表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

ACT6 ミシカ居住区 広場 18:21



茜空。夕日が民家を、噴水を、そして人を優しく照らす黄昏時。


二人が広場に入ると、プレイヤー達は一点を見つめていた。


視線の先には、見覚えの有る人影。


巨大で無骨な大鎚、大規模レイドのドロップアイテム<圧し轢き潰す工匠>アーガレスを携えたドワーフ族のプレイヤー。


「あれ、ローグだよね。<禿鷹傭兵団>の…」


「禿頭からして、間違いなくローグだな。木箱積み上げて何してんだ?」


禿鷹傭兵団。各地に点在するプレイヤー居住区の1つ、ミシカ区を取り仕切る中規模ギルド。


その頭領が、ミシカ区に籍を置くプレイヤー達に向けて第一声を発した。



「ゴホン、禿鷹傭兵団のローグだ。皆の混乱は我々も理解している。

いちプレイヤーとして、この拠点を代表して現状を把握したい」



彼のリアルでの癖なのか、無精髭を撫でる仕草はとてもゲーム内とは思えないほどスムーズだった。



「インベントリやシステムウィンドウが出ない。そしてログアウトが出来ない。

端的に考えれば、バグの1つだろう。しかし、端末からの強制終了も受信しない」



盛況だった広場が、噴水の流れる音以外は静寂に包まれる。


「第二に、ゲームの強制起動。本来強制起動は法で禁止されている。

各々勘付いているとは思うが、このゲームに囚われたと考えて良いだろう」


瞬間、一斉に観衆がざわつく。

不安や不満の声が漏れるが、人々の反応は然程大きな混乱を生まなかった。

大体そうなことだろうと思ったよ、なんて口にするプレイヤーも少なくない。


「現状を把握する為には何を成すべきか」


プレイヤー達が再び静まり、次の言葉を待つ。


「それは冒険だ。…多少の語弊はあるかもしれないが、この世界は我々の勝手知ったるゲーム内ではない。ならば自らの足で調べる他ない」


プレイヤー達は思い思いの表情でローグを眺める。一人としてその場から立ち去ろうとする者が居なかったのは、その言葉に正しさを覚えたからだ。

エルとフィー、両者も同様に。


「だが、我々が一斉にこの大海へ漕ぎ出すには、少々リスクが高過ぎる。死亡したらどうなるか?それだけじゃない。大勢の移動、食事、宿泊の準備をどう整えるか…問題を挙げればキリがない」


<禿鷹傭兵団>の財力、人材、資材を投入し大規模に活動を行ったとして、それに見合った対価を得られるとは限らない。

そもそも所詮は中堅ギルド、用意出来る諸々も期待は出来ない。



「…故に、少数の外部調査だ。そして、そのメンバーに目星はつけている」


多少の間を置いた後、提案された1つの策。


右から左へ、群衆を眺めるローグの瞳がエルへと止まる。

話が始まり前に逃げておけば良かったと溜息を零す。


フィーはきょとんとした後、ローグの視線の先が相棒だと言う事に気付き、みるみる顔を青ざめさせた。

周囲のプレイヤーが二人から距離を取ると、お立ち台に立つ様に注目を集めてしまう。


「なんで俺達なんだよ。アンタらの威信に掛かってるんじゃないのか」


ギルドの出した答えだと言うのに、と。

少数での調査はメンバーではない自分に白羽の矢が立つとは思いもよらなかった。


「運営から音沙汰がない以上、我々がプレイヤーの安全や生活を保障せねばならない。現状デスペナルティが把握されない内に、無為な犠牲者は増やせない」


勝手な物言いだな、と言いかける間もなく、耐え切れなくなったフィーが怒りの声をあげる。


「てゆーか、それって関係ない私達が毒見しろって言ってるだけじゃん!」


「君の言い分は理解出来る。だがメッセンジャー機能も使えない今、頼りになるのはベテランの君達しか居ないんだ。ここに住んでいる以上君達も無関係じゃないだろう?」


実際周りを見回せば名前やレベルが表示されない中でも、装備の充実度を見れば選出されるのは仕方ない。


多くが強制起動で復帰した中堅プレイヤーの中、過疎ゲーと揶揄されてもゲームを続けた結果だ。


もっともらしい理由に返す言葉も思い付かず、渋々押し黙るフィー。


「ただ比較的モンスターのレベルの低い道を行き、情報の集まる王都に向かって貰いたい。そして情報を集め戻ってくる…それだけだ」


淡々と告げられる中、エルは見下ろすローグの瞳を真っ直ぐ見据えていた。

自分自身、この押し付けのような提案に納得はいかない。


王都道中のモンスターは素手で殴り倒せる敵から、スキルの剣技がなくとも充分対応できる。

しかしそれはゲームだった頃の話。


現実と同様ならば、猪1匹を相手取ったとしても十分死に至る可能性はある。

そして、もしもその死がリアルの死を意味していたら。

死んでしまうかもしれない重圧は暗く、重い。


「…どの道、俺達が断ったらギルド権限で牢屋行きだろ。システムで強制出来なくても」


居住区のプレイヤーは、その区を統括しているギルドに隷属とまではいかないが管理下に置かれる。

トラブルが発生した場合や問題を起こしたプレイヤーを牢屋に送るシステム自体は存在した。


彼らがそれを行ったとしても得は無いし、結局はその役目が別のプレイヤーに渡るだけ。

むしろ牢屋に入って無為に過ごした方が安全かも知れない。


しかし、それでいいのか?


代わりに中堅プレイヤーに任が渡れば、そのプレイヤーが危険に晒される。

自分達ならば、力を持った者ならば。

持つ者の責務を果たさなきゃならない。


「…だから、分かったよ。俺とフィーが行く。アンタ達はここと皆を守る、それで良いよな?」



怖気づいたと思われぬ様、精一杯声に力を込めて応える。


期待通りの返事を得た禿鷹が、口髭と一緒に口角が釣り上げる。


「あぁ、勿論。それでこそ<義憤の諸刃>を持つプレイヤー…いや、冒険者か。

さぁ、善は急げだ。早速準備に取り掛かろう。生産職は衣食を、戦闘職も仕事は幾らでもあるぞ」


先の冷徹さが成りを潜め、両手を広げて朗らかな声を上げながら2人を誘う。

居住区を取り纏める一際巨大な建物、ギルド会館へと。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ