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サイバーグラス・シンドローム  作者: 真先
6.アイ・ドント・ライク・マンデイ
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6.アイ・ドント・ライク・マンデイ(2)

 それぞれが銃を選び終えると、かなで達はサイバーグラスを起動し銃のセッティングを始めた。

 経験者であるサイファの指示に従い銃の登録を済ませたその時、公園内に甲高い悲鳴が響いた。


「痛い痛い痛い!! 離して、離してよ!」

「うるさい! きりきり歩け!!」


 公園の入り口から、ぎゃあぎゃあとわめきながらこちらに向かって二人組が歩いてくる。


「天童さん?」


 芽衣耶の腕をがっしりと掴み引きずるようにして現れたエイブル委員長を、生徒会長が出迎えた。


「遅かったじゃないか、委員長?」

「すまない。このバカを連れて来るのに手間取った」

「それで、どこに隠れてたんだって?」

「千葉ヒルトンの最上階。……ったく、ややこしいところに隠れやがって!」


 言いながら、エイブルは拳骨で芽衣耶の頭を殴りつけた。芽衣耶は涙声で抗議する。


「痛っ! ……痛いよう、お姉ちゃあん!!」

『お姉ちゃん!?』


 驚愕に凍りつく校内安全研究会一同の後ろから、瀬田が声を掛ける。


「……ま、そういうことだ」

「あの二人、姉妹だったの!?」


 かなでが尋ねると、瀬田は疲れたような表情で答えた。


「エイブルの本名は天童絵衣美。俺も昨日、初めて知った。……言われて見ればそっくりだよな、あの二人」

「それじゃ廃人ゲーマーの家族って、エイブル委員長のことだったの!?」


 衝撃の事実に呆然とするかなで達を捨て置いて、天童姉妹は大声で言い争いを始めた。


「どうして? どうして、あたしの居場所が分かったのよ! 市内で一番の高級ホテルなんだよ、セキュリティも万全のはずなのに……」

「……こいつさ」


 そう言うとエイブルは、一本の電子タバコを取り出した。

 吸い口に歯型が刻まれた――昨日、芽衣耶が瀬田から奪い取った電子タバコだ。

 エイブルは吸い口の部分をひねり、電子タバコをへし折った。

 手のひらの上で灰を落とすようにとんとん、と叩くと、空洞であるはずの電子タバコの中から小さな部品が落ちる。

 丸い頭から延びる細長いコード、おたまじゃくしのような形の電子機器は――


「発信機を仕込んであったのさ」

「……騙したね、サイファ!」

「お前の手癖が悪いのがいけないのさ。ホントお前ら姉妹、そっくりだわ。……食い意地張ってる所なんか特に」


 激しくなじる芽衣耶に、瀬田は動じることなく淡々と言い返す。


「ひどい! お姉ちゃんと二人がかりだなんて、そんなのなんだかずるい!」

「お前が言うな! まったく、入学早々こんな大事件を引き起こしやがって!」


 駄々をこねる芽衣耶の襟首を掴むと、エイブルは皆の前に立たせた。


「さあ、とりあえず皆に謝るんだ!」


 生徒会長始め電脳管理委員会のメンバーたちが一斉に芽衣耶を注視する。

 怒りに燃えるその視線を正面から受け止め、芽衣耶は居並ぶ人々を見渡した。

 かなで達校内安全研究会の三人を見つけると、芽衣耶はプイと顔を背ける。


「……嫌よ」

「芽衣耶!」

「だって、あたし悪いことしてないもん! 《グローバル・コンバット》はなんでもありの戦争ゲームでしょ! ルール違反しているわけじゃないのに、何で謝らなくちゃ……」


 不遜な態度の芽衣耶の頬をエイブルが思い切り張り倒す。

 パン、という小気味いい音が公園に響いた。

 唐突な平手打ちに、芽衣耶のみならずその場にいた全員が凍り付く。

 驚愕の視線を浴びながらエイブルは静かに語り始める。


「あたしやサイファみたいな極道相手なら何をしようとかまわないさ。あたしらはプロの戦争屋だ。裏切りだのだまし討ちだのは日常茶飯事、泣き言を言うつもりは無い。でもね……」


 赤くはれ上がった頬を押さえ、目を丸くする芽衣耶の襟首をつかみ。エイブルはかなで達、校内安全研究会を指さした。


「この娘達はあんたの友達だろう! 素人だっていうのにあんたを信じて鉄砲かついで最前線で戦ってくれた仲間だろうが!? その信頼を裏切るような真似だけはするんじゃないよ! ゲームのルールなんざぁ関係ない。人としての最低限の仁義を守れない奴は、ただの虫ケラだ!」

「…………」


 一喝されると芽衣耶は小さな声でつぶやいた。


「……ごめんなさい」


 口をとがらせ拗ねたような口調で謝罪の言葉を口にするが、あくまでも頭を下げるつもりはないらしい。

 頑なな態度の芽衣耶の金髪頭を掴むと、エイブルは並んで頭を下げた。


「迷惑かけたね、あんたら。この娘の姉として、あらためて謝罪させてもらう」

「……はい」

「……ああ」

「……ええ」


 エイブル委員長の丁重な謝罪にかなで達三人は、圧倒されたように頷いた。


「よし、けじめをつけたところで作戦を始めるよ」


 顔を上げたエイブルは、気をとりなおした様に声を張り上げ皆に告げた。


「校舎を占拠しているクソッタレどもを叩きのめして、あたしらの学校を取り戻すんだ。芽衣耶、あんたにも働いてもらうよ」

「それは、イヤ」

「芽衣耶!」

「言っとくけど、ゲームに勝ったのはあたしの方なんだからね! 負けたお姉ちゃんの言うことを聞かなくちゃならない言われはないよ!!」


 怒鳴り声を上げる姉にひるむことなく、芽衣耶はきっぱりと協力を拒んだ。


「それに、今更何をやったって無駄だよ。月曜の生徒総会になれば、電脳管理委員会はお終いだもんね。ダーク・ウォーターから学校を奪還するつもりらしいけど、これっぽっちの戦力じゃどうにもならないでしょう?」


 腕組みして勝ち誇る芽衣耶に向かって、天童姉は意味ありげに微笑んだ。


「……それはどうかねぇ」

「な、何よ? ハッタリかましても、通用しないんだから。今更、電脳管理委員会に何が出来るっていうのよ?」

「……いいか、よく聞きな?」


 真剣な表情で前置きをしてから、エイブルは状況説明を始める。

「今現在、学校を占拠しているのは、あんたが引き込んだ東京の流れ者――ダーク・ウォーターだっけか? こいつらは学校を橋頭堡として、幕張湾岸地区を我が物顔で暴れまわっている。当然、地元の勢力である幕張同盟としては面白くない。以前から狙っていた優良物件を、よそ者にかっさわられたんだ。学校を取り囲んで、奪取しようと隙を窺っている――まさに一触即発の状況さ」


 一通り状況説明をし終えると、エイブルはポケットからハーフレンズ型のサイバーグラスを取り出し芽衣耶に向かって放り投げた。


「そんな中、学校近くの公園で大部隊が展開したら――どうなると思う?」

「……まさか!」


 慌てて芽衣耶はサイバーグラスを掛ける。

 公園の芝生の上、ラジオ体操をする老人たちの横に、完全武装の戦闘集団が現れた。


 一個中隊規模の戦闘プログラム。

 ピンク色の装甲車に、ピンク色の兵士達。

 箱詰め菓子のようにきれいに整列した兵隊たちは、


「……あたしの兵隊じゃない!」

「あんたの、じゃ無いだろ? 校内安全研究会の兵隊だ。月代からパスコード聞いて、召喚しておいた。……早速来たね」


 エイブルが空を見上げると同時に、公園上空に小型戦闘機が一機、姿を現した。

 爆音をたなびかせながら学校のある方向へと飛び去って行った。


「ありゃ、習志野から飛んできた機体だね。制空権争いが始まったから、地上部隊が展開するのも時間の問題だ。すぐにもダーク・ウォーターと幕張同盟で戦闘が始まる、その隙にあたし達は学校を奪還する」

「……漁夫の利を掠め取ろうっての? お姉ちゃんにしては、随分とこすっからい作戦だね?」

「何とでも言いな。学校を取り戻すためだなりふり構っていられるか。とにかく、これであんたも戦闘に参加するしかなくなったわけだ。今更、逃げ出すことなんて出来ないからねぇ」 


 立場は既に逆転していた。

 勝ち誇るエイブルに向かって芽衣耶がヒステリックに叫ぶ。


「なんてことしてくれたのよ! 計画が台無しじゃない! あいつら、戦わせて一財産作ろうと思っていたのに! このままじゃホテルの宿泊代も払えないよ!」

「家に帰ってくりゃいいだろ? 一週間も無断外泊して、お母さん心配してるよ。つーか、何であんた、家出なんかしてんのさ?」

「お姉ちゃんが悪いんじゃない!」 

「あたし、なんかしたっけ?」

「あたしに無断で勝手に願書出して、無理矢理この学校に入学させたのはお姉ちゃんでしょ! どうしてそんな勝手なことするの!? 妹の人生なんだと思っているの!?」

「目の届くところに所に置いて監視するためさ! あんた昔っから、ちょっと目を離すとすぐに悪さをしでかすからね。油断も隙もありゃしない」

「嘘付け! 人手不足を補うために、あたしを電脳管理委員会に入れてこき使うつもりだったくせに!」

 

 激しく罵り合う二人に割って入ることも出来ず、かなで達はただ呆然と見守った。


「……まあ、彼女達は放っておいて、僕たちは学校に向かおう」


 延々と続く姉妹喧嘩に辟易とした生徒会長は、皆に向けて作戦開始を宣言した。


「先ほど説明した通り、二大勢力の戦闘に乗じて学校を奪還する。コマンダーは公園に待機、ここからユニットを派遣してくれ。サイファとA・Jは、校内安全研究会の三人を連れて裏門から校内に侵入してくれ。残りは正門から突入する。時間との勝負だ、迅速に行動しろ!」

「了解」


 首肯すると瀬田はサイバーグラスを取り出した。ミラーシェードが顔を覆う。

 数億の光点とニューロンの壁を越え、《百人殺し》のサイファが戦場に舞い戻ってきた。


「それじゃ、行こうか皆」

「ええ」


 サイファが合図すると、かなでは小さく頷いた。

 戦闘準備は既に整っている。

 マガジン取り外し残弾を確認していると、サイファが意味ありげに苦笑した。


「……何?」

「なあ、いい加減教えてくれないか? あんた、一体何モンなんだよ?」

「またその話?」


 昨日と同じ質問をまぜかえすサイファに、うんざりとした調子で言い返す。


「何度も言ったでしょう、あたしはただの素人。つい最近まで《グローバル・コンバット》なんて知らなかったし、プレイしたこともないわよ」

「ただの素人が、G11の弾倉の位置を知っているわけないだろう? これから同じチームとして戦うんだ。隠し事は無しにしようぜ?」

「ホントだってば。ついこの間まで電脳ガンなんて見たことも触ったこともなかったもの」


 しつこく尋ねるサイファに取り合わず、バレル前部にあるスロットにマガジンをねじ込んだ。


「……本物ならあるけど」


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