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3-7

大変申し訳ありません

なんとか生きてます


「あれは美しくないのう」

 姫が見やりながら、かすかに眉を顰めた対象はゴルフ場である。

 地上からではそれほどでも無いが、上空から見ると大地のひっかき傷の様に見える。


「あちらの世界での上空からの景色に比べると、色々傷ついてる様に見えますよねぇ」

 相槌を打つ利幸は休日に父親にテレビをゴルフ中継で占有された恨みやら、入省直後に接待ゴルフ用送迎ドライバーとして休日を早朝から夜遅く(19番ホールという名の飲み会)まで潰された憎しみやらのせいもあって「ゴルフ」という単語すら嫌っている。

 相槌をうちつつも視線を向けようとすらしない。徹底した拒絶ぶりである。


 同じ機内に居る正文は持ち込んだタブレットで書類と格闘中だ。

「なんで一介の村長が国政レベルの一端を担ってるんだろう」と疑問に思ったりもしているが、それ以上の恩恵や保護も得てしまっているが故に、強硬に断ることも出来ない。

 ちなみに今、正文が書いているのは首相が「のじゃ姫」を迎えて行う国会での演説の草稿である。

 異世界問題担当大臣である祖父から、このヘリへの搭乗直前にふられた仕事だ。

 着々と祖父の後継者として外堀が埋められつつあるのを正文は理解はしているが、妻や子供たちのためでもあるこの異世界との初の国交樹立、下手な人間には任せては置けない。

 その隣では小田がSNSで拡散する為の写真をスマホで撮ったり、写ってはいけないものが写っていないかのチェックを受けたりと、これまた慌ただしい。


 姫の周囲には姫以上に窓にへばりついて外界を眺める魔王領の重鎮たち。

 いい年をしたオッサンや爺さんが子供の様に目をキラキラさせている。

 クボ山村の温泉で長旅の疲れをリフレッシュした彼らを伴い、ようやく姫の主目的である日本と魔王領の国交樹立の調印式へと東京へと向かう短い空の旅。

 のじゃ姫一世一代の大舞台が始まろうとしている。






 この日、日本はほぼ休日と言っていい状態になっている。

 気の早い政治家の中には新しい国民の祝日制定に動き出している者も居る。

 異世界との国交樹立を記念し、この記念日を「異世界の日」にしようというのだ。

 

 内容は多くの国民の賛同を得ているが名称に関しては、既存マスコミ、ネットからご近所の井戸端会議、職場での雑談まで様々な場所でダメ出しをされている。


 ネーミングに関して政治家や官僚に期待する方が間違いである。

 E電なんて名称を知っている人など日本の圧倒的少数派なのを見れば分かる。


 まあ、そんな感じで官民を問わず、この有史始まって以来のイベント。

 地上波では朝から姫、そして異世界関連の多様な映像や情報が流され(テレ東は通常放送であった)、ネット掲示板やSNSではガセからマジもんのリーク(「あー、姫さん行っちゃった(´Д⊂ヽ」と自衛隊員が嘆きをたれ流したり)までの情報が飛び交い、姫の移動ルートと目される沿道ではマスコミとスマホ片手ののじゃ姫フリーク(携帯機器の発展で映像撮影と情報発信に関しては個人とメディアに差が無くなっている)が熾烈な場所取り合戦を繰り返した挙句、警察に追い払われたりともはやお祭り状態である。


 異世界特売セールをする百貨店や、特別ポイント還元をするチェーン店、「この世紀の瞬間を是非

永遠に!」と消費を煽る家電量販店など、商魂たくましい動きを見せる人々も居る。



 そして、近隣各県からの応援の手も借りた警察が沿道警備を進める中、日本、いや世界が初めて体験するイベントが始まる。





 郵政事業庁の職員である三崎容子がそれに気付いたのは、昼食で近場の富士そばへ行った帰り道のことである。

 異世界からお姫様が来ていて、飯倉庁舎のお隣の飯倉公館に入ったことはしっていたが、ミーハー的要素が皆無というか、人混みを見れば背中を向けて遠ざかる習性を持つ彼女にしてみればわざわざ見に行くなどというのは考えもつかないことであった。


 たまたま、昼食に出ようとしていたタイミングでかかってきた電話の応対に時間を取られなければ、この時間、この場所に居ることもなかったであろう。

「マジで邪魔!」としか彼女には思えない沿道の人々。

 ざわめきが離れた場所から静まっていき、彼女の周辺にそれが到達した瞬間、視界にそれが飛び込んで来たのだ。


「あれ? もしかして今、私、居眠りしちゃって夢を見てるの? この時間が無い忙しい時に? 最悪!」と現実逃避してしまう光景。


 漆黒の鬣、真っ赤な目、昔、北海道へ行った際に見たばん馬の様な巨体……そして現実を拒絶するかの様な額の「角」。


 二頭並んだその馬たちが牽く金と黒のオープン状態の馬車の座席には、にこやかに沿道に手を振る優美な髪と角のお姫様。


「あー、魔王領のお姫さまだっけ……そりゃ魔物じみた馬に牽かせた馬車に乗ったりもするよね」


 たっぷりと現実逃避した彼女が職場に復帰したのは30分後であった。





 通常は皇室で用意された馬車での移動であるが、今回は「初の異世界からの表敬訪問」ということもあり、正文の祖父が要らん茶目っ気を出し、一部層の半端な反感を吹き飛ばす効果も期待して、魔王領で実際に姫が用いている馬車一式を持ち込んでの皇居訪問である。


 沿道が軒並み、ざわめき→沈黙→爆発的歓声となったのは言うまでもない。


 馬(?)たちはきちんとした隔離と検疫を行った上で今日のお役目を果たし、今は主人を待ちつつ飼葉をもっしゃもっしゃと食べている。

 この後は自衛隊の駐屯地に一回運ばれ、そこから久保山村→魔王領と帰ることになっていたが、あまりの成功ぶりにもう一度パレードといった形で出番があるかもしれない。


 通常なら訪問した姫を謁見した間で見送る両陛下であるが、わざわざ玄関まで談笑しつつ共に移動をし、この異世界産怪物馬に実際に触れてみるなど例外的行動をお取りになっている。

 どんな立場であろうと、年齢であろうと、やっぱりワクワクするものに接してすまし顔ではいられないものである。


 その後、姫は「大使館」へと移動。


 そう、魔王領は都内一等地に大使館を確保したのだ。


 現在の国力からすると過分な敷地を持つ大使館の維持費に苦労していた某国が手放すことにしたものを、一回、日本政府が購入した上で魔王領が使用するもので、この経緯を上手く利用して姫との面会の確約を手にした某国大使は中々の切れ者である(今回はあいさつ程度で次回は某国側から魔王領へ足を運ぶこととなってはいるが、アメリカですら獲得していない姫との面会権を得た意味は非常に大きい)。


 まあ、そんな経緯はともかく、現時点で既に魔王領大使館である。

 魔王領が自由に使える建物ということで、姫や魔王領重鎮たちもここに滞在する。

 

 門を一歩入れば魔王領同等であり、無断で立ち入ったりすれば一刀のもとに切り捨てられても文句は言えない(魔法が飛んでくるかもしれない)。

 門の外側は警察が立哨しているが、門内には鎧兜に帯剣をした武官が睨みをきかせている。

 出入りの人間の隙を伺って少しでも隙間からの映像を撮ろうとした日本のマスコミのカメラマンが、彼らの一瞥で失禁し、その光景を通りかかった一般人が拡散した結果、マスコミ関係者にとって鬼門となっている建物でもある。

 人間どころかモンスターですら殺しまくって来た相手である、口でどんな勇ましいことを言おうが平和ボケの国のマスコミが敵う相手ではない。



 こうしたガチキルマーク持ち武官と、日本の警察によって安寧を守られている大使館内では……。


 

「コンビニ行きたいのじゃ! ジャンプの新しいのまだ読んで無いんじゃぞ? 続きが気になって眠れぬのじゃ!」

「買いに行かせますんでご勘弁を、すぐに見たいなら電子版なら読めますよ?」


 カビゴンの巨大ぬいぐるみの上に、大使館に入るなり着替えたカビゴンと同系統の色合いのスウェットでへばりついたのじゃ姫は、手足をジタバタさせながらコンビニを恋しがった。

 久保山村での滞在期間ですっかりコンビニのある暮らしに慣れてしまったのじゃ姫である。


 魔王城帰還後が不安になる光景に、頭痛を感じつつも対応に追われる利幸であった。





翻訳の在宅バイトしつつ職探し中

コロナのせいで求人減りそうですねぇ

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― 新着の感想 ―
[一言] のじゃ姫御用達のコンビニで無論セールをして、チキン ¥50引きセールをして集客をしてそうね、 私もゴルフ場に恨みがある渓流フィッシャーマンなので 利幸の気持良くわかるよ!ゴルフ場が出来ると良…
[良い点] 良かった! 色々な意味で作者様がイキテイタ。 [一言] 定期的に読み返しをさせていただいている作品なので、更新されているのを見て我が目を疑いました。 このご時世、健康がダイヤモンドや金のイ…
[良い点] お疲れ様でした。 政府関係者が店員として、異世界の魔王領でコンビニの店舗を出すしかないな(笑) (領地内に出すのが不安なら異世界側の村限定でコンビニ出店も有りだろうw)
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