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15 警告


 次の朝、装甲指揮車(クーガースリー)と、電動バギー(ピェーピェー)の二台で森の中の細い街道を走る。


 非常に快適だ。

 街道沿いに走るだけなら、タツタが自動運転を行ってくれるので、勇一は運転の必要すら無い。

 来るときに苦労して歩いて来た事に比べると、本当に楽だ。比べようもない。


 窓の外に目をやると、ニエスが愉しそうに電動バギー(ピェーピェー)を走らせている。

 ここからは聞こえないが、何か鼻歌を歌っているようだ。


 たまにすれ違う行商人が、眼を丸くしてこっちを見ていく。

 確かに目立つけど、気にしても仕方ない。

 そのまま、ダーヴァの街に向けて、走り続ける。


 でも、あれだな。

 街に近づいたら、人も増えるし、目立ちすぎるかなあ。

 とくに装甲指揮車(クーガースリー)は大きすぎて街に入れるのも問題ありそうだ。

 とりあえず街の近くの森にでも、隠しておかないといけないかも知れないな。


 勇一がそんな事を、ボーと考えていると、いきなり、ピーと軽い警戒音が鳴った。

 ドローン『タツタ』が、冷静な声で報告をしてきた。


「周辺監視範囲内に新たな反応があります。状況から推測し危険な可能性は『低』と判断しました。

 詳細をご報告いたしますでの、対応をご検討してください」


「ユーイチ、何があった? タッタは何て言ってるんだ?」


 タツタの話す日本語が解らないディケーネが、聞いてくる。

 ちょっとまってくれと、ディケーネを手で制してから、詳細を聞く。


「前方の、現在進行中の街道が別の街道に合流する地点で、通常速度での走行に支障をきたすほどの非常に多数の人の反応と、馬と思われる哺乳類の反応があります。

 戦闘的な動きは無く、一般人だと思われますが、一度ご確認ください」


「どうやら、この街道が、別の街道が合流した先の所に、すっごい沢山の人がいるみたいだ」

「ああ、そう言う事か。もうすぐ太い街道に出るからな。確かに行き交う人は増えるだろう」


 少し走ると、すぐに、前方に別の街道へと合流するT字路が見えてきた。

 目の前の、街道は今まで走ってきた細い街道に比べ、ふた周り程大きな街道だ。

 その街道を、多くの馬車がズラリと並んで、やたらとゆっくり進んでいる。


「すげえな。まるでお盆や年末年始の渋滞みたいだ。

 こっちでも、渋滞ってあるんだなあ」


「いや、こんなに混むのはさすがにおかしい。

 ただ、なぜか緊迫した感じは無いな。それほど危険が差し迫ってる訳ではなさそうだが…。

 ちょっと聞いてくる」


 装甲指揮車(クーガースリー)は大きい街道に入り、前の馬車に付いてゆっくりと進んでいっている。

 ディケーネはハッチを開けて道に降り、小走りに駆けていった。前方の商隊の者に声をかける。

 少しの間、話し込んでから、帰ってきた。


「解ったぞユーイチ。この渋滞の先頭には、どうやらアリファ姫とベルガ姫の一団がいるらしい。

 王族の一団を追い抜かすのは不敬罪に当たるんで、皆がその後ろをゆっくり進んでいるみたいだ」

「えええ? 王族? この道って、王族がダーヴァに向かう時に通る道だったのか」


「いや、この街道は王都とダーヴァの街をむすぶ主街道ではないぞ。

 なんでも王族は姫様お二人だけで、王子と王妃はおらず、護衛の数も少ないとの事だ。

 姫様だけお忍びでどこかに寄り道したのではないか、と、前にいる商隊の連中は噂してたぞ」


「お忍びかあ。何しにこんな所きたんだろう? 幼馴染の男の子にでも、こっそり会いにいったのかな?」

「さあ、しらん」


 勇一の軽口は、ディケーネにもちろん軽く流された。


 改めて、前方に目を凝らしてみる。

 森の中の街道に、いくつかの商隊が並んでいるのが見えるだけで、王族の集団とやらは見えない。

 けっこう渋滞の列は長いようだ。

 どうする事もできないので、そのままノロノロとゆっくりとしたスピードで移動し続けた。


 なんとも緊張感のない、ダラダラとした時間が流れる。

 おなじように暇をもてあました商人達が、交代で自分の馬車を離れて、こっちにやってくる。

 装甲指揮車(クーガースリー)と、電動バギー(ピェーピェー)に興味心身で『これは、いったい何なんだ?』『魔法で動いているのか?』などと矢継ぎ早に質問してきた。

 なかには、『売ってくれ。金なら幾らでも払う。いや、せめて、何処で作られているかだけでもおしえてくれないか』と必死に懇願してくる商人までいたが、適当にあしらって走り続ける。

 そのまま何もせずに、少しの時がすぎた。


 不意に、そのだらけた空気を警戒音が破った。

 赤い警告灯が点滅し、ピーピーと警戒音が鳴る。

「周辺監視範囲内に新たな反応があります。状況から推測し危険な可能性が『高』と判断しました。

 詳細をご報告いたしますでの、対応をご検討してください」


「タッタ 今度はなにがあった?」


「左前方十一時の方向、距離980mの地点に、人と思われる反応が約320、馬と思われる哺乳類の反応が約320があります。

 これらの反応を以後は、グループAと仮定します。

 グループAは、現在、街道付近の森の中の地点で、全員騎乗した状態で停止しております。

 グループAが同陣営の戦力で無い場合は、待ち伏せの可能性が高いと考えられますので、一度、ご確認ください」


「確認のしようなんて無いけど……

 確認するまでもなく、それって待ち伏せだろう!」


 タツタの言葉に勇一は、思わず叫んでしまう。


「ユーイチ待ち伏せだと? 何処からだ? 数は?」

「左前方、数は320。全員 騎乗してる」


 ハッチを開けて、上半身を出して、周りを見る。

 森の中に目をこらしても、敵を見つけることはできない。


「待ち伏せだ! 左前方から来るぞ!」


 叫んでも回りの反応は鈍い。商人達が『なんだなんだ』とこっちを見ているだけだ。

 一部の護衛を生業としているであろう者達だけが、剣を構え、回りを警戒する。


「反応に変化がありました。

 グループAが、街道内の他のグループに接触、戦闘が開始されました。

 いくつかの瞬間的な熱反応も、複数発生しています。今後グループAは、敵対勢力と判断します」


 運転席の中からタツタが叫ぶように報告してくる。

 同時に、前の方から、わずかに怒号や悲鳴が聞こえてきた。

 だが、ここからは距離が遠すぎるのと、間にある商隊の馬車達が視線を遮っている為、戦闘の様子を直接に目視することは出来ない。


「反応に変化がありました。

 街道内のグループが大きく二つに分かれています。

 敵対勢力と交戦する集団、人の反応が79、馬と思われる反応が72。こちらを以後はグループBと仮定します。

 別途、敵対勢力との交戦を避けて、後方へと撤退してくる集団、反応数が多すぎて詳細は不明。こちらの集団は以後、グループCと仮定します」


 襲撃してくる集団に対して、反撃する姫様達の護衛。 

 そして、目の前に並んでいた商隊達は、前方で起こった戦闘から逃れようとして、こちらに向かって押し寄せてきている。

 どうやら、襲撃してきた集団は、商隊へはまったく興味が無いらしく、姫様達に攻撃を集中しているようだ。


 どうすれば いい?

 とりあえず、俺達も逃げるべきか?


 もちろん勇一はちゃんと正義感がある。

 いまどきの高校生なので、あまりにも真っ当な正義を口にするのは"恥ずかしい"と思うことも多々あるが、それでも正義感はある。

 だが、ドローン『タツタ』の警告を聞いた時は、『助けに行こう』とは思えなかった。

 テレビやネットの中で大きな戦争や事故の話を聞いても、他人ごとで助けに行こうなんて思いは湧かない。

 それと同じような感覚で、見たこともない姫様が襲撃されている事に対して、すぐさま『助けに行こう』という発想に結びつかない。


「反応に変化がありました。

 グループBの人の反応数が急速に減少。62まで減少しました。

 至急に対応をご検討ください。更に減少。61、60、59まで減少しました。

 至急に対応をご検討ください。更に減少、58、57」


 タツタがまるで、早く助けに行くよう催促するかのように、何度何度も警告を発する。


 前方から聞こえてくる怒号や爆発音が大きくなる。

 それにまざって、逃げ出そうとする人々の声や、馬のいななきが響く。

 街道は、混乱にまみれている。

 商隊の人や馬車が、前方の戦闘をさけようと、どんどんこちらに押し寄せてくる。

 装甲指揮車(クーガースリー)は大きすぎて、逃げ出す人々の道を塞いでしまうような形になってしまっていた。


「グループCの、人の反応数、減少、詳細数不明。

 グループBの人の反応数、更に減少56、55、54、53

 至急に対応をご検討ください。更に減少52、51、50」

 

 タツタが、全滅までのカウントダウンを続ける。『助けにいってくれ』と叫んでいるようにも聞こえる。

 ドローン『タツタ』には、もちろん感情が無い。

 だが、タツタの行動指針の中には、開発者と前管理者の影響が色濃く残っていた。

 特に前管理者のイトウコウヘイ准佐の影響は大きい。

 彼は、崩壊した前世界の中でも希望を持ち、滅び行く運命に最後まで抗った人物だった。

 そして、自分の死の目前に、自分達以外で生き残った人類がいたら有効活用できるようにと、タツタや、それ以外の機器を開放した。


 勇一は、もちろん詳しい事情は知らない。

 それでも、イドウコウヘイ准佐の最後のメッセージは知っている。

『君と、君の周りで困難な状況にあるすべての人の為に、この機器達を使ってくれ』


 助けにいく?

 この俺が? 襲われている姫様達を?

 ヒーローでもなんでもない、普通の高校生のこの俺が?


「グループCの、人の反応数、減少、詳細数不明。

 グループBの人の反応数、更に減少49、48、47、46

 至急に対応をご検討ください。更に減少45、44、43」


 勇一は、右の手のひらを見る。

 この世界に来て、いきなりゴブリンにきりつけられた右の手のひら。

 あの時、生まれて初めて"死"を意識した。

 この世界は弱肉強食で、暴力は身近で、"死"はすぐそこにある。

 そんな冷酷な世界の中で、見も知らぬ人を助けに行こうとする者はいないだろう。


 元の世界でも、勇一はどこにでもいる高校生だった。

 いや、学校にはちゃんと行っていたが、それ以外はずっと部屋にこもってゲームばかりしていたような高校生だ。

 決して、正義の味方になるような人物じゃない。


「グループBの人の反応数、更に減少42、41

 至急に対応をご検討ください。更に減少、40、39、38

 至急に対応をご検討ください。更に減少、37、36、35

 至急に対応をご検討ください。更に減少、34、33

 至急に対応をご検討ください。至急に対応をご検討ください

 至急に対応をご検討ください。至急に対応をご検討ください」


 それでも……


 勇一が吼えた。

「ディケーネ!! 電動バギー(ピェーピェー)へ移るぞ! 

 ニエス!! 電動バギー(ピェーピェー)をこっちに寄せろ! 

 タッタ!! 装甲指揮車(クーガースリー)を前方からくる商隊馬車を逃がす為に、バックさせろ!」


「解った」

「はい」

「了解しました」


 勇一は、近づいてきた電動バギー(ピェーピェー)に、レーザー小銃(ゴーク)を手にして飛び移る。ディケーネも、同じようにレーザー小銃(ゴーク)を手に、続いて飛び移った。


「ユーイチ、電動バギー(ピェーピェー)に移ったはいいが、どうするつもりだ?」

「もちろん、決まってるだろう」


 じつは内心で"いつか一度は叫んでみたい"と、ずっと思っていた、あの台詞を勇一は叫ぶ。


「お姫様を、助けに行くんだよ!」


とうとう 電動バギーが疾走します!



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