21 死体
光の筋の射出が止まり、森の中は、また元の暗さを取り戻す。
異様な静寂だけが、森を包み込んでいた。
少しの間をおいて、モヒカンの男がハッと我にかえった。
ま、まさかぁ、ライトドラゴンが倒れたぁああ?!
助かったのかぁあ? おれわぁたすかったのかぁ?
でも、でもぉお、なぁんでぇ?
なあぁああんで 新人くぅぅうんがぁああ?
ドラゴンの死体の向こう側には確かに へんな魔法具をもった、新人くんが立っていた。
モヒカンの男は我が目を疑う。見間違いかと、眼をゴシゴシとこすって何度も見直す。
だが、何度も見直してもそこに立っているのは、新人くんだった。
勇一は、モヒカンの男には目もくれず、ライトドラゴンの死体にのみ意識を集中して、少しづつ近づいていく
「ユーイチ、用心しろよ」
勇一の後ろから、ディケーネもついている。
二人共レーザー小銃を構え、銃口をライトドラゴンに向けたままで、徐々に近づいていった。
ライトドラゴンの死体にある十字の傷口からは、レーザーに肉を焼かれた事による煙が漂っている。
そして、そのライトドラゴンの死体の周辺、暗い森の中にズタズタになった無数の冒険者達の死体が転がっていた。
「う……これは…、えぐいな」
ムワっと、生臭い血の匂いと熱が押し寄せてくる。
勇一が、ライトドラゴンに近づいていき、改めて完全に死亡しているのを確認する。
その間に、ディケーネは冒険者達の死体が転がっている場所へズカズカと入っていく。
辺りに散乱した死体を見て回る。
「息のある者がいたら回復薬で助けようとおもったんだが、……駄目だな。
生き残ってるのは、あの男だけのようだ」
ディケーネが指さした方向に、勇一も目を向ける。
あ、こいつかー。
勇一は、そこで初めて唯一の生き残りが、例の"モヒカンの男"だと気がついた。
眼があったモヒカンの男はニヤリと笑う。
「新人くぅぅんが相手じゃぁああ、ケエツウのあなぁは、やれねえなぁああ」
なに訳のわからんこと言ってるんだ、こいつ?
勇一が、顔をゆがめる。
それでも、たった一人だけでも、助ける事ができたことに少しだけ安堵する。
イトウコウヘイ准佐の言葉が頭によぎる。
『君と、君の周りで困難な状況にあるすべての人の為に、この機器達を使ってくれ』
もちろん勇一は、イトウコウヘイ准佐の詳しい事情はしらない。
だが、その機器を勇一は、受け継いだ。
"強い力を持つものは、強い義務をもつ。"
タツタを始めとする機器の数々を受け継いだ、勇一には、その意思をも継ぐ義務があった。
今回の事で勇一は、『困っている人がいれば、助ける』という当たり前の事をするべきなのだ と、改めて強く自覚していた。
「ユーイチ、とりあえずその男は元気そうなので、ほっておくことにしよう。
それよりも、このライトドラゴンの死体を持って帰る準備をしよう」
「ドラゴンの死体? もって帰るってことは、やっぱりドラゴンって武器の材料とかになったりするのか?」
「もちろんだ」
なるほど。やっぱりそうなのか。
まあ、ドラゴンから取れる材料で作る武器が強いってのは、ゲームでも定番だもんな。
勇一は、なんとかライトドラゴンの死体を持って帰る方法に思いをめぐらす。
「ユーイチあそこに、空の馬車がある。
元々このレイドパーティーがライトドラゴンを退治したら、死体を載せてもって帰る予定だった荷馬車だろう。アレを借りてしまおう」
見ると、屋根の無い形で荷物を載せる為だけの荷馬車が放り出してある。
馬は、逃げてしまったのか、どこにもいない。
「とりあえず荷馬車を借りてしまって、街で返すとするか」
通れる道がなかった関係で、近くに止めておいていた電動バギーのところまで一旦戻る。
「御主人様。 ドラゴンはどうなりました?」
電動バギーで待っていたニエスが心配ぎみに聞いてきた。
『やったぜ』と言う意味合いで、親指をグッと突き立ててみた。
すると
「ぎゃっ! 御主人様の変態!!! こんな時になにやってるんですかー!!」と、本気でなじられた。
失敗した!?
どうやらこっちの世界では、親指を立てるジェスチャーは、違う意味があるらしい!
ディケーネがいつものように、横から『なにやってるんだ お前は』的な目でみていた。
それから、草や木を隙間を掻き分けて電動バギーをドラゴンの死体の近くまで持ってくる。
ライトドラゴンの死体に牽引用のワイヤーを絡ませ、一旦電動バギーに結ぶ。
無理矢理引きずるようにして、なんとか空馬車にのせる。
その後、その荷馬車を電動バギーに牽引用のワイヤーで結びつけ、引っ張って走れるようにした。
「よし、行くか」
「ちょほいぃと、まちなぁぁあああ 新人くぅぅん」
まだ、いたのか、この男。
声をかけてきたモヒカンの男に対して、勇一は思わず、顔をゆがめる。
「なんだよ。なんか用か?」
「そぉおんな 嫌そうなぁあ 顔すんなよぉお。ともだちぃだろう ともだちぃいい」
「お前と、いつ友達になったんだよ」
「つめたぁああい、つめたぁぁああいねえ。新人くぅぅん。おれはぁ、助けてくれてぇええ、本当にぃい 感謝してるんだぜぇえええ。まじでぇ まじでぇ。まじだってぇええ。だっからさぁあああ、一回だけぇえええ、俺がしぬまでぇにぃいい 一回だけええええ。
モヒカンの男の目が、少しだけ鋭く光る。
「一回だけ 命がけでお前を助けてやるぜ。絶対にこの恩はかえすぜぇえええええ」
それから、ポケットから魔物除けの薬品の瓶を取り出して、目の前にぶらぶらさせる。
「俺はちょぃいと、これをやってからぁあ 街に帰るとするぜえええ。そうそう、俺がもってるだけじゃぁああ、足りないからさあああ、持ってたらちょぃとわけてくれよぉぉおおお」
ディケーネが腰につけたバッグから魔物除けの薬品が入った瓶を取り出す。それをモヒカンの男に向けて放り投げた。
「使え」
「ありがとぉよぉおおおお、じゃああねぇええ」
モヒカンの男は、その薬瓶をキャッチすると、死体のある方向へと歩いていった。
「あの魔物除けの薬、なんに使うんだ?」
「死体に振りかけておくんだ。
そうすれば死体が魔物に食われないからな。後から死体を回収する場合はそうしておくんだ。
今回、死体の数が多いから、改めて死体回収パーティーでも組むつもりなんだろうな。
さあ、私達は行くとしよう」
ディケーネに言われ、勇一達は出発した。
森の中で、モヒカンの男は、死体の山に近づく。
いくつかの死体を踏み越えて進み、一つの死体の前で立ち止まった。
「おいおい、キルスティィイイイン。
おめええ、もうすぐぅうう例のこいびとぉぉおおに、結婚申し込むとかぁああ、言ってたじゃねえかあ。死いんじまってぇえええ、どうすんだよぉおおお」
殆どの冒険者仲間達が、モヒカンの男の実力は認めながらも非道で金に汚いやりかたについていけず、距離をとっていった。
そんな中、情にあつい性格で、そのうえ同じ地方出身だった彼だけは、ずっと仲がよかった。
その男、キルスティンは、モヒカンの男にとって、唯一、友人といえる男だった。
「まあ、死んじまったもんわぁああ しゃぁあねえ。
勇敢な戦士だけがぁあ死んだぁら行けるっていうう"アルドニュスの館"でぇええ、酒でも飲んでまっててくれぇええ」
モヒカンの男は膝まづき、熱心なイルース教信者だけが行う、複雑で手間のかかる正式なやり方に則って、死者に祈りを捧げた。
祈りが終わる。
すると、おもむろに死体の懐に手を突っ込んだ。
死体の懐から、何枚かの金貨を取り出す。
「お、あったあった。けっこうもってるじゃねええかぁあああ」
その行為は禁じられている、"死体あさり"だった。
本来ならば、死体を回収する場合、死体の持ち物はすべて遺族に渡される。
ましてパーティ仲間の死体をあさるなど、冒険者として"外道中の外道"決して許される行為ではない。
だが、モヒカンの男はそんな事はもちろん気にしない。
剣などを盗むと所有者が判明してばれる事もあるが、金だけ盗めば、ばれる事もない。
モヒカンの男は立ち上がって、周りをぐるりと見渡す。
「こんだけぇぇええ 死体があったらぁあああ、下手したらぁあドラゴンたいじぃの分け前よりぃいい、もうかるんじゃねええかぁあ?」
げへへへっへへ、と 下卑た笑いをあげる。
「やっぱりぃいい おれぇわあ 運がいいぜぇええええええ!!
ひゃっほほぅうううううう!!」




