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ちょっと説明寄りの文になってしまいました(; ・`д・´)
「振り向きもせずにいってしまいましたな」
「若さってことですな」
利幸を送り出した外務省と魔王領の面々は、「不整地のリムジン」とも呼ばれる同種の中では圧倒的な乗り心地を誇る自衛隊の車両を改装した車でクボ山村へと向かう。
城の近くは馬車などの通る石畳、クボ山村までの森の中は大型車両がすれ違うことが可能な道幅の舗装路が通っているため、間の区画が一番道の状態が悪いが、合間合間の川では道路整備より先に架橋工事が進んでおり、途中、数度の休憩や宿泊で乗り換えなど無くそのままクボ山村へと到達することが出来る。
ここ数年にわたって進めてきた友好、交渉を通じて日本と魔王領の国と国としての条約が締結されることがほぼ決定となり、調印式、そして国会への出席という形で魔王の後継者たる姫が直々に東京まで足を運ぶことになっている。
その前に少し羽根を伸ばす時間をというのが姫が先行した理由であり、「少しはお休みにならないと」との周囲の忠言にも耳を貸さず「いや、これが終わらぬ内は……」と働き続けた姫に少しでも安らぎというか自分自身の時間を過ごしてほしいという、周囲の思惑もあった。
普通なら安全な日本の、さらにその中でも特に安全な久保山村とはいえ、姫に誰も人を付けずにいるというのは問題だが、常に傅かれた生活を送っている姫の場合、下手にお付の者が居ない方が休むことが出来る。
この「魔王領」という名称、色々と問題があるのではないかと日本側でも問題視されたし、野党議員には異世界交流発表後は安定し、中々攻撃材料が無い与党・現政権側への久々の攻撃材料として利用されたりしているが、そもそもが魔王領の住人たちは国より魔王に属しているという意識が強かったことから国としての名前が存在しなかった上に、現・最高責任者である姫が「それで何か問題があるのかのう?」と自分たちに対する呼称について何の問題視もしていないことからそのまま正式名称となっている。
キリスト教圏など問題が想定される国を含む諸外国に対しては「MAOH 領(『領』の部分を相手国の言語に翻訳)」と「まおう」という部分を訳さずに通してしまおうという中々の柔軟性を持った対応が外務筋で決定されている。
お堅い日本のお役所も異世界交流というパラダイムシフトを経て随分と融通が利くようになってきているようだ。
また、異世界も含めた諸外国(なんせ久保山村から繋がっている異世界以外の他の異世界の内、12の異世界に国家またはそれに相当する機構が確認されている)との関係などの見直しも必要となり、外務省は国と国との条約その他の関係を決める「外交省」と、諸外国との間で所属している国民同士の移動その他に関する実務を監督する「外事省」に分割されることが先ごろの国会で可決され、今回の魔王領との国交樹立が外交省として初の華々しいイベントということもあって、外務閥の官僚、政治家が張り切っている上に、影響力は落ちたとは言えそれでも多くの人々へ情報するマスメディアも日本国民へ様々な情報を提供して「魔王領」の周知に当たっている。
利幸などは本人の意思確認なんてものは全く無しに外交省に所属することが既に決定している。
姫を迎え入れる日本側では、ネット上では既に姫自らの挨拶コメント映像が公開されていて「のじゃ姫」として圧倒的な支持と人気を獲得している。
元からダークエルフや獣人などで注目を集めていた異世界の「お姫様」であり、美少女な上に特徴的な喋り方でキャラが立っていることもあって、一般的な人気だけでなく、アニメやゲームなどのフィクションキャラでの人気投票においても、何故か架空のキャラと並んでランクインするほどだ。
そうしたこともあって、今回の姫の日本訪問は日本国民全体を巻き込んだ一大イベントと化しているのだ。
有給を取った者は数多く、経営者の中には早々に諦めて会社自体を休業としたところもある。
東京到着後は、飯倉で一泊後の翌日に皇居へ表敬訪問、午後から記者会見……といった感じで15分刻みのスケジュールが既に決定しており、イベント的な取材向けのショッピングや遊園地体験などは行われるものの、本当の意味での自由時間はほぼ無い。
クボ山村および久保山村は外部の人間が簡単には出入り出来ない一種の出島状態である。
山の外側の新たな区画も学校を除けばほとんどが国の施設か財閥の建物であり、最近になって出来た信号機(村周辺には信号が全く存在しなかった)は実のところカメラなどの光学機器と各種センサーを組み合わせた偽装信号機であって、車両、人間共にチェックを受け、警察、自衛隊が即時対応出来る体制になっていて、掲示板でリアルタイム書き込みをしながら突入を試みた馬鹿がネタでは無い本当の音信不通になったりした。
◆◆
【逝ってくるぞと】ダークエルフの郷へ突入してくるお!【勇ましく】
1.蛮雄◆te34k64n22
ダークエルフの郷として異世界に繋がってるという某村へ突入してくるお!
スマホの他に爺ちゃんの形見のミノックスも持ったお!
フィルム入れるの大変だったお!
十徳ナイフは持たない方が良かったかお?
2.興味津々の名無しさん
>>1
馬鹿やめろ! 異世界がらみはマジ洒落にならんって!
マスゴミですらガチで消されて無茶やるヤツ皆無だぞ?
アホの極みの自称・市民ですら避けてるのに……
3.興味津々の名無しさん
>>1
逝ってらー
4.興味津々の名無しさん
こういう馬鹿が居るから一般との交流に色々制限付くんだよ!
5.興味津々の名無しさん
その後1の姿を見た者は居ない……
~~(中略)~~
562.興味津々の名無しさん
>>1
ヤムチャしやがって……
563.興味津々の名無しさん
つ菊
12時間レス無しか
これはマジでマジかもしれんね……
564.興味津々の名無しさん
つ菊
このスレも魚拓とっとかんといきなり消える可能性
565.興味津々の名無しさん
つ菊
で、本人特定出来たの?
566.興味津々の名無しさん
つ菊
社会人や学生ならともかく、ニートだったら特定不可能じゃね?
(615まで書き込みがあった後、該当スレは唐突に消滅)
◆◆
ちなみにこのスレ主は公安主体で外国や特定の政治・宗教団体などとの関与を問い詰められたり、思想調査という名の自宅パソコンのハードディスクの中身全開示といったガチに厳しい取り調べを受け、精神を病む一歩手前まで追い詰められたが、特定勢力との繋がりが全く無い個人の暴走であったこともあり「そんなに異世界行きたいなら行かせてやればいいじゃないか」との温情措置で、異世界での道路工事に今でも励んでいる。
オーガやオークやリザードマンに囲まれ、潤いは全く無いが、それでも本人は結構楽しそうなのが救いだ。
ともあれ、そんな感じに色々な形で守られているため、久保山村の中であれば異世界の住人たちも比較的自由に動くことが可能であり、姫の日本体験フリー版の場所としては、まあ、無難な場所となっているのだ。
自衛隊クボ山駐屯地に着陸した利幸と姫。
指令に応接室に招かれお茶をご馳走になった後、視察という名の交流タイム。
姫とツーショットは流石に無理なものの、一緒に集合写真を撮ったり、その姿をスマホでパチリとしたりした自衛官たちは他の自衛官だけでなく、迂闊に呟きなどで自慢した者も居たせいで(さらにそれが掲示板で拡散され)全世界から嫉妬を受けることとなった。
そして久保山村へ。
正文は「お疲れでしょうから」と挨拶だけに留めて、そのままトンネルの先の外務省の施設(豪華な宿泊設備の本領発揮)に、お付の者たちの到着まで世話役兼話し相手として選ばれたのが……。
「え? わたし?」
……と未だに男っ気の欠片も無いリツと、その仲良しペアであるシリルである。
CM出演や国会出席などを経て有名になったリツであるが、色々な煩わしさからクボ山村サイドに居る時間が増え、知り合いが増えるのに伴って頼まれごとも増え「いいよ、いいよ」とやっている内に周囲からアドバイスもあって各種代行サービスの会社を設立し社長となった。
何かを買ってきたり、役所などの手続きをしたりとリツとしてはあまり仕事という感覚ではなかったのだが、クボ山村の住人、そして出入りする異世界の人々からの高い支持を得て、素人ビジネスながら安定した業績を上げている。
社長がリツ、副社長がシリルという二人だけの会社である。
エルバやミリーシャはというと、エルバはカメラマン、ミリーシャはパティシエと、それぞれの夢を見付けて修行に励んでいる。
彼女らと顔を合わせ、バトンタッチで半分自室と化している、利用頻度の高い部屋に入る利幸。
リツとシリルは姫の本物のお付が到着するまで、姫の部屋に付随する付き人用の部屋に宿泊することになっている。
「姫さんも空の旅でお疲れだろうから、軽く横になって、場合によっちゃひと風呂浴びて、せいぜいが夕食に付き合うかどうかって程度で、明日からだよな、たぶん……」
上着を椅子にひっかけてベッドにぶっ倒れ、呟いた途端にノックの音。
「せっかくじゃ、今からこんびにとやらへ行ってみようと思う!」
元気いっぱい「若いっていいなぁ」と思わず年寄り染みたことを思ってしまうほどのテンションでコンビニ行きを宣言する姫。
リツもシリルも居るんだし自分は居なくてもいいんじゃないかと思う利幸だが、姫は当然日本の通貨は持っておらず、最重要な利幸の役割は「財布」であった。
リツもシリルも雇われている側、この場で財布役が可能なのは利幸だけというのも確かな事実だ。
上着に袖を通すと「仰せのままに」と姫に同行する利幸であった。
「ほうほう、このこんびにとやらの陳列配置は実に見事なものよのう!」
入るなり商品よりその効率的な陳列に目がいくとは流石に為政者である。
実際、コンビニおよびキオスクの陳列、物品配置は効率と利便性の極みにあると言えよう。
ちなみに村のコンビニはクボ山村のものも含めると三軒に増えている。
クボ山村の店舗は照明に魔法の道具を使うなど電力をなるべく使わない工夫をしているが、最大のネックは通信回線リアルタイム接続が不可能なためPOSシステムと連動出来ない点である。
しかしながら他の異世界への展開や、異世界に展開している事実による広告効果、そしてコンビニの省エネモデル化の実証実験を兼ねるなど、その存在価値が非常に高いことから本部直々の肝いりで採算を度外視した資金、機器が投入されており、久保山村サイドのコンビニ店舗との連携で大きな問題もなく運営している。
現在、利幸たちの居るコンビニは村では一番古くからあるコンビニであり、現在の店長は、あのリザードマンの女性と初めて結婚をした強者のオタであり、客として異世界の住人が訪れるだけでなくバイトとしてレジに立つ者すら居る。
現在、姫たちの注文にこたえてソフトクリームの機械を操作しているのもアリクイの獣人の青年だ。
器用に綺麗な渦を積み上げている。
「これはなかなか美味しいものだのう!」
鼻の頭にソフトクリームをつけて嬉しそうな声を上げる姫を横目にレジの支払いを済ませる利幸であった。
事件が起きると卒業アルバムの文章をマスコミが載せたりしますが
あれも刑罰の一種として通用しますよねぇ
加害者の場合はともかく被害者の場合は酷過ぎる仕打ち
ハードディスクの中身公開ほどでは無いですが……