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ダークエルフ側事情説明回です
「魔王~!?」
「うん、私らも会った事は無いんだけどね、私らのところってド田舎でさ、魔王領にかろうじて入ってるくらいの辺境で、人間の住んでる所は魔王様の城挟んで反対側だし、本当なら関係無い話なんだ。」
あちこちで建設会社の若い衆や、それどころか酒井まで押し倒されそうになっているのを意識の外に蹴飛ばしながら正文はシオネという他のダークエルフより少し偉い立場にあるっぽい、やや理性的な女の子と話をしている。
時折視界の隅に映る爺さんが「お前も男じゃのう」と言わんばかりの目を向けてくるのが鬱陶しい。
「で、その魔王様が人間とね、戦争するって言って、村の男衆は全部駆り出されちゃったわけなの。」
「そりゃ、酷い。」
「そうなのよ! 私らダークエルフは男も女も戦えるっていうのに・・・。」
「いや、そういう意味じゃないんだが(汗)」
「でねえ、魔王様負けちゃって、ウチの男衆も全滅しちゃいましたぁ!」
「いや、そんなテヘペロみたいな調子で言う事じゃないだろ?」と思いつつも、突き出された杯に酒を注ぐ正文。
誰かに助けて欲しい感じにしなだれかかられているが、爺様婆様たちは微笑ましいものを見る様にニコニコしているし、他の男性は彼以上に直接的な危機に瀕している。
流石に爺様連中や、既婚者である事を明言している社長や土木課長は無事だが、その分、余計にフリーな男性は争奪戦状態になっているのだ。
「わ、私は妻を、子を愛している、しかしながら、結婚してから初めて、既婚者である事を後悔している!」
なんか血の涙を流しそうな勢いで、物凄いペースで酒を呷っている土木課長が居るが、皆、見てみぬフリをしてあげている。
ダークエルフは・・・少なくともこのダークエルフは一夫一婦制だという話で、相手が決まった者(この場では既に正文がシオネにゲットされていると看做されているらしい)には他の女性は手を出さないのが救いだが、いくら美人相手でも会ったその日になどという事は「そりゃエロゲの世界で現実ちゃうやろ!」と自動的に却下される思考回路をしているのが正文である。
まあ、尤もらしい事を言っても単にヘタレなだけなのだが・・・。
「だからねぇ、男衆はいないし、なんか乱暴になったモンスターは増えるしでねぇ、アタシら大変だったんだよう!」
「そうかい、そうかい、苦労したんだねぇ、若いのに。さあさあたんとお食べ。」
「うん、おばあちゃん、これおいしいね。」
「ほらほら、そんなに慌てんと。まだまだ沢山あるから、ゆっくり味わって食べんさい。」
「うん。」
男からあぶれたのか、色気より食い気なのかリスの様に頬を膨らませるまで、食い物を次から次へと口の中に運んでいる者もいる。
世話をする相手が居て張り合いがあるのか、爺様、婆様たちも心なしか若返っている様に見える。
老人たちとダークエルフの交流は実に微笑ましい。
現実逃避の様にそれを見て正文が和むくらいに・・・。
「ねえ、聞いてます!? マサさん!」
孝典が彼に話しかける呼び名を聞いて、自分も使っているシオネ。
こうして親しい呼び名で呼びかける事で「自分のものだ!」と周囲の別のダークエルフを牽制しているのである。
酔っているにも関わらず、その辺はかなり計算高い。
「はい、聞いてますよ?」
ニッコリと接客商売で鍛えられたスマイルで返す正文。
その笑顔がシオネにとってはドストライクらしい。
嬉しそうにえへへへと顔を赤くしている(まあ、既に酔いでかなり赤いのだが)。
「でね、モンスター凶暴になって狩りは難しくなるし、男衆出てく時に保存食は持って行っちゃったしで、どうしようと言ってた時に雨で山の斜面がくずれて。」
「誰か怪我したりしなかった?」
「大丈夫でした! マサさんはやっぱり優しいですねぇ。」
「いやいや、それで、それから?」
「そうそう、そしたら崩れたトコに洞窟の入り口が開いてね。様子を見に行こうと何人かで行ったら、なんかみんな着いてきちゃってね。で『行き止まりだねぇ』ってやってたらそこが崩れて、マサさんたちがいたの!」
話を聞いても正直、どういう事なのか正文には分からない。
たぶん、後になって冷静に考えた所で分からないだろう。
なので、彼は「なんでこんな事になってるのか」については心の棚に上げておく事にした。
「これからどうしたい? 向こうは危険なんだよね? おそらく、こちらの方が安全に暮らせると思うけど、こっちはこっちで色々面倒な事もありそうだし・・・。」
「マサさんのお嫁さんになります!」
突然、すっくと立ち上がって大声で宣言するシオネ。
爺様、婆様も、他のダークエルフたちも、絡みつかれてる他の男性も思わずそれに拍手してしまう。
こうして、事の起こった理由やら、これからの展望などをそっちのけにして「シオネは正文の嫁」という事だけが既成事実化されたのであった。
「正文、ゲットだぜ~!」(シオネ)