2-19
明日から日本へ帰国なので、急いで書き上げました
異世界、特に久保山村から繋がっている世界に関する情報公開のタイムテーブルが決定され、正文も本来の村長業務の他にその協力と新たな協力者との顔つなぎなどで慌しい毎日を過ごしている。
そうした中、政府、与党からは異世界対策特務大臣への就任を正文が打診されたりもしたのだが、一考もせずにこれをあっさりと断っている。
「そんな仕事引き受けたらシオネや雅音と一緒にいる時間が減っちゃうじゃないですか! それにシオネはこれからが大事な時期ですし、今でさえ足りないと思っているのに、それを減らすなんて絶対に出来ませんよ!」
理由を聞かれた正文の返答に「それならば仕方ない」とあっさりと納得したジジ馬鹿な祖父もまた政府特別委員会、与党諮問会への協力を要請され、次の参院選で与党から出馬することまで決定している。
「雅音やシオネと会えなくなるのは辛いが、これも雅音たちの将来のためじゃ」と村長時代のコネクションで既に後援会が設立されており、現時点で投票率に関係無く当選出来る票数を確保しているという話である。
おそらく本番の選挙速報では、開票作業を開始してすぐに当選確実のマークが出るであろう。
また、孝典の父は衆院選での与党からの出馬が決定、後援会長に祭り上げられた孝典もまた忙しくなることが既に決定しており、半年先までパーティーや宴会への出席予定がびっしりと決められ、ピークには一日に3~4ヶ所のパーティーに出る日があるなどの過密スケジュールに「子供と過ごす時間が~!」と既に泣きが入っている。
「まあ、その内、否応無く忙しくなるからの、断れる内は断っておいた方がいいじゃろ……」
祖父の言葉にうなだれる正文であった。
既に研修施設(という名の対異世界外交施設)が久保山村に出来ている外務省であるが、クボ山村の第二期拡張工事の一環としてクボ山村に領事館が出来ることが決定しており、日本政府として初の異世界公式進出となる。
第二期拡張工事は財閥主体のもの、政府主体のもの、住人たちの要望に対処したものを総合的に勘案して行われるもので、これに伴い棟梁の下でお手伝いと修行といった感じで働いていた異世界の若者たちの一部が、久保山建設に「社員」として雇用されることが決定している。
世界初のゴブリンのとび職や、ダークエルフの左官職人など職人としての独り立ちを目指して、棟梁の伝手で呼ばれた現職のベテランから技術を学んでいる者たちも居る。
目立つ建設項目としてはこの領事館、自衛隊の派遣基地および保管庫、財閥の研究農園、財閥の金属研究所、そして異世界初のコンビニなどが上げられる。
コンビニはクボ山村住人だけでなく、クボ山村を訪れる商人などからも強い要望が出ており、設備の一部に魔法の道具を使うなどして省電力化を図った設計で運用の目処が立ったことから第二次拡張工事での建設が決定した。
領事館に関してはダークエルフを含む異世界の住人からの受けがいいということで、建物は三階建ての和風木造建築で作られることが決定しており、棟梁や親方、そしてその弟子となった異世界の若者たちが手ぐすねを引いて作業開始を待っている。
利幸はこの領事館での勤務が決定していると共に、魔王の城へ外交交渉に政府が人員を派遣する際にはその一員となることも確定している。
といった訳で現在の利幸は外務省の研修施設滞在し、異世界に関する知識を貯える共に、クボ山村に頻繁に出入りしては異世界の住人たちに馴染もうとしてる。
「あ、江隅さん、こんにちわ」
「こんにちわ~」
久保山建設の社員である康則とも知り合い、人を紹介してもらったり、質問をしたりと既にかなりの顔馴染みとなっている。
「棟梁が探してましたよ、領事館のことで聞きたいことがあるって」
「俺に言われても困っちゃうんだよなぁ、決定権無い上に、政府の上の方からの指示でのプロジェクトだろ? もう、棟梁が首相に電話して聞いちゃっていいんじゃないかな?」
せっかちな棟梁に色々とせっつかれてはいるものの、外務省単体だったとしてもお役所仕事で許可だ根回しだと手間取るのに、政府全体でのプロジェクトである、棟梁に聞かれても利幸では答えようが無いのだ。
クボ山村に出入りする人間には珍しく、かっちりとしたスーツを着ている利幸に対し、康則は「お役人さんは大変だなぁ」などと思っている。
仕事の一環で歩き回っている利幸に対し、康則は今日は休日出勤の代休でカレンとのデートを楽しんでいる。
結婚を前提としたお付き合いということで、カレンの家族の大母にも既に会っていて、「私らの流儀とは違うが、カレンがそれでいいなら問題無い、幸せになりな」と結婚に関する了承までしっかりと獲得しているなど、最近の康則は「中の人が交代した?」と聞きたくなるほどしっかりとしている。
康則の父母へもカレンを紹介していて、驚きと喜びで凄いテンションになってしまった母親は、あちこちの結婚式場のパンフレットや貸衣装のカタログなどを大量に持ち込んでは、すっかりと気に入ってしまったカレンと二人で「式は神前? 教会もいいわね、披露宴のお色直しは何回したい?」などと盛り上がっている。
母親がこちらに来る度に逆単身赴任状態になっている父親だが、息子の成長を噛み締めるように喜んで気合が入っているのか、文句を言うことも無くいつも通りに仕事に出かけているらしい。
両親のどちらもカレンが日本人どころかこの世界の住人と違っていることに対してはなんのこだわりも持っておらす、母親などは「本当、可愛いわよねぇ、良く康則がこんな可愛い子を捕まえられたものだわ」と本当に嬉しそうだ。
実家へも来る様にと誘いをかけていて、その時はカレンの服をあれこれと買いに行く計画まで立てていて、父親と康則のボーナスの使い道はそれに決まってしまっているのだそうだ。
とりあえずは、嫁姑問題は心配しなくて良さそうだ、と少しホッとしている今の康則であった。
「ぷはぁ~、疲れた、緊張した~……」
「りっちゃん、お弁当おいしいよ、ホラホラ、お肉たーっぷり!」
「飲ーみ物もおいーしいよぉ」
「あのカメラっての面白いな、給料貯めて買おうかな?」
リツたちが出演するCM、素人のリツたちに演技などは最初から誰も期待していないので、県内の遊園地を借り切って、そこで彼女たちに遊んでもらいそれを長回しで撮影して後で編集をしてCMにするという手法を取っている。
それでも決められたことを言っている映像も必要なので、時々、CM撮影スタッフがカンペの様なボードを出して、「これを読んで!」とやっている。
案外、卒なくシリルたちがこなしているのに対して、リツは結構緊張してしまい、噛んだりとちったりしいてるのだ。
平行してスチルの撮影もカメラマンが行なっているが、取った写真を見せてもらっている内にエルバが、写される側でなく写す側に興味を持ったらしい。
カメラを持たせてもらったりしているが、最初こそ危なっかしい手つきだったが、割とすぐに様になった格好でファインダーを覗いている。
「遊園地楽しいねー!」
「こんーどはあれにのりましょー」
「あ、あれ…………?」
ミニコースターとも言えるマッドマウス、通常は進行方向に向かって椅子が配置された箱型の車輌がコースを走るのだが、この遊園地のものの場合コーヒーカップの様な形状で椅子が円形に配置されているという、実のところこの遊園地の場合、ジェットコースターより絶叫度の高い代物だ。
リツが引き攣ってしまうのも無理は無い。
シリルたち獣人が人より運動神経が高いせいもあるのか、絶叫系マシンへの耐性も随分と高いようだ。
コーヒーカップなどはエルバとシリルが思い切り回したせいで、リツとミリーシャは地獄を見た。
それに比べれば多少はマシだろうが、友達との体力の差をつくづく感じてしまうリツである。
「はい、お疲れ様でした! 撮影の方はこれで終了ですが、遊園地の方は一日貸し切ってますんで、引き続き楽しんでいただいて結構ですよ!」
「ありがとうございました、お世話になりました!」
遊園地を楽しんでいる内に終わってしまった撮影。
「果たしてあれで平気だったんだろうか?」などと思いつつも、「りっちゃーん、こっちこっちー!」とのシリルの呼びかけに駆け足で追いかけるリツであった。
2章の終わりまで、本当にあとわずか
3章では魔王の城のお姫様が登場予定です




