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第18話 廃小屋

ときたま吹く風は温くなかった。頬が温かった。夜はそんなものだ。


あれから旅立って少し経ったころだったか。日が沈んでは月が昇る。夜は決まってそういうものだ。


それでも多くの人は知っている。誰に聞くともなく知っている。時として牙を剥くことを。夜はそういうものだ。



何があるのか分からない暗闇の中で気配を感じる。辺りが途端に静かになる。


サミュエルの場合、それを痛感させたのは森の民のフィナスだった。フィナス=ノーグという名前は生まれる前から一族間で認められたもので両親は健康な男の子を子を期待していたし祈祷師でもお腹にいる子は男の子だからと、言っていた。しかし、何百年前の川に雪解け水が流れるころ、産婆も早めの準備をして生まれてきたのは小さな女の子でその鳴き声はか弱く部屋に大きく響くことはなく目も虚ろとしていた。

「母は私のお腹の中で赤ワインでも飲んでいたんじゃないかと言っていた亅


ついでフィナス=ノーグは髪の色も少し赤い。これも生まれた時かららしく赤ワイン説に最もらしく納得する。サミュエルは彼女なら、いや彼女以外には考えられないと思う。なに分初めての魔物討伐で出現待機している夜、寒いからといって小屋を出て忽然と姿を眩まし月も半ばになって漸く帰ってきたと思うと、

「おい済んだからさっさと行くぞ、さっさと亅

と豪快に言い放ってしまったという女性である。サミュエルはその様子を目の当たりに見て、やや引き気味に驚きつつも頼もしく感じていた。同じ部隊の男がおもしろおかしくギルドへ帰って話したのだが、聞いた方は嘯いていると思ってしまったのも無理はない。この話は思っていた程広がらなかったが一部だけが事実を知る伝説となりつつあり、サミュエルが足繁く通っていると、冗談混じりに

「ノーグさん、さっさとこれの討伐できるか?亅なんて言う受付人がいるほどだ。


サミュエルにあの夜の恐ろしさを痛感させたときのフィナスの髪も月明かりで微かな赤を滲ませていた。怪我を負っているのか、額から血が流れている。

「フィナス、討伐はどうしたんだ?亅

「私だけ、じゃない。みんな見てる。夜中にあそこを通りかかって目撃した他のメンバーが逃げ出して追いかけられている亅

「どんな夜なんだ亅

「あれは私たちの知っている夜じゃない亅

未知の夜というのはどういうことだ?

「どんな格好をしている亅

フィナスは目を開いて声を小さくした。

「ローブを着ている。真っ黒なローブ。全身を包むように亅

と、頭を拭って何か被る仕草をした。

「顔は見えなかったんだな亅

フィナスは顔を上げてぐっと見つめる。

ギルドでもたまに何人かのギルドマスターと熟練討伐者が話し合っているとギルドマスターもちょうど同じような顔をしていた。

「仮面を着けていたかもしれない亅

フィナスは言って、ぐったりとした。

「サミュエルはギルドマスターへ報せに行って。彼ならいえ或いは亅

ギルドマスターはギルドを束ねる人物で常にギルドで役割を果たす。多くのギルドの中でも地方系は、本業としての役割とともに本業以外の色々な分野に手を広げてギルドの活性化を図っているがギルドマスターは本ギルドにしかいない。

「すまない、フィナス亅

腕を取り体の向きを変えてフィナスを背負うとその重さを背中に感じる。




この話のサミュエルはサミュエルです。

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