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あんまり堂々とされると困るしかないですよねぇ
さて、村の拡張に随行する様な形で進められている、通常行われていなかった大規模な形の調査だが、思わぬ収穫を上げることになった。
温泉である。
「え? この辺、火山とかありませんよねぇ? え? なんで?」などと正文はキョドってしまったものだが、ダークエルフの長老によれば「地面の下の深いところに火の精霊の力が溜まっていたのでしょう」という話。
「ファンタジーなめるな、現代科学!」とでも言わんばかりの有様に「はあ、精霊って居るんですねぇ」と応じるしかない正文であった。
ボーリングによる地質調査の副産物として湧いてしまった温泉であったが、泉質調査の結果、アンチエイジング、特に美肌効果が高い事が分かり垂れ流しではもったいなさ過ぎるとポリタンクやら瓶やらに詰める作業がクボ山村の新しい産業として成り立ってしまいそうな勢いである。
人間が出入りする際には全く問題が無い世界の境目である洞窟だが、何故かは分からないが電流やら水やらの流れは世界を超えられないことが分かっている(このあたりが、クボ山村への電力導入のネックになっている)。
ボーリング調査も調査自体より、ボーリング機器の分解搬入と組み立てにかかった時間の方が多かったくらいである。
ゆくゆくは温泉施設とそれに併設した加工場の建設が考えられているが、今のところ手が回っておらず階段状に掘った穴にビニールシートをかぶせて、高温の為そのままでは何も出来ないのを少しずつ冷ませて、一番下流のちょっとしたため池程度の広さがある場所で手作業で瓶詰めをしている。
途中の風呂に丁度いい温度のところからは脇に少し流れを分けていて、洗い場も脱衣所も無い簡易の温泉として主に男性に利用されているが、夜などには女性が利用する事もあるらしい。
美しさへの関心というものは世界を跨いでも変わらないらしい。
村の男衆やら、久保山建設の人間やらがせっつかれて、囲いと脱衣所の付いた女性向けの温泉も急ピッチで作業が進められている。
そんな温泉につかりながら正文はダークエルフの老人と会話をしていたのであった。
老人の説明によれば西洋ファンタジー的な地水火風の四系統とかいった感じでなく、自然の様々なものに精霊があり、また宿っているという話に「日本の八百万の神様みたいだなぁ」などとも感じたりもしている。
「じゃあ、こちらの神様ってどんな感じなんです?」
「力の強い厄介者といった感じでしょうかね?」
「厄介者・・・ですか?」
「一応、魔王様を中心とする国の中枢の方々は闇の神を信奉していますが、戦争を煽ったり、いらんちょっかいをかけてきたりと迷惑極まりない存在です。こちらの世界の人間の国では神への信仰が盛んだということですが、なんであんなもんを有り難がるが私たちには良くわかりませんねぇ・・・」
えらく身も蓋も無い意見に「尊敬出来ない人格のギリシア神話の神々に一神教の神の理不尽さがプラスされた存在なのかな?」などと思ってしまう正文。
ゼウスやヘラなんか親戚に居て欲しくないタイプである。
日本人的に受け入れやすいのなんてへパイストスぐらいなんじゃないかな、などと横道にそれた考えも浮かぶ。
後は漫画の影響なんかもあって、アテナとかか?
そんなことを考えつつものぼせかかった正文は老人に別れを告げると、持ってきたタオルで体を拭いて服を手早く着る。
最初は周囲に何の囲いも無い場所で温泉に入る事に抵抗のあった正文だったが、一度入ってしまえば温泉の魅力には多少の羞恥など関係ない。
今ではすっかり慣れたものである。
喉湿しに貰った汁気たっぷりのみかんの様な形状でリンゴの様な味の果実を齧りながら、正文は久保山村へと足を進めるのであった。
クボ山村の再開発で猫の手も借りたい忙しさとなっている久保山建設、康則も入ったばかりのナマケモノの獣人ヌルボも猫の手よりはマシだと色々と駆り出されている。
たまに猫娘カレンを見かけても、立ち止まって話をする時間も無いほどの忙しさである。
休日には相変らず貢物(という名のコンビニのデザート)を持って訪れてはいるものの、仕事中にその辺をうまくやる要領のよさは康則には無い。周囲からはその辺の不器用さも含めて応援混じりの生暖かい視線が注がれている。
新人のヌルボだが、事務仕事はともかく、現場の補助では康則以上に戦力になっている。ナマケモノとはいえこの世界の獣人、力は並みの日本人を遥かに上回っているのだ。
オタたちにも可愛がられているようで、時々、康則にはなんでか分からないが「ガッ!」とツッコまれている(その後、別のオタが「似てるけど、びみょーに違うだろ!」と更にツッコミを入れるところまでがお約束のようだ)。ヌルボも分からないなりに、以前の怠惰な無表情さが嘘の様にニコニコと対応している。
康則が最近一番駆り出されているのは「棟梁」の現場だ。
久保山建設の社長の父親の紹介で訪れた引退した昔ながらの木造日本建築の大工の棟梁だった老人だが、本来ならのんびりと余生を過ごすつもりで来た久保山村で、周囲の老人に付き合ってこちらの世界に顔を出し、ダークエルフたちの家を見て腕がムズムズしてきたらしく、いつの間にか音頭をとって家を建て始めていた。
久保山建設本来の仕事では無いものの、「出来るだけとっつぁんに便宜図ってやってくれや」と父親から頼まれている社長の孝典からの指示もあって、康則はこの「棟梁」の現場を手伝っている。
ダークエルフやリザードマンだけでなく、いつの間にかおのぼりのゴブリンまで作業に加わって、実に賑やかな現場だ。
「もう弟子はこりごりだ」と言っていた筈なのに、真剣に技術を学ぼうとする異世界の若者に囲まれて「だめだ、だめだ、いいか、良く見てろ!?」と張り切ってしまっている。
「すごいですねぇ、棟梁は!」
ニコニコと話しかけてきた、別の集落出身のダークエルフの若者に、持ってきた現場用のウオータークーラーから麦茶を紙コップに入れて差し出す康則。
現場に出てない時は陰気にも見えるちょっとぶっきら棒な爺さんに過ぎないのに、こうして大工道具を手に現場で作業している棟梁の姿は康則の目から見てもカッコいい。
「そうだね、すごいな、棟梁は!」
自分が誉められた訳でも無いのになんだか、嬉しくなってしまった康則は自分も作業へと戻っていくのであった。
初めて見るこちらの世界の人間に、正文も康則もとまどいを隠せない。
なんというか「凄い」のである、色々な意味で・・・。
大昔のアメリカ映画や漫画で流行ったケーブマンとでも言うべき服装。
要は皮で腰まわりを隠しただけ。
武装は木と石と骨と牙の加工品。
槍を持ち、弓と矢を担いだ狩猟者スタイル。
肌の色は日本人などの黄色人種に近いが顔立ちは白人に近い。
髪は伸ばしっぱなしだが、洗ったり梳ったりはしているようでボサボサではない。
背は高く、かといって過剰なマッチョでもなく。
思わずこちらが挙動不審になってしまうくらい真っ直ぐな視線を向けてくる。
自分たちのスタイルのまま暮らせる場所をと、人間たちの世界から離れ、魔王領に移住してきたのだという。
「はじめまして、村長の瀬澤正文です」正文が挨拶に立つと周囲の日本人は救われた様な表情を見せた。
本当ならダークエルフやらリザードマンやらオーガなどの方が日本人にとってみれば異質で、同じ人間の彼らに対しての方が付き合いやすいはずなのに不思議なものである。
「グラ族のデルウダだ。ここの噂を聞いてやってきた。よろしく頼む」
中でも一際大きな男が代表をして話しかけてきたが、日本人たちは「え? 裸族?」と妙なリアクションを見せているものも多い。
右手を握って肩の上くらいから振り下ろしては戻す動作を繰り返して、他の人間から頭をド突かれているオタすら居る。
男性は実は日本人にとってはとまどいの対象ではない。
せいぜいがそのアスリートじみた均整の取れた体にコンプレックスを刺激される程度だ。
問題は女性。
まあ、なんというか、その・・・つけてない、というか男性と同じ服装というか・・・ぶっちゃけて言えばトップレスなのだ。
日本人、特に男性のとまどいが分かっていただけただろうか?
ボディビルダー的なムキムキでない、シェイプされた肉体に十分過ぎるほどのサイズの胸がついているのだ。
ツンっと先端がやや上を向いちゃったりしているのである。
動いたり息をする度に別の生き物の様に動いちゃったりしているのである。
中高生なら直立出来なくなる姿なのだった。
猫娘カレンをあしらうだけでなく、こうして直接的な破壊力を持つエロスに直面しても冷静に対応する正文。
知らんところで、日本人男性たちからの尊敬を集めることになっていたのだった。
色々とグラ族側と話をして、いい意味でも悪い意味でも特別扱いはしないという、言ってみれば今までの他から来た住人と同じ扱いをすることに決まって、雑談的な話に移った正文たちであったが、これまで、断片的、間接的にしか入ってこなかったこの世界の人間サイドの話を聞く機会ということで、研究者たちもやってきた。
まず、人間サイドの技術レベルだが、魔王サイドとほとんど変わらないそうだ。
いわゆる「剣と魔法」のファンタジー世界。
色々と見下されたり、服装、特に女性の服装に文句を言われたりなどということが煩わしくなって、魔王サイドに移住。それ以後は関わりが全く無いので分からないとのこと。
男女での役割分担は子育てを除くとそれほど無く、共に「戦力」として数えられていることから、人間の世界より魔王サイドの方が似た者が多く、こちらの方が過ごしやすいこと。
戦争では参加を望んだが、周囲の混乱を招くと断られてしまったこと。
近くの集落で男手が駆り出されてしまい、自分たちとしてはそういった意図は無いものの、相対的に弱体化した相手に以前のままの戦力を有した自分たちが警戒されてしまって、今まで居た場所の居心地が悪くなったこと。
そうした中で新しく多くの人が集まってきているこの場所の話を聞いて、いっそ新天地を目指そうかと先発して様子を見に来たのが自分たちであることなどを彼らは語った。
「分かりました、丁度、村の拡張を行っているところですし問題はありません。皆さんを歓迎します。」
グラ族の「お土産」として差し出された獲物の解体で、初の洗礼を浴びる事になった康則がグッタリとするハメになったものの、その後は歓迎の宴会へと突入し、多くの者が二日酔いに苦しむハメになったのだった。
( ゜∀゜)o彡°おっぱい!おっぱい!




