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サイバーグラス・シンドローム  作者: 真先
6.アイ・ドント・ライク・マンデイ
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6.アイ・ドント・ライク・マンデイ(4)

 勇んで校舎に突入したサイファだったが、その意気は長くは続かなかった。


「……だめだ、こりゃ」


 サイファ率いる陽動部隊は、学校敷地内に突入すると同時に敵の激しい銃火にさらされた。

 裏門から中庭に向かうには、校舎を抜けて連絡通路を通るしかない。

 敵兵たちは通路の出口を塞ぎ、分隊支援型機関銃で容赦なく銃撃を加えてくる。

 細長い連絡通路に身を隠す場所は無い。

 中庭に向かって果敢な突撃を試みる友軍ユニットは、成す術もなく敵の銃弾に倒れてゆく。


『サイファ! 正面突破は無理だよ』


 歩兵ユニットを操るメイベルも、サイファと同意見のようだ。

 次々と倒される兵隊達に、無線機の向こうで悲鳴を上げる。


『これじゃいたずらにユニットを消費するだけだ。手持ちの歩兵は二個小隊しかない。これ以上やられたら作戦を続行することが出来ないよ!』

「力技じゃ無理か……。しょうがない、迂回するぞ。メイベル! 対物兵器は無いか?」

『あるよ。ジャベリンが二本』

「よし、ユニットに持たせて着いて来い。とりあえず、校舎の中から制圧する。校舎を伝って階段昇れば教室から中庭を攻撃できるからな」

『わかった、一個分隊と特技兵二人つけたげる。残りはここと周囲の警戒に当たらせるから、それでいい?』

「上等。よし、行くぞ皆」


 サイファに促され、かなで達は校舎の中に入った。

 日曜の校舎に生徒たちの姿は無い。

 閑散とした廊下を、かなでたちは隊列を組んで進んでゆく。


 メイベルが操る歩兵ユニット先行し、その後ろをサイファとA・Jが続く。

 さらにその後を二、三歩遅れて、かなでと美沙、呉羽の三人が続く。

 戦力として数えられていない彼女達は戦闘の邪魔にならないよう、隊列の真ん中を歩かされている。


 かなで達を護衛するように歩兵ユニットが二人、傍らに控えていた。

 彼らは肩に携行型対戦車ミサイル――FGM-148ジャベリンを担いでいる。

 彼ら特技兵は対物兵器の切り札だ。

 かなでたちと同様、最も安全な隊列の真ん中を歩いていた。


 最後尾を歩く歩兵ユニットが後方の守りを固める。

 それぞれのポジションの兵士達が周囲を警戒しつつ、隊列は進む。

 即席ではあるがこの隊列は思いのほか効果的に機能した。

 廊下の影から、教室の扉から、散発的に現れては攻撃を仕掛ける敵兵を速やかに排除しつつ、隊列は先を進む。

 長い廊下を抜けて、隊列は階段フロアにたどりついた。


「二階へ上がるぞ! 襲撃に備えろ!」


 サイファの掛け声と共に、隊列は二階へと続く階段を駆け上がる。

 サイファの警告どおり、階段には敵兵が待ち構えていた。

 この階段フロアは一昨日、かなでがサイファを打ち倒した場所だ。

 待ち構えていた敵兵は高低差を活かして、階段を上る隊列の頭上から銃弾を浴びせかけてきた。


「うぉおおおおおっりゃああっ!!」


 雄叫びを挙げながらA・Jはショットガンで応戦する。

 が、彼の攻撃は敵に致命傷を与えることはできなかった。

 階上の攻撃に対して、階下から迎え撃つには位置取りが悪い――そして、何よりA・Jの腕が悪い。


 敵兵は散弾をやり過ごすと直ぐに反撃に出た。

 敵の銃弾によって先頭を歩いていた歩兵ユニット一名が犠牲になった。


「退いて!」


 A・Jを押しのけ、かなでが敵兵を狙う。

 G11を構え引き金を引く。

 分速2000発で放たれるケースレス弾の圧倒的な火力に、敵兵は沈黙する。


「……すげえ」


 G11の火力とかなでの射撃技術にA・Jは息をのむ。

 階段の襲撃を切り抜けた陽動部隊は二階へと進んだ。

 教室棟二階。幸運にも敵兵の姿はない。

 代わりにかなでたちを待ち受けていたのは、廊下一面にちりばめられた無数のウィンドウだった。


「……何、これ」


 様変わりした学び舎に、かなでは息を呑む。

 いつも授業を受けている教室棟、その廊下一面に無数のウィンドウが浮かんでいた。

 タブロイドサイズのウィンドウは幾重にも折り重なり、カーテンのように廊下一面を覆っていた。

 何やら文字が描いてあるようだが、ピンクやイエローの下卑た色使いで描かれた文字はひどく読みづらい。

 手にとって読んでみようと手を伸ばしたその時、


「触るな!」


 サイファの緊迫した声がかなでを制止した。


「それはアドだ」

「アド?」

「電子広告の一種だ。ここを支配しているプロゲーマー達が散布したものだろう。電脳治安度が低い地域のアドには大抵、悪質なトラップが仕掛けられている。うかつに触ると違法サイトに強制アクセスしたり、ひどい場合はウィルスをぶち込まれたりするから気をつけろ」

「……ふえぇ」


 サイファの忠告に従い手を触れないよう恐る恐る顔を近づけて、アドの表面に描かれている広告文に目を通す。


『決定版:みるみる痩せるインド・バラモン式骨盤ダイエット! 効果が無ければ全額返金!』『あきらめるのはまだ早い! 10cm以上、完全保障! NASA認定のフューチャーサプリ《ハイトールX》』『金も女も思い通り! 幸運を呼び込む黄金の孫の手。成功者のコメントはコチラから』


 どれもこれも成人誌の隅に掲載されているような、いかがわしい広告ばかりだ。


「こうやって占領した支配領域に配布することにより、広告主から広告料をせしめることが出来る。プロゲーマーたちの貴重な財源、ってわけさ」

「……それで。どうすんの、これ?」


 廊下一杯に広がった電子広告を見つめ、サイファに尋ねる。


「メイベル、片付けてくれ」

『おっけー』


 サイファが指示を出すと、メイベルの操る歩兵ユニットが動き出した。

 無造作にウィンドウを掴むと、手の中で丸めた。

 屑紙のように丸められ、破壊されたウィンドウは歩兵ユニットの手の中で光の粒となって消える。


 淡々と作業をこなす歩兵ユニットの様子を、かなで達は銃を構えて見守った。

 ここはまだ戦場、いつ敵兵が姿を現すかわからない。

 緊張した面持ちで、次々と撤去されてゆくウィンドウのカーテンに向けて銃を構える。


 広がる視界の先に、人影を見つける。

 戦闘服姿の男二人が、制服姿の少女を廊下に押さえつけている。

 上半身を押さえつけている男は、はだけた制服の上から少女の白い乳房をまさぐっていた。

 両足を抱えるように持ち上げている男は、少女の股間めがけてリズミカルな動作で自らの腰を動かしている。


「……ぁあっ! う、うぁっ! うっうっ」


 男の腰つきに合わせて、少女の口から艶っぽい声が漏れる。


「……いや」


 陵辱される少女の姿に、三人の少女達が凍りつく。


「……こっ、このぉっ!」

「よせ! 止めろ!!」


 真っ先に硬直から脱したのは呉羽だ。

 引き止めるサイファを無視して、雄叫びを挙げて駆け出した。


「うぉおおおおおおっ!!」 


 それでも最低限の冷静さは残っていたらしく、少女を巻き込まないように射撃ではなく白兵戦用武器である銃剣を振りかざし兵士達に襲かかった。

 下半身丸出しで腰を振り続ける兵士の背中に銃剣を突き立てる。

 兵隊は悲鳴の代わりに脊椎を砕く鈍い音と血しぶきを上げると――激しく明滅するノイズと共に消えた。


「……え?」


 銃剣を振り下ろした姿勢のまま、呉羽は拍子抜けした顔で固まった。

 銃剣の先端には兵士の姿も、陵辱される少女も存在しない。


「電脳ポルノのデモムービーだ」


 混乱する呉羽の背後から、サイファが説明する。


「AR映像のデモ広告だ。……何だって『陵辱女子高生! 恥辱の放課後』? わざわざウチの制服着せて、芸が細かいぜ」

「……え? ええっ? うわっ、何コレ!?」


 突如、呉羽が絶叫する。

 その顔面にはサイケデリックな色彩の電子チラシが、お札のように張り付いていた。


「何だコレ? くそっ、離れない。……ええと『会員制アダルトサイト、インディアナ・ドットコムヘようこそ』だって!?」

『あちゃ~。アダルトサイトのワンクリックウェア踏んじゃったようだね』


 状況をモニタリングしていたメイベルが呟く。


「あたしアダルトサイトの会員になっちゃったの!?」

『大丈夫。スキャンしたけどウィルスは無いようだし、しばらくしたら消えるよ』

「でも『一ヶ月以内に、会員費用五万円を指定口座に振り込んでください。振込みが無かった場合、然るべき法的手続きをとることになります』って書いてあるけど……」

『ほっときゃいいのよ。法律用語並べ立てて、相手を不安にさせるのが振り込み詐欺の手口なんだから。相手にしちゃダメ』


 ワンクリック詐欺の対処方を伝え呉羽を落ち着かせる。

 視界をふさがれていてはこれ以上の戦闘は無理なようだ。

 呉羽と付き添いに美沙を廊下に待機させて、一行は先に進むことにした。


「余計なことに手間取ったな。教室の中に入るぞ」


 歩兵ユニットを先行させて、警戒しつつ教室の中に入る。

 ここにもいくつものウィンドウが設置されていた。

 廊下と違い整然と並べられたウィンドウは、まるでアミューズメント施設のようだ。

 教室中央にテーブル状に並んだウィンドウ画面には赤と黒で彩られたルーレット、あるいはポーカーやブラックジャックといったトランプが表示されている。

 そして壁際には、スロットマシンを表示した縦長のウィンドウが並んでる。


「……今度はカジノ?」

『女の次は博打って? 男の欲望垂れ流しだねぇ』


 あきれたようにかなでがつぶやくと、メイベルが楽しそうに付け加える。


「おい、バカラがあるぜ! 一勝負しようや」

「ルール、知ってるのか?」

「いんや、全然」

「遊んでいる場合か。時間がないんだ、とっととはじめるぞ」


 お調子者のA・Jを放っておいて、サイファは歩兵ユニットを引き連れて窓際に向かって歩み寄る。その背中に向かってかなでは尋ねる。


「で、何を始めるの?」

「特技兵のジャベリンでアイツを片付ける」


 言いながら、サイファは窓枠に手を突いて中庭を指し示した。

 校舎に仕切られた四角い空を見上げるようにして対空砲が一台、中庭に鎮座していた。


 ZSU-23-4シルカ。


 幕張同盟のドラゴンフライを撃墜したのはこの対空砲だ。

 その周囲には歩兵ユニットの姿も見える。


「奴を倒せば、こっちも航空ユニットを展開できる。そうすれば……」


 その時、シルカのターレットが旋回。

 23mm四連装機関砲を、かなで達のいる教室棟に向けた。




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