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2-3

ケモ耳より先にオーガが^^;



 「唖然」その言葉を人の形にするとこうなるのかといった感じに、ポカーンと意識の有無を確認したくなるレベルで硬直する康則の姿を見つつ、正文はあらためて感慨深く「村」を見回した。



 

 ダークエルフの老人の側ではしゃいで駆け回る黒々とした目も愛らしいリザードマンの子供。

 豪快に串に刺して焼いている肉の塊をそぎ落としては、薄いパンの様なものに野菜と挟み込んで売っている屋台のオーガのおっちゃんの上で、フラフラと匂いに釣られて動き回るピクシー。


 おのぼりさんよろしく、集団であちこち見蕩れつつ、何か見つけては指差したり感心したり驚いたりしているゴブリンの一団。


 その風景に馴染んで広げた茣蓙の上に野菜を並べて売っている農家のお婆ちゃん。


 デジカメをあちこちに向けたり、色々と聞き取りを行ったりしている白衣の一団。




 康則だけでなく、初めてこの光景を目にした日本人なら大抵はこうなる。


 なので正文も康則が自然に復帰するまで放置している。




 

 ダークエルフたちが久保山村で暮らす様になってから、住人の居なくなった集落が今日、ここまで賑やかな村になった経緯は、この集落から他の集落へ移り住んだダークエルフの老人が、それでも懐かしさから再度ここを訪れた事から始まる。



 人気の無い集落に呆然としていた老人は、たまたま研究の為こちらを訪れていた研究所の所員と、その妻であるダークエルフと出会い、お互いの近況を報告しあった。



 折悪しく久保山村は第一次建設ラッシュという時期で、建機の立てる騒音に驚き久保山村へと足を踏み入れる事を老人は拒んだが、話を聞いて集まってきたダークエルフたち、その連れ合いを初めとする村の関係者等から話を聞き、この集落に戻ってくる事が決まった。


 薬草を用いた薬湯作り等は年輩のダークエルフの仕事であり、狩りや採集を主に担当する若者たちが持たない技術は研究者に取って魅力的なものであり、また、老人にとってもここで暮らしていけるならば、長年住み慣れた場所を離れて余所の集落で暮らしていくよりも望ましい事であったからだ。


 こうして老人が戻ってくると、その話を聞いた他の老人や子供、元の集落では目が出ない余所の集落の若者等が集まり、徐々に集落としての形を取り戻していった。


 更には集落の維持が不可能なほど、その数を減らした他種族の者や、儲け話の臭いを嗅ぎつけた商人等もやってきて、元の集落の規模を上回る「村」になったのだ。


 ベースはダークエルフの集落ではあるものの、現村民の住人比率はダークエルフとその他の種族で半々程度になっており、更に訪れる旅人や商人なども合わせるとダークエルフ以外の数の方が多くなっている。


 その上、久保山村の老人やら、財閥の研究者やらが入り込んで、異世界でもここしかない光景が生まれているのだ。


 徐々に変わっていく光景を見ていた正文ですら、時折信じ難い気持ちになるのである。

 初めて見る康則が呆然とするのも、ある意味当然のことと言えた。






 「な、なんなんですか、ここ、これが異世界? アキバかビッグサイトって言われた方がまだ信じられますよ!? でも妖精が飛んでるし、周りの木は屋久島が目じゃないくらい巨大だし・・・。」


 「まあ、ここを訪れて初めて正式に村の住人って事ですね。狩りで大物が仕留められた時なんかは、なかなかスプラッタな光景になったりもしますんで、そういった事は徐々に慣れていってください。」


 「よう、村長さんじゃねぇか! 食ってかねえか! 美味いトコ用意すんぞ!」


 「だから、私はあちらの村長で、こちらの村長ではないと何度言えば・・・。」


 「ガッハッハ! またまた冗談が好きだな、村長は! あんた以外誰が村長やれるってたんだ、おう、出来たぞ、まあ食ってけ! そっちのアンちゃんは村長の連れか? まあ、いいや、そっちも食え!」


 「はあ、いただきます、御代は「ああ、いらねえ、いらねえ、村長から金取ったらカアちゃんに叱られちまうわ!」・・・そうですか、いただきますね。」


 オーガのおっちゃんから売り物を押し付けらた正文は、一つを康則に渡すと自分の分に齧り付いた。


 「野菜の中にやくそうが混じってるじゃないですか、傷治っちゃいましたよ。」

 指に巻いていた絆創膏を剥がし、村内のそこここにある共用のゴミ箱に捨てる。


 「ああ、そ、村長さん・・・あの人!」


 「オーガのグガさんです。あんな見かけなんで、私も最初は命の危険を感じて横に奥さん居なきゃ逃げてたところですけど、ああ見えていい人ですよ。元・魔王軍の戦士隊長ですけど・・・。」


 「ま、魔王軍って、魔王が居たんですか?」


 「はい、人間と戦争して負けちゃって亡くなったそうですけど。」


 「せ、戦争って、あ、危なくないんですか、ここ?」


 「この世界の人間たちの住む場所って、魔王城挟んでここと反対側にあるくらい、ここは辺境なんだそうです。人間どころか人間が作ったものすら見たことありませんねぇ。ここに住んでる人も大抵、この世界の人間に会った事無い人たちばかりですし・・・それより冷めますよ?」


 正文の言葉に思い出し躊躇しつつ手渡された食べ物に齧り付く康則。


 「・・・うめぇ。なんなんですか、この肉・・・あれ? でもなんかソースはどっかで食った事のあるような・・・。」


 「ソースはあちらから持ち込んだものですよ、醤油やら味噌なんかも結構人気です。」


 「え? いいんですか、そんなん持ち込んで?」


 「人間誰だっておいしいものが好きでしょう? 人に害を及ぼすものでなければ基本的にオッケーです。まあ、変な暴利を貪ろうとすれば止めますけど、そういう人はそもそもが久保山村に関われないですからねぇ・・・。」


 

 正文の祖父によって始まった根回しは、ダークエルフの身内に取り込まれた財閥の力も加わって、既に日本の中枢のごく一部にまで及んでおり、新薬、新素材、新エネルギー等、国家レベルの恩恵もあって、新規に誰かが関与する事が不可能になっている。


 アメリカ等は本気で宇宙人の関与を疑っているのだが、実は異世界人。

 上空やら衛星やらで監視しようが全くの無駄である。





 「田無の爺様、こんにちわ、どうですか?」

 

 「村長さん、いや、出来のいいナスができたでな、ちょっくら売りに来ただが、あっという間に売り切れちまってな。グガのやつが店じまいしたら飲みに行く事になってるだで、暇を潰してるとこだぁ。」


 ボケかけていた田無の爺様もダークエルフの村への訪れや、その後の一連の騒動ですっかりと元気を取り戻し、あっちとこっちを行き来しては農作業をしてみたり、取れた野菜を売ってみたりしている。


 村の老人たちも活気と共に健康を取り戻したのか、高齢にも関わらず元気で、正文が就任して以来、亡くなった者は一人も居ない。


 元気過ぎて逆にとんでもない事をしでかさないか心配になるくらいである。


 特に正文の祖父はひ孫を溺愛しており、ひ孫が成人する頃までにダークエルフが一般の日本人と同じ様に暮らせるようにしようと、一線を引いて現役を退いた筈が孝典の父と共に国政に打って出ようとしている。



 情報公開は今の所、一番の難題だ。

 中枢と周辺を中心に徐々に周知と理解の輪を広げている状態だが、その進捗は他の目覚しい進展に比べると遅々たるものだ。


 小田たちオタクたちは、自分もコスプレをしてしまうという荒業で、嫁を普通に外に連れ出したりしているが・・・。


 今年のコミケには本物のダークエルフが8人参加した。

 ネット掲示板やら写真投稿サイトなどで、本当に本物なのだとは知らずに「本物がキタ――(゜∀゜)――!!」などと書かれていたりする。


 視線で人が殺せるなら、彼女たちダークエルフはあっという間に未亡人になっていたことであろう。


 ちなみに小田の『ダークエルフ嫁』は彼と付き合いのあった出版社から出版され、エロ二次創作をコミケで見かけた小田が発狂モードに入り、殴り込みに行こうとする所を嫁に止められてその姿が更に周囲の嫉妬光線を煽るという騒動を起こした。


 ここ数年、アニメやラノベで異世界ものや、来訪ものが増えているのも、単なる趣向の問題ではなく、裏で財閥やら官僚やらが動いているのではないかと正文は密かに思ったりしている。



 「まっさふみさ~ん(はぁと)」という声がかかってきたのは、正文がそんな事を考えつつ食べ終え、横で康則が指に垂れてくるソースと苦戦している最中であった。




次回でようやくケモ耳登場です^^

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