかった、魅惑の魔法使いアマウリが、こちらに寄ってきた。


「素晴らしい! それが噂に聞いていた、竜を倒した光の魔法ですね!」


 どうやら、皆は勇一が撃ったレーザーに驚いていたようだ。

 勇一がグルキュフの攻撃を始めてみて驚いたのと同様に、周りの皆も勇一の攻撃を始めてみて驚いたのだ。『水と炎の旅団』のメンバーも、話には勇一のレーザーを聞いてはいたが、実際に見るのは始めてだ。

 近づいてきたアマウリの、切れ長で色っぽい瞳には"好奇心"を満ち溢れている。


「ふーむ。私の知っている光魔法とは違う、なんとも変わった魔法ですなあ」

「カワッタ マホウ」「ヘンナ マホウ」

 『水と炎の旅団』のメンバーの小太りの魔法使いティブラと、仮面をつけた二人リィとルゥも寄ってきた。

 こっちも、興味深々といった感じだ。


「魔法具に充填している魔法を、なんらかの方法で射出してるようですね」

「ふーむ、威力も申し分なく、呪文の詠唱もまったく無くて、実戦では非常に使いやすそうさ魔法ですなあ」

「ツカイ ヤスイ」「イイ マホウ」


 集まってきた魔法使い系だと思われる人たちが、そこで談義を始める。

 どうやら、勇一の攻撃を完全に魔法だと思っているらしい。

 それどころか、勇一のことを仲間、ようするに魔法使いだと思っているようだ。


 ちなみに、この勘違いは、何も彼らだけではない。

 ダーヴァの街の人々も、実はほぼ全員が、勇一のことを"魔法使い"だと思っている。

 なにせ見た目からして、黒いローブを着て魔法使いそのものだ。

 最初こそ槍を持ち歩いていたが、最近はレーザー小銃(ゴーク)を肩にかけて、腰にレーザー拳銃(レイニー)を携帯しているだけで、物理系の武器は持ち歩かなくなっている。

 そして、後ろに女剣士を二人、護衛のごとく従えて歩く姿は、どこからどう見ても"魔法使い"だった。

 これで、勘違いするなと言うほうが無理である。


 勇一本人は、まったく魔法は使えないどころか、よく解ってすらいないのだが。


「何をごちゃごちゃと話しておる! ここをどこだと思ってるんだ?! 戦地だぞ、敵地のど真ん中だぞ!

 女どもの洗濯場みたいな、井戸端会議する場所ではないぞ!」


 アドリアーンが、談義に夢中になりだした魔法使い達を一括する。

 集まっていた魔法使い達は、怒鳴れても別に慌てる様子もなく、『仕方ないなあ』といった感じで、元の隊列にもどっていく。

 色々とレーザー小銃(ゴーク)について質問を受けていた勇一は救われた気分だ。


「まったく魔法使いどもは、これだから……。まあ、いい。いくぞ!」


 改めて、丘の上にある館を目指して、前進する。

 その後も、散漫に死霊(ゾンビ)の攻撃を受けたが、全てを難なく撃退していった。

 

 不意に眼の前が開けた。狭い道が広場へと繋がっている。


「止まれ」

 アドリアーンの指示で、広場にでる手前の狭い道で集団が止まる。

 広場の向こう側、正面にはいかつい鉄の門が行く手をふさいでいる。

 敵の大群の進行を塞ぐ為に作られたであろう鉄門は、錆付いているものの非常に強大で、破城槌など専用の攻城兵器でもなければ、とても壊せそうに無い。

 その鉄門の左右には、ずっと向こうまで高い壁が続いている。丘の頭頂部の周りをぐるりと取り囲んでいる壁だ。

 どうやら、目的地である大魔法使い『グリン・グラン』の館に到着したようだ。

 周りには警備らしき者はまるでいない。

 シンと静まりかえった広場と、その向こうにある厳つい鉄の門が、異様な空気を醸し出している。


「とりあえず正面には敵はいないようだな。では、ここで改めて侵入の準備をする」

 

 全員が馬を降りて準備を始める。

 馬はこの場で『紫檀(したん)の風』について来ていた荷物持ち(ポーター)の奴隷二人が、待機しつつ守るとの事だった。

 それぞれが荷物を降ろし、武器や回復薬(ポーション)などの荷物の最終確認を行う。

 

 勇一達も、準備を始めた。

 装甲指揮車(クーガースリー)電動バギー(ピェーピェー)はここに置いていくことになる。

 三人ともレーザー小銃(ゴーク)レーザー拳銃(レイニー)のバッテリーを確認する。

 予備バッテリーも、多めに持っていくことにした。


「アマウリ、探れ」

 アドリアーンの指示されて、魅惑の魔法使いアマウリが小声で魔法を詠唱する。

 小さな光が、アマウリの両手の間に浮かびあがる。

 少し時間がたつと、何もないまま、その光が消えていった。


「解りました。壁の中には、三つの建物が建っています。

 その一番奥にある建物から、非常に強い魔法反応を感じます。そこに、"最強、最悪、最古"の魔法使いがいると思って間違いないでしょうね。

 エイシャ様に関しては、残念ですが、発見することまではできませんでした」

「ふむ。エイシャ様が、どこにいるか解らんか」


 アマウリの答えに、アドリアーンが、すこしだけ顔をしかめる。


「私の探索魔法でも、同じ探索結果になりましたなあ」

 『水と炎の旅団』の小太り魔法使いティブラが、横からにこやかに言った。

 その言葉を聞いて、さらにアドリアーンが顔をしかめる。

 それから、なぜかチラリと勇一の方をみた。


「おい、ユーイチとやら。

 お前は探索系の魔法は使えないのか? あの館の様子は解らんのか?」


 俺は魔法使いじゃねーよ!

 と、突っ込みを入れたい気分だが、黙っておく。

 かわりに、タツタに質問する。


「おいタッタ。あの館の中がどうなっているか、解るか?」

「はい、"コの字"の形に三つの建物が建っています。

 手前右の建物をA 手前左の建物をB 一番奥の建物をCと仮定します。

 Aの建物には、人の反応はありません。

 Bの建物の地下部分に、人の反応が3。

 Cの建物の中に、人の反応が9有ります」


 タツタの話す日本語は、周りの皆には解らないので、勇一が改めて説明を行った。


「手前右の建物は空。手前左の建物の地下に3人。奥の建物に10人程の人がいる。

 やっぱりエイシャ様がどこに居るのかは、解らないな。

 魔法使い『グリン・グラン』がどこにいるのかも俺達には解らない」


 その答えに、『やっぱりエイシャ様の居場所は解らんか』とアドリアーンは渋い顔をする。


 それとは別にアマウリと、ティブラは勇一の答えの内容に興味深々だった。

「なかなか個性的な『使い魔』ですね。そのうえ探索魔法の種類まで違うみたいです」

「ふうむ、人の数と居場所がそこまで正確に解るとは、なかなか興味深いですなあ」

 また、魔法談義を始めそうな勢いのアマウリとティブラ。

 その二人をアドリアーンがジロリと睨みを効かせて黙らせる。


 アドリアーンは、顎に手を当てて、思案する。

 ユーイチが言うには、手前左の建物の地下に3人程、居るらしい。

 そこは多分、地下牢だろう。じゃあ、エイシャ様は、その地下牢にいるのか?

 いや、それだと見張りが2人しかいないことになる。

 それに大事な人質だ。わざわざ離れた地下牢に入れるより、身近な部屋にでも監禁している方が確立は高いだろう。

 だが、可能性が低いとはいえ地下牢を無視する訳にもいかない。


 チラリと、改めて『水と炎の旅団』のリーダー、グルキュフの顔と『名無き者(ネームレス)』のリーダー、ユーイチの顔をみる。


 グルキュフ。こいつは、昔から知っているが、非常に油断ならん男だ。

 それに、ユーイチ。こいつも先ほどの光の魔法を見る限り、なかなか侮れんかも知れぬ。

 さて、どうしたものか。


 実は、アドリアーンには、依頼の目的である”エイシャ様奪還”とは別の思惑があった。

 彼は、どうしても大魔法使い『グリン・グラン』の首を、自分の手で取りたいのだ。

 もちろん名誉欲もあるが、それよりも、ごくごく単純な"強い者を打ち倒したい"という欲求が強かった。

 子供の我侭の様な欲求だったが、アドリアーンにとっては、それは”生きる指針”と言っても過言ではないほどに重要な物だった。

 

 

「よし。こうしよう。

 左の建物の地下は、地下牢だろう。ユーイチ、お前達『名無き者(ネームレス)』は、そこを探れ。

 奥の建物には、大魔法使い『グリン・グラン』がいると思われる。そこには左側から『水と炎の旅団』が、右側から我ら『紫檀(したん)の風』が潜入する」


「異存はありません。それで、いいかと思われます」

 そう答えたのはグルキュフだ。

 勇一にも、別に異存はない。承諾の意を示すために、黙ったまま頷く。

 他の皆も、依存は無いようだ。


「では行くぞ」

 アドリアーンの指示の元、三つのパーティーが行動を開始する。

 正面の鉄門はとても開きそうになく、ここから入るのは無理であろう。

 だが、館を囲む壁は、あちらこちらが崩れかけている。少しよじ登っていけば、侵入する分にはさほど問題なさそうだった。


 壁を越える前に勇一が、一度振り返った。

「タッタ。留守番頼むぞ」

「はい。装甲指揮車(クーガースリー)電動バギー(ピェーピェー)の管理はお任せください。お気をつけて」


 三つのパーティーは壁を越えて、大魔法使い『グリン・グラン』の館へと、足を踏み入れていく。


 その先に、いったい何が待ち受けているかも知らぬままに、侵入していった。


バニアの街の中の話は、いわゆる状況の『説明回』で

なかなか盛り上がりそうで盛り上がらず、お待たせしてしまいました。


次回から、やっと盛り上がってゆく予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ