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2-22

「ご祝儀のモンスターが境界の穴を通れないんじゃ?」

とのコメントに「そうだった、勢いで書いちゃった」と焦りましたが

胴体部の骨や内臓を取り除いてあるって感じで

トラの敷物にちょっと肉が付いている状態ということにします

頭さえ通れば通れますんで、運ぶ時は獅子舞状態ですかね?


この話が第二部ラストです

「いいってこった、細けえことは気にすんな!」

 そう言って資材分の実費しか受け取ろうとしない棟梁。


 元々の貯金もあるし、結婚式を放映したことによって康則たちに支払われた出演料や、結婚式で受け取ったご祝儀(全く康則と付き合いの無い生活レベルの人たちなど、お返しが非常に難しい上に大量なため、業者に丸投げで委託した)、急遽国会で決まった異世界の人間との結婚に関して政府から支払われる支援金などもある。


 正当な代価を支払っても借金生活にはなったりしないのだ。


「結婚なんてのは金がかかるもんだ、それにこれから子供が生まれりゃもっと金がかかるぞ?」

 と全く譲らず、それどころかご祝儀(立てられちゃう厚み)までポーンと寄越す始末だ。


「棟梁には一生頭が上がらないなぁ……」

「でもここと同じ感じになるんでしょ? 凄くいいお家になりそう!」


 康則とカレンは新婚旅行は難しい状態ではあるが、政府からお詫びとお礼として森の温泉旅館への宿泊が融通され(政府関係者の予約分を譲る形で)、式での疲れを癒しつつゆったりとした二人の時間を過ごしている。


 この調子だと康則の父母が待ち侘びている孫の誕生も、思っている以上に早いことになるのではないだろうか?


 獣人用の浴衣から出てユランユランと上機嫌に揺れるカレンの尻尾を見つつ、さて、もう一回露天風呂に行くか、それともこのまま二人でゆっくり部屋ですごすかと贅沢な二者択一を考え込む康則であった。


 



 異世界情報公開後の国会中継は一種のエンターテインメントとしての意味合いをもって国民に受け止められており、民放各社からは「自分たちにも国会中継をさせろ」などという要望が出されている。


 康則も恩恵を被ることになった「異世界の住人との結婚に対する支援金制度」法案、この法案の可決に握りこぶしを握ってガッツポーズを取った男が居る。


 試される大地で酪農に従事する酪農家三世の西谷道郎である。


 久保山村だけがクローズアップされているが、異世界の住人との友好的な交流が確認されているケースは日本国内で17ヶ所存在している。

 中には人懐こい野生動物との交流といった感じで、知的生物との交流とは言い難いケースもあるが、それでも初期段階で深刻なトラブルが発生している所は無く、久保山村ほどの規模ではないにしても政府や企業などの協力で交流を拡大しつつある。


 道郎の肩には可愛い女の子が座っている。

 事案では無いし、道郎が巨体な訳でも無い。


 道郎の家の牧場に開いた穴から出てきた小人、つまり異世界の住人である。

 小人たちは3~5頭身くらいのマスコットの様な、あるいは伝承のコロボックルに似た外見。

 道郎の昼飯のおにぎりが転がって落ちた穴から、お礼を言いにやってきたのが彼女。昔話そのものである。


 異世界と繋がっているその穴、小人にとってはかなり広い穴なのだが、人間にとっては非常に狭い。

 乳児くらいしかあちらには行けないであろうというサイズだ。


 このため、人的交流は一方通行、あちらからこちらに来ることしか出来ないのだ。そうしたこともあって、政府の支援に関しては久保山村の様な大規模なものではないが、人的交流の活発さに関してはさほど劣ってはいない。

 牧場に隣接して小人たちが滞在したり遊んだり出来る建物が、政府の予算で建てられており、今この瞬間にも大勢の小人たちがそこで過ごしている。


 出会った当初、小人たちのあまりの小ささにトラクターなどの農業機械に乗るのが怖くなってしまった道郎。

 無理も無い話だ。

 サイズから言って気付かずに害してしまう危険性は高い。

 ちょっとした草に隠れてしまう大きさなのだ。

 知らなければ気にせずに過ごせるが、知ってしまえば休憩でちょっと腰を下ろして休むなんて行為でも何回も確認しないと怖くて出来ない。


 ただ、この小人たちに関しては道郎の取り越し苦労であった。


 いつの間にか牛の背に乗っていたり、高い木の上に居たりと神出鬼没な小人たち。

 小人たちの世界は「魔法」が当たり前に存在する世界であった。


 魔法が得意な小人は幾つもの魔法が使え、こちらの世界の牛より大きなモンスターを狩ったりする者さえ居る。

 余り魔法が得意ではない者、そうした者でも必ず使える魔法が2つある。

 1つは瞬間移動。

 これは牛の背や道郎の肩に乗る際に使用している目的の場所を明確にして移動するものと、命の危険が迫った際に、それから逃れられる安全な場所へと自動的に移動するものの2種類がある。

 危険に気が付けば前者、気が付かなくても後者が発動するため、道郎の心配は実の所全く必要の無いものであったのだ。

 

 そしてもう1つ小人たちが絶対に使える魔法。

 それが「適応」の魔法である。


 これは他の人型種族と極端にサイズが違い過ぎる小人族にとって、異種婚のために必須な魔法で、要は結婚や子作りが成立する様にサイズ調整を行う魔法だ。

 相互認識さえ出来て気持ちを育めれば巨人とだって結婚可能である。


 でもって道郎の肩に乗っている小人の女の子、人間サイズに成れるし、道郎が小人サイズになることも出来る。


 つまりは……そういうことである。

 繰り返すが事案では無い、子供に見えても小人としては成人である。


 久保山村の情報に狂喜乱舞するネット住人の何割かの楽園は、久保山村から遥かに離れた北の大地に存在していたのだ。


 久保山村以外での支援金第一号は道郎のものとなりそうであった。





「商標登録?」

「爺さまがやっとけってさ! 久保山村とクボ山村の両方で」

 主役の康則とは違い、正文には結婚式後の休息なんてものは無かった。


 今もウェブ放送用の動画撮影の準備を進めつつの雑談である。

 メールだの電話だの(直接押しかけるのは政府にガードされているため正文が煩わされることは無かったが、上空近くまでヘリが来て自衛隊に追い払われていた)が押し寄せ、村の通常業務や異世界関連での政府とのやり取りにも支障を来たしており、多く寄せられる質問に対する回答を村の公式HP、動画サイトなどにアップして、そこに誘導することで対応しようという考えだ。


 撮影や機材のセッティングは小田がこなしている。

 ちゃんと照明までセットして、テストで撮影した映像も素人感の全く無いものとなっていた。

 相変わらず器用な男である。


 ブログ公開の4コマ漫画の連載はいまだ続いており、トップページには現在「実話を元に誇張、脚色などを行ったセミ・ノンフィクション4コマ」などといった言葉が追加されている。

 出版されているコミックスには関しては異世界情報公開を機会に改版がかかることが決定しており、新たに付けられる帯用に妻と2ショットの写真を撮影もしたりした小田である。


「コミックス改訂版って顔晒すんだって? なんか変なの湧かないか?」

「まあねぇ、こき下ろされたり、変なコラが出たりくらいはするだろうねぇ。俺だけなら絶対にしないけどさ、子供たちのこととか考えるとさ、社会的認知ってやつ? それを少しでも広げておかないとね」

「え? 『たち』って、二人目出来たのか、お前のトコも?」

「いや、まだだけど、時間の問題でしょ?」

 会話を進めながらも手は休めていない。

 口調や態度は好きなことを好きにやっていた独身時代と大して変わらないが、考え方や話す内容には随分と変化が見られる。



「にしても、この国のマスコミって完全に頭おかしいだろ? なんで他所の国と協力してやれとかいう話になるの?」

「しかも特定アジア~! ま、お里が知れますなあ」

「日本国内で確認取れてるだけで53ヶ所、世界だと1,000ヶ所以上で、リヒテンシュタインやシーランドですら繋がってるトコあるんだろ?」

「シーランドは海中というか海底だけどね、ま、未確認が最低でも5,000ヶ所はあるだろうって話だし、その10分の1としても500ヶ所はこうした異文化交流が可能な世界はあるだろうね」

「なんか、自分のトコの畑の作物枯れたり腐らせたりしてんのに、人ん家の畑使わせろって言ってるのと同じだろ?」

「自分の家の冷蔵庫の中身腐らせといて他人の家のケーキ食わせろって言ってる感じ?」

「まず、自分のトコきちんとして、でもって他が苦労してそうなら『手を貸しましょうか?』『何か手伝えることはありますか?』ってなるのが筋だろ? 明らかに手伝えるほどの能力が無いことを露呈しときながら何を言ってるんだって話。万が一、政府がそれ認めるなんてことがあったら、あっち行ってトンネル潰すよ」

 本来、温厚を通り越して事なかれ主義的にも見える正文にしては口調が荒い。

 マスコミやら自称文化人やら野党政治家などの言ってくる内容に相当腹を立てているようである。


「この間も現職閣僚が『まずは日本国内を最優先で』って言って叩かれてたしねぇ。日本の政治家なんだから日本のこと気にかけるの当たり前でしょ、なんで叩くんだか?」

「バブルが弾けた後ぐらいからかな? 一般の国民の意識が『海外への支援とか海外協力とかの前に日本国内をちゃんとしろよ!』ってなってさ、最近の政治家はそれに沿った動きを意識してる人も出てきたけど、マスコミとか自称・知識人とかは昔は通用したロジックがいまだに通じると思ってるよね」

「相手国の地元民も喜ばないODAの金で何人日本国内の自殺者救えたか……」

「特定アジアだけじゃなく、アフリカとかでもまともに働いて得る金の一年分を一日の支援で貰えちゃうから、最初から自立する気が無い連中増えてるし」

「まあ、馬鹿らしくなる気持ちは分かるけど、自分で頑張る気のない奴を助ける気はしないよなぁ」

「相手がそれを当たり前と思っちゃった時点で援助とか支援は失敗だよね」

「耳を押さえてのたうってる元ニートが居るんでこの話題はこの辺で……」


 雑談中エキサイトして少し乱れた正文の髪形をシオネが直して、小田がキューを出して撮影開始。

 身内しか居ない撮影現場だが、カメラの向こうの不特定多数を意識して少し緊張する。

 口パクでシオネが「ファイト」という姿に軽く笑みを浮かべて口を開く。


「皆様はじめまして、ごくごく一部の方はお久しぶりです。久保山村の村長をやっております瀬澤正文です。政府からの異世界情報公開後、村のホームページなどに様々な方からご質問、ご意見などをいただいております……」


 祖父をして「顔向き」と言わせた正文の真価。

 警戒感を抱かせない優しい表情と語り口。


 話している内容自体は政府から公式にアナウンスされているものと大差は無い。

 ただ、それが正文の口から出ると穏当で正しいものとして受け手の耳に入ってくる。

 

 対峙する相手が自動的に悪役じみて見えてしまうその穏やかな振る舞いで、後に「悪役メーカー」と呼ばれる様になる正文の全世界デビューが、この村の総合庁舎の会議室で撮影された映像であった。


「パパかっこいい!」

 映像を見た雅音の一言で、外部などからの評価への懸念など吹き飛んでしまった正文である。

 全世界より娘の一言だ。

 批判されても「親バカで何が悪い」と逆に胸を張るだろう。


 娘のため、そして妻のため、更にはこれから生まれてくる子供のため、正文は全世界に対し、心の中でファイティングポーズを取った。



これにて第二部完です

第三部では異世界との国交樹立という話になり

一方、雅音は小学校に入学します


章の間の閑話にしようかとも思いましたが、久保山村以外で進展のある日本の別の異世界コミュニケーションも少し書きました

合法ロリは久保山村以外でした

あちらの世界には結婚した人間以外行けませんが、こちらには自由に来ます

小人たちの話によればあちらは草がいっぱいで木の実や果物も沢山

遊びと昼寝の合間に食べ物を探せば一日分くらい簡単に見つかるとのこと

道郎は行ったことがありますが、集落の周りは草の丈が高過ぎて全く見渡せず、集落で過ごしただけで帰ってきました

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