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2-9

ちょっと短いです^^;

 「「かーぁ~、まだまだだな!」」


 顔を真っ赤にしてまるで我慢大会の様な有様で湯船につかる爺様二人、棟梁とその知り合いでこれまたクボ山村の再開発に巻き込まれた造園業の「親方」である。


 温泉関連施設は久保山建設の若い衆を中心に進められていたのだが、「せっかくの森の空気がもったいねぇだろ!」と棟梁が嘴を挟み、自分の知り合いである親方を引きずりこんで元々の森の木を生かしながら中庭を抱えた立派な日本旅館を建ててしまった。

 中でも手間をかけ、完成が一番遅れた露天風呂。


 「一番風呂は譲れねぇ!」とばかりに完成した宣言の余韻も消えぬうちにさっさと服を脱ぎ、かけ湯を済ませると温泉に浸かってしまったのだ。


 今はこの二人の老人に合わせてかなり熱い温度になっている温泉だが、これは「こんなぬるくちゃ風邪をひいちまう!」との言葉に合わせた結果であって、多くの人間が利用する様になる今後は、もう少し一般的な温度まで下げることになっている。


 指先をつけてみて、「熱い」というより「痛い」とか「しびれる」といった感じになった湯船に浸かる老人たちを見て、「棟梁は変なトコも凄いなぁ」と思う康則であった。








 「ねぇねぇ、村長さん見て見て! 『火遁の術!』」

 「おお凄い凄い、でも火は危ないから大人が見てるトコ以外じゃ使っちゃダメだよ!」

 「うん、母ちゃんもそう言ってた!」



 今、クボ山村で子供たちを中心にブームとなっているのが「忍者」である。

 割と気軽に行き来しているダークエルフの子たちや、久保山村に住んでいるダークエルフとのハーフである村の子たちを中心に忍者もののアニメが人気となり、持ち込みやすい形の漫画で他のクボ山村の子供たちにも広まって、魔法を習い始めたり、体術の訓練を始めたりする年代の子たちがそのノリを練習に組み込んでいく内に大人たちまで巻き込んでブームとなっていった。


 漫画が読みたいがために、これまで熱心で無かった文字の学習に取り組む子も出るなど、プラスの影響もあって親たちからは比較的歓迎されている。


 忍者ものの漫画やアニメには殺伐としたバトル系が多いが、日常的なものやほのぼのとしたものも無い訳ではないので、なるべくそうしたものをクボ山村には持ち込むようにしている正文である。


 その辺の知識は薄い正文であったが、小田をはじめとするオタクたちのバックアップによって漫画やアニメに留まらず、ラノベにとどまらず歴史伝奇小説やら怪しげな解説書やらといった様々な書籍も集まり、元のシオネの家を改装したクボ山村サイドの村長邸は家というより公民館とそれに併設された図書室という感じになっている。

 元々、出入りは簡単な上に祖父が雅音を手元から放したがらないこともあって、祖父宅にそのまま住み続けている正文にとってみれば、せっかく建ててもらったのにほとんど使わずに悪い気がしていた家の有効活用として、この公民館化は望ましい出来事であった。


 漫画がたくさんあって、アニメが見られる映像機器も置かれた村長邸は、子供たちの格好の遊び場となっており、昼であれば誰かしら子供が居るし、その監督をするかたちで、大人たちも誰かしら居るようになっている。


 あくまで子供たちに付き合ってなのだという態度を崩さずに、それでいて子供たち以上に熱心にアニメを見る大人も居る。特に男性にその傾向が強い。

 どうにかしてチャクラを回せないかと座禅じみたことをしている者さえ居る始末である。


 「ま、さふみさ~ん」めざとく正文を見つけてしなだれかかってきたカレンに「空蝉の術とか使えたらいいのになぁ」と現実逃避する正文であった。







 鄙び過ぎて営業が成り行かなくなってしまった県境の温泉宿の人間を丸ごと引き抜く形で、クボ山村の温泉施設が正式にスタートした。


 久保山村に住むダークエルフや、クボ山村に住む獣人たちなどの中から募られた希望者が仲居さんなどの従業員として働くことになっている。


 現在は客を取らず、事情の分かっている二つの村の人間や財閥系の人間を相手に訓練を兼ねての業務となっているが、ゆくゆくは日本におけるダークエルフや他のこの世界の住人の周知と融和のために使われていくことになっている。


 すっかりと和装に慣れたシオネは、サキと共にそうした仲居たちの着付け教室を行なっているが、仲居として働く気が無い人間までやって来て、久保山村の婆様連中まで駆り出される賑わいとなっている。


 一方で祖父が不在ということもあって、正文は娘の雅音と一緒にクボ山村の中を歩いている。

 久々に父親を独占する形になっている雅音は上機嫌で、正文にまとわり付くように歩いたり、時には服を引っ張って先導してみたりしているが、大人が挨拶をしたり話しかけてきたりすると正文を盾にする様にその後ろに隠れている。


 「ほら、雅音、『こんにちわ』は?」


 「・・・こんにちゎ」


 「はい、こんにちわマサネちゃん、随分大きくなりましたネ」


 ダークエルフ以外では割と早い時期からクボ山村に出入りしていた商人のゼーナルフが雅音の頭をなでようとするが身を縮まらせるように父親の後ろに隠れるのを見て苦笑交じりに頭をかく。


 ゼーナルフは最初、正文から見てダークエルフに見えていたのだが、実は違う種族らしい。

 耳の生え方の角度が違うのだと言われても、正文には分からないのだ。

 本来は湖や川などの水沿いに住むゲルフ族、あえてファンタジー的な分類をすればウォーター(アクア?)エルフとでも言うべき種族らしい。

 川などとの関係から水運に、そこから派生して商人になる者も多いとのことで、ゼーナルフも本来はかなりの年数続いている大店の店主であって、このクボ山村を訪れているのは半分、道楽の様なものだという。

 まあ、その辺は商人なんで、クボ山村を通じて日本から持ち込まれる物の価値を理解している節も見受けられるが、こうして二つの世界が繋がる以前からこの集落へ定期的に訪れていたという話でもあるし、本人が言う様に道楽としての比重の方が大きいのだろう。


 「この村とマサネちゃん、どちらも来るたびに大きくなっていて驚かされますネぇ。あちらの棟梁さんが建てたという家など、街の私の家も建て直して欲しいくらいでスし。」


 俗に「呼吸する」と言われる日本家屋のつくりは、この世界の住人にとって実に好ましいものだと言われる。

 初めて棟梁の建てた家を見た際には密かに自分の腕を自負している棟梁ですら引いてしまうほど絶賛をして、是非、自分の家も建ててくれとねばっていたのは記憶に新しい。


 温泉施設に案内された彼が魅力に取り付かれ、店から迎えの人間が来るまで留まり続ける羽目になったのは言うまでも無い。畳の上でごろごろと過ごしては、温泉に浸かり、酒と料理に頬を緩める。ゆかたも意外ときちんと着こなして、温泉宿からの移転組のおばちゃんに「外人さんなのに似合ってるわねぇ」と言われてご満悦だったりもした。


 こうした熱心な日本家屋愛好家の引き立てで、棟梁の下で汗を流し、腕を磨いている若者が、日本風の建物を魔王領のあちこちに建てて回る、そんな未来も来るかもしれない。



 


 

 ダークエルフたちの中に温泉施設で働く者が出始めたことから、託児所というか保育施設を作るか、などという話も出て、そこから子どもたちの将来の教育の話なども話されるようになってきた久保山村。

 財閥系で単身赴任的に働いている者の中にも、そうした教育関連さえ整えば家族を呼びたいと言う者も少なくない。


 まあ、今は爺様や婆様たちがどこの家の子だとか関係無しに喜んで預かってくれるが、その内、小学校、中学校、高校、そして大学などということも考えなくてはならない。

 

 そうした中、可愛いひ孫のため、村長職に在った時以上の熱心さで駆けずり回っている正文の祖父が久々に悪党じみた笑みを浮かべつつ「山を売ることにした」などと言い出した。

 異世界に繋がっている部分を除き、久保山村を囲む山の土地を財閥に売り払い、その金で「大きな買い物」をするのだという。


 「で、何を買うんです?」


 「学校、じゃな・・・」


 「学校・・・ですか?」


 少子化の影響もあって経営の苦しい学校法人を買い取って、村のすぐ外、トンネルを抜けた先に学校を移転するのだという。


 「そんな簡単に出来るもんなんですか?」


 「その為の金とコネじゃな」


 県の方とは既に話がついていて、実のところ、雅音が生まれてすぐから動いていて、適当な学校法人を見つけたのが1年前、それから交渉を重ねていたらしい。


 ひ孫のために学校を買う、美談なのか、ジジ馬鹿なのか分からない。

 財閥系からの寄附も既に確約済みで、学校自体での採算性はハナから考慮してないのだとか・・・。

 

 「村のオタクの中にも教員資格を持っている者もいるそうじゃしの、こちらに呼ぶのに不適切な者は別の学校に行って貰うよう根回し済みじゃ」


 オタや元ニートの中にはアリバイ工作(「採用枠が無くてさ」とニートを正当化出来る、ただし「塾講師でもなんでもやんなさいよ!」との反論を受ける事も)的に、教員資格を得ている者が確かに存在するが、それで果たしていいんだろうか、などと思ってしまう正文。


 「小中高一貫じゃ、雅音が大きくなる前に大学と短大も作るぞ! 都会などにやって変な虫でもついたらたまらんわい!」


 大企業の誘致、病院の建設、若者の村への定住勧誘、そして教育環境の整備、こちらに来た当初「過疎からの脱却」などと大上段に構えて悩んでいたのが馬鹿らしくなるほどの現状に思わず遠い目をする正文であった。




次回あたりに日本人の一般(?)客の利用が?

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― 新着の感想 ―
[一言] この温泉その内財閥系企業のご褒美として成績優秀者に 宿泊許可が出るかもね!何せ海外どころか異世界だよ? 月や火星よりレア度は高いから逝けたら大自慢だよな! 士気ダダ上がりだよな!魔力の多い異…
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