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かなりトバしてます




 正式に久保山村の村長となった正文。

 

 「あれ? 選挙とかは?」等と思ったが他の候補者も何も無い、事実上の禅譲に過ぎない村長就任であった。



 それとほぼ時期を同じくして、孝典を社長とする過疎化脱却の公共事業の受け皿となる建設会社が設立され、村の空いた土地(名義は前・村長である祖父のものであった)に流石建築業という勢いであれよあれよという間に田舎に似つわしくない鉄筋の三階建ての建物が建ち、それに並んで建設作業員の宿舎まで建った。


 久保山建設、孝典の父親の臭いをそぎ落とした会社名が付けられたが、実質は久保山支社の様なものである。


 社長就任と同時に孝典は五人しかいない村会議員の一人となった。


 前議員の一人である田無の爺様がボケかけていたため、名前だけの議員だったのを譲り受ける形である。


 

 

 あれから正文は何度か孝典と酒を酌み交わす機会があり、同年代である事と同じ昔の漫画が好きだった事等から今では友人と呼べる間柄となっている。



 「マサさん、明日の式典ですけど?」


 「あータカちゃんに任せる、俺、そういうの分からないし。」


 「俺も分からないですよ。かといってオヤジに任せるという訳にもいかないし。」


 「建前は面倒くさいよねぇ。ウチの爺様とそっちのオヤジさんでいいじゃんねぇ、もう。」



 正文の方が若干とはいえ年上であることから孝典は「マサさん」と呼びやや丁寧な話し方、正文は「タカちゃん」と呼んでいるが、実質タメ口に近く酒が入ると更にその傾向は強まる。


 

 「防空壕埋め直したトコだっけ?」


 「みたいですね。オヤジが昔遊んだとか。」

 

 「本格的な工事は後で、そこを軽くツルハシで掘って式典にすんだっけ?」


 「普通、神主とか呼んだりするんじゃないですかねぇ?」


 「神社ってこの辺あるの?」


 「無人のしか無いですね、しかも隣村。」


 「だからかね?」


 「さあ、その辺、普段は酒飲む段階でしか参加してなかったもんで。」


 「まあ、興味ないことだとそうだよね。料理もサキさんと村の婆さん連中の手料理だし、手作り感あっていいんじゃないの?」


 「そんなもんですかねえ。」


 「そんなもん、そんなもん。」



 いよいよ明日にトンネル工事の開始を控え、村長宅を訪れた孝典はサキに促されるまま正文と酒を酌み交わしている。



 開始とはいえ、明日は良く分からない式典をやった上で、作業に当たる会社の人間と村の人間総出の宴会。

 本当の作業開始は明後日からになるのだ。



 




 翌日、どこから引っ張り出して来たのか、目的の元防空壕の周りには紅白の幕が張られ、その傍にはブルーのビニールシートが敷き詰められてラップの貼られた料理や酒の瓶が並び、宴会準備も万全であった。


 県からは孝典の兄に当たる土木課長が顔を見せ、前・村長、社長と並んで悪のトリオ状態である。

 頭のいい、如何にも役人っぽい秀才的な外見にも関わらず、どう見ても悪人にしか見えないのは遺伝子のなせる業か?




 一応の主役である正文と孝典は、紅白のリボンを巻いたツルハシを手に所在無さそうにしている。


  

 このツルハシはせっかくのお祝いなんだから、と村の中ではかなり元気のいい存在であるツネ婆が飾り付けたものだ。


 何が目出度いのか良くは分かっていないのだろうが、その気持ちを無にするわけにもいかず、ずっと持っているのは重いものの地べたに置く事も出来ずにこうして持っているのだ。


 

 村の人間と工事関係者、全ての人間が集まり、正文が挨拶をする。


 一応は祖父のチェックも受け問題の無い挨拶ではあるものの、こうした機会は初めての正文にとっては緊張するものである。


 続いて孝典が挨拶をする頃には、それなりに落ち着いてはきたものの、それでもどこか上っ調子な感じで皆に背を向ける形で防空壕跡の前に立つ。


 重さを確かめる様にツルハシを持ち直す。


 横に孝典が同じ様に立つ。


 顔を見合わせ「せーの!」でツルハシを重さのまま下ろす。


 軽く当たって、ちょっと崩れる程度だろう。



 そんな予想に反し、ガラガラと土くれは簡単に崩れ去り、その奥に少し開けた空洞があるのが分かる。


 いや「空」洞では無い。


 

 

 狭い空間には何対もの目が・・・。



 驚きにツルハシを手放ししてしまう正文。


 半歩下がってしまう孝典。



 手作り感溢れるぬるい式典は、思いもよらぬ様相を呈してきたのだった。





こんな状況で目なんて見えたら漏らしても不思議じゃないです

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