閑話:ダークエルフ花見をする
またまたレビューを頂いてしまいました
これまでに頂いたレビュー、感想、評価などへのお礼として
花見ネタで閑話をお届けします
「村の空いてる家の中でこの家選んだ理由がこの木だからな、夜とか独り占め感が凄いぞ!?」
「この木、桜だったんだ、他の季節だと目立たないんだけどなぁ」
小田と正文は小田が譲り受け改築した小田の家で庭の桜を見ながらのんびりと昼間から酒を飲んでいる。
ここのところ忙しかったのに一区切り付いて、移住組のオタたちも落ち着いて来ている。
マメさとコミュ力の高さで出版業界で一人スキマ産業をやっていた小田は、面倒見の良さを見せて、直接、間接の知り合いであるオタたちのフォローをしており、非常に忙しかった。
本業の村の広報に関しては、まだまだ正式な情報公開への道筋も確定していないことから、余裕でこなせているが、時々、正文の祖父に無茶振りされて資料作成などをやらされている。
一方、正文は村の住人の急増や財閥関係者とのやり取り、財閥関連の人間が大量に村に入ってきたことに対応した新規の職員募集など、やはり忙しかった。
普段、あまり正文に文句を言ったりしないシオネが口を尖らせて「もっと私を構って」というくらいに。
そうしたこともあって、ようやく出来た時間、小田宅への久々の訪問にもシオネを伴っており、会話中も特に口を挟むことなく正文に寄り添ってニコニコしている。
小田の妻はやはり小田の隣に座って、嬉しそうな顔であまり大きな声ではないが歌を歌っている。
桜の木を説明する際に、色々な桜に纏わる曲を聞かせたらしい。
そうして聞いた曲の中から、その時々で思い浮かんだ曲を口ずさんでいるようだ。
小田がなにかにつけて自慢する様に確かに綺麗な声をしている。
こちらが聞いている様子を見せると真っ赤になって口を閉じてしまうので、特に注目をせずに居るが目も耳もそして舌も、視線を特に向けなくても感じられるシオネの感触と体温も、「うわぁ、贅沢な時間を過ごしているなぁ」と少し酒の回った頭でしみじみと思ってしまう正文である。
「この花を見てると爺様思い出すわね?」
間に挟んだ正文と小田越しに、少し身を前に乗り出して小田の妻へシオネが語りかける。
「このお酒とか、爺様も喜ぶね」
「爺様って?」
「村から半日くらい歩いたトコに住んでる樹人のお爺さん。お酒が大好きだから集落に男集が居た頃は、村で宴会やってたりするといつの間にか混ざってたりしたの」
「最近はダークエルフ以外が村に増えたから、あまり村の方へは来なくなっちゃったんだけど……」
気が向いた時には動くが、普段はほとんど動かず普通の木と変わらない外見で眠っており、森に慣れたダークエルフでもあちらから話しかけてきたりしないと見つけられなかったりするらしい。
普段は青々とした葉を茂らせた木なのだが、お酒を飲むと顔を赤くする代わりの様に、ほのかにピンクにそまった白い花を咲かせるのだそうだ。
「へえ、一度お会いしたいなぁ」
「トレントまで居たんだ! イギリスとかのトールキン信者とか、冗談抜きに日本に帰化しかねないぞ?」
「じゃあ、今度のお休みの日、他のみんなも誘って会いに行こう?」
「でも、最近、前の場所には居ないって……」
「森の中でみんなでお酒飲んでれば来るわよ、きっと!」
こうして、正文たちはクボ山近くの森の中に住むトレントに会うため、森の中での酒盛りに出かけることになったのである。
そうして次の休日、元々のダークエルフの集落の住人だけでなく、その連れ合いやら、新たな村の住人、財閥関係者など、村の半数以上丸ごと移動といった感じで、まるで遠足の様になってしまった。
それほど大型のものは出ないだろうが、それでも人を襲ったり害を与えたりするモンスターが出る可能性があると、ダークエルフたちやオーガのグガなどの戦闘経験者などは完全武装とまではいかないものの、それなりの武装をして歩いている。
正文は背中にタッパに入った料理の入ったリュックを背負い、手には今回の件を祖父に話したところ「これを持って行け」と渡された角樽の日本酒を持っている。
かなりの重さだ。
これに防具的なものまで身に着けていた日には、村から出て三十分もしない内にへたり込んでいただろう。
ほとんどの久保山村の老人たちは流石に同行しなかったが、ダークエルフたちは「これ持っていきんさい」と煮物や漬物などを持たされている。
流石にこれだけの大人数ともなると森の動物やモンスターは逃げていくらしく、正文は特に何かを見かけたりはしていないのだが、ダークエルフたちの感覚に捉えられる範囲に入ってくることはある様で、時折、矢を番えたりすることもあり、何回かダークエルフとこちらの森に入ったことがあるダークエルフの連れ合いはともかく、初体験に近い財閥関係者などは過剰に反応して疲労を増している。
「こういう時はただの水が一番美味いよな」
「いやいや、これ、たぶん魔力とか製霊力とか入ってるって」
「エント水かよ! この年になって背が伸びても困るぞ?」
「ホントに伸びたら向こうですごい値段で売れるぞ?」
それなりに飲み物も持って来た正文たちであるが、ダークエルフに教えてもらった湧き水に口をつけて、その美味さに驚嘆している。
オタたちも口々に感想を言っているが、ライトな作品や萌え系を好む者でもしっかりと原典的なあの作品は読破しているようで、ネタにしっかりと追随している。
小休止からさらに一時間、「元々はこの辺りに居たし、そんなに遠くには行ってないと思う」との判断で、少し木の密度が低く(それでも見上げれば枝と木の狭間からしか空が見えないのだが)なっている所にレジャーシートやブルーシートを広げて宴会の準備を始める。
「いやー、やっぱ真昼間から酒飲むのは贅沢な気分になるなぁ」
「いや、これも普段働いてるからだぞ? ニート時代の昼間になんとなくで飲んだ時なんか、平気で親に寄生ニートしてたこの俺ですら後ろめたい気持ちになったからな」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいじゃないか、村長~、乾杯の音頭~!」
皆に促されて「それでは、これからもおいしいお酒が飲めるよう、皆様の健康を願って~乾杯~!」とすっかり手馴れた様子で音頭を取る正文。
そのまま一気にビールを呷る。
グガたちオーガ連中が巨大なクーラーボックスに入れて担いで来たため、ビールやチューハイは冷えているし、まだまだ氷も残っている。
オタの中には単に「なんかカッコいいから」というだけでカクテルの造り方を身に着けている者も居て、自前のシェイカーやら、カクテルに必要なリキュールまでしっかり担いで来ていて、普段は披露する機会の無いシェイカー捌きを見せている。
映画のDVDを見ながら何度も練習したのであろう、意味の無い曲芸じみた動作までしている。
コップではなく、缶の飲み物が多い屋外での呑みは、正文にとって非常に有難い。
次から次へと「まあまあ一杯」とお酌されまくるということが無くなるからだ。
最近では氷を浮かべたウーロン茶でしのぐ技を身に付けた正文であるが、それでも目ざとくウィスキーで無いことを見抜いて酒を勧めてくる者も居る。
そういう相手に限って正文の祖父の知人だったり、財閥のお偉いさんだったりして、断ることが出来なかったりする。
ともあれ、今日はのんびりと、重い荷物を担いで、普段歩かない森の中を歩いて来ただけあって、軽い疲労で余計にビールが旨く感じる。
森の中を拭きぬける風。
草木の濃い匂いが駆け抜けていく。
風が木の枝を揺らして木の葉が音を立てる。
「なんか風が強く……なってないのになんで、この音?」
「え? まさかモンスター?」
「なーかーなーか-うーまーそーうーなーもーのーをーのーんーでーおーるーなーぁー?」
「あ、爺様だ!」
「予想通り酒の匂い嗅いで出て来たね」
当人的には大急ぎでやってきたのだろう。
実際、その移動スピードは日本人たちの全力ダッシュより速い。
ただ、それはサイズが大きいためであって、動きは非常にスローモーだ。
正文が初めて見た樹人。
映画やなんかよりももっと普通の木っぽい存在であった。
良く見ても顔がどこにあるか分からない。
シオネが言うにはニコニコと嬉しそうにしているのだというが、どこからどう見ても木そのものである。
動いているという点では普通ではないのだが、動かずに居たら普通の木と全く区別が付かない。
ともあれ、礼儀として挨拶をし、祖父に持たされた角樽の日本酒を手渡す。
嬉しそうな笑い声が響き、「どーれーどーれー」とゴクゴクと呑んでいく。
そして……。
緑の葉っぱに覆われていた樹人の枝に花が咲く。
吹く風に飛ばされていく白い花びら。
シオネたちが桜を見て、この樹人を思い出したのも無理は無い。
桜に良く似た花。
特にその散り方が本当に良く似ている。
酒を飲む度に花が開き、風が吹く度に散っていく。
「こーれーはーうーまーいーのーぉー」
角樽の日本酒をあっという間に飲み干して、ダークエルフたちから渡される色々なお酒を飲んでは、花を咲かせ、喜びの声を上げる。
昔、学生時代日本で夜桜花見をやった時、ゴミをまとめながらなんとなくその楽しい時間をくれた桜に感謝して「一緒に酒が飲めたらよかったのにな」などと思っていた正文であるが、こんな形でそれがかなうとは思っても居なかった。
まあ、ここ数年の正文の人生、思っても居なかったことだらけなのだが……。
こうして、クボ山村の住人では無いが、友好的な隣人としてダークエルフたちが「爺様」と呼ぶ樹人が日本人たちに親しまれる様になったのであった。
前回の閑話同様、第一部と第二部の間の話です
トールキン作品のトレントはイギリス人に馴染みの深い木ですが
日本人の作品なら「桜の木」のトレントが出てもおかしくないと思うのです
ゲームやファンタジーの知識の無い、西行法師が好きな日本の老人が桜のトレントに転生して、「服を着せるだけならともかく、二本足で歩く芸を強要した挙句、血が出るほど叩くなど許せん!」と飼い主による虐待と勘違いしてコボルトたちを襲うオークを倒して……なんて話も思い浮かんでたり




