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サイバーグラス・シンドローム  作者: 真先
3.アーツ・オブ・ウォー
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3.アーツ・オブ・ウォー(4)

 放課後。


 夕日が西へと傾き始めた頃、校内安全研究会は今日の活動を終了した。

 初日にしてはまずまずの出だしだった。

 電脳ガンとクーポン券を交換する芽衣耶のアイディアは生徒達に好評で、社会科準備室には次々と銃が集った。

 電脳管理委員会の訪問を除けば大したトラブルも無く交換会を終えることが出来た。

 受け付けを締め切ると共に、校内安全研究会の面々は今日の総括を行った。


「……どうしよう?」


 今にも泣きだしそうな声で、校内安全研究会代表兼、戦略担当本部長の月代美沙は社会科準備室にいる皆に問いかけた。


「……いや、どうしようって言われてもな」


 漠然とした問いかけに、呉羽は返答につまる。


「どうしよう、これから……」


 同じ質問を繰り返す。

 肩を落とし狼狽するその様は、エイブル委員長と対峙した時の毅然とした態度は見る影も無い。

「どうもこうも無いだろう? こうなったら、奴らとゲームで勝負するしかないじゃないか。まったく、ちんまい委員長の挑発にあっさりのりやがって」

「だって、しょうがないじゃない! 天童さんがあいつらと同じように考えろって言うから……」

「うんうん、上出来、上出来。向こうから宣戦布告してきたんだから、これは防衛戦争ってことよね。大義名分はこっちのものよ」


 いつものごとく、よくわからないことを言いながら、芽衣耶は満足げにうなずいた。


「おかげで随分やりやすくなったね。あいつらから『負けたら解散』って言質を取ったんだから。要は勝てばいいのよ、勝てば」

「勝てば、の話でしょ?」


 気軽に言う芽衣耶に向かって、かなでは苛立ちをぶつけた。


「あたしたち四人しかしないんだよ。みんなルールも知らない素人ばかりだし。あたし、電脳ガンなんて撃ったことないよ!」

「頭数のことなら心配ないよ。人数差が必ずしも勝敗に直結するゲームではないからね。ルールならあたしが知っている。銃の撃ち方は練習すればいい。大丈夫、木刀振り回すより簡単だから」 

「……わかったわ」


 芽衣耶の説明に、ようやく美沙が落ち着きをとりもどした。


「それで、とりあえず何から始めればいい?」

「とりあえず、……コレをなんとかしよう」


 うずたかく積み上げられた銃の山をみつめ、芽衣耶はつぶやいた。

 ただですら狭苦しい社会科準備室は、校内安全研究会が集めた大量の電脳ガンで占拠されていた。

 地球儀にはアサルトライフルが立てかけられ、遮光式土偶の横にサブマシンガンが転がっている。

 教材を取りに来た社会科担当教師がこの光景を目撃したら、怒り狂うことは間違いないだろう。


『……そうだね』


 テロリストのアジトのような有様を見て、校内安全研究会のメンバー達は集めた銃の整理をはじめる。

 集められた銃は拳銃だけではなく、サブマシンガンやアサルトライフルまである。

 かなで達は取り敢えず種類別に区分けすることから始めた。


「ハンドガンはテーブルの上。サブマシンガンはこっちの棚。アサルトライフルは床に並べちゃって」


 芽衣耶の指示に従い、社会科準備室のわずかに残された空きスペースに、種類ごとに分けながら銃を並べてゆく。


「……しっかし、よくこれだけ集ったね」


 銃器の山を見つめ、呉羽がうんざりとした声でぼやいた。


「まさかこんなに集るなんて思わなかったよ。高い金出して買ったんだろうに、食券と引き換えるなんてどういうつもりなんだろうな?」

「本当よね」


 同じくうんざりとした様子で、美沙がつぶやく。


「これなんて、箱から空けてもいないわよ。使わないなら買わなきゃいいのに」

「それは無料で配布されている試供品だよ」


 美沙の抱えているガンケースを指差し、メイが答える。


「試供品?」

「ほら、お店の前でくじ引きとかアンケートとかやってるの見たことない? 景品として銃を配っている奴。あれって要するに、プレイヤー人口を増やすための試供品を配布しているんだよ」

「……ああ」


 かなでは先日、家電量販店での出来事を思いだした。

 あの時受け取った電脳ガンは、部屋に放置したままだ。


「タダで銃が手に入ったら使ってみたくなるでしょ? で、興味本位でゲームを始めるんだけど、すぐに初心者じゃゲームに勝つことは出来ないことに気づくんだよ」

「どうして?」

「周りはみんなサブマシンガンやライフル持っているのに、拳銃一丁じゃ歯が立たないでしょ? 戦闘の勝敗を決めるのは火力なんだから。初心者はより装備の充実した上級者のカモにされるわけ。初心者狩りの洗礼をうけたビギナーは、より強力な武器を手に入れるためにガンショップに銃を買いに行くってわけ」


 なるほど、とかなではうなずいた。

 実に巧妙なマーケティングだ。


「ネットゲームの必勝法は金と時間――それは《グローバル・コンバット》でも同じだよ。強力な敵を倒すには強力な武器が必要で、より強力な武器を手に入れるために時間と金を消費する。そういった火力のインフレ競争に敗北したものから順にこのゲームから脱落していく。残るのは生活の全てをつぎこんだ廃人ゲーマーと、負け犬の残した大量の電脳ガン、っていうわけ」


 馬鹿馬鹿しい戦争ゴッコの裏で繰り広げられている激しい競争社会を、芽衣耶は淡々と語った。


「捨てるには惜しいし、手元に置いておくには邪魔になる。そういった電脳ガンをもてあました連中がこの学校に大勢居るんだ。学食の食券と引き換えって言えば、喜んで交換に応じてくれる。狙い通りうまくいったね」

「……うまく行き過ぎだよ」


 得意げに語る芽衣耶とは対照的に、暗い声でかなでが言った。


「おかげで交換できるクーポン券がもう無いよ。活動資金も底をついたし、……これからどうするの?」


 校内安全研究会は同好会という扱いになっている。

 正式な部活動ではないため、学校側から資金的な援助はない。

 活動資金は四人のメンバーがそれぞれ少ない小遣いから出し合ったものだ。

 資金はすべて食券に換えてしまった。

 銃と交換するものがなくなった今、校内安全研究会は活動することができない。


「資金のことなら任せといて、アテがあるから」


 不安げな顔をするかなでに向かって、平然とした様子で芽衣耶は言った。


「景品として配られている試供品の中には、稀少モデルが結構多いんだよ。実用性が乏しくゲームでは使えないけど、コレクターズアイテムとして高額で取引されているわけ。……たとえば、この南部十四年式」


 芽衣耶は銃器の山から一丁の拳銃を取り出した。

 突き出した銃身に細いグリップ――奇妙な形をした拳銃は昼休みに女子生徒から買い取り、エイブルが美沙の喉元に突き付けた銃だ。


「ネットオークションでは、三万円前後で取引されているんだよ」

『ええええっ!』


 思いもかけない大金に驚く三人にかまわず、芽衣耶は説明を続ける。


「回収した銃をネットオークションで売れば、当分は活動資金に困る事はないよ。食券とかの諸経費を差し引いても、いい稼ぎになるんじゃない」


 かなでは胸中ひそかに感嘆する。

 芽衣耶の手際は万事において抜かり無い。


「他にも、そのコレクターズアイテムってのがあるかもしれないな!?」


 金になると知って俄然やる気が出てきたのか、呉羽は嬉々とした表情で宝の山に挑みかかる。

 しかし、彼女の下心丸出しの労働意欲は長くは続かなかった。


「……よく考えたら、アタシ銃のことなんか全然知らないんだった」

「銃のことを知らなくても大丈夫だよ。ここで検索すれば一発でわかる」


 そう言うと、芽衣耶は自前のタブレットを掲げて見せた。

 液晶画面には大手オークションサイトのページが映し出されている。

 皆の目の前でメイは南部十四年式をタブレットの上にかざして見せた。


「こうやって画面の上にかざすと、……ほら! 電脳ガンに内蔵されているシリアルナンバーを読み取って、銃器データと値段が表示されるってわけ」


 芽衣耶の言うとおり、銃をかざすと同時に画面が切り替わった。


『南部十四年式――推定落札相場:23000円~35000円』


 銃の写真の下に銃の名前と相場が表示された。


「ね? 簡単でしょ。これを使えば皆でもお宝を見つけることが出来る」

「よし、それじゃ誰が一番高い銃を見つけるか、皆で競争しようぜ!」


 一方的に勝負を宣言すると、呉羽は再び銃器の山に向かった。

 子供のようにはしゃぎながら銃を仕分ける呉羽の背中を見つめながら、困惑した顔でかなでが他の二人に尋ねる。


「……どうする?」

「まあ、漫然と作業するよりも、互いに競い合った方が作業もはかどるんじゃない?」


 苦笑しつつ美沙が答える。


「決まりだね。ビリの人は皆にジュース一本驕り。……それじゃ、スタート!」


 賭けまで始めた芽衣耶の合図で、宝探し競争が始まった。

 四人の少女達は少しでも値段が張りそうな獲物を求めて、銃器の山を手探りで掻き分けてゆく。


「……あ、この銃、知ってる!」


 美沙は銃器の山から一丁の電脳ガンを取り上げた。

 木製ストックの、古めかしく重厚な造りのアサルトライフルを掲げ皆に見せる。


「旧ソ連製、AK47カラシニコフ銃。シンプルな構造の、堅牢で低コストなアサルトライフル。『世界最小の大量破壊兵器』と呼ばれ、世界中の紛争地帯で使われていているのよ」

「……詳しいな」


 勉強熱心な少女は銃器の知識にも明るいらしい。

 スラスラと説明する美沙に、呉羽は素直に感心する。


「ディスカバリー・チャンネルの特番でやっていたの。有名な銃だもの、結構な値段がするんじゃないかしら」


 ニュース番組の受け売りを得意げに語った後、ライフルを事務机の上に置かれたタブレットの上に掲げた。

 先程と同じように画面が切り替わった。

 しかし金額は表示されることはなく、代わりに『買い取り拒否』と赤い文字が浮かんでいた。


「ええっ!? 何で?」


 不満そうな声を上げる美沙に、芽衣耶が間違いを指摘する。


「良く見て御覧なさいよ、それ56式小銃だよ。AK47じゃない」

「……何それ?」

「中国製のデッド・コピー」

「デッド・コピーって、ニセモノって事?」

「そう。折りたたみ式の銃剣を見れば、すぐに見分けがつくでしょ?」

「つかないわよ、そんなの!」


 二束三文の粗悪品を抱えて肩を落とすと、美沙はタブレットの前から退いた。

 入れ替わりにライフルを抱えたかなでがタブレットの前に立つ。


「じゃあ、次はあたしね」


 そう言うとタブレットの上にライフルをかざす。表示された価格は、


『vz58――推定落札相場:51000円~98000円』

「うおっ! すっごいじゃないか!?」

「ホントだ! 今のところかなでちゃんがトップだ」


 表示された金額に、呉羽と芽衣耶が驚きの声を上げる。

 二人に褒められたかなでは、まんざらでもない様子で微笑んだ。


「ちょ、ちょっと待ってよ!!」


 予想外の高額査定に、美沙一人だけが物言いをつけた。


「佐伯さんの選んだその銃、あたしのとそっくりじゃない!」


 かなでが選んだライフルは木製ストックの、古めかしく重厚な造りのアサルトライフル――外見だけ見れば美沙の抱えているガラクタと酷似していた。


「何でこんなに値段が違うのよ! おかしいじゃない!!」


 激昂する美沙を宥めるように、芽衣耶が注釈を加える。


「vz58はチェコスロバキア製の傑作銃だもの。外見はAKと似通っているけど、内部構造は違うし命中精度も高い。マガジンも共用できないからまったく別物のアサルトライフルだよ。ほら、フロントサイトの形状とかで見分けがつくでしょ?」

「つかないわよ、そんなの!」


 ▽▲▽


 大騒ぎしながらも、校内安全研究会の面々は銃の仕分けを続けた。

 日が暮れて下校時刻が近づいた頃、全ての作業は終了した。

 宝探し競争はvz58を見つけたかなでの圧勝に終わった――最下位の美沙は罰として後日、みんなにジュースを奢る事を約束させられた。


 仕分けされた電脳ガンは全て、ネットオークションに出品登録された。

 明日にでも運送業者がやってきて、社会科準備室を占拠している電脳ガンを運び出してくれるだろう。

 オークションで落札されれば、校内安全研究会は数十万円にも上る大金を手にすることが出来る。

 高校生の部活動の活動資金としては十分な額だ。


「これで軍資金はバッチリだね」

 

 一通り作業を終えた芽衣耶は満足そうに頷いた。


「これだけの武器と資金があれば、十分、電脳管理委員会とわたりあえるよ」

「それじゃ、いよいよ奴らと戦争おっぱじめるのか?」


 いよいよ自分の出番かと、血気にはやる戦闘担当の呉羽が目を輝かせる。


「その前に、訓練が必要だね。ゲームを始めるにはいろいろ準備が必要だし、みんなにルールの説明もしないと。……この辺に、広くて人が居ない場所って無いかな?」


 芽衣耶が皆に向かって尋ねると、かなでが真っ先に手を挙げた。


「あ、それじゃあ……」


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