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サイバーグラス・シンドローム  作者: 真先
6.アイ・ドント・ライク・マンデイ
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6.アイ・ドント・ライク・マンデイ(3)

 伯陵学園に入学する以前、佐伯かなではアメリカ合衆国のごく平凡な地方都市に住んでいた。


 三十五分に一件、殺人が起きて、

 六分に一件、レイプ事件が起きて、

 一分に一件、強盗事件が起きて、

 四十分に一件、暴行事件が起きて、

 五分に一件、窃盗事件が起きて、

 四十分に一件、自動車窃盗が起きる――アメリカではごくありふれた地方都市だ。


 アメリカは市民に武装する権利が与えられた銃社会である。

 スーパーに行けば当たり前のように銃が買えて、学校などの公共施設の入り口には金属探知機と警備員が常駐している。

 常に身近に銃が存在する環境でかなでは育った。


 かなでが初めて銃を手にしたのは十歳の時、学校の授業で射撃場に行った時の事だった。

 古きよき開拓精神が根強く残る北米の地方都市では護身のため、あるいは自立心を養うために子供たちを対象にした射撃訓練が行われている。

 子供達は皆、この日のために自分専用の銃を親に買ってもらっていた。

 それが人殺しの道具であることもよくわからずに、クラスメイト達はピンク色や水色の真新しい拳銃を楽しそうに見せびらかしていた。


 かなでは父のお下がりの22口径を使って講習を受けた。

 使い込まれた拳銃はかなでの手に良くなじみ、初めてであるにもかかわらず見事に標的を射抜いた。

 射撃教官は褒めてくれたが、かなではちっとも嬉しくなかった。


 初めての射撃訓練から一週間後、クラスメイトのボビーが撃たれて死んだ。

 犯人は二つ年下の弟。

 無断で持ち出した父の銃で、兄弟でカウボーイごっこをして遊んでいるうちに暴発したそうだ。

 この事件を教訓に、翌年から銃の講習会は八歳から始めることになった。


 十二歳の誕生日、お隣のマーサおばさんが洋服をプレゼントしてくれた。

 白いフリルのついたワンピースは、おばさんの当時十二歳で死んだ娘の形見だった。

 ショッピングモールで強盗と警官隊の銃撃に巻き込まれ、おばさんの目の前で撃たれて死んだそうだ。

 あきらかに流行遅れのワンピースをかなでが着て見せると、マーサおばさんは涙を流して喜んでくれた。


 雑貨屋のトマスさんはとっても話好き。

 お店のカウンターに穿たれた無数の弾痕について尋ねると、強盗を撃退した時のことを機嫌よく話してくれる。

 あるときは黒人二人組をショットガンで、またあるときはヒスパニック系の五人組をカラテキックで――トマスさんの武勇伝は毎回代わるので聞き飽きることが無い。


 大した産業の無いこの街では高校卒業後、就職先として軍隊に志願する若者が少なくない。

 秋になると若者達は軍のリクルーター達に連れられてこの街を出てゆく。

 そして、その内の何人かは死体になって帰ってくる。


 この街では暮らしの中心にいつも銃があった。

 かなではこの銃を中心とした生活が――硝煙の香りが芯まで染み付いたこの街が大嫌いだった。


 ▽▲▽


 閃光、そして轟音。


 伯陵学園、その裏門では激しい戦闘が繰り広げられていた。

 正門を攻撃している生徒会長率いる本隊を支援するべく、サイファ率いる陽動は裏門から攻撃を加えていた。

 陽動部隊の戦力は人員五名、ストライカー装甲車三両、歩兵ユニット約一個中隊。

 決して少ない数ではないが、敵守備隊を相手に苦戦を強いられていた。


 狭苦しい裏通りでは最大の戦力であるストライカー装甲車を思うように展開することが出来ない。

 一方、校舎を占拠している敵勢力は防衛側の利点を最大限に活用し、戦闘ユニットを配置していた。

 裏門の手前にBTR-70兵員装甲車を配置、バリケードがわりにしてその周りを歩兵約一個小隊で固める。

 この配置ではストライカーは思うように攻撃を加えることが出来ない。

 単純にして鉄壁の防衛線に対して取れる作戦は多くは無い。

 陽動部隊は装甲車両の支援無しの歩兵部隊のみによる正面突破を試みた。

 陽動部隊の――元校内安全研究会のピンク色の歩兵ユニット達はアサルトライフルを構え、裏門の門扉めがけて突撃するが全てBTR-70の機銃弾で薙ぎ払われてゆく。


 陽動部隊のメンバー――サイファとA・J、そしてかなで達校内安全研究会の三人は、電柱の影に身を潜めながら裏門の戦闘を窺っていた。

 眼の前で繰り広げられるあまりにも悲惨な戦闘に辟易としたサイファは、通信機に向かってつぶやいた。


「……なあ、もうちょっと他にやりようは無いのか?」

『無いよ!』


 すぐさま通信機の向こうから、苛立たしげなメイベルの声が返ってくる。


『あんなふうに校舎の中に引きこもられちゃ、力押しで突っ込むしか方法は無いよ。単細胞の誰かさんと違って、通りに出て勝負してくれな……あ痛っ!』

『誰が単細胞だ!』


 メイベルの頭をどやしつける鈍い音と共に、エイブル委員長が割り込んできた。

 メイベルとエイブルの天童姉妹は海浜公園に待機している。

 姉妹喧嘩を終えた天童姉妹は、海浜公園を前線基地として学校に駐屯する敵勢力に攻撃を加えていた。

 航空戦力を交えた激しい前線に指揮官を立たせるわけには行かない。

 戦闘ユニットを遠隔操作する彼女達の『目』となって、かなで達は激しさを増す戦場を見つめ続けた。

 手持ちの小火器では、装甲目標に効果的なダメージを与えることは出来ない。

 苛立ちを募らせた瀬田が、無線の向こう側に居るエイブルに向かって叫ぶ。


「エイブル! こっちに援軍を回してくんねぇか? レオパルド一輌でいいから!?」

『こっちだって手一杯だ! お前らは陽動担当だろうが! ちまちま裏門で戦っていないで、とっとと校舎に突入しやがれ!』


 応援要請を却下すると、エイブルは通信を切った。


「ねえ、瀬田君!」

「何だ、月代!?」


 銃撃音にかき消されないよう、声を張り上げる美沙にやはり大声でサイファが応じる。


「とりあえず、校舎の中に入れればいい訳よね? だったら一度、サイバーグラスのスイッチを切って、校舎に入ってからゲームをスタートすればいいんじゃない? 装甲車相手にバカ正直に正面から戦わなくても……」

「あー、それはダメだ」


 美沙の提案を、サイファは最後まで聞かずに遮った。


「敵は校舎を中心に、校門と裏門にユニットを配置してZOCを形成している。こいつを無視して中からインすることは出来ない」

「ゾック?」

「Zone Of Control――支配領域のことだ。……要するに、正門のT-80か、あそこにいるBTR-70を倒さない限り中には入れない。お前達だって校門と裏門の敵を排除してから、テラスにいる俺達を襲撃しただろう? それと同じだ」

「どーしてそんな面倒くさいルールがあんのよぉ!?」

「ルールに文句つけても始まらんだろ! 見張りを無視して敵の支配領域の中に入れたら、見張りを置く意味が無くなっちまうだろうが!」


 ふたりが言い争いを続けている間にも、戦闘は続いていた。

 メイベルの操るピンクの兵隊の一人――特技兵ユニットが対戦車ミサイルを発射した。

 白煙をたなびかせ、ミサイルは装甲車の側面装甲に命中する。

 裏門を塞ぐように鎮座していた装甲車――BTR-70は、真紅の火柱を立ち上げると同時に爆発、四散した。


「やったぜ!」

「ああ、……だが一足、遅かった」


 A・Jの歓声に、サイファの冷ややかな声がかぶさる。

 かなでたちの頭上から、乱雑に風をかき乱すローター音が聞こえてきた。


「……チヌークか。幕張同盟の輸送ヘリだな。クソッ! 先を越された」


 装甲車を倒したのを見計らったかのように姿を現した大型輸送ヘリは、地元勢力《幕張同盟》所属のCH-47チヌークだ。

 チヌークの元に、海浜公園で見かけた小型戦闘機が随伴する。

 軽攻撃機A―37ドラゴンフライは無防備な姿をさらすチヌークに代わり、周囲を威嚇するように学校上空を旋回する。

 幕張同盟はヘリコプターで屋上に着陸し兵員を降ろして校舎を占拠するつもりらしい。

 歯噛みするサイファに見守られながら、チヌークは悠々と着陸準備を始めた。

 胴体からタイヤを出しその時、


 チヌークは轟音と共に爆発した。


「……何だ?」


 わき腹に生まれた火の玉がチヌークの胴体を真っ二つに引き裂く。

 タンデムローターを出鱈目に振り回しながらチヌークは屋上に衝突。

 金網に仕切られた屋上を火の海に変えた。


 さらに、守るべき随伴機を失ったドラゴンフライに向けて、地上から攻撃が加えられる。

 花火のように打ち上げられた軽快で鋭い火線が、上空を旋回するドラゴンフライを追いかける。連

続して打ち上げられた火線は、ドラゴンフライの尾翼を捕らえた。

 ドラゴンフライは黒煙をたなびかせながら、市街地に向かって墜落した。


 疾風のように現れて、そして一掃された第三勢力をかなで達はただ呆然と見つめた。


「エイブル!」

『ああ、こっちでも見えたよ!』


 一早く正気に戻ったサイファが、通信機に向かって怒鳴りつけた。

 無線機の向こう側にいるエイブルも、この空中ショーを見ていたらしい。


『チヌークをやったのは対空ミサイル、多分イグラだ。ヘリが来るのを屋上で待ち構えていたらしい』

「ドラゴンフライをやったのは何だ? 高射砲?」

『シルカの23mm。中庭に配備しているみたいだね。まったく、嫌らしいことしてくれるよ。校舎が邪魔で外から攻撃するのは無理だ。中に入って破壊するしかない。連中、対空兵器ばかりやたらと充実してやがる。一刻も早く片付けとくれ!』

「簡単に言ってくれるな。ここから先は屋内戦だ、ストライカーの支援は受けられないんだぜ。屋上に陣取っている特技兵と、構造物に守られた対物目標相手に、歩兵だけで処理できるわけ無いだろう!?」

『泣き言を言うな! 辛いのは正面で戦っている生徒会長達も同じなんだ! もうすぐ地元勢力の増援部隊が到着する。中隊規模の地上部隊だ。あんたたちが校内の対空兵器を片付けてくれれば、こっちも航空兵器を出して空から蹴散らすことが出来る!』

「あんた、航空兵器なんて持っているのかよ?」

『メイがアパッチ二機、隠し持っていやがった。海浜公園で待機していつでも出せる状態だ』

「……そいつはすげぇ」


 口笛を吹くサイファの耳元に、ローターの風切り音とメイの悲鳴が轟いた。


『ちょっと、勝手にあたしのユニット使わないでよ! マジで洒落になんないよ! アパッチ一機飛ばすのに、どれだけポイント消費すると思ってんの!?』

『電脳管理委員会を潰して手に入れたポイントだろうが! 元を正せばあたしら電脳管理委員会のもんだ。……サイファ、この戦いの勝敗はあんたの腕に掛かっている。《百人殺し》の腕前、あたしに見せておくれ!』

「……了解」


 強力な増援とエイブルの気の効いたセリフは、前線に立つサイファを奮い立たせた。

不敵な笑みを浮かべて軽く頷く。


「これで勝ちが見えてきたな。……よし、これから校内に突入するぞ! 先ずは中庭にいる対空砲を片付ける。行くぞ皆!」

「……うん」


 銃を構え裏門に向かって駆け出すサイファの後に、かなで達も続いた。


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